こんにちは。夫です。
我々夫婦、ちょこちょこ副業もやっているのですが、その中には趣味のハンドメイドがもとになったものもあります。その副業を伸ばすために良い方法ないかなーと思って出会ったのが本書『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つ戦略』です。2年ほど前に買って繰り返し読んでいたのですが、やっぱり学びになるなーということで紹介することにしました。
D2Cは「Direct to Consumer」の略称。言葉通り、直接消費者に販売するための戦略です。従来は大手メーカーやブランドが製造業者に製造を委託して、広告代理店などがプロモーションを担い、ショッピングモールなどに出品し、というのが基本的なビジネスモデルでした。
しかしテクノロジーの進歩に伴い、商品の企画から製造、販売まで、ぜんぶ自分達でやってしまおう!というのがD2Cの考え方です。
といっても自社で流通網や工場を作らないといけないわけではなく、テクノロジーを駆使して委託すべきところは委託します。D2Cブランドから上場企業も誕生していますが、実は個人の副業にぴったりな、スモールビジネスで活かせる戦略でもあるんです。
ということで今回は本書『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つ戦略』を紹介していきます。D2Cって何?という基本的なところから、D2Cの具体的な戦略や立ち上げ方まで一挙にまとまったD2Cの入門書なので、個人でスモールビジネスを始めたい方は特に参考になると思います。
D2Cが持つ7つの定義
それでは早速、D2Cブランドが伝統的なブランドと何が違うのか、7つの定義をみていきましょう。
D2Cブランドはテック企業である
伝統的なブランドはメーカーとして誕生します。メーカーが成長する過程でECサイトを立ち上げたり、マーケティング戦略専門チームができたりしますが、D2Cブランドはそもそもデジタルネイティブとして誕生します。
伝統的なブランドにはデータサイエンティストなどテクノロジーの専門家がほとんどいませんが、成長するD2Cブランドの社員は20%程度がデータサイエンティストなのだそうです。
つまりD2Cブランドはテック企業なんですね。化粧品のD2Cブランドは、化粧品メーカーではなく、化粧品を販売するテクノロジー企業と考えた方が適切です。
直接販売・直接コミュニケーション
D2CブランドはECサイトで販売する場合も、店舗を持つ場合も、顧客と直接繋がります。間に広告代理店に委託してテレビCMを出すのではなく、TwitterやInstagramを通じて顧客とコミュニケーションを取ることでブランドのファンになってもらいます。
そして意外なことですが、テック企業としての色合いが強いD2Cブランドの多くが、リアルな店舗を持ちます。その理由はやはり、顧客と直接コミュニケーションを取るためです。
ただしテック企業として、顧客の行動・購買データはリアル・デジタル問わずリアルタイムに連携し、分析されています。それによって「前回ご購入いただいたジャケットに合わせやすいシャツです」といった提案が可能になります。
伝統的なブランドは大規模なプロモーションと流通の効果をアンケート調査などで推理するのに対し、D2Cブランドは顧客と直接つながることで人とデータを結びつけ成果を測るんですね。
中間コストが省かれ低価格化する
顧客と直接つながることのメリットは、データを集め顧客一人一人を理解できることだけではありません。中間業者が省かれることで、大幅なコストカットが可能になります。
D2Cブランドは品質やブランディングにこだわりますが、中間コストが省かれているため、同じ品質の伝統的ブランドよりはかなり安価に販売することができます。
D2Cが安価というのは結果論で、本質ではありません。顧客と直接つながることを目指した結果、余計なコストがかからず安価になった、ということです。ちなみに100円ショップをはじめ安くてそこそこ良いものが数多くある日本では、D2Cブランドが品質を追求して高単価のものを販売する傾向があるそうです。
D2Cは指数関数的成長を遂げる
成功したD2Cブランドは1年目に100億、2年目に200億、3年目に400億、のように指数関数的に成長する傾向があります。その理由は、売上サイクルが早い「プロダクト販売」というビジネスモデルと、指数関数的に成長するインターネットの仕組みを組み合わせたことにあります。
成長を第一とせず、ゆっくり着実に成長することも可能です。ですが、周りが指数関数的に成長しているので、ゆっくりしているとすぐに他に飲み込まれてしまう…なんてこともD2Cあるあるなのだそう。趣味を副業にする時には戦い方を考えないといけないですね。
D2Cブランドが売るのは「ライフスタイル」
