今日紹介するのは八木良太さんの「それでも音楽はまちを救う」という本。
書籍タイトル:それでも音楽はまちを救う
著者名:八木 良太
出版日:2020/8/9
内容:音楽がまちを救う力を紐解く。本書は、音楽がまちを救う力を紐解く内容となっている。音楽には人々を繋ぎ、共感を生み出し、新たなエネルギーを生み出す力がある。その力を使って、地域社会の課題を解決し、まちを豊かにすることができると著者は主張する。
著者は、自身の経験を踏まえ、音楽によってまちが変わった実例を紹介する。また、著者は、音楽を活用したまちづくりの取り組みを行ううえでのヒントや、これからのまちづくりに向けた展望なども提言している。音楽を通じて、まちの魅力を高め、地域の課題解決に取り組むためのヒントが満載の一冊である。本書は具体的な事例を交えて、音楽がまちをどのように救う力を持っているのかを深く掘り下げている。音楽好きでなくても興味を持てる内容となっている。
タイトルだけ見ると音楽の価値や活動についての本かなと思いますが、音楽ビジネスに関する本です。この本が発売されたのは2020年8月。つまり、コロナ禍です。
2020年は新型コロナウイルスで音楽産業が大きくダメージを受けましたね。行きたいライブに行けなかった人も多いでしょうし、それ以上にいろいろなエンターテインメントが制限されました。
2021年になれば良くなるかと思いきや、そんな雰囲気もありません。
ウイルスのパンデミックなんて、人類の歴史上何度もありましたし、これからもあるでしょう。そのたびにエンターテインメントは制限されると思います。
しかし今回、注意したいのは「不要不急」とか、「3密」という言葉。
国全体で、音楽イベントは不要不急(必要じゃないし、今やらなくてもいいもの)だ、という認識ができてしまいました。
また、3密という言葉も、まさしくライブハウスを表した言葉です。ライブハウスは人が密集するし、防音のため密閉されているし、知らない人同士が密接しています。
でもそれが良さなんですよね。3密だから、とんでもない熱狂が生まれるし、全く知らない人とライブ終わりには仲良くなっていたりする。3密を否定されたら音楽が楽しめませんよ。
とはいっても、今はできる範囲で、できる音楽を、できるように楽しむしかないわけですが…
前置きが長くなりましたが、そんな音楽における緊急事態の最中、出版されたのが「それでも音楽はまちを救う」です。
ちなみに、僕は現役でバンド活動をしています。なのでコロナは他人事ではないし、実際かなり影響を受けました。といっても、個人的には自宅の機材を揃えて、これまで以上に効率的に音楽活動ができているな、という感覚もあるので複雑なところです。
まちには音楽イベントが必要だ
この本の著者、八木良太さんですが、流通経済大学経済学部の准教授なんです。横浜国立大学社会科学研究科企業システム専攻で博士課程を修了し、専門分野は経営学やマネジメントだそうです。
かなりエリートですが、大学在学中から音楽制作活動やプロデュースを行い、卒業後はレーベルでアーティストのマーケティング戦略などを担当していたそうです。
経済学をベースにアーティストをプロデュースしている人、つまり音楽とビジネスのプロですね。
勝手な印象かもしれませんが、こういう人が音楽産業には少ないように思います。好きでやっている人が多いのはいいのですが、ビジネス観点が乏しいからうまく行かない、長続きしない、という課題を抱えるレーベル、事務所、ライブハウス等は多いように思います。
そんな八木さんが提唱するのが「ミュージックツーリズム」という概念。本書は一貫して、この概念とその価値、実例と実践方法を教えてくれています。
ミュージックツーリズムを実現することで、アフターコロナにおいて、音楽を起点に日本経済を復活させることも可能なんじゃないか、とさえ思えてきます。
では、ミュージックツーリズムとはなんなのか。
ミュージックツーリズム=音楽がまちを活性化する
