ブランディングデザイン講義|「売る」から「売れる」へ。

ビジネス・マーケティング
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こんにちは。夫です。

前回の記事では個性的な本屋さんスタンダードブックストアで出会った「エクストラライフ(EXTRA LIFE)」を紹介しましたが、今回も同じ本屋さんで手に取った本を紹介します。

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それが本書『「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』です。

僕はマーケティング関係の仕事をしていますが、専門はコピーライティング。デザインは全然ダメです。笑 でもやっぱりデザインもマーケティングの一部なので学んでいかないといけません。

本書はクリエイティブディレクターの水野学さんが、2014年ごろに慶應義塾大学で行った講義「ブランディングデザイン」の内容を書籍化したもの。一流大学の経営・経済学部の人が学んでいる内容が学べる一冊です。

それでは早速、そもそも水野学って誰?という話から、マーケティングを仕事にしている僕が「これは使える!」と思ったポイントをピックアップしていきたいと思います。

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クリエイティブディレクター水野学

そもそも水野学って誰?という話ですが、名前を知らなくても作品を知っている人は多いはず。上の画像は水野学さんの作品の一部ですが、見たことあるものがたくさんありますよね。

電子マネーサービスの「iD」や、ゆるキャラの代表格「くまもん」、さらに宇多田ヒカルさんのアートディレクション、女性誌VERY(ヴェリィ)とコラボしたおしゃれでスタイリッシュなママチャリまで、デザイン分野で幅広く活躍されています。

すごい実績ですね。街中で見かけるものでブームを起こしたものがたくさんあります。それにいわゆるビジュアルデザインだけでなく、モノの機能デザインまで手掛けられているのはすごい…!

そんな水野学さんですが、2つの柱をもって仕事をされています。
一つはもちろん「デザイン」です。ロゴや広告、パッケージなどのグラフィックデザインから、商品そのものや店舗などの空間デザインまで。
そしてもう一つの柱が企業の「コンサルティング」です。

デザインとコンサルティング。2つの柱を持っているからこそ水野学さんはユニークで、活躍されているんです。

企業コンサルティングはマネジメントやデータサイエンス、ストラテジーといったスキルを武器にした人が多い印象ですが、水野学さんはデザインがコンサルティングの武器だということです。

ブランドとは見え方のコントロール

それでは本書の内容、水野学さんによる名物講義のエッセンスを紹介していこうと思いますが、まずは本書のタイトルでもある「売れる」について。
水野学さんのコンサルティングは、デザインの力を使ってブランドの力を引き出し、「売る」のではなく、「売れる」仕組みを作っています。そして「売れる」には、3つの方法があります。

1つは「発明すること
商品自体が全く新しい価値を備えていたら、それだけで売れる可能性があります。iPodが世に出た時、同じカテゴリーの商品は存在しても、iPodのような商品は存在しませんでした。このように全く新しいものを発明する(ゼロから発明するだけでなく、組み合わせによって新しくする)ことで、「売れる」が作れます。

2つ目は「ブームを作ること
基本的なやり方は広告キャンペーンです。大規模な広告戦略によって世の中で話題を生み、ブームを起こせば「売れる」状態になります。

しかし水野学さんは「少し前ならこの2つで売れたが、今は難しい」と言います。機能やスペック、価格による差はほとんどありませんし、以前は広告だけでブームを作れるほどメディアが力を持っていましたが、今現在そこまで力を持ったメディアはありません。

そこで重要になってくるのが3つ目「ブランドを作ること」です。

そしてブランドとは「見え方のコントロールである」と言います。
時間を確認するだけの腕時計なら、100円ショップの腕時計で十分です。それでも数百万円の高級腕時計を買う人がいます。高級腕時計は機能やスペックではなく、100円ショップの腕時計とは違う見え方をするブランドを作り上げたから「売れる」んです。

ある商品を見たとき、「あの企業らしいな」と思ったりすることがありますよね。あるいは逆に「あの企業らしくないな」と思うこともある。その「らしさ」。みなさんの頭の中にある企業や商品に対するイメージといってもいいかもしれません
<中略>
ブランドというと、いわゆる高級ブランドのようなものをイメージする人もいるかもしれないけれど、かならずしもそういうものだけを意味しているわけではない。もっと根本的な部分の話で、その企業や商品が本来もっている思いや志を含めた特有の魅力のようなものです。
引用:「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義

「見え方のコントロール」が上手い企業の一つがアップルです。アップルって、店の外観や広告、配置、スタッフの対応、その全てが「アップルらしさ」を表現していて、それが消費者にもちゃんと伝わっていますよね。だからiPhoneより高性能で安いスマホが出ても、そっちを買いたいと思わない。まさに「売れる」ブランドです。

「売れる」ためにはブランドを作ることが必要で、ブランドが「見え方のコントロール」であるなら、必要なのは「見え方をコントロールできる人」です。デザインだけを担当するアートディレクターではなく、より全体的なイメージをコントロールするクリエイティブディレクターです。

しかし日本企業の上層部には、クリエイティブディレクターがいません。水野学さんの肌感覚では、必要な量の1%くらいしか埋まっていないと言います。その理由はやっぱり「クリエイティブはクリエイティブ。経営や戦略とは別」という認識があるからです。もっと言うと「クリエイティブなんてセンスがある一部の人にしかわからない」というコンプレックスです。

次の章では「センスコンプレックス」と呼ばれるクリエイティブの苦手意識を克服する方法を紹介します。

センスの正体は?