D2Cブランドはプロダクト販売を行っていますが、その実態は世界観やライフスタイルを販売しているといった方が正確です。
たとえばマットレス販売のD2Cブランド「Casper」はより良い睡眠ライフスタイルの実現、新しいカルチャーの創出を目指しています。Casperの店舗を訪れると、マットレスが展示されているのではなく、ベッドルーム全体がプロデュースされており、寝室専用の照明もリリースされました。さらに「Woolly」という雑誌を発行しており、そこでは自社のマットレスの販売はせず、ヨガやウェルネス、睡眠と健康などをテーマにした記事が載っています。
新しいライフスタイルを作る。そのためにはプロダクトが必要だし、顧客をより深く理解するために直接つながる必要がある。そういう意味でD2Cは新しいライフスタイルを作るための方法の一つ、と言えそうです。
ターゲットはミレニアル世代以下
多くのD2Cブランドはミレニアル世代以下(1980年以降に生まれた世代)をメインターゲットにしています。この世代の中には就職と同時にリーマンショックを経験した世代もいて、大学の学費も高騰していることから、多くは親世代より厳しい懐事情で生活しています。
またデジタル感度が高く、ネットで洋服を買うことにもあまり抵抗がありません。さらには環境問題や社会問題が表面化した時代に生きるため、リサイクルやダイバーシティ、SDGsといった倫理・環境配慮意識が高いことも特徴です。そしてさまざまなデータから、たとえ懐事情が厳しくても、倫理的に問題のある安い製品よりは、倫理に配慮された高い製品を好むこともわかっています。
D2Cの顧客はコミュニティ
D2Cブランドは自社の顧客を「顧客」ではなく、仲間やコミュニティのように扱います。具体的には、顧客からのフィードバックを受け入れ、新しい製品に活かすなど、一緒に品質を高めていきます。
顧客は自分達のフィードバックが製品に活かされるので、新しい製品も積極的に試したいと感じますし、不満があれば建設的なフィードバックを伝えます。こうして、顧客はただの顧客ではなく、ブランドのマーケターであり、共同開発者でもある仲間になります。
これはD2Cの定義、伝統的ブランドの違いです。少し前「モノからコトへ」「コト消費」という言葉が流行りましたが、D2Cは「モノ&コト」というハイブリットなイメージです。
D2Cブランドが壊した2つの壁
ここまではD2Cの定義をみてきました。たしかに素晴らしいビジネスモデルに思えますが、なぜベンチャーキャピタルが旧産業であるマットレスやメガネ市場においてもD2Cに投資するのでしょう?そしてなぜ、創業数年で上場、評価額数千億円というD2C企業が次々誕生しているのでしょうか?
その理由はD2Cが「既存産業の2つの壁」を破壊したからです。
シリコンバレーでも有名なアナリスト、ベネディクト・エヴァンスの言葉に「NikeやP&G、トヨタ、コカコーラのような大きな消費者ブランドは、本当の意味でB2C企業だったことはない」というものがあります。
つまり、こうした大手消費者ブランドは消費者に製品を届けているように見えて、実際にはスーパーなどの小売店、ディーラーなどを相手にしたB2Bだということです。
そう言われれば確かに、P&Gの製品を使っていますが、P&Gから直接買ったことはありません。つまり僕たちはスーパーの顧客であって、P&Gの顧客ではない…そしてP&Gの顧客はスーパーなんですね…
一方、D2Cは2つの壁を破壊したことで、本当の意味でB2C企業になりました。そこに成長の源泉があるわけです。
D2Cが壊した壁:販売チャネル
1つ目の壁は小売店など、販売チャネルの壁です。ファッションブランドなら百貨店、家電メーカーなら家電量販店のような存在が販売チャネルの壁になります。ブランドにとって百貨店などの販売チャネルを使うことで自社で集客をしたり、店を構えたりする必要がなくなるというメリットがあります。
でもデメリットも少なくありません。
1つは顧客データの喪失です。販売チャネルが間に入ることで、ブランドが顧客データを得ることが難しくなります。ブランドは自社の商品がいつ・どこで・どんな人に・どんな理由で売れたのか、その人の購入・利用体験はどうだったのか、といったことを知る術がありません。
このデメリットは代理店で広告・マーケティングの仕事をしていた時に強く感じていましたね。マーケティングの結果を間接的にしか知ることができないので、施策の精度を高めていったりといったことが難しくなるんです。
2つ目はブランドの世界観を毀損してしまうことです。家電量販店に行けばわかる通り、各メーカーの製品が横並びになっていて、それぞれの世界観は伝わりません。最近はメーカーがブースを設けて、そのメーカーの製品だけを置き、ポップアップから内装、商品以外の要素にまでこだわって世界観を演出するケースはありますが、それでも量販店の一角、という立ち位置でしかありません。