本書の冒頭で、音楽好きとしては厳しいことを言われます。
地域にとって、(音楽)イベント開催による経済的な恩恵は、これまであまりなかったのである。それどころかデメリットしかない場合もあった。
ロックフェスにせよサーキットフェスにせよ、音楽イベントが地域に与える影響って、決してポジティブなものじゃないんです。確かに、実感としてはわかりますね。別にロックフェスに行ったからといって、その地域の旅館に泊まって温泉に入って、名産品をお土産に買って、なんてことは滅多にしません。安いホテルに泊まるか、日帰りか、場合によっては車内泊。お土産は名産品ではなくイベントのグッズですよね。
田舎町に何万人と誘致できる音楽イベントは、見た目こそ派手ですが、地域の経済的恩恵はほとんどなかったわけです。それどころか、騒音やゴミ、渋滞などデメリットのほうが大きい。
そのため、大型イベントの開催やライブハウスの建設などは、地域住民から反対意見が出ることも多い。
しかしここ数年、その流れが変わり、地域のための音楽イベントが登場してきた。それがミュージックツーリズム(音楽と観光)です。
音楽を楽しみつつ、その土地の食や文化、歴史、工芸、アトラクション、アクティビティなどを楽しみ、地域を活性化する、新しい音楽産業の考え方です。
ロックの聖地イギリスの成功例
本書では実際の音楽イベントがどういう風に開催され、どんな効果をもたらしたのか。それも人数だけじゃなく、収益がどうなったかとか、普段は聞けないようなことまで書いてくれます。
それが本書の魅力ですが、まず最初に紹介されるのは「世界に学ぶ音楽観光」ということで、ロックの聖地イギリスの事例から。
イギリスは観光が盛んで、政府も観光産業に力を入れているそうです。
CDが売れなくなって久しいですが、それは日本だけでなく数々の伝説的アーティストを抱えるイギリスも同じ。一方、音楽イベント事業は伸び続けているんですね。
イギリスでは音楽団体が調査し「音楽ファンがフェスティバルやコンサートの目的地としてイギリスを選択すると、インバウンド観光事業は大きな効果を発揮する」と発表しました。音楽関係の観光客数は2016人には1250万人。その経済効果は5280億円。音楽関連の雇用は2011年から68%増え5万人近く。
数字がデカすぎでイメージできませんが、ミュージックツーリズムによって国全体が豊かになっているということです。
日本もここ数年、インバウンドのおかげで経済が成り立っていた面が少なからずありますからね。それがコロナで吹き飛んだわけですが、音楽イベントによってインバウンド需要が復活するなら、音楽に関わる人間として鼻が高いです。
ミュージックツーリズムの具体的な例として上げられているのが「グラストンベリー・フェスティバル」
50年続く世界最高峰の音楽フェスです。僕も名前は知っている有名なフェスですが、このフェスが行われるのはロンドン市内からバスと電車を乗り継いで3時間あまり、人口9000人ほどの小さな農村らしいです。
2007年のイベントでは17万7500人の観客が訪れ、96億円以上の経済効果があったそう。普段9000人しか暮らしていないまちに17万人が押し寄せるって、すごいですね。
当然、開催期間中はホテルも満室。グラストンベリー・フェスティバルのためのホテルやレストランも多いそうです。
グラストンベリー・フェスティバル2004でのオアシスのパフォーマンス。ロック史に残るライブです。
なぜこのイベントはここまで大きく、しかも50年に渡って続いているのか。その秘訣は、地域との信頼関係の強さだと筆者は言います。
イベントを開催するだけでなく、フェスの収入の一部を地域のインフラの整備につかったり、教育施設の建設、図書館の回収なども継続的に行っているそうです。
普通、こんな規模のフェスが近くであったら大抵の住民は嫌がります。騒音、ゴミ、治安、、いろんな問題がありますから。それらを乗り越えてきたから続いているわけですね。
