こんにちは。夫です。
今日紹介するのは前刀禎明(さきとうよしあき)さんの「学び続ける知性」です。最近読んだビジネス本の中ではピカイチ。本を読んで”視野が広がる”ってこういう感覚だったなーって思い出させてくれる本です。
著者の前刀禎明さん、恥ずかしながら僕は本書で初めて名前を知ったのですが、経歴がものすごい。
簡単に紹介すると、
- 日本が誇るものづくり企業ソニーで営業職で働き、英語能力がないのに交渉・プレゼンなどを担当
- 30歳の時、アメリカ拠点の世界的コンサルティング会社ベイツ・アンド・カンパニーに転職。未経験ながらマーケティングに従事。
- その後、ウォルトディズニーに転職し日本事業の立ち上げを担当。米国に先駆け日本ディズニーの公式サイトを立ち上げる(現在もディズニーのドメインとして使われている「disney.co.jp」は前刀さんが取得)
- ディズニーのネット進出の遅さに限界を感じ、インターネットプロバイダのAOLジャパンに入社し、副社長としてマーケティングに従事。伸び悩んでいた新規顧客をスターバックスとのコラボで2倍に急上昇
- インターネット事業に可能性を感じ、ライブドアを設立。その後堀江貴文氏率いるオン・ザ・エッヂ(後のライブドアホールディングス)に譲渡するまで社長、会長を務める(その間、会社の倒産、民事再生法などを経験)。
- その後、アップルに入社し、日本でのマーケティングを統括。アップル米国本社マーケティング担当副社長兼、日本法人代表取締役に就任。
- わずか3年でアップルを退社し、「物の見方を多様化し、発想を柔軟にする」ことを目的に株式会社リアルディアを設立し、現在も代表取締役を務める。
といった感じです。
ものすごい経歴ですね。てっきりライブドアは堀江貴文氏が設立したものと思っていましたが、別の会社を経営していた堀江氏がライブドアを取り込み、会社名をライブドアにしたというのは知りませんでした…さらに日本アップルの代表取締役…日本は突出してiPhoneシェアが高い国ですが、スティーブ・ジョブズから日本を任された前刀さんの活躍があってでしょう。そんなすごい人を知らなかったなんて…
世界的ものづくり企業のソニーから世界的エンターテインメント企業のディズニー、インターネット黎明期に活躍したAOLやライブドア、そしておそらく21世紀最も偉大な企業の一つであるアップル。
それぞれで重要な役割を担い、活躍してきた前刀禎明さん。
彼を作り上げたのは、2つのキーワードなのだそう。
1つが「セルフ・イノベーション」
自分を超えること、固定観念や様式にとらわれず、過去の成功に満足することなく、新しいことを面白がってやることです。
もう一つは「リセット・アンド・リスタート」
自分がよく知ること、得意なこと、今の立場に止まり続けるのではなく、好奇心に従って行動する。挑戦し続けること。
この2つです。
本書のタイトル「学び続ける知性(ラーニング・インテリジェンス)」は前刀さんの造語ですが、この2つのキーワードを元に、ただ正解を求める従来の学びではなく、自分なりに観察し、推測し、考える姿勢を表したもの。
そのヒントをまとめたのが本書「学び続ける知性」です。
本書のなかで詳しく書かれていますが、前刀さんは「〜〜のための◯ステップ」や「〜〜メソッド」といったノウハウは危険だといいます。「クリエイティブになる3つの秘訣」なんてネット記事をよく見かけますが、3つの秘訣や5つのステップ、7つの要素なんて言葉から本当の意味でクリエイティブな思考は生まれてきません。そういう一見体系立ったメソッドを使う時点で、思考停止に陥っているからです。
なので、本書でも「学び続ける知性3つの秘訣」や「学び続ける知性を磨く3ステップ」のようにわかりやすいものは書かれていません。
前刀さん自信が超一流企業で働く中で見つけたもの、アップルの他にもグーグルやアマゾンといった世界的イノベーション企業が何をやっているのか、共通することは何で、違うことは何なのか、といったことが書かれています。
つまり、学び続ける知性に方法論などないということです。インスタントな方法論をありがたがるのではなくさまざまなエピソードや客観的事実から学び取る。その姿勢こそが「学び続ける知性」だからです。
前置きが長くなってきましたが、早速本書の中身を見ていきましょう。
いつも通り僕が気になったこと、僕が学んだことを、僕の目線でアウトプットしていきます。でも、前刀さんがいう「学び続ける知性」に触れたい方は、ぜひ本書を読んでみてくださいね。
コロナ禍が産んだマーケットの変化
「学び続ける知性」が出版されたのは2021年6月。最近出版されたビジネス・マーケティングの本でコロナについて触れていないものはほとんどないでしょう。
それほどコロナ禍は人々の消費意識や購買傾向、価値観に変化を産みました。
ここから本書で書かれているマーケットの変化をさらっと紹介していきますが、それぞれ自身の仕事やビジネスにどんな影響があるか、想像しながら読んでみてください。その読み方自体が「学び続ける知性」になります。
ブランドより「実利」が優先される
最近買ったものを思い返してみてください。
デパートでブランド品のバッグを買いましたか?オーダーメイドのスーツを買いましたか?数年前話題になったタピオカのように流行のお店に並びましたか?
