人を動かす極意【仕掛学】を学べば世界が少し良くなる

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さて問題。あなたは地域の集まり(町内会とか、マンションの組合とかそういうの)に参加していて、「ポイ捨てを減らそう!」という取り組みのリーダーに任命されました。大した予算はないので、立派なゴミ箱を設置したり、警備員を雇ったりすることは難しそう。

あなたは、どんなアイデアで、その街のポイ捨てを減らしますか?

ちょっと考えてみてください。

ぱっと思い浮かぶのは、「ポイ捨て禁止」と書いたポスターですよね。ポスターならちょっと水に強い材質のものでも数万円もあれば、数千枚作ることができます。

しかしまあ、この手のポスターって効果ないですよね。「ポイ捨て禁止!」と書かれたポスターは見た人に「ああ、ここはポイ捨てが多い場所でみんなポイ捨てしてるんだ。だったら僕もいいかな」と思ってしまい、逆効果になることもあるそうです。

広告関係の仕事をしている身として真剣に考えましたが、大したアイデアは出てこなかった。

正解は、正解というか、この本で紹介されている”仕掛け”はコチラ。

画像:㈱マツモトコンストラクションサービス

鳥居を設置する、というもの。

この写真にある鳥居、数千円で買えるミニ鳥居で、実際に「ポイ捨て防止グッズ」として販売されているものです。

日本人なら、そこまで信仰深くない人でも、鳥居に向かってゴミを投げ捨てるなんてことはしません。鳥居がある場所は神様のいる場所ですからね。神様を信じるかどうかは別にして、少なくともそういう意味のある場所に平気でゴミを捨てる人は、単純にヤバい人です。

実際に設置した自治体の多くで、ただ鳥居を置いただけでポイ捨てが激減したという事例がたくさんあるみたいです。

これが”仕掛け”の本質です。「ポイ捨てしないでください」と言うのではなく、ちょっとしたアイデアでポイ捨てをする人自身が「ポイ捨てしないでおこう」と思ってしまう。今日はそんな仕掛けが学べる村松真宏さんの「仕掛学-人を動かすアイデアのつくり方」を紹介します。

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人を動かす極意「仕掛学」

本書のタイトルである「仕掛学」とは何でしょうか。

仕掛けについては、なんとなくイメージできますよね。ポイ捨て防止の鳥居のように、ちょっとしたアイデアで人の行動を変えてしまう、そんなものが仕掛けです。

著者によると、仕掛とは「無理やり行動を変えさせようとするのではなく、つい行動を変えたくなるように仕向ける」ことが仕掛であり、人の行動を変える奥義だと言います。

とはいえ、ポイ捨て防止のために鳥居を設置するなんてアイデア、なかなか出てきません。

そこはご安心を。それを体系的、学問的に教えてくれるのが「仕掛学」です。

ということで、まずは仕掛けを定義する3つの要件から見ていきましょう。

本書を読んで、人を動かす仕掛けのアイデアがポンポン浮かぶ、ということはありません。ヒントはいろいろ得られますが結局は仕掛けのタネの積み重ねです。ただ、仕掛けによって世界が少し良くなった事例を日常の中でもたくさん発見できるようになりました。

「良い仕掛け」に必要な3つの要件

良い仕掛け」という言葉が出てきたので、まずは良い仕掛けとはなにか、という話から初めましょう。

鳥居の事例を見ると、「仕掛けにはすごいパワーがある」と思わされますが、筆者は「仕掛とは商品を売るためのものではない。商品の魅力に気づいてもらったり、興味を持ってもらうところまでが仕掛の役割」だと言います。

もちろん、仕掛けで商品を売ることはできますが、この本ではそうしたシーンは対象としていない、ということです。誰かが不利益を被るような仕掛けも想定していません。

良い仕掛けと悪い仕掛けの違いは単純で、仕掛けに気づいた時に「素晴らしい!一本取られた!」と感じるのは良い仕掛け。「騙された。二度と引っかかるもんか。」と不快に感じたら悪い仕掛けです。