僕はバルミューダの製品が好きでいろいろ持っているのですが、バルミューダのトースターを他のトースターと並べてディスプレイするのはどうなのかと思いますね…最近はバルミューダの製品だけを並べたブースなども増えてきていますが…
3つ目はユーザー体験の毀損です。販売チャネルがバラバラで、メーカーともデータが共有されていないため、顧客はスムーズで一貫した体験を得られなくなってしまいます。
家電量販店Aでトースターを買って、そのあと家電量販店Bに行った時にも同じトースターを勧められたりします。もしYouTubeだったらどうでしょう。Googleアカウントと紐づいているので、PCで見てもスマホで見ても、自分の興味のあるものだけを届けてくれます。一度見たものはどのデバイスで見ても閲覧履歴に入りますし、PCで途中まで見た動画を、そのまま続きをスマホで見ることもできます。
D2Cはテック企業としての一面があるので、家電量販店よりYouTubeに近い顧客体験を提供することができます。
D2Cが壊した壁:広告・プロモーション
本書では、既存ブランドの広告・プロモーションを「二人羽織」のようだと言います。ブランドは目隠しされた状態で、他人の手と口を使って顧客と関わろうとしているということです。
そのため、既存ブランドは顧客をイメージする時、顔のない「ペルソナ」や「ターゲット層」のようなものを推測するしかありません。一方、D2Cブランドは顧客がどこで自社の製品を知って、どの経路でWebサイトを訪問して、どのページを見てから購入したのか、最近のメールマガジンは開封してくれているのか、SNSにいいねを押してくれているのかなどを知っています。
僕が広告代理店から事業会社のマーケティング職に転職したのも、この辺が理由です。たしかに広告代理店にしかできないことは存在するのですが、大半のことは事業会社が直接やった方が良いんですよね。
D2Cのマーケティング戦略
ここまでD2Cの定義、既存ブランドとの違いを紹介してきましたが、いよいよD2Cのマーケティング戦略を見ていきましょう。
僕は本業が事業会社のマーケティングなので、活かせるものがたくさんありました。それに趣味の延長線上にある副業でも取り入れられそうなものもあります。
取引から会話へ
販売チャネル、広告・プロモーションの壁がなく、すべて自分たちで設計できるD2Cのマーケティングは、「購入・取引」という一回限りの関係性を目標としていません。むしろ長期的な会話を形成することに力を注いでいます。
例えば、メガネのD2CブランドであるWarby Parkerでの購入体験は、ウェブサイトで好きなメガネを5つ選択することから始まります。そして住所を入力すると、数日後にはその5つのメガネが届きます。サンプルとして届いたメガネを数日間使ってみて、サンプルは返送します。気になったメガネがあれば正式に購入してもOK。気に入ったものがなくても5種類のメガネを数日間使わせてもらえるのですから、損はありませんよね。
選択して購入するのではなく、選択してから実際に試してみて、その後に購入するかどうかを決められる。どこかで見たことがあると思ったら以前紹介した「広告・マーケティング21の原則」に書いてあることでした。大切なことって100年経っても変わらないんですね。
そして重要なことは、顧客がサンプル品を請求してから購入までの間も、入念なコミュニケーションを取り続けていることです。普通なら「サンプルをお受けしました」「発送しました」「発送期限が近づいています」といった業務連絡ばかりになりますが、Warby Parkerは返送が終わるまでの間に9回もメールを送ります。この9回のメールには「スタッフオススメの一冊」のようにスタッフの人柄が伺えるものから、「迷っている時のアドバイス」のように顧客体験をサポートするものまであります。
そしてたとえサンプル品を試しただけで購入しなかったとしても「試してくれてありがとう」という感謝のメールが届きます。
ここまで手厚いと、たとえ今回頼んだサンプルに好みのものがなかったとしても、次にメガネを選ぶ時にはもう一度ここに頼もうと思いますよね。Warby Parkerが立ち上がった時、メガネがネットで売れるわけない!と嘲笑されたそうですが、この企業はあるビジネス雑誌でAppleを抑え「最も革新的な企業ランキング」1位を獲得するほど成長しました。
購入ではなく成功を助ける
D2Cブランドの目的はプロダクトを売ることではなく、ライフスタイルを実現することでしたね。そのためには商品を売ること自体はそこまで重要ではありません。商品を買うことで、ライフスタイルに変化が起こり、ブランドが目指すライフスタイルに近づくことが重要です。