コロナ禍が与えた大きな変化が、ブランドや人気、話題性よりも「実利」を重視する人が増えたという点です。
消費者が今も選ぶものに求めているのは、何よりも”実利”だと思います。手元で一人で使うもの、他人に見せる機会すらないものは、ブランド品である必要も、みんなが買っている人気の商品である必要もない。とにかく今の自分にとって具体的な、”いいこと”があるものが欲しい。
確かに、言われてみればコロナ禍以降、飲み会がなくなり、服の数も少なくなり、何にお金を使ったかといえば部屋にあるものです。ちょっといいスピーカーを買ったり、デスクや椅子を新しくしたり、調理器具を新しくしたり…人に見せるものではなく、普段自分が使って満足するものにお金を使うようになった気がします。
大切なのは、製品の本質・目的に立ち返って考えることです。何をするためのものなのか。どんな望みを叶え、どんな困りごとを解消するのか。実際に使ったり家に置いたりしたときに、どんな特徴や機能を持たせると利便性が高まるのか。そういったことを突き止めることです。
企業は「売れそうな〇〇ってなんだろう?」「何がうけそうかな?」と最大公約数的なニーズを探るのではなく、本当の意味でのプロダクトアウトに舵を切るべきでしょう。
うちにはバルミューダの家電がいくつかありますが、バルミューダは本当の意味でのプロダクトアウトを実行している会社だと思います。バルミューダの電子レンジは、操作した時にピーピーと耳障りな音がなりません。代わりに心地良いメロディーが流れるんですよね。一旦使ってみると、なんで世の中の電子レンジはあんなに耳障りな音を使っているんだろうと不思議に思うくらいです。最大公約数的なニーズを探っていたら絶対にたどり着かなかったけど、いざ使ってみるとこれしかないと感じさせてしまう。まさにプロダクトアウトです。
マーケティングの相手は自分自信
ブランドより「実利」が優先されるということは、個々人が個々人の価値観で製品を選ぶということです。
例えば、冷蔵庫、洗濯機は白色が当たり前でしたが、最近は結構デザインに凝ったものも増えてきていますよね。高度経済成長から続いた大量生産大量消費の時代もいよいよ変わってくるのかもしれません。
前刀さんは本書の中で、画一化した既定路線の製品が売れなくなり、芸能人を機能したイメージマーケティングも通用しなくなるといいます。
マーケターにとって、「個」の時代は受難の時代であり、チャンスの時代です。これまでのやり方は通用しない。消費者が皆”右へならえ”をやめれば、選ばれる製品やサービスは多種多様になるので、よく売れる(売上数量が多い)モノを作りたいと願い、需要を読もうとしたところで、読み切れるものではありません。
そこで役に立つのが、前刀さんアップルで共に働いたスティーブ・ジョブズの言葉です…ジョブズは「客が欲しがるものなんかわかりようがない。だから自分が欲しいものを作るんだ」と言ったそうです。前刀さんはこれこそ、これから求められる本当の顧客目線だといいます。
僕は広告関係の仕事をしているのですが、大ヒットした広告はどれも「自分に向かって」書いたものです。僕自身、リサーチしてアイデアを練って、「いや、これなら僕が欲しいわ!」って思ったやつ、やっぱりヒットするんですよね。広告は疑似的な顧客体験の連続なので、前刀さんのいう本当の顧客目線を身につけていきたいですね。
もし大事な決断に迷ったら、未来の自分を基準にするような意識を持つといいと思います。未来をつくる行動を、今日までの自分、未来から見れば過去になる自分で規定すると、いつまでたっても足踏みで、過去から抜け出すことができません。コロナ禍を奇貨として社会が変わりつつあるのに、古い物差しを仕事に使うべきではない。
イノベーションを探せ
日本ではイノベーションという言葉がコンプレックスのようになっています。というのも、この30年、日本は新しいイノベーションを少なくともBtoC、消費者の実生活直接かかる部分ではほとんど残せなかったからでしょう。
確かにスマホの中身、普段使っているものをみたら大体外国発ですよね…iPhoneはもちろんその中に入っているTwitterやInstagramも…LINEももとは韓国発ですし…
