こんにちは。夫です。
人生で避けて通れない、人生を左右する重要なイベント…その一つが”面接”でしょう。正社員はもちろんバイトでも面接がありますし、入試でも面接がある場合もあります。
面接ではいろんな質問があり、それにうまく受け答えすることが重要なわけですが、面接対策本もたくさん出版されていますよね。僕自身、面接を受ける前にはそうした本を読んで、企業について調べて、万全の体制で望むのですが、今回読んだのはいわゆる面接対策本ではありません。
その名も「イーロン・マスクの面接試験」
オンライン決済大手PayPalの創業者で、民間宇宙企業SpaceXの創業者、自動車業界で時価総額圧倒的1位のEV企業TeslaのCEO。2022年のフォーブス長者番付では資産額ランキング1位、資産額はなんと20兆円越えの大富豪、イーロン・マスク氏の名前を冠した本です。
どこかで見たタイトルだな、と思っていたら20年近く前に流行った「ビル・ゲイツの面接試験」の著者でした。僕もこの本を10年くらい前に読んでめちゃくちゃ面白かった印象があります。本書はその続編というか、20年近い時を経てアップデートされた内容になっています。
イーロン・マスク率いるテスラは、2500人募集したところ、50万人の応募があったそうです。倍率200倍なので、面接官は頑張って50万人の中から200人に1人逸材を見つけ出さないといけないわけです。書類審査、適性検査などいろいろなステップがありますが、やはり最後の関門は面接。
最高の2500人を選び抜けたらテスラは大きく成長できますが、最悪の2500人を選んでしまったら大惨事です。
昔、ビル・ゲイツは「最も優秀な20人が抜けたら、マイクロソフトは凡庸な会社になる」といったことを言ったそうです。世界トップクラスの企業であっても結局、組織とは人の集合体です。昔、Netflixは仕事ができない人を大胆にカットして大躍進を遂げたという話もあります。採用は組織の最重要課題とも言われますから、面接官の責務は重いですね。
これはテスラだけの問題ではありません。人材の流動性が高く、4年に1回くらい転職すると言われるアメリカでは、採用の重要性が非常に高い。日本のようにゼロからしっかり育てて…というのであればそこまで重要ではありませんが、最初から役立つ人間をしっかり選ばないといけないわけです。
そのため、アメリカでは採用面接に関する研究が盛んになり、ベストな採用のための面接試験も発展していきました。日本では考えられないような試験方法や質問が数多く生まれました。
そんなアメリカ、なかでも人財競争が激しいシリコンバレー系の企業で出された面接試験とその解答案をまとめたのが本書。ちなみに本書を面接対策として読むのはあまりお勧めしません笑。シリコンバレーに就職するなら役立つかもしれませんが、日本企業でこんな質問をしてくるところはほとんどないでしょう。クイズ本みたいに、知的好奇心を満たしてくれる本として読むのがいいんじゃないかと思います。とはいえ、後述しますが日々の仕事は問題解決の連続なので、そこで役立つ思考法は手に入ると思います。
ということで今回は、「イーロン・マスクの面接試験」から、僕自身が面白いと思った問題とその解答案をピックアップしていきたいと思います。本書では大量の問題がありますが、一部はアメリカ人じゃないとそもそも前提が理解できなかったり、僕の拙い脳みそでは解答案の解説を読んでもイマイチ理解できなかったりするものも少なくありません笑。なので、あくまで僕が「なるほど!この質問面白い!この考え方面白い!」と感じたものをピックアップしています。
なのでぜひ本書を手に取ってみてください。本書の半分くらいがそうした面白い質問とその回答ですが、前半では面接の歴史や採用研究なんかに触れています。もし採用担当者になる機会があるなら役立つと思います。面接って、そもそも採用判断に適さなくて、採用の精度を上げるためには他の方法を重視した方がいいらしいですよ。
イーロン・マスクの面接試験突破の手引き
具体的な問題を紹介する前に、問題解決に使える20のテクニックを見ておきましょう。
ちなみに僕も答えを考えながら読んでいたのですが、すんなり解けた問題は1つもありませんでした(笑)。実際には問題が正しくとけたかどうかより、一見無茶な質問に対して建設的に考えることができるかを見られているわけですが、僕がシリコンバレーで就職するのは夢のまた夢なのかもしれません。
ということで最初に問題解決に使える20のテクニックを紹介しておきます。このテクニックを使えば無理難題、到底答えが出なさそうな問題にも立ち向かえるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
