知覚力を磨く|VUCA時代に求められるリベラルアーツの源泉

ビジネス・マーケティング
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こんにちは。夫です。

今日紹介するのは以前から気になっていた本、神田房枝さんの「知覚力を磨く〜絵画を観察するように世界を見る技法」。タイトルにあるように、アート、絵画を見る力を生活、ビジネスに活かすための方法を教えてくれる本です。

ビジネスで成果を出す人と出せない人の違いはなんでしょうか。
頭が良い人はたくさんいます。一生懸命働く人も、人柄が優れた人もたくさんいます。でも、本当の意味で成果を出すビジネスパーソンはごく一部。

ビジネス書の多くは思考力、つまり考える力、アイデアを発想する力に焦点を当てていますが、本書は違います。本書ではビジネスで成果を出す人と出せない人の違いを「思考力ではなく、知覚力だ」と言います。知覚力というのは物事、情報を見て解釈する能力。判断する、考える、アイデアを出すよりも前段階の能力です。

それでは早速、本書の冒頭を紹介してから「知覚力を磨く」ことのメリットやその方法を見ていきましょう!

先行きが見通せない時代には、思考は本来の力を発揮できなくなります。そこでものを言うのは、思考の前提となる認知、すなわり「知覚」です。
知覚とは、目の前の情報を取り入れ、独自の解釈を加えるプロセス–。あらゆる知的生産の”最上流”には、知覚があります。

「どこに目を向けて、何を感じるのか?」
「感じ取った事実をどう解釈するのか?」

すべては、この”初動”に大きく左右されます。「思考力」だけで帳尻を合わせられる時代は、もはや終わろうとしています。
いま、真っ先に磨くべきは、「思考”以前”の力=知覚力」なのです。

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頭が良くても知覚力がないと無意味

人間の知的生産のステップは、まず「知覚する」目の前の情報を受容しながら解釈を行い、次に「思考する」それに対して問題解決や意思決定をした上で、「実行する」実際のコミュニケーションや行動に落とし込む、という3つのステージがあります。
当然ですが、どんなに優れた行動も、間違った意思決定に基づいていたらうまくいかないように、素晴らしい意思決定も、間違った知覚に基づいていたらうまくいきません。つまり、知覚は知的生産の最上流であり、意思決定や行動の質を決定づける要素なんです。

言われてしまえばその通りなのですが、大体のビジネス書は「思考力」と「実行力」にフォーカスが当てられていますよね。実際、これまではそれで良かったんです。本書で詳しく書かれていますが、情報が少なく、変化が緩やかな時代には「知覚力」が低くても問題になりづらかったからです。

知覚力を磨く-観ているつもりで見えていない

これは人間の胸部CT画像です。この画像におかしなところがあるのですが、わかるでしょうか?有名な画像なので知っている人も多いかもしれませんね。
どこがおかしいのか、少し考えてみてください。

・・

・・・

・・・・

答えは画像の右上部分にゴリラがいるところです。人間の体の中にゴリラがいるわけがないので、明らかにおかしいですよね。でも意外なことに、経験豊富な医師の83%がゴリラに気づきませんでした。

少し乱暴な言い方かもしれませんが(本書ではもっと丁寧に説明してくれています)このゴリラに気づく力、これが知覚力です。
なぜ明らかにおかしいことを見落としてしまうのかというと、僕たちは情報を受け取った時、無意識のうちに編集された情報を見てしまうからです。人間の胸部CT画像にゴリラがいるはずがないという思い込みが、見えているはずのゴリラを見えなくしています。

似たようなことは日々起こっています。例えば、指摘されたら明らかなミスを見逃したり、振り返るとなんであんな判断をしたんだろうという行動をしていたり、そんな経験はありませんか?これはそもそもの知覚に見落としがあったんです。

実際にビジネスの現場で知覚力が発揮された、されなかった例がたくさん紹介されています。

例えばコンピューターがまだ一般的に普及し始める前、多くのコンピューター関連会社には1つのデータに対し、2種類の知覚が存在していました。
一つは「コンピューターは費用が高く使い道も限られているため大手企業しか使わない。だから市場は大きくない」もう一つは「コンピューターはまだ大手企業しか使っていない。個人向けの巨大な市場が放置されている」です。