でも本書では「イノベーションが技術革新とは限らない」といいます。
僕が思うイノベーションとは、1つの目的に対して、新しい解決方法を提示すること。あるいは提示した結果の製品やサービス、そのプロセスです。固定観念を打ち破る、常識にとらわれない、思考停止に陥ることなく探求する–そんな姿勢で、世の中に新しい課題解決の方法を送り出していくわけです。
ですから、新しい技術を用いなくても、「この課題をこんな技術で解決するのか」と新たなアプローチがあれば、それはイノベーションと呼ぶに値すると考えます。
コロナ禍で出てきたイノベーションといえば、UberEatsなどのフードデリバリーですね。フードデリバリーの仕組みは昔からありましたし、特に日本は出前が浸透していました。なのに、Uber、DiDi、foodpanda、Wolt、思いつくフードデリバリーを挙げましたが全部外国企業。出前はあったのに、それをアプリでやる、ギグワーカーを起用するというイノベーションの差でしょう…
でもイノベーションというと、技術者や開発者が関わるもので、マーケターは関係ないと感じるかもしれません。
でもそんなことはないんです。前刀さんは、マーケターがイノベーションのためにできることがある、むしろそれこそがマーケターの本質だといいいます。
それが「カスタマー・エデュケーション」です。
新しい価値を作り出したとしても、それが消費者に伝わらなければ、新たな市場はできません。重要なのは、その価値を受け取る人に理解してもらうこと。
<中略>
自社製品やサービスがたくさん売れるようにすることがマーケティングだと思っているかもしれませんが、マーケティングの本来の役割は、自分たちが作ったものの価値を世の中に知ってしまうことなのです。
広告、マーケティング関係の仕事をしているので、これは完全に同意です。ただ売れることだけを考えたらいろいろなやり方があるんですが、ビジネスの成長という点ではセールスよりもじっくりしとコミュニケーションをとって理解を深め、信頼関係をつくる方がずっと重要なんですよね。
そのロゴは本当に必要か?
本書では1章、2章でコロナ禍が産んだマーケットの変化を、3章で前刀さんがソニーやアップル、ディズニーで培ったいろいろな経験を、そして4章以降で前刀さん流のマーケティング戦略や働き方、これから求められるスキルやプレゼン力について書かれています。
ちなみにここまで紹介したのはほとんどが1章、2章の内容です。3章の前刀さんの経験も学ぶものがものすごく多く、熱意を感じますが、こういうのは僕がまとめたものを書くより前刀さん自身の言葉で読んで欲しいと思います。
4章以降ではグーグルやアマゾンなど世界的ブランドがどういう戦略をとっているのか書いてくれている部分があるのですが、アップルという世界トップクラスの企業で働いていた前刀さんの視点は独特。学者や評論家が書いたグーグルやアマゾンとは全然違うことが学べます。
その中から面白かったのがロゴに関する部分。ロゴは企業の顔ですよね。
僕は今iMacでこの記事を書いていますが、iMacには「Apple」とは書いてありません。ただリンゴマークが書いてあるだけです。でもこれだけでApple製品だということがわかりますし、シンプルなマークなのに特別感があります。
メーカーは一度、企業やブランドのロゴを製品に入れる必要があるのかをじっくりと考えるべきではないかと僕は常々思っています。そもそも、ロゴを入れる意味はなんでしょうか。その製品がどのメーカー製であるか、ロゴによって伝わったとして、残念ながらそれがユーザーの心にプラスに働くケースは少ない気がします。
そして前刀さんは「アイデンティティを示すのにロゴに頼りすぎるな」といいます。
ブランドより「実利」が優先されるというコロナ禍の変化を紹介しました。欲しいものが人に見せびらかすものじゃなくて、自分が使っていて気分がいいものに変わってきているんでしたね。
だとすれば、ロゴを製品の前面に出す意味はほとんどありません。ロゴが書いていなくても自分が買った製品のブランドが何かくらい把握していますから。
実はファッションブランドはすでに変化し始めているそうです。
