大阪って、兄弟って、いいな|戸村飯店 青春100連発

小説・エッセイ
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皆さん、「大阪人」と聞くとどんなイメージが湧きますか?

面白い、優しい、フレンドリー、ケチ、声が大きい、せっかち、口やかましい、など様々な大阪の人が思い浮かぶかと思います。

以前、大阪のとあるライブハウスに行ったら、出演者のおばあちゃんや親戚らしき人が観に来てました。かなりぎゅうぎゅう詰めになっていたので、わたしは勇気を出しておばあちゃんに「しんどくないですか?もう少し詰めれそうなので空けますね」と声をかけました。するとありがとうとお礼を言われ飴までいただきました。これが大阪人か…と思いながら帰ったことを思い出しました。

今日はそんな大阪の人々の様子も書かれている『戸村飯店 青春100連発』をご紹介。

ちなみに著書は第24回(2008年)坪田譲治文学賞を受賞している作品ということもあり、本屋さんによっては今でも平積みされているベストセラー。

著者は瀬尾まいこ(せおまいこ)さん。

2019年本屋大賞に選ばれた『そして、バトンは渡された』を書かれている方なので、ご存知の方も多いかと思います。

著書には大阪にいる学生や先生、チョコや飴ちゃんをくれるおばちゃん、阪神タイガースをこよなく愛すおっさん、おせっかいなおじいちゃん、頑固親父、などたくさんの大阪人が登場します。

本を通じて人情に溢れた大阪人を見ることができ、大阪という町の温かさを感じることができます。

冒頭の質問で思った大阪人のイメージと合っているか、この小説を読んで確かめてみませんか?

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あらすじ

冒頭でざっくりと大阪人が登場する話と紹介しましたが、細かい内容はこちら。

大阪の超庶民的中華料理店、戸村飯店の二人息子。要領も見た目もいい兄、ヘイスケと、ボケがうまく単純な性格の弟、コウスケ。家族や兄弟でも、折り合いが悪かったり波長が違ったり。ヘイスケは高校卒業後、東京に行く。大阪と東京で兄弟が自分を見つめ直す、温かな笑いに満ちた傑作青春小説。
引用:戸村飯店 青春100連発 裏表紙より

戸村飯店の2人の兄弟をベースに話が進行していきます。

ここからネタバレしない程度にもう少し詳しくご紹介。

兄、さよなら編

物語は戸村飯店の兄、ヘイスケの高校卒業前から始まります。

兄と一歳違いの弟コウスケは、誰に言われるでもなく手伝えるときには戸村飯店を手伝っていましたが、兄ヘイスケは店に顔すら出していませんでした。

ヘイスケが東京の専門学校へ通うと知った時、戸村飯店を継ぎたくないから出ていくんだろうと思っていたコウスケはある日、兄に直接なんで東京に行くのか聞きます。

ヘイスケは小説家になるからやと言いますが、話をしているうちに、戸村飯店はコウスケが継ぐべきという話に変わります。
コウスケはカチンときて、家を勝手に出て行く兄貴に決めつけられたくはないと思っていたことを口に出します。
それに対し、ヘイスケはこう言いました。

「先に出ていけるのって長男の特権やん。一つくらい特権あらへんと、長男なんかやってられへん」
何一つ長男らしいことをしてこなかった兄貴が言った。
「そやったら、次男の特権はどこにあるねん」
<中略>
「なんでや。大きな特権があるやん。先を見て学べる。それこそが次男の特権や」