本書で学べる仕掛学は、仕掛けられた側が、仕掛けに気づいた時「素晴らしい!一本取られた!」と感じる良い仕掛けを生み出すための技術です。

では、その「良い仕掛け」の定義を見てみましょう。

本書では、問題解決に繋がる行動を誘うきっかけとなるもののうち、いかの3つの要件からなる「FAD要件」をすべて満たすものを仕掛けと定義する。

  1. Fairness(公平性):誰も不利益を被らない
  2. Attractiveness(誘引性):行動が誘われる
  3. Duality of purpose(目的の二重性):仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる

なんだか難しく見えますが、1については既に述べた「良い仕掛け」と「悪い仕掛け」の違いですね。その仕掛けによって誰かが不利益を被るなら、それは仕掛けではありません。例えば、悪徳マーケティングのテクニックとかですね。

2で大切なのは「誘われる」という部分です。決して強制したり、選択肢を絞ってそれ以外選べなくしたりするのではなく、仕掛けられた側が自ら望んで行動してしまうようなものが仕掛けです。当然、密室に誘い込んで断れないようにして行うセールスは仕掛けじゃないですよ。

3は、仕掛ける側には解決したい目的があり、仕掛けられる側には行動したくなる理由がある、ということです。

3つ目を満たしているわかりやすい例として、男子トイレの小便器にある「的」があります。

画像:株式会社MMP

これも鳥居と同じく実際に商品化されているものですが、男性用の小便器に設置する的です。温度で色が変わるようになっていて、上図のようにおみくじ形式になっていたりするものもあるみたいです。

的はそのトイレをきれいに使う上で最も効果的な場所(飛び散りにくい場所)に貼られています。仕掛ける側の目的は「トイレをきれいに使ってほしい、掃除の手間を減らしたい」ですよね。

一方、このトイレを使う側は単に的があったら狙ってしまう、色が変わったら面白い、という理由で使います。決してトイレをきれいに使おうと思っているわけではありません。

仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が違うのに、両方の目的が達成されている。これが「目的の二重性」という仕掛けの要素です。

男性なら分かると思いますが、的があれば狙う。それは男の本能だ。的がそこにあるのに狙わないなんてことができるだろうか。いや、できない。

さて、本書ではいろいろな仕掛けの例と、どういう仕掛けかの細かな説明や、ここまでで説明していない仕掛けの役割や効果などが書かれていますが、一気に飛ばします。

なぜなら…

知っていますよ。

あなたが知りたいのは、仕掛けの定義や役割ではなく、、、

どうすれば仕掛けを作れるのか?」ということだとを、、、僕がそうですからね。

ということで、本書の後半にある「仕掛けの発想法」という章を見ていきましょう。

そうそう、それが知りたかった!

もちろん、仕掛学を本気で身につけるには、今回飛ばした細かな事例や要素が重要になるので、本書を読んでみてください。

仕掛けを発想する4つのテクニック

さて、具体的なテクニックを教えてくれるのかと思いきや最初に言われるのは「子どもを観察しろ!」ということ。

大人になればなるほど知識が増えていって、作り込まれた仕掛けにしか反応しなくなります。一方、子どもは好奇心の塊。まさに仕掛け発見器です。

例えば、子どもは横断歩道の白い部分だけ歩いて帰るとか、窓枠の影を使ったり、ケンケンパをして遊んだりしますよね。大人からしたら横断歩道の白い部分も影も、ほとんど意識することすらありません。でも、子どもはそれをゲームに変えてしまいます。

そういう小さな発見が仕掛けのネタになります。だから何よりもまず子どもを観察しましょう。筆者も、いろんな仕掛けのネタを写真に残しているそうですが、その多くは子どもと一緒にいるときに撮ったものだそうです。