どちらも持っているデータは同じです。当時、コンピューターは高額で、一部の大手企業だけが使っている状態でした。その状態を見て、ある人は「市場が小さい」と知覚し、ある人は「莫大な市場が残っている」と知覚したんです。10年後、成長したのは明らかに後者の知覚を持った人でした。

実際の企業の例では、ブロックおもちゃのレゴがあります。レゴは老舗企業でブロックおもちゃで大きなシェアを握っていましたが、2003年にはほとんど破産寸前の状態に追い込まれていました。
当時のレゴ社には「レゴで遊ぶ子供のの85%が男の子」というデータがありました。なのでほとんどのマネージャーは男の子向けに販売する方法を考えていたんです。

しかしその時、当時のCEOが「女の子向けのプロモーションを考えられていないだけだ。まだプロモーションしていない膨大な市場が残されている」と考えました。

レゴ社の売上推移

そしてそこからの売上成長は見事な右肩上がり。売上と利益を見てみると、2003年には赤字で大変だったのに、そこから急成長していることがわかりますね。

これが知覚力の役割です。1つのデータを見てある人は「男の子しかレゴで遊ばない」と知覚し、ある人は「女の子向けの膨大な市場が残っている」と知覚しました。

最近ではデータをもとに経営判断を行う「データドリブン」という言葉が話題で、関連書籍も多くあります。でもこの例を見てわかる通り、重要なことはデータをもとに考えることではなく、データをどう知覚するかなのです。
普通にデータをもとに経営判断を行えば、レゴ社は男の子に限られた小さな市場で四苦八苦し続けていたでしょう。

知覚が持つ3つの特徴

知覚力の重要性が見えてきたところで、知覚力が持つ特徴を見ておきましょう。これを知っていれば、なぜ思考力や行動力よりも知覚力が重要になってくるのかわかるはずです。

知覚は「多様性」に富む

コンピューター業界やレゴ社の事例を見てわかる通り、同じ情報を見ても、それをどう知覚するかには無数の多様性があります。
人にはそれぞれの知識や経験、価値観があり、そうしたフィルターを通して世界を知覚しています。なので、知覚には人の数だけ多様性があるんです。

半分水が入ったコップを見て「半分しか水がない」と思うか「半分も水がある」と思うか。同じものを見ても人にとって解釈の仕方、知覚の仕方は変わってきます。

知覚は「知識」と影響し合う

知覚する時には、必ず新しく入ってきた情報と既に持っている知識や経験が統合されます。そしてその過去の知識や経験もまた、知覚を通じて生み出されたものです。

知覚から「知識」がはじまる

既に書いたように、過去の知識や経験も知覚を通じて生み出されます。つまり、知覚のプロセスなしに知識が生まれることはありません。
知覚を磨けばより良い知識が得られ、その知識が次の知覚につながる。知覚を磨くとそんな相乗効果が生まれるわけです。

レオナルド・ダ・ヴィンチは「あらゆる知識の始まりは、知覚である」という言葉を座右の銘にしていたそうです。

知覚力を磨く最も確実な方法

知覚力がビジネス、創造、意思決定、知識の構築、その他様々な知的生産に役立つことがわかってきました。僕たちが日々行う問題解決のための思考、プレゼンなどのコミュニケーション、様々なパフォーマンスには必ず知覚が影響しています。
では、あらゆる知的生産の源泉となる知覚力はどう磨けばいいのでしょうか?