本書では他にも海外の事例が紹介されていますが、日本の事例に行きましょう。日本の事例を2,3取り上げて、ミュージックツーリズムの実践編に行きたいと思います。
フェス大国日本
日本にも有名なフェスは多くありますよね。10万人以上を動員するフジロック、東京、大阪で合計30万人を動員するサマーソニック。これらは海外の大物アーティストも出演し、世界的に有名です。
世界の音楽フェスと格付けしている調査会社フェスティバル・インサイツによると、2018年はフジロックが4位、サマーソニックが42位だったそうです。どれくらいすごいのかイメージできませんが、フジロック以上のフェスが世界に3つしかない、と考えるとかなりすごいフェスであることがわかりますね。
ただ、ミュージックツーリズムにはなっていないと筆者は言います。
フジロックでも、来場者の大半は会場内で飲食し、イベントが終わったら直接帰宅するため地域の活性化にはつながっていないそうです。日本の音楽フェスは環境や騒音には対策する一方、観光、ツーリズムのほうには全然活かせていないんですね。
日本には世界的に有名なアーティストが意外といっぱいいます。確かに、アニソンや声優アーティスト、ボーカロイドなどは日本独自の文化で世界的に有名ですよね。
世界に通じる音楽を持っている。しかも観光資源が豊富。有名なイベントも多い。コンサート市場はこの20年で5倍もの市場規模に拡大している。
しかし、ツーリズムの概念がないから、音楽フェスが音楽の範疇でしかない。地域を活性化させ、全体をより良くすることができていない。そんな現状があるようです。
とはいえ、既にミュージックツーリズムに取り組んでいる日本の先駆者もいます。ここからはミュージックツーリズムの成功例を見ていきましょう。
僕も知っている有名なものもあれば、全く知らない発見もありました。
ミュージックツーリズム日本の成功例
本書では日本でのミュージックツーリズム成功例として、次の7つを挙げています。
- 1000人ROCK FES.GUNMA
- 加賀温泉郷フェス
- 定禅寺ストリートジャズフェスティバル
- 知多半島春の国際音楽祭
- 高槻ジャズストリート
- 舞鶴ミュージックコミッション
- 唐津ミュージックコミッション構想
本書ではかなり深く紹介されていて、主催者の思いやぶつかった壁、資金繰りからトラブルでの中止まで、かなり泥臭いことが書いてあります。
興味があればぜひ本書を読むか、実際に上記のイベントに足を運んでみてください。僕はまだどれも行ったことがないのですが、参加すること以上の学びはないと思います。
ということで、ここでは個人的に気になった2つをピックアップします。
1000人ROCK FES.GUNMA
「1000人ROCK FES.GUNMA」は一時期ニュースでも話題になっているので、知っている人もいるかも知れません。僕もニュースで見て、すごいイベントがあるんだな、と思っていましたが、ミュージックツーリズムの観点からは見ていませんでした。
これは元々2015年にイタリアで行われた、「Rock’n1000」にインスピレーションを受けて開催されました。「Rock’n1000」はフー・ファイターズの曲を100人が集まって一斉に演奏するもので、僕もYouTubeで見て驚きました。
本書では主催者の柄澤さんが青年会議所で賛同を得るところから、会場探し、商標に関する交渉、演奏する楽曲の著作権許諾の流れなども書かれています。
僕も自分でイベントを企画したことはありますが、勉強になるというか、参考になります。
これも本当に、運を味方につけるというか、個々人の努力というか、流れ、みたいなものなのかな、と思ったりしますが、最初は全然人が集まらなかったらしいです。
全部で1000人集めるわけですが、HPを作り、SNSで告知してもちょっとずつしか集まりません。しかし、地元の新聞に取り上げられ、ヤフーニュースになってから状況が変わりました。