その他にも世の中には仕掛けのタネが溢れているので、まずはそうしたタネを大量に集めることがスタートラインです。本書でもジェームス W.ヤング氏の「アイデアのつくり方」の一節、「アイデアとは既存の要素の組み合わせ以外の何者でもない」という言葉を引用しています。

ジェームス W.ヤング氏の「アイデアのつくり方

ジェームス W.ヤング氏の「アイデアのつくり方」は僕も好きな本なので、いずれIntro Booksで紹介したいと思います。

つまり、一見関係ないものから無駄に思えるものまで、仕掛けのタネになりそうなものを大量に集めましょう。

「鳥居」×「ポイ捨てされやすい場所」という要素の掛け合わせで「ポイ捨て防止の鳥居」という商品アイデアになります。

「トイレ」×「的」という要素の掛け合わせで「トイレをきれいに使ってもらえる」という大きな結果を得ることができます。

仕掛けのタネが集まったら、組み合わせを考えていきましょう。組み合わせ方については、いろいろなテクニックを教えてくれます。

仕掛けの事例を転用する

一番単純なテクニックは、すでにある仕掛けを転用することです。

鳥居にポイ捨て防止効果があるなら、お地蔵さんでも同じ効果がありそうですよね。

ただの的にトイレをきれいに使ってもらう効果があるなら、温度で色が変わることを利用したおみくじタイプの的にも効果があることは自然と分かります。ちなみに、最近は的に当たると量を計測して、小便器に「〇〇リットル」と表示されるものもあります。これも男性なら分かると思いますが、どんどん量が増えていくのを見ると、逆に狙わない方が強い意志が必要になりますよね。

独創性のあるものや突拍子もない仕掛けは生まれませんが、この方法なら再現性が高そうです。仕掛けの事例集と、タネを集めておけば簡単に作れそうですね。

行動の類似性を利用する

仕掛けは人に行動の選択肢を与え、仕掛ける側が望む行動に導くことで双方の目的を達成するものです。なので、行動に着目するのも効果的です。

例えば、「片付け」を考えてみましょう。片付けは意識的にやってもうまくいかないことはあなたも経験あると思います。片付けようとは思うけど気づいたらまた散らかっている…頻繁に行う行動だからこそ意識的にやるのではなく、自然に片付いてしまう「仕掛け」を用意することが大切です。

例えば、片付けることに繋がりそうな行動は、「投げる」「しまう」「入れる」「当てる」「落とす」などがありそうです。

であれば、「投げるだけで片付く収納ボックス」なんてアイデアも面白いかもしれません。

「当てる」というのも的に近いですね。いつも鍵を置く場所がばらばらで探さないと行けないなら、玄関脇に鍵の形の的を置いてはどうでしょう?ついそこに鍵を置いてしまうはずです。玄関の靴もそうですね。足型の的があれば、自然にそれに合わせてきれいに揃えて脱ぐようになるかもしれません。

「しまう」というところから、しまいたくなる仕掛けはできないでしょうか。例えば本をコレクション風に飾る本棚を用意してみましょう。そこらへんに重ねておくよりは、しまいたくなるのではないでしょうか。

仕掛けの原理を利用する

今回飛ばした「仕掛けの仕組み」という章で、仕掛けの原理、分類が紹介されています。

画像:仕掛学P87

こういうやつですね。この分類を利用してみるのも良い方法です。

ポイ捨て防止の鳥居で考えると、これは「鳥居は神聖なもの」という「心理的トリガ>>社会的文脈>>社会規範」の要素と、「鳥居そのもの」を指す「物理的トリガ>>フィードバック>>視覚」の組み合わせです。

ルンバなどのロボット掃除機を買うと、ルンバに掃除してもらうために部屋をきれいにする(散らかっている、物が多いとそもそもルンバが掃除できない)ということがあるらしいです。

これは、ルンバが部屋を掃除してくれるという「ポジティブな期待」ですよね。ちょっと乱暴ですがここから「掃除しないロボット掃除機」というアイデアがあっても良いかもしれません。「掃除しないロボット掃除機」が与えるのは、ロボット掃除機の「アナロジー」とそれに対する「ポジティブな期待」です。