コウスケは兄貴を見て学べるところなんてひとつもないと言い、その後真剣に継ぐ継がないの話をして真剣な話をして終わり、ヘイスケが東京へ行く日を迎えます。

要領が良くいけ好かない兄でもいなくなった時、寂しいと感じるコウスケでした。

その後、兄は専門学校やバイトを通じて様々な人と出会い関わり、弟は学校行事に真剣に取り組むことでとあるクラスメイトと仲良くなります。

弟、進路に迷う編

月日は流れ、コウスケは高校三年生に。

二学期の三者面談。兄が家を出て行ったこともあり店を継ぐ気満々だったコウスケは、店継ぎますと父と先生に宣言。
父は「あほたれ!」とこう言います。

「都合のええようにうちの店を使うな。お前も、ヘイスケみたいに自分でどっか行ってみろや」

コウスケは急に出て行けと言われて途方に暮れます。

そんな時、兄が家を出る前に「次男の特権は先を見て学べることだ」と言っていたことを思い出します。
両親には友だちの家へ泊まるとうそをつき、東京にいる兄の元へ向かいます。

突然来たにもかかわらず驚くことなくさらりと迎え入れるヘイスケ。
コウスケは最初、なかなか口に出せませんでしたが、進路について悩んでいることを打ち明けます。

「コウスケはそんなに店継ぎたかったんか?」
「継ぎたかったっていうか、やっぱり継がなあかんやろなって思っとったっていうか」
「さすが責任感溢れる次男や」
「そやけど、継ぐなって言われてしもうたら、何をどうしてええのかわからんようになってしもうてん。親父とか先生は進学しろとか言うけどイメージわかんし、かといって他に仕事っていうてもやりたいこともないし」
「戸村家の次男路頭に迷う、の巻やな」
「茶化すなや。なあ、兄貴はどうしたらええと思う?」

「そやけどコウスケ。俺がまじめに答えたかってなんも参考にならんやろ」
兄貴は神妙な顔で無責任なことを言った。
「なんでやねん。アドバイスしてくれるんちゃうんか?」
「お前は俺とはちゃうからどうしようもない」
「役に立たん長男や」

「俺はいい加減な人間やから、そんなこと言われたらほいほい出て行くけど、お前はそうちゃう」
「そんなことあらへんけど……」
「お前は人の思いを裏切れへんやつや。だから、その分あの店で好かれとるし、必要とされとる。俺とはちゃうねん」
兄貴の言葉に妙な気持ちになった。自分が褒められている嬉しさより、そういうことを当たり前のように言う兄貴が、寂しかった。

ヘイスケはどうアドバイスするのか、コウスケの進路はどうなるのかは、この物語を読む人ぞ知る…

人情味あふれる町、大阪

ネタバレにならない程度の紹介により、タイトルの青春100連発の青春部分にあまり触れることができませんでしたが、この本のだいすきなところは大阪という町や大阪人の魅力が詰まっている点。

ヘイスケは物語の中で「全ての人が阪神タイガースをこよなく愛し、吉本新喜劇で爆笑し、オチがない話をすると、「それがどないしたん」と、戸惑われてしまう町」と言っています。

住んでいる側からするとお節介な人も多くうっとおしいなと思ってしまう環境ですが、住んでない身からするとそのお節介さが羨ましくもあり、人とのつながりっていいものだなと思わせてくれます。

また、あらすじで紹介した兄弟の絆が見れるところも良い点です。

決して仲良しとは言えない兄弟ですが、本当に困ったときに頼るのは兄な弟と心強い兄。見ていてほんわかします。

そして兄弟の絆だけでなく、2人の周りで起こる友情や恋愛についても書かれており、関西弁を交えてのやり取りがクスッと笑えます。

余談ですが、コウスケがいる大阪という町の良さやヘイスケの東京行き決断…この物語がキッカケでわたしも地元から大阪に行くことを決意しました。もう4年くらい住んでいますが、この小説の通り、大阪人は人情味があり優しい人たちばかりです。

この記事を書いている今は夏休みシーズン。

ヘイスケのようにこの道を進むと決めているあなたも、コウスケのように進路どうしようと考えるあなたも、同じような心境であれば読書感想文として書きやすい内容かもしれません。

コロナ禍により、人とのつながりや人の温かさに触れる機会が減りましたが、本を通じてであれば感じることができます。

この本をキッカケに笑ってほっこりして大阪や大阪人の良さを少しでも感じていただけると幸いです。

ではまた。

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この記事を書いた人

インナーカラーがやめられない。
座右の銘は日々成長。

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