忘れてはいけないのは、こうした質問を面接でするのは、それが仕事に役立つと考えられているからです。当然、この20の問題解決テクニックは、日々の仕事で課題にぶつかった時にも応用できるものなので、覚えておいて損はありません。
- 回り道をする:難しい問題に立ち向かう時は、解決策に一直線に進むほど単純ではないことが多い。ゴールから遠ざかっているような、直感に反することが解決への糸口になることもある。
- 探索し、計画して、実行する:まずは選択肢を探る(最初から絞らない)、次に、さまざまな選択肢から学んだことで計画を立てる。そして実現可能性が高そうなものを選び、実行する。
- 誰かの立場になって考えてみる:問題解決を成功させるには、他の人が何を考え、感じているかを正確に把握することが重要。そもそも問題の答えを導かなくても、解決できてしまうケースもある。
- 自分の最初の反応を疑う:難しい問題に対して、簡単に答えが見つかった場合はまず疑ってみる。
- 予想外の言葉に注意する:質問された時、そこにある全ての言葉が重要になる。質問の中に思いがけない細部が描かれていたら、そこに意味があると考える。
- アナロジーを使う:その問題は、以前に遭遇したことがある別の問題に似ているかもしれない。もしそうした例を見つけたら一気に解決まで近づくことができる。アナロジーが使えるということは創造的な思考、問題解決が学習可能であることを意味しており、だからこそ面接で問われ、仕事でも役立つ。
- 問題を分割する:大きな問題の奥は、より簡単に解決できる小さな問題に分割することが可能である。
- 絵を描く:私たちは視覚的に物事を考える。難しい問題も図や絵、チャートを書けば解決策が見えてくることがある。
- 問題をよりシンプルにしてみる:問題を解決するためにより単純な、より極端な、場合によっては逆により一般的なバージョンに作り直してみる。単純化して見つけた解決策が、元の難しい問題の解決策に適応できるかもしれない。
- 良い質問をする:問題を解決するためには適切な情報を持っていることが欠かせない。不足している情報があれば問題を出した相手に聞いてみる。
- 消去法で考える:問題によっては可能性のある行動、戦略、行動をリストアップし、そのリストから不適切なものを除外していくことができれば、最後に残った選択肢は正しい答えである。
- 逆算する:通常、問題解決では、現状(問題がある状態)から解決(答えが見つかった状態)へのステップを考える。しかし時には、解決された状態から遡ることで、より適切な答えへのステップが見つかることもある。
- 引っかけ問題に注意する:問題を素直に受け取ると、目の前にある解決策や糸口が見えない泥沼から抜けだけなくなってしまう時がある。
- 推測して絞り込む:量の計算を求められる場合などは、不正確でも当て推量から始めた方がいいこともある。その方が素早く答えまで辿り着ける上、プロセスが正しければ電卓を使って正確な答えを導けるからだ。
- 数式を立てる:問題を理解したら、その問題を数式に落とし込んでみよう。数式は数学を得るためだけでなく、あらゆる問題を一般化し、答えに近づける力がある。
- 間違った足跡を踏まない:私たちは過去に経験したことがある思考方法をそのままなぞってしまう。しかし未知の問題に対し、常に過去の経験が正しい解決策になるとは限らない。既存の経験で答えに辿り着けないようなら、その考えを捨て、新しい考え方を使う必要がある。
- マクガフィンを無視する:マクガフィンとは特定の未知の要素を表す。難しい問題に出会うと、まだ自分が知らない特別な知識や情報が必要だと考えてしまうかもしれないが、多くの場合、そうしたものは必要ない。
- リストアップ、集計、割る:確率の算出が求められる場合、同じ確率で起こりうる結果を列挙し、問題の条件に従うものを見つけ出し、集計して割り算することで擬似的に答えを得ることができる。
- 仕事との関係性を探る:面接で質問された場合、基本的には仕事との関係性がある。特に複数の答えが考えられるタイプの問題は、仕事との関係性や立場から適切な答えを見つけ出そう。
こうやって並べると何とも難しそう、というかどう使っていいのかイメージできないものも結構ありますね…でも本書では実際の企業で出題された面接試験から、これらのテクニックを使って答えを導いた例がたくさんあります。ということで、数ある面接試験の中で僕が「これは面白い!」と思ったものを取り上げていきたいと思います。
一般常識から一歩踏み込んで考えられますか?