掃除しないロボット掃除機を家に置いて家が整理整頓されるなら、良いですよね。ロボット掃除機のような機能は必要なくて、ロボット掃除機っぽい見た目と、適当に動き回るラジコン的な機能があればいいので安く済みます。これはもしかしたら、新しい市場が生まれるレベルのアイデアかも…

オズボーンのチェックリスト

アイデア発掘の大定番「オズボーンのチェックリスト」がここでも登場しました。

ご存じかもしれませんが、オズボーンのチェックリストとは、アメリカの広告会社の幹部だった人で、ブレーンストーミングという会議方法を提案したことでも有名なオズボーン氏が提唱したアイデア発掘のフレームワークです。

下記の9つですね。全部暗記するか机の上に貼っておきたい内容です。

  1. 他に使いみちは?
  2. 他に似たものは?
  3. 変えてみたら?
  4. 大きくしてみたら?
  5. 小さくしてみたら?
  6. 他のもので代用したら?
  7. 入れ替えてみたら?
  8. 逆にしてみたら?
  9. 組み合わせてみたら?

この質問を自分に投げかけてみましょう。

これについて面白いジョークが紹介されています。

NASAは宇宙飛行士を宇宙に送り込んだ時、無重力状態ではボールペンが書けないことを発見した。この問題に対処するため、NASAの科学者は10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて、無重力下でも書けるボールペンを開発した。

一方、ロシアの宇宙飛行士は鉛筆を使った。

実際にはNASAも鉛筆を使っていて、これはあくまでジョークらしいですが、「他のもので代用したら?」の良い例ですよね。「ボールペンが使えない→使えるボールペンを開発しなければ!」ではなく、「ボールペンが使えない→他のもので代用したら?→鉛筆でいいじゃん」という単純だけど見落としがちなアイデアです。

「他に使いみちは?」も面白い事例があります。3Mの代表的商品の「ポストイット」僕は本を読む時必ず使うのですが、実は失敗作から生まれたアイデアです。

3Mは瞬間接着剤を開発しようとしていたのですが、その過程で全然接着力がない、でもある程度は何度もくっつく接着剤ができてしまったんです。失敗作だと捨てられかけたところで、誰かが「これ、こういうふうにしたら役に立つんじゃね?」と言ってくれて、ポストイットが誕生したんです。

僕も広告関係の仕事をしているので、オズボーンのチェックリストはよく使います。が、ネタを貯めるということを十分やっていなかったので活かせていなかったですね…結局は、組み合わせるネタを毎日集めておくことが何より重要。

今日も仕掛けが世の中を良くしている

ということで、今日は村松真宏さんの「仕掛学-人を動かすアイデアのつくり方」を紹介しました。

アイデア発想法の本は色々あって、僕も好きなテーマなのでよく読みますが、「仕掛け」というところにフォーカスすることで、机上の空論ではなく、現実世界の事例を基に具体的に学べました。

本書を読んで一番得たものは、世の中には予想以上に仕掛けが溢れているということです。仕掛けはそもそも仕掛けと気付かれないようにあります。トイレの的なんて、ちょっと楽しませてくれているんだ程度に思っていましたが、まさか自分がトイレの美化活動に参加しているとは思いませんでした。

そういう意味では、日常の細かなデザインとかもそうです。横断歩道は横断歩道と意識されることなく、横断歩道の上を歩いてしまうようにデザインされています。

ほどんどのドアノブは押すのか引くのか、スライドするのか、考えるまでもなく自然に使えるようになっています(たまに騙されますが…)。

ということで、世の中は多くの仕掛けによって、気づかないうちにちょっとだけ良く、便利になっているようです。
そうした一面が見えるようになっただけでも価値があると思います。

それでは、今日もまた良い読書ライフを!
…積読している大量の本、つい読んでしまういいアイデアはないですか?あったらぜひ教えてください。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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