ニュースになったことで一気に定員が埋まり、今度は無事に開催するための警備や交通、設営に問題が出てきます。おそらく主催の柄澤さんも、本当に1000人行くとは思っていなかったんでしょうね。急遽、県や自治体からの補助金や協力金、青年会議所の予算などを引き出し、設営規模を見直します。
しかも、柄澤さんをはじめ、青年会議所には音楽イベントの経験がある人が誰もいません。そんな状態なので、そもそも本当に開催できるのか、1000人も集まって演奏になるのか、全然わからなかったそうです。
しかし結果は大成功。とはいってもミュージックツーリズムの醍醐味、地域のバックアップがあってのことです。例えば、「1000人ROCK FES.GUNMA」は高品質な映像作品として撮影・編集され、YouTubeにアップされ、それがまた更に話題を生みました。しかし、利益になるかもわからない(補助金でなんとか警備員を雇っているレベル)のに、プロのカメラマンや映像クリエイターを雇うお金はありません。しかしそれも、主催メンバーが普段の仕事で使っている機材や、勤め先の社長さんから好意で貸してもらったりして、ほとんどお金はかからなかったそうです。
もともと1回だけの予定だった「1000人ROCK FES.GUNMA」は、1回目の成功もあり再開を望む署名が集まり、第2回、第3回と続いていきます。
そしてその中でどんどん支援の輪が広がっていくんですね。驚いたのは、専門学校との連携です。このイベントではBOØWYやブルーハーツなど、硬派なロックバンドの曲です。なので、派手なメイクや髪型にしている人が多くいるのですが、なんとそのメイク代は無料。地元の美容専門学校と連携して、生徒が実習授業の一環としてやってくれるそうです。
普通、教育機関とロックフェスって互いに睨み合ってそうですが、見事に協力しているんですね。フェスの運営もボランティアの高校生が多いそうです。
さらに子どもたちにギターを教えたり、中古の楽器を無償提供してもらったり、まさに音楽文化を育む活動にも繋がっています。
このイベントの素晴らしさはどこにあるんでしょう。僕は大きく3つあると思います。
1つは1000人が一つになるという、音楽ならではの体験。いろんな芸術活動がありますが、全員で一緒にできる、その瞬間を一緒に味わえるのは音楽の強みです。このアイデアはイタリアの「Rock’n1000」ですが、おそらく同じようなイベントは今後もどこかで行われると思います。音楽の一番の楽しみ方は、やっぱり一緒に演奏する、同じ音、リズムをみんなで共有することにあると思います。
2つ目は古い音楽を通じて、世代を超えていること。このフェスでは、BOØWYやブルーハーツなど、今の10代、20代が直接見ていないアーティストを演奏します。なので、50代以上の人が昔を懐かしんで楽しんだりしているのですが、それだけでなく、その人達の子どもも一緒に参加したり、ギター教室、専門学校などを通して、子どもにもその音楽を伝えています。流行り廃りが急速に変わる今、親子で同じ音楽を楽しめるって貴重ですよね。
3つ目は、2つ目と被るのですが、音楽文化を育てている点です。やっぱり一番のインパクトはギター教室ですね。参加者がいらないギターを寄付してくれたりするので、楽器を持っていなくても参加できるそうです。ギターを習う、弾くって簡単なことじゃありません。楽器や習うお金もかかるし、練習する場所も考えないといけません。そうしたものが全て無償で提供されている。数年後には群馬県から、このフェスで初めて楽器を触った子どもがデビューして大物アーティストになるかもしれません。
2020年はコロナ禍の影響でピアノやギターの売上が急激に増えたそうです。どんな理由、経緯であれ、音楽に触れる人が増えるのはいいですね。
加賀温泉郷フェス