一般常識として、地球より重力が小さく、6分の1程度しかないことは知られています。つまり、全てのものは、月に持っていくと地球にある時より6分の1の重さになるはずです。
一般常識で考えると「何もない」が正解のような気がします。日本の面接で総理大臣の名前を聞かれたりすることがあるみたいですが、それと同じように一般常識があるか確認するための質問なんでしょうか?
いや、ここはシリコンバレー。世界トップクラスの人財が集まる場所です。その程度の一般常識をあえて面接で聞くわけがありません。
ここで、簡単な数式を書いてみましょう。地球での重さが「X」だとすると、月での重さは重力が6分の 1なので「X/6」になります。月にある時の方が重たいものを聞かれているので探しているのは「X<X/6」になるものです。
この不等式が成り立つのは、Xがマイナスの場合のみです。もし「X=-6」なら「-6<-6/6=-1」で、不等式が成り立ちますよね。
マイナスの重さを持つものといえば、何があるでしょうか。パッと思いつくのはヘリウム風船です。ヘリウム風船は空気より軽いので、地球上では上に登っていく、つまりマイナスの重さを持っていると考えられます。
しかし月に空気はないので、ヘリウム風船は物質としての重さを持ちます。つまりヘリウム風船は、地球にある時より月にある時の方が重いと言えるのです。
これは面白い考え方ですね。マイナスの重さを持つもの、と考えたら確かに成り立ちます。もちろんここでいう重さとは何なのか、つまり単に秤の上に乗せた時のグラム表示の話なのかどうか。そして、空気による浮力を考慮してもいいのか、月面でヘリウム風船が形を保てるのか、などいくつかの前提条件が必要です。
なので模範解答は「重さを秤のメモリと考え、月においても秤が正常に機能するという前提であれば、ヘリウム風船です。ただし空気による浮力を考慮し、月面上でもヘリウム風船が形を保てるという想定での解答です。」となります。
この問題は、一般常識的に「何もない」という答えから、もう一歩踏み込んで考えられるかを問う質問です。実際には、ゴム風船は月の真空状態で破裂してしまうので、重さを測ることはできません。でも宇宙開発企業の面接でもない限り、そこまで考慮する必要はないでしょう。
前提条件を少しだけ疑うことはできますか?
最初この質問文を聞いた時、僕は確率を聞かれているのかと思いました。例えば適当に50枚づつの2つに分けた場合、表の数はそれぞれのグループに(50:40)(49:41)…(45:45)…(40:50)となって、10分の1の確率で均等に分かれます。見ても触ってもわからない以上、確率を高めるにはどうすればいいか?を考えてしまいました。
もしかしたらあなたはコインの裏表を見分ける方法を見つける問題だと考えたかもしれません。例えば匂いに違いはあるのか?他の人に手伝ってもらうことはできるのか?など別の方向からアプローチを考えることもできます。
でもこの問題の答えはもっと明確。この問題文にある内容だけで、100%確実にコインの表が同じ数含まれるグループを作ることができるんです。
まず問題文を整理してみましょう。質問では「コインを2つのグループに分け、それぞれに同じ数の表向きのコインが含まれるように」と言っています。つまり、45枚づつに分けてくださいとは行っていません。
ここでさらに「コインのうち90枚が表向きで、10枚が裏向き」という前提も疑ってみましょう。この数は絶対的なものではなく、自分の意思で変えることができます。例えば全てのコインをひっくり返せば、10枚が表向きで、90枚が裏向きになりますよね。
均等に2つのグループを作る必要はない。さらにコインの裏表の数はコントロールすることができる。この2つを前提に数式を考えてみましょう。
100枚のコインを2つに分けた時、分けたグループのコインの枚数を「X」とします。であれば、残ったグループのコインの枚数は「100-X」になります。
僕はここまで読んでも、どうやって解決するのか全然イメージできませんでした…「X」枚のグループと、「100-X」枚のグループ。こんな当たり前のことを数式化して何の意味があるんでしょう…
この問題を解くにはもう一つの変数が必要です。それは、分けたグループの中にある表のコインの数。これを「Y」としましょう。であれば、残ったグループにある表のコインの枚数は「90-Y」になります。