だからD2Cブランドは購入よりも顧客の成功を重要指標に定めています。既存ブランドは「購入=終わり」ですが、D2Cブランドにとっては「購入=始まり」です。この価値観の変化は非常に大きく、いわゆる「カスタマーサポート」という言葉では言い表すことができません。
マットレスを販売しているCasperが、自社のマットレスを宣伝するわけでもなくライフスタイル雑誌を作ったのは、Casperのマットレスを買った後の睡眠・ウェルネスをサポートするためなんです。
D2Cブランドはデジタルネイティブなので、どこか冷たい印象があるかもしれません。でも実際には「おもてなし」の精神こそがD2Cの根幹です。
「D2Cの顧客はコミュニティ」で、多くのD2Cブランドが顧客からのフィードバックをもとに改善を繰り返し、顧客を共同開発者のように扱うと書きました。これも顧客の成功を助けるために必要だからです。
「うちはマットレスブランドなので」という価値観では、雑誌を発行したり、寝室用照明をリリースしたり、というアイデアは浮かんでこないでしょう。「うちは睡眠を通じて顧客のライフスタイルをより良いものにする」という価値観だからこそ、顧客が「こんなものがあったらもっと良い睡眠ライフスタイルが送れる」と言えば、その成功を助けるために企業が変化するんです。
マーケティングファネルの刷新
顧客が自社と接点を持ってから購入・ロイヤルカスタマーへと至るまでの設計図を「マーケティングファネル」といいます。従来のマーケティングファネルはこうした形が一般的でした。
僕も広告代理店でマーケティングをしていた時はこうしたマーケティングファネルで図を作って提案にいってましたね。懐かしい…
本書ではこうした従来型のマーケティングファネルを否定はしませんが、問題点もあると言います。その問題とは、図からも明らかな通り、最後の層という到達点があり、そこに向かって細くなっていくので、一番上流に新規見込み顧客を流し込み続けるための広告投資が常に必要になるという点です。
そこでD2Cブランドが取り入れているのが、このループ型のマーケティングファネルです。フライホイールと呼ばれることもあります。
フライホイールという考え方はAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏のメモで生まれたビジネスモデルのイノベーションです。以前紹介した「GAFA Next Stage」でも取り上げられましたね。
ループ型ファネルの特徴は終わりがないという点です。商品を知って、使用し、誰かに勧める。勧められた人が商品を知り、ループ型ファネルがまた回り出します。
これは「成長の牽引はブランドの広告投資ではなく、顧客の発信がもたらす」という価値観が前提になっています。
ブランドが行うことは多額の広告投資ではなく、このループ型ファネルがスムーズ回るように惹きつけ、関わりを深めるためのコンテンツや、満足し、共有したくなる体験を提供することです。広告投資はこのファネルを回すための潤滑剤の一つでしかありません。
D2CにはなれなくてもD2Cは取り入れられる
ということで今回は『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つ戦略』を紹介しました。
本書ではいろいろなD2Cブランドの実例や、D2Cブランドを立ち上げるためのステップや利用するツールなどまで紹介されているので、D2Cブランドの立ち上げに興味がある方はぜひ読んでみてください。
読んでみて感じたのは、どんな企業もどこかでD2Cのエッセンスを取り入れないと難しくなっていくなということです。本書を読むとD2Cがいかに素晴らしいビジネスモデルか実感できますが、それ以上に顧客にとってのメリットが大きい。今後、D2Cと従来のB2C(に見えるB2B)とを比べたら、D2Cブランドを選ぶ人が増えていくように思えます。
そして重要なことは、たとえD2Cブランドとして新しく立ち上げなくても、既存のブランドがD2Cのエッセンスを加えることは難しくないということです。もちろん小手先だけD2Cを真似ても成果は出ないでしょうが、ECサイトを通じての展開や販売チャネル、広告・マーケティングのやり方を工夫すれば、取り入れることはできるはずです。
そしてもちろん個人の副業でも、ECサイトを立ち上げ、ハンドメイド製品をちょっと売るだけでもD2Cのエッセンスは活用できます。本書は妻にも読んでもらって、今後僕たちの副業展開にも活かしていきたいと思います。
この記事を書いた人
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かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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