本書では「知覚をコントロールすることはできない」と言います。ものを見た時、それをどう解釈するかは脳内で半自動的に行われます。コップに入った水を見て「半分もあると見るべきか、半分しかないと見るべきか…」なんて思考する間もなく、それまでの知識や経験と照らし合わせて瞬時にどちらで知覚するかが決定づけられるからです。

つまり、知覚力には思考力や実行力のようなわかりやすいノウハウやステップ、方程式があるわけではないということですね。しかし日々の習慣の中で少しずつ知覚力を磨いていくことはできます。本書で紹介されている4つのアプローチを見ていきましょう。

知覚力を磨く方策①:知識を増やす

繰り返しになりますが、知覚とは新しく得た情報を、過去の知識と統合した結果として生まれる解釈です。なので、知識が多ければ多いほど、知覚の幅も広がります。
その知識も結局は知覚を通じて得られるものですが、何はともあれ知識を増やそうというアプローチは知覚の幅を広げる役に立ちます。

これは実感があります。美術館に行く時、前もって展覧会のコンセプトや作品の時代背景、画家の個性を学んでおくと、全然違う見え方ができるようになりました。単純ですが、知識を通じて新しい知覚ができた例だと思います。

本書ではまず自分の仕事とゆるく関係する分野を意識的に学ぶと良いと言います。創造性に関する研究では、高い創造性とは関連性が希薄なものをあえて結びつけることから生まれるとされています。
とはいえ、最初から仕事から離れすぎた分野を勉強しても十分に知覚することができません。なので、自分の仕事とゆるく繋がっているところから始め、徐々に繋がりが薄いものに広げていくというアプローチが効果的です。

レオナルド・ダ・ヴィンチは画家でありながら、医学や解剖学、工学など絵を描くこととから離れた知識を増やしました。医学と絵という繋がりが希薄なものを繋げたから、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品はイノベーティブで、創造的なんですね。

知覚力を磨く方策②:他者の知覚を取り入れる

知識を増やすといっても、一人の人間の知識には限りがあります。つまり、どんなに頑張っても自分一人で、あらゆる知覚を網羅するということは不可能なんです。そこで役立つのが、自分と異なる知覚を取り入れることです。
取り入れる近くはできるだけ自分と違う方がいいでしょう。自分と似た人は自分と似た知覚をする可能性があります。できるだけ異なるバックグラウンドをもった人の知覚に触れてみましょう。

わざわざ高額なフィーを支払って外部のコンサルを招く理由は、外部のコンサルが社内の人間より優秀だからというだけではありません。社内からは決して出てこないであろう新しい知覚を取り入れるためでもあるんです。

僕も全然違うタイプの人と話すのが好きで、ものすごく刺激的です。「え、それをそんなふうに解釈するんだ!」とか「この記事のそこに目をつけるんだ!」とか、人と話すことはまさに新しい知覚のオンパレードですね。

とはいえ、そんなに頻繁に違うバックグラウンドを持つ人と出会えるわけでもありません。一緒に過ごす時間が長くなると知覚も似てくるので、常に新しく、複数の人と関わる必要があります。

そんな時こそ読書の出番です。読書を通じて世界中の全く違うバックグラウンドを持つ人の知覚と出会うことができます。一流の経営者が忙しい中、読書をする時間だけはなんとか死守するのは、読書ほど効率的に他者の知覚と取り入れる手段が他にないからです。

ここでも重要なのは、自分と違う知覚を探すことです。そういう人の本は自分にとって読みにくかったり、理解しにくかったりします。情報に対する解釈が違うので当然ですね。自分の好みに偏って本を選ぶのではなく、自分の興味から外れた、共通点が薄い「他者」との出会いを意識しましょう。

僕と妻は以前、互いの本を選ぶということをやっていました。そうすると普段自分では選ばない本を選ぶので、正直読みにくいし面白くない…でもそういう本の中に自分の知覚を広げてくれるものがあるんですね。またお互いの本を選ぼうと思います。

知覚力を磨く方策③:知覚の根拠を問う

知覚そのものは半自動的に行われますが、自分の知覚を認識することはできます。コップに入った水を見て「半分しかない」と知覚したなら、なぜそう知覚したのかを考えてみましょう。その理由に答えるためには、無意識の中に眠っていた知識を呼び起こす必要があります。

なぜ自分はそう解釈したのか?
どこでその事実を知ったのか?
なぜそれが正しい事実だと言えるのか?
もしその事実が正しくないとすれば、自分の解釈はどう変わるのか?