2つ目に紹介する加賀温泉郷フェスは、僕は本書で初めて知ったイベントです。しかし、まさにミュージックツーリズム。この事例をそのままトレースすれば、47都道府県全部で2箇所ずつくらい、つまり全国で100回くらいはミュージックツーリズムに則ったイベントが開催できるんじゃないかとさえ思います。
どういうイベントかというと、石川県の4つの温泉地が共同で、温泉宿の宴会場やラウンジなどでライブを行うものです。ジャンルはJ-POPからロック、ジャズまで様々らしいですが、温泉宿でロックライブってイメージが湧きませんよね。
しかし、ライブ目的で訪れた観客も、空いている時間に温泉街を散策したり、温泉宿の食堂で食事を楽しんだりします。温泉宿の宿泊料金とセットになった観光ツアー形式のチケットも発売されているので、まさしくミュージックツーリズム。音楽と観光が一つになっています。
このイベントは温泉宿の閑散期に行われますが、閑散期にも関わらずイベントの日は満室。しかも、普段温泉宿に泊まりに来ない20代の若者が多かったそうです。
このイベントが開催される加賀温泉は、ピーク時と比べて宿泊客数が半分以下に低下していることが課題でした。もともとピーク時は男性の団体客、おそらく会社の宴会とかですね、そういうお客さんが大半だったのですが、時代が変わり、若い女性や個人客が増える中、そのニーズに対応することができていなかったのです。
そんな加賀温泉と、音楽フェスがマッチしたんですね。
しかも、温泉宿としての価値が十分にあるので、有名アーティストを呼ぶ必要もありません。全国に数ある温泉宿の中で、加賀温泉を選んでほしい。目標の動員数も1日に2000人です。
だからこそ、有名アーティストに頼らず、地元のアイドルやサブカルチャーなど、他のフェスとは全く違う顔ぶれを揃えています。
このイベントのすごいところは、ミュージックでもツーリズムでもなく、完全にミュージックツーリズムであるというところだと思います。音楽が主体だったら有名アーティストを呼んだり、宣伝や機材にお金をかけたりする必要があります。しかし音楽が主体ではないので、無名なアーティストでいい。じゃあ観光が主体かというと、そうでもない。音楽があることで、これまで加賀温泉に来なかった人が来てくれる。音楽と観光の掛け算というか、音楽を楽しむと同時に温泉宿や地域観光を楽しんでいます。
どんな地域にも観光の要素はあります。とはいえ、それだけで集客できるパワーがあるかというと、なかなか難しい。世の中には魅力的な観光地がたくさんありますから。そんな時、ちょっと気になるアーティストが出るから、とか、観光だけじゃなく音楽も楽しめるから、というのはすごく強いアドバンテージになります。
そういう意味で、加賀温泉郷フェスはミュージックツーリズムのテンプレートというか、かなり実践しやすいタイプのイベントだと思います。
この2つ以外にもいろんなミュージックツーリズムが紹介されています。当然、本書に載っていないミュージックツーリズムの実践例を探すのも面白いかもしれません。
ではここからはミュージックツーリズムの実践編。音楽をやっている人、観光に携わっている人以外にとってはあまりピンとこない内容かもしれないので、ざっとだけ紹介します。
もしここまで読んでくれている人に、音楽をやっていて観光にも関わりたいとか、観光をやっていてもっと盛り上げたいとか思っている人がいるなら、この記事を閉じて本書を読むことをおすすめします。
ここからはあくまでも僕の備忘録。
ミュージックツーリズム実践編|動き出せば実現できる
だいぶ記事も長くなってきて、僕の予想ではここまで読んでいる人はほとんどいないと思います。
特にこの記事については…僕が記事にする本は大体2回以上読んでいて、人に説明できるレベルまで内容を理解できたと思うものを記事にしています。一方、本書については読みながら書いているので、結構ちぐはぐな気がします…僕自身、音楽をやっているので、これはなんとか記事に書いて、自分の理解を深めたい、という願いがあってですが、だいぶ冗長な気がします。
そんな記事をここまで読んでくれてありがとう!