「売れる」にはブランドが必要で、ブランドを作るには「見え方をコントロールする」ことが必要です。しかし、見え方のコントロール、つまりクリエイティブディレクションは美大を出た一部の人、センスがある一部の人のもので、どこか他人事と考えてしまう「センスコンプレックス」を持った人が多いことも事実。

では、そもそもセンスとはなんでしょうか?

水野学さんはセンスを「集積した知識をもとに最適化する能力」と定義しています。

センスって「センスがいい・悪い」という使われ方をするので、感覚的なものだと思いがちですよね。でも「集積した知識をもとに最適化する能力」と言われるとどうでしょう?センスがいい・悪いというより、「センスが高い・低い」という言い方のほうがフィットする気がします。

僕たちは何かを選んだり決めたりする時に、生まれ持った才能を頼りにしているわけではありません。それまで蓄積した知識をもとに、最適化することで、選択・決断しています。
例えばおしゃれで「ファッションセンスがある」と言われる人は、生まれた時からおしゃれだったわけではありません。ファッションに関するさまざまな知識をもっていて、その知識を最適化してアウトプットできるからおしゃれに見えるんです。

絵や音楽など、アート分野でも同じです。生まれ持った才能だけで作品を作っている人はいません。もちろん育った環境の中で、特定のものについての知識が自然に積み重ねられることもありますが、基本的には後天的に身につけた知識、そしてそれを最適化する能力がセンスです。

もしセンスを身につけたいと思うのなら、まず知識を積み重ねることです。
逆にいえば、センスは努力すれば身につけることができる、ということ。けっして生まれもっての才能なんかじゃなく、ほぼ後天的なものだと、僕は思います。
引用:「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義

センスを磨く3つの方法

では、センスを後天的に身につけるには、どんな努力をすればいいのか?水野学さんが3つの方法を教えてくれています。

ひとつは「王道・定番を知る」こと。
さまざまなものを客観的に見て、王道・定番と感じることを見つけていきます。というのも、王道・定番がわかれば、その業界の基準が見えます。その基準を軸にするから奇抜なものや変わったものも作れるようになります。逆に王道・定番を知らずに奇抜なものを作っても、検討外れなものしかできません。

これは本当にその通りですね。個人的な感覚ですが、三流アーティストって、自分の表現したいものにこだわる一方、王道・定番をちゃんと学んでいない気がします。だから自分のポジショニング(ブランドの重要要素ですね)が見えず、検討外れな行動、期待以下の結果にしかつながらない…

水野学さんが市場の王道・定番を探り続ける中で、差別化の弊害も見えてきたと言います。さまざまな企業が差別化を狙って王道・定番から離れていった結果、市場のニーズど真ん中の商品がなくなる「市場のドーナツ化」が起こっているんです。
なので市場によっては王道・定番を探ることが直接、大ヒットのアイデアになるかもしれないということですね。王道・定番を欲しがる人が一番多いにもかかわらず、他の企業が差別化で奇抜なものばかり作っているわけですから。

2つ目は「流行を見つける」ことです。
王道・定番と逆に、その時の流行りを見つけることもセンスを磨く重要なポイントです。大事なのはひとつひとつの流行ではなく、流行の変化です。昔、電話の王道・定番は「黒電話」でしたが、今の王道・定番は「iPhone」です。このように流行が長く続き、王道・定番を変化させることがあります。

世の中にはいま「問題を解決する能力」を高く評価する風潮があります。ビジネスの世界でも、ソリューションといったりして解決策が重視されている。
でも、じつはいま本当に必要なのは、「問題を発見する能力」のほうじゃないかとぼくは思っています。
だってなにが問題かあきらかになっていたら、人が集まって知恵を出し合えば、たいていのことは解決できるから。いまの時代は問題を解決するより、見つけることのほうが難しいんです。
引用:「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義

流行を探る過程で、今の消費者は何を求めているのか?が見えてきます。そこに問題・課題が隠れているかもしれません。

センスを磨く3つ目の方法は「共通点を探る」です。
これこそセンスの本流のような方法で、さまざまなものを見て共通点やルールを見つけていくということです。例えば「行列ができる店に共通するものはなんだろうか?」と考えてみましょう。行列ができるラーメン屋と行列ができるアパレルショップ、行列ができるアトラクション、全く違う3つの業界で「行列ができる」という点で共通するものが見つかったら、例えば「行列ができる雑貨屋」「行列ができるカフェ」「行列ができるライブハウス」のアイデアが生まれるかもしれません。