ここまでを整理するとこうなります。
第一グループには「X」枚のコインがあり、表のコインは「Y」枚ある。第二グループには「100-X」のコインがあり、表のコインは「90-Y」枚ある。
問題で聞かれているのはこの2つのグループで、表のコインの数が同じ枚数になるにはどうすればいいかです。 ここで、コインをひっくり返すことができるというもう一つの前提を考えてみましょう。
第一グループには「X」枚のコインがあり、表のコインは「Y」枚ありますが、これをひっくり返せばどうなるでしょうか。 「X」枚のコインの中で、表のコインが「Y」枚なので、裏のコインは「X-Y」枚になります。全部ひっくり返すと、裏と表のコインの数が逆転するので、「X-Y」枚の表のコインが存在することになります。
これで等式が立てられますね。ひっくり返していない第二グループの表のコインは「90-Y」で、ひっくり返した第1グループの表のコインは「X-Y」です。 この2つで表のコインの数が同じなので「X-Y=90-Y」という色が成り立ちます。
これが可能なのは、X=90の時だけです。 つまり答えは「100枚のコインを90枚と10枚に分け、90枚のグループを全てひっくり返す。そうすれば2つのグループには必ず同じ枚数の表のコインがある」です。
これはびっくりしました。例えば90枚のグループが全部表だった場合、10枚のグループに表は1枚もないはずです(表は全部で90枚なので)。なので、90枚のグループをひっくり返して全部裏にすれば、どちらも表のコインが0枚で等しくなります。もし90枚のグループで83枚が表だった場合、10枚のグループには7枚の表があるはずです。90枚をグループをひっくり返せば、83枚の裏のコインと7枚の表のコインになり等しくなります。確率の問題かと思ったら、確実に分ける方法があったんです。
この問題で問われているのは、前提条件を疑う能力です。100枚のコインで90枚が表と聞いた時、それが固定された数字だと考えてしまいます。また、2つに分けるということは当然45枚づつになるはずだ、と考えてしまいます。
この「〜になるはず」といった思い込みが問題を難しくしてしまいます。ひっくり返して90枚の表の枚数をコントロールできることに気づけば、中学生でも解ける算数の問題として対処できるんです。
逆算のプロセスのほうが近道?
これはちょっと問題を整理しないと難しいですね。最初に何人かの乗客がいて、4分の3が降りる。追加で10人乗る。これを次とその次、3回繰り返すことができる最小の数を導けということですね。
1つの重要な気づきは、端数の乗客は存在しないということです。最初の乗客が1人だったら、4分の3が降りて4分の1人が残ることになってしまいますが、そんなことはあり得ません。なので、ここでは整数だけを考えればいいことになります。
まずは普通に考えてみましょう。最初に「X」人の乗客がいて、4分の3が降り(つまり4分の1が残る)、10人が乗る。なので1つ目のバス停を通過した後に残る人数は「X/4+10」になります。これを繰り返すと次のような式が立てられます。
1つ目のバス停の後:X/4+10
2つ目のバス停の後:(X/4+10)/4+10
3つ目のバス停の後:((X/4+10)/4+10)/4+10
答えに近づいてきた感じがしますね!でもちょっと待ってください…よく見るとこれは方程式になっていません。等式じゃないからです。今わかっていることといえば、人数は常に整数というだけなので、等式を入れるとこうなります。
1つ目のバス停の後:X/4+10=整数
2つ目のバス停の後:(X/4+10)/4+10=整数
3つ目のバス停の後:((X/4+10)/4+10)/4+10=整数
この方程式を解く方法は、1から順番に代入していくことです。すると全部を満たす最小の数に辿り着きますが、面接の場ではちょっと不恰好ですよね。
そこでプロセスを逆にしてみましょう。最初の数を聞かれているのに、最初の数を「X」として展開したのがまずかったのかもしれません。最終的に最初の数に行き着くような方程式を考えた方が適切かもしれません。
なので、逆に3つ目のバス停の後の数を「Z」として逆算してみます。
3つ目のバス停の後が「Z」なら、2つ目のバス停の後は「(Z-10)×4」人の乗客がいたはずです。もし「Z」が20人なら、前のバス停では40人いたということです。40人の4分の1が残るので10人、そこに10人追加で乗って20人なので、計算が合いますね。