実践編はサラッといくので、ここまで読むほど興味を持ったならぜひ本書を読んでください。
目的は絞り、新しい組み合わせを考える
ミュージックツーリズムを意図的で戦略的に行う必要があるかというと、決してそういうわけではありません。意図的で戦略的、というのがどういうことかというと、戦略的にマーケティングを行い、規模や売上を伸ばしていく、よりビジネス的な発展を狙うということです。
例えば、今回紹介した加賀温泉郷フェスは、音楽イベント単体では収益化できていませんし、無名のアーティストを中心に行っているので、何万人という単位のイベントではありません。もちろん、マーケティングを考え、ビジネスとして発展させていくこともできるでしょうが、それが本当にミュージックツーリズム的に良いのかというと、別問題です。加賀温泉の温泉宿がそこまでのキャパシティを持っていないので、ただ発展させていくだけだとどこかで「よくある音楽フェス」になってしまいます。
それよりも重要なのが組み合わせによって新しいコンセプトを作ることだと、八木さんは言います。
加賀温泉郷フェスはまさに組み合わせの成功例ですよね。温泉宿と音楽イベントという、一見結びつかないものを組み合わせて成功しています。
なかなか難しいですよね。最近の流行でいうなら、音楽×ライブペイントとか。ありきたりな気もしますが。
僕の地元滋賀はゆるキャラブームの火付け役となったひこにゃんが有名ですが、ゆるキャラ×音楽とかおもしろそうですね。
ミュージックツーリズムにおいては掛け算が重要です。一つ一つの要素は、それ単体で数万人を集客するほどの力がない(あればミュージックツーリズムなんて必要ない)。そこで、音楽を掛け合わせることで大きなパワーにつなげる。
大阪なら音楽×たこ焼きと面白いかもしれませんね。音楽のビートに合わせてたこ焼きを焼いたり。大型のイベントで行われるならちょっと見てみたい気もします。
地域の音楽ルーツとストーリー
地域の音楽ルーツを意識することも大切です。あくまでもミュージックツーリズムですから、地域を無視した音楽は通用しません。
1000人ROCK FES.GUNMAは素晴らしいミュージックツーリズムの成功例だと思いますが、地域の協力あってのことですよね。しかも演奏しているのは古いロックミュージシャン。80s、90sのロックバンドの曲を演ります!って言っただけで拒絶反応を示す人もいますから、地域の協力が得られたのはその地域の音楽ルーツによるものがあるのかもしれません。
加賀温泉郷フェスも、ゆったりした温泉宿で爆音を鳴らすなんて!という反対意見が出そうなものですが、うまくいっています。
その地域にどんな音楽が合うのかをちゃんと考えることも大切ですよね。ロックだと教育委員会が黙っていないけれど、ジャズやクラシックはOKとか。
そしてストーリーです。どんなイベントであれマーケティングやビジネス的な考え方が必要ですが、これらの基本にもなるのがストーリーです。共感できるストーリーがあれば協力者が集まり、さらに参加者が集まり、観光客が集まり、となるので、ストーリーが出発点でもあります。
なぜ音楽なのか、なぜこの産業なのか、理論ではなく物語で説明できないと観光客は集まらない、ということです。
そりゃそうですよね。「〇〇地区の観光産業を発展させるために音楽とコラボします」って言っても誰も来ないです。でも、「温泉宿で音楽も楽しめたらめっちゃいいやん!」ってなると多くの人が来てくれるわけです。
本書では他にも、
- マーケティングの基本
- アーティストと直接交渉する方法
- インバウンドを狙った施策
- 自治体からの補助金の受け取り方
- ボランティアの頼り方
などなど、かなり細かいところまで書いてあります。イベントが失敗するリスクを考えた保険の検討方法まで書いてくれているので、実際にイベントを企画する人にとってはかなり役立つと思います。
とはいえ、この記事はそろそろ終わりにしましょう。
僕自身かなり勉強になりました。過去、色んなイベントをやってきましたし、これからもやっていくと思いますが、ツーリズムを意識したことはなかった。
実際に音楽活動をしている人は実感があると思いますが、音楽単体では厳しい状況です。CDは売れない、音楽そのものはストリーミングサービスでほぼタダのようなもの。じゃあ何で売上を上げるかって、グッズとイベントです。しかしそれもコロナで壊滅。じゃあ配信ライブか、オンラインサロンか、ってそれも急にやろうとしてうまくいくものではありません。
これからもますます、音楽で稼ぐ、音楽で人を集めることは難しくなると思います。
だから何かと掛け合わせないといけない。
本書ではそのヒントとして、ミュージックツーリズムという考え方を与えてくれました。
さて、僕は次、どんなイベントを企画しようか。
この記事を書いた人
- かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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