何かを知覚した時、こう問いかけてみてください。
売上データを見て「商品Aを改善しないといけない」と考えたなら、なぜ商品Bではなく商品Aなのか?を考えるんです。もし商品Aが過去のヒット商品で、その時の売上を取り戻すだけで業績が大幅に改善するからだ、と考えたなら、その情報が正しいのかを検証してみましょう。過去の記憶は驚くほど曖昧です。もしかしたら当時とは会社の規模も変わっていて、今の基準で言うと商品Aはヒット商品と呼べないかもしれませんよね。
このように、自分の知覚を掘り下げていけば、新しい知覚と出会えるかもしれません。

知覚力を磨く方策④:見る/観る方法を変える

ここまで紹介した3つの方法は、脳にアプローチして知覚力を伸ばすものでした。でも知覚する時、最初に情報を得るのは目や耳です。そして日々の情報収集の大半は目を通じて行われています。
つまり、そもそも何を観るのか、どう観るのかを変えれば、知覚を変えることができるんです。

本書では、知覚力を磨く最もパワフルな方法がこの「自分の目が何を、いかに見るのかをコントロールすること」だといいます。

ここまでが本書の2章までの内容で、ここからはこの4つ目の「見る/観る方法を変える」を深掘りしていきます。つまりここからが本題ですね。本書では実際の絵画を見ながら、どう見るのかを教えてくれているので、その部分をできるだけわかりやすく紹介できたらと思います。

目的なく見る力が価値を持つ

最初にお見せしたCT画像。経験豊富でCT画像の問題点を見抜くプロフェッショナルである医師のほとんどが、ゴリラが写っているという大問題を見逃しました。その理由は、彼らがプロフェッショナルであるため、CT画像の問題点を探すことにフォーカスしてしまい、ゴリラが写っているなんてあり得ない事態から無意識で目を逸らしていたからです。

これを本書では知覚的盲目と行っています。さまざまな知識を持って、特定の目的を持って情報を見るという姿勢が、それ以外の要素から目を逸らしてしまうんです。

レゴ社のマネージャーもそうでしたね。売上を上げるために、今売れている男の子というマーケットばかり見て、無意識で女の子というもう一つのマーケットから目を逸らし、チャンスを逃していました。

だからこそ本書では「目的を持たずに見ること」つまり「純粋に見ること」が重要だといいます。

でも目的を持たずに見るなんて、どうも効率が悪そうに思えてしまいますよね。膨大な情報の中から、目的を持って価値のあるものを見つけ出す。そのスキルの方が重要に思えます。

確かに、物事が計画通りに進むような環境では、そうしたものの見方が正解になります。見通しが効くなら、目的を持ってそこに最短で辿り着くことこそが価値です。
しかし現代は変化の幅が広がり、変化のスピードも速くなりました。中長期的な計画というものが役に立ちにくくなっているんです。そんな中で求められるのは、目的を持ってそこに最短で辿り着くことではなく、外部環境を柔軟に捉えながら、正解のないところに辿り着くことではないでしょうか。

情報は膨大にあり、それらが正しいのかどうかもわかりません。以前に立てた目的や根拠も日々変わっていきます。そんな中では、純粋に見ることの価値が高まります。あらかじめ目的を設定して無関係な情報を排除して必要なものだけを拾い上げるのではなく、全体と細部の全てをありのままに捉えた方が、新しい発見や発想に辿り着きやすくなるからです。

抗生物質ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミングの話を聞いたことがあると思います。彼は菌を培養する実験をしている時、誤ってカビを混入させてしまいました。しかしカビが生えている周辺では菌が増殖していないことに気づきました。この発見から見つかったのが抗生物質のペニシリンです。