本書ではスニーカーの例を出しているのですが、有名ブランドでもロゴを入れず、さりげなくマークだけ入れているものが増えているそうです。
へえーっと思って、ドルチェ&ガッバーナやエルメスとかいわゆるブランド品を調べてみました。僕はああいうブランド品、正直下品なデザインだなと思ってたのですが、、、最近の新作はパッとみただけじゃブランドがわからないデザインのものも結構あるみたいです。
前刀さんがマーケティングを担当したアップルは、ただロゴを出してアイデンティティを示そうとはしません。最近のアップルストアは銀の壁面にリンゴマーク。iPhoneの箱にもAppleという文字は入っていません。
グーグルも、グーグルホームにはロゴを入れていません。目立たないようにマークを載せているだけです。
なぜならこれらの企業は、自己主張よりもユーザーの生活に溶け込むことの方が大切だと知っているからです。
僕もロゴがケバケバしい製品は家に置きたくないですね…ロゴが見えないくらいさりげない、、というか使う側としてはロゴになんの意味もないので、見えない方がかっこいいです。
こうして持論を述べてきましたが、ロゴがダサくても箱がチラシみたいでも、実は大した問題ではないのかもしれません。しかし、当たり前と受け流してきたものに注目し、改めて考えてみるのは、学び続ける知性を伸ばす上でも大事なことです。「ふと目についたこれは本当に必要なのだろうか」などと身近なものを見直して、皆さんも思索のトレーニングをしてみてください。
冷蔵庫ってかなりおしゃれになりましたし、機能も増えましたけど、基本の形ってどれも同じですよね。お店に見にいくと何が違うのかわからないものが何十個も並んでいて到底選べません…そこに疑問を持って考えてみると、何か新しいアイデアが出てくるかもしれませんね。
本は受け身で読んでも無意味!
ということで今回は前刀禎明さんの「学び続ける知性」を紹介しました。
本書で初めて名前を知りましたが、経歴もものすごいし、グーグルのようなよく知っている企業に対する洞察も深く、新しい発見がたくさんある本でした。
前刀さんがマーケティング畑の方なので、マーケティングを中心に書かれていますが、本書の本質は最初に紹介した「セルフ・イノベーション」と「リセット・アンド・リスタート」です。
そのために、いろんなものをこれまでと違った視点で見て、新しい体験をしよう、新しいアイデアを出そう、ということを教えてくれます。
自分自身の成長のきっかけや仕事のヒントを求めて本を読むなら、自分なりに物事を観察したり考えたりしてから読むのがいいと思います。本に一から十まで教わるつもりで受け身で読んだのでは、どんなにいい本でも、その内容が血肉になることはありません。
<中略>
本に書かれているのは、あくまでも著者のやり方。それが正解ではありません。自分なりに推測し、考える。それこそ、この本で繰り返し語ってきた”学び続ける知性”のあるべき姿です。
前刀さんは本書の中で何度か、最近の本やビジネス向けの記事に警鐘を鳴らしています。
「〇〇のための3ステップ」「〇〇だけで〜〜になれる」のような、唯一絶対の正解のようなものを書いた本や記事が多いからです。
前刀さんは、そうしたものを読んでも血肉にならない、知識にはなっても知性は磨かれないといいます。
確かにそういう本や記事って、読んだ時はなるほどな〜って思っても、次の日には95%忘れてますよね笑
だからこそ本書は「きっかけを与える」ことに終始しています。具体的にこう考えろ、ということは書かず、アップルはこう考えた結果こうしたよ、とかそういうことが中心です。
でもそれこそが前刀さんのいう「学び続ける知性」なんです。答えを教えてもらって満足するのではなく、観察して考えて、自分の答えを見つけ出す。答えのない時代、変化の早い時代に求められるのはそういう知識ではないでしょうか?
この記事を書いた人
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かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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