水野学さんはショッピングモールを見て回って、人がたくさん入っている店舗の共通点を探しました。すると「床の色が暗め」「通路が狭め」「商品がごちゃごちゃ並んでいる」「天井が低め」といった共通点が見つかったそうです。
次に、それぞれについて「なぜ〇〇だと人がたくさん入るんだろう?」と考えます。「床の色が暗め」というのは、もしかしたら白い床を汚してしまうことに無意識に抵抗を感じてしまうのかもしれません。通路が狭く、商品がごちゃごちゃ並んでいると、宝探しのような気分で長く滞在してもらえるのかもしれません。

これは面白いトレーニングになりそうですね。僕もコピーライティングを学ぶ時はいろいろな過去の事例を集めて、共通する要素を探していきました。それで見つかった共通点の多くは、業界や広告の目的が変わっても、共通していることが多いんですよね。

  • 王道・定番を知る
  • 流行を見つける
  • 共通点を見つける

センスを磨く3つの方法を見てわかる通り、デザインには必ず理由があります。よくわからないけど閃いたとか、そういうものではありません。「〇〇ということから、これがこの市場の定番である」「〇〇ということから、今この市場ではこれが流行している」「〇〇と〇〇には××という共通点が存在するため、この共通点を新商品に取り入れた方がいい」など、かならず説明できるんです。

ブランディングマインドセット

ブランド、センスという言葉にしづらいぼんやりしたものの解像度がかなり上がってきました。センスは「集積した知識をもとに最適化する能力」という言葉と出会っただけでも本書を読んだ価値があると思いますが、さらに具体的に、ブランディングを考える際のマインドセットをいくつか見ていきたいと思います。

驚かせるアイデアはいらない

ブランディング、デザインを考えた時、どうしても「驚かせたい」と考えてしまうことがあります。もちろん純粋なエンターテインメントであれば驚きは重要な要素ですが、ビジネスの現場では驚かせようとするのはNGです。

そもそも驚かせること自体は難しくありません。例えば、アップルが新型iPhoneと称して黒電話をリリースしたら世界中が驚きます。でも、それで喜ぶ人はあまりいないでしょう。一瞬「売る」だけなら驚きは有効ですが、継続的に「売れる」には驚きではなく、ブランドで価値を伝える、つまり見え方をコントロールする必要があります。

企業がブランドを作るには重要な要素が3つあると言います。1つは「トップのクリエイティブ感覚が優れていること」、次に「経営者の右脳としてクリエイティブディレクターが経営判断をおこなっていること」、そして「経営の直下にクリエイティブ特区があること」です。アップルやユニクロ、無印良品などブランディングに成功している企業はこの3つを満たしています。

ブランドとは「らしさ」そのもの

ブランドとは「見え方をコントロールする」ことだと繰り返し伝えてきましたが、どうコントロールするかというと、「らしさ」に近づけていくことになります。iPhoneは新型が出ても「iPhoneらしい」「アップルらしい」ですよね。無印良品は食器も本棚もアメニティも家具もお菓子も、全部が「無印良品らしい」と感じます。

一方、ブランディングがうまくいっていない企業には「〇〇らしい」というものがありません。家の中にもブランドがわからない商品がいくつかあると思います。「〇〇らしい」と思わない商品を、次も手に取ろうと思いますか?機能が優れていたら何度か手に取るかもしれませんが、機能が同じなら「〇〇らしい」が見えるブランドを選びますよね。

考え方としては、スタイリストにかぎりなく近い。たとえばある人が「イメージアップをはかりたい」「印象をよくしたい」と思っていたら、どんな服を着せますか?
当たり前の話だけど、その人に似合う服を着せますよね。いくら流行っているからといって、似合わない服を着せても仕方がない。
企業のブランディングもそれと同じなんです。
引用:「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義

デザインセンスを磨き始めよう!

ということで今回は『「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』を紹介しました。

講義録なので話口調でものすごく読みやすい本。それに大学生に短い時間で教えているので、本質的なところだけをぎゅっと凝縮した内容でした。

本書で一番学びになったのはやはりセンスとは「集積した知識をもとに最適化する能力」である、という言葉です。
僕も音楽をやっていて自分で「センスがないなー」と思うこともあれば、他の人を見て「あんなにセンスがあるなんて羨ましい」と思ったりすることもあります。

でもセンスの正体が「集積した知識をもとに最適化する能力」なら、自分の努力で身につけられるものなんですね。

といってもやっぱり子どもの頃から音楽をやっていた、父親が音楽好きで家には大量のレコードが、みたいな人が何十年もかけて集積した知識に大人になってから匹敵するのは簡単ではありませんが…

僕はデザインに対してなんとなく苦手意識があって「マーケティングは作るけどデザインはお願いします」という形で仕事をすることが多いのですが、その意識も改めないといけません。
本書を読んでわかる通り、デザインはマーケティングの一部で、包括的なクリエイティブディレクションはマーケティングそのものです。

ということで僕は今日から意識的に、本書で学んだセンスを磨く「王道・定番を知る」「流行を見つける」「共通点を見つける」をやっていこうと思います!

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