同じように計算してみましょう。そのさらに前のバス停では、4分の1が残って10人足されたことで、40人いたということ。なので、120人の乗客がいたことになります。 これを式にするとこうなります。
2つ目のバス停の後:(Z-10)×4=4Z-40
1つ目のバス停の後:(4Z-40-10)×4=16Z-200
最初の乗客(出したい答え):(16Z-200-10)*4=64Z-840
最初に立てたXの式よりもだいぶ分かりやすいというか、答えに近づきそうな雰囲気がありますね。
この場合も全て正の整数になるはずです。なので最後の式に当てはめると「64Z-840>=1」という式が成り立ちます。そしてこの不等式を満たZの最小の値が、「3つ目のバス停の後」の乗客の最少人数になります。つまり、そこから逆算すれば、最初の乗客の数の最少人数を導くことができます。
この式を変形すると「Z>=(1+840)/64」となり、答えは「Z=>13.140625」です。
Zは最後の乗客の数なのでZ自体も整数になるはず。なので、Zを満たす最小の数は「14」になります。
ということで、最初の乗客の数「64Z-840」に14を代入すると、、、答えは「56」になります。
念の為、最初に出した式のXに56を入れて成り立つか確認しましょう。
1つ目のバス停の後:56/4+10=24
2つ目のバス停の後:24/4+10=16
3つ目のバス停の後:16/4+10=14
逆算で使ったZの最小値とも一致したので、間違いなくこの問題の答えは「56」であることが確認できました。
すごい不思議ですよね。やってることや計算方法は変わらないのに、最初から順番に計算したら答えが見えず、逆から計算していったら簡単に答えが見つかりました。これは頭が柔軟じゃないと辿り着けません…僕も最初の式までは辿り着きましたが、そこでどうしていいかわからなくなってしまいました。
直感を疑い、簡単な解決策に引っかかるな
これは簡単ですね。2周の平均時速120kmにするには「(60+X)÷2=120」になればいいので、2周目を180kmで走ればOKです!
という答えが最も一般的な間違いで、これだとイーロン・マスクの面接試験には不合格です。
なぜこの答えが間違っているのか、具体的に考えてみましょう。
このサーキット1周の距離が60kmだとします。そんなに巨大なサーキットは存在しないと思いますが、計算をわかりやすくするためにそうしました。
2周を平均して時速120kmで走るということは、1時間で120km進む、つまり1時間で60kmのサーキットを2周する必要があります。
では1周目を60kmで走り、2周目を180kmで走ればどうなるでしょうか。
1周目を走るのにかかる時間は時速60kmで60km走るので、1時間。2周目は時速180kmで60km走るので、3分の1時間、20分です。つまり、2周するのに1時間20分かかっています。
ここから平均速度を逆算すると、1時間20分で合計120km走っているので、「120÷(1+1/3)」で、平均時速100kmになってしまいます。
ほんとだ、一体どこで計算を間違えたんだろう…?最初に立てた「(60+X)÷2=120」という式をどう直せば、答えに辿り着けるのか…
この問題の答えは、2周目を「時速∞」で走ることになってしまいます。なぜなら、120kmの距離を1時間で完走したら時速120kmですが、60kmで1周目を終えた時点で1時間経過しているから、平均時速を120kmにする唯一の方法は、2周目を0時間で周ることです。
問題では「時間」「距離」という概念が出てきていないので、単純に「時速」だけで考えればいいと思ってしまいます。ですが現実には「時速」を導くのは「時間」と「距離」です。ちゃんとそこに目を向けていれば、引っかかることはありませんでした。
架空の数字に騙されるな
ん?問題を整理しましょう。30,000円の部屋に泊まっていた。本当は25,000円だった。5,000円を返すよう指示があった。フロント係が2,000円をくすねて3,000円だけ返した。なので3人は27,000円を支払った。本当は30,000円だったところからお金が動いて、最終的には27,000円と 2,000円で合計29,000円になっている。なんででしょう?
似たような問題をみたことがあるかもしれません。これは本当に単純なトリックで、面接で聞かれた時は、その単純なトリックを見抜けるか、それを体型立てて説明できるかを問われています。
結論は、1,000円はどこにもいっていません。そもそも最初から存在していない数字だということ。
この問題を生み出しているのは「彼らは27,000円を支払い、フロント係は 2,000円を取り、合計29,000円になりました」という文章。本来無関係な客の支払いとフロント係の横領を、足し合わせていることに問題があります。
それぞれの立場からキャッシュフローを考えてみましょう。
- 客:30,000円支払ったが3,000円返ってきた「-30,000円+3,000円=-27,000円」
- ホテル:30,000円受け取ったが、5,000円返金した「30,000円-5,000円=+25,000円」
- フロント係:2,000円を横領した「+2,000円」
最終的なキャッシュフローの合計は「客(-27,000円)+ホテル(25,000円)+フロント係(+2,000円)」でゼロになります。全員が支払った額、受け取った額を足し合わせてゼロになっているので、お金はどこにも消えたり生まれたりしていません。
「彼らは27,000円を支払い、フロント係は 2,000円を取り、合計29,000円になりました」という文章は、マイナスのキャッシュフローかプラスのキャッシュフローかを考慮せずに足し合わせることで謎を生んでいます。ホテルの立場からすると、客が支払った27,000円はプラスのキャッシュフローで、フロント係が横領した2,000円はマイナスのキャッシュフローです。
なのでこの2つを足し合わせるなら「(27,000円)+(-2,000円)=25,000円」となり、ホテルが受け取ったキャッシュフローと一致します。
客の立場からすると27,000円はマイナスのキャッシュフローですが、支払った2人の相手(ホテルとフロント係)のキャッシュフローの合計と一致するので、これも問題ありません。
結論、この問題は誤った前提を見抜けるかどうかのテストだということです。キャッシュフローの考え方を理解していれば、客が支払ったお金とフロント係が受け取ったお金を足し合わせて、元の請求と比べることには何の意味もない、なんとなく論理的に筋道ができているように見せているだけで、意味のない数字を2つくっつけて存在しない差額を生み出しただけだと言うことです。
仕事に直結するアナロジー
状況を整理すると、まず目的は贈り物を届けること。届ける時、その贈り物は信頼できない人物に一度預ける必要がある。ただし預ける時には鍵のかかった南京錠に入れて安全に保つことができる。贈り物が届いたら南京錠を開ける必要があるが、その鍵まで一緒に渡してしまうと、途中で南京錠を開けて盗まれる可能性がある。さてどうする?ということですね。
どういう思考プロセスが考えられるでしょうか。
まず単純に南京錠にダイヤモンドを入れて、鍵と一緒に送るとします。しかしこれだと鍵を使ってフレッドに盗まれるかもしれません。なので却下です。
まず鍵だけ送ればどうでしょうか?鍵を送って、それが届いた後でダイヤモンドを入れて南京錠をかけて送る。いやだめです。最初に鍵を送った時に、鍵を複製されているかもしれません。なので盗まれる可能性があります。
では、最初にダイヤモンドの箱を施錠して送ればどうでしょうか?まず鍵のかかった箱を受け取り、その後で鍵を受け取る。これなら行けそうですね。気になるのは「南京錠で施錠できる箱を積んだ船」という表現です。この箱は船から降ろせるのでしょうか?質問者に聞いてみましょう。もし降ろせるなら可能ですが、降ろせないならこの方法は使えません。
もしその箱が船に備え付けのもので、降ろすことができないなら問題は複雑です。船がついた段階で、船にはダイヤモンドがあること、かつブリトニーが鍵を持っていることの両方を満たす条件を見つけないといけません。
逆にブリトニー側からいろいろ考えてもうまくいきませんね。ブリトニーがまず鍵を送っても状況は変わりませんし、、、どうすればいいんでしょうか?
この問題もある種の引っかけ問題です。このように出題されるとダイヤモンドをどう送るか?鍵をどう送るか?を考えてしまいます。
つまり、ダイヤモンドと鍵が同時に船に乗らず、かつ鍵がダイヤモンドより先にある状態(箱が船に備え付けなら後から鍵を送る意味がない)を探そうとしているのです。そして先に鍵を送ると、フレッドに複製されてしまう可能性がある。つまり、どう足掻いても不可能、という結論になってしまいます。
ここでもう一つ、話題にあがっていない要素に気付けるかがポイントです。それはブリトニーとアーニーがそれぞれ持っている「南京錠」です。当然、ブリトニーはブリトニーの南京錠と、それを解除する鍵を持っていて、アーニーも同様です。
そこに気づいたら答えは目の前です。
まず、ダイヤモンドを受け取る側のブリトニーが、南京錠に鍵をかけずアーニーに送ります。その時、箱はオープンな状態ですが、中身は空っぽなのでフレッドが何かする心配はありません。
次にアーニーは箱の中にダイヤモンドを入れ、受け取ったブリトニーの南京錠を施錠します。南京錠は鍵がなくても施錠できるので問題なく施錠できるはずです。フレッドはどちらの鍵も受け取っていないので、この南京錠を開けることはできません。
そしてブリトニーは船が到着したら、一度も手元を離れていない自分の鍵で南京錠を開け、ダイヤモンドをゲットします。
相手の南京錠で施錠する。実はこれ、インターネットのセキュリティ規格「公開鍵暗号」と同じ仕組みです。シリコンバレーでこの質問が出たら即答できないとヤバいと言えるほど、仕事に直結したアナロジー問題です。
シリコンバレーで就職できなくても問題解決プロセスは活きる
ということで今回は「イーロン・マスクの面接試験」を紹介しました。
いやあ、めちゃくちゃ面白かったです。今回は僕がテキストで紹介できるくらい、自分が納得、理解できた問題を取り上げましたが、本書ではもっと複雑な計算式を使ったもの、図解しないと理解できないもの、そもそも答えが複数あるものなど、いろんな問題があります。ぜひ本書を手に取ってみてください。
僕は現状シリコンバレーで就職するつもりも予定も、そのための能力もありませんが、それでも本書を読んだ価値があると思いました。面接でこうした質問が出る理由は、こうした質問を解く能力が仕事に影響するからです。
手っ取り早い解決策に飛びついてとんでもない間違いを犯してしまったり、全然見当違いな解決策を押し進めてしまったり、そもそも解決策が見つからず右往左往してしまったり…日々の仕事は問題解決の連続なので、課題解決能力、そのための思考能力は必ず役立ちます。
本書を読んでいるといかに自分の頭が硬いか、自分の常識の範囲内で考えてしまうかを痛感させられます。それに気づいて、ちょっと柔軟な思考プロセスを体験できただけでも読んだ価値があったと思います。
ていうか、面接という極限状態でこんなに柔軟にかからない問題を出されて、冷静に解ける人がいるんでしょうか?まあいるから彼らは世界トップクラスの企業で、世界トップクラスの報酬を受け取っているんでしょうが…本書を読んで「ビル・ゲイツの面接試験」も何年かぶりに読んでみたいと思いました。また読んだらIntro Booksで紹介したいと思います。
この記事を書いた人
- かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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コメント
とても面白い記事ですね!
大変楽しく読ませていただきました拝
※以下「仕事に直結するアナロジー」より抜粋
(ここから抜粋)
そこに気づいたら答えは目の前です。
まず、ダイヤモンドを受け取る側のブリトニーが、南京錠に鍵をかけずアーニーに送ります。その時、箱はオープンな状態ですが、中身は空っぽなのでフレッドが何かする心配はありません。
次にアーニーは箱の中にダイヤモンドを入れ、受け取った▶︎①アーニーの南京錠を施錠します。南京錠は鍵がなくても施錠できるので問題なく施錠できるはずです。フレッドはどちらの鍵も受け取っていないので、この南京錠を開けることはできません。
そして▶︎②アーニーは船が到着したら、一度も手元を離れていない自分の鍵で南京錠を開け、ダイヤモンドをゲットします。
(抜粋ここまで)
抜粋内の▶︎部分なのですが、受け取る側・送る側がごっちゃになっているような印象を受けました(私の勘違いでしたらご容赦ください)。
正:①も②もブリトニー
誤:①も②もアーニー
ありがとうございます!間違えていましたね。指摘いただいた通りに修正しました。やはりシリコンバレーへの就職は遠いゆめのようです(笑)