このエピソードは偶然が大きな発見につながった事例として紹介されますが、実際はそうではありません。当時の実験環境を考えると、カビが混入するなんてミスはどこでも頻繁に起こっていたはずです。しかしフレミング以外はカビが混入した場合をミスと解釈して、処分してしまっていました。
もちろん、研究者としてはある目的があって実験をしているわけなので、その目的から外れたミスは無視するのが正解でしょう。

でも世紀の大発見をしたのは、目的にとらわれず目に見えているものをありのまま、純粋に見たフレミングでした。

目的を持つことは大切ですが、目的にとらわれてもっと見るべきものを見落としてしまう。ビジネスの世界では致命的になりますね。過去の大企業が没落する時も、だいたいは新しい技術や業界の変化をちゃんと見ることができなかったことが原因だと思います。

絵画観察トレーニングで知覚力を磨く

もちろん目的を持って情報を探し、答えに辿り着くスキルはこれからも重要です。でも、目的にとらわれずあるがままに情報を捉え、新しい知覚に辿り着くことの重要性も見えてきたのではないでしょうか。

本書では、知覚力を磨く最もパワフルな方法は「見る/観る方法を変える」だといいます。そして「見る/観る方法を変える」ために効果的なのが絵画観察トレーニングです。

ノーベル賞受賞者の9割以上がアート愛好家で、著名な経営者の中にもアート収集で話題になる人がいます。でもそれらは単なる道楽ではないんです。

絵画観察トレーニングとはアメリカの大学で生まれたカリキュラムです。もともとは医学生の知覚力低下に課題を感じたことがきっかけで始まりました。
そして2時間の絵画観察トレーニングを受けたい学生の患者の症状を見極める力が13%も向上したことで話題となり、今では医学部の必修科目となりました。

知覚力を磨く-絵画観察トレーニングの効果

医学部で採用された絵画観察トレーニングは、その後ハーバード大学でも採用されました。上の画像は絵画観察トレーニングの効果をまとめ、推論的思考や観察力、不在情報の認識など知的想像力が大幅に改善していることがわかります。

絵画は現実と切り離された時代、文化、環境、社会的背景が描かれています。そのため、余計なバイアスが入らず、目的を持たずあるがままに見るということを実践しやすいんです。さらにフレームで区切られた静止画なので、全体を見通しやすいことも重要です。常に状況が変わる動画では、じっくりと全体と細部を見つめることが難しいのです。

美術鑑賞の価値は近年見直されてきたと思いますが、それにしてもこれほど明確な効果があるとは驚きですね。

知覚をブーストする4つの技術

絵画を通じて物事をありのままに見る、純粋に見ることの価値がわかったところで、いよいよ具体的にどう絵画を見ていけばいいのかを紹介します!ここからが本書の大トロ、一番美味しいところですが、大学のカリキュラムをもとにした実践的な内容。僕が要約して紹介しても十分に伝わらないと思うので、ぜひ本書を読んでみてください。ここでは知覚を磨くための4つの技術をさらっと紹介して終わりにしたいと思います。

技術①:全体図を観る

絵画に限らず、情報を受け取る時、美術教育を受けた人とそうでない人とでは眼球の動きが全然違うのだそう。具体的には、美術教育を受けていない人は描かれた人物など目がつきやすい部分をずっと観ているのに対し、美術教育を受けた人は全体を満遍なく観ているんです。

目が付きやすいものばかり見てしまうのは、まさに目的にとらわれてそれ以外の情報を無駄と排除する見方です。これだとフレミングのように実験の失敗から世紀の大発見をすることはできません。

技術②:組織的に観察する

技術①では全体図を見ましたが、細部に意味がないわけではありません。細部は全体の要素であり、細部同士の繋がりや全体的な役割は把握することも重要です。
ここでは「組織的観察」と呼ばれる5つのステップを紹介しています。

  • ステップ①全体図のコンテクストと基本的要素を把握する…個々の特徴に目を奪われるのではなく、全体を見通して描かれているもののコンテクスト(文脈:時間、場所、状況)と、どんな要素で構成されているかを把握する
  • ステップ②フォーカルポイントを選び詳細を観察する…フォーカルポイント(その絵の中で最も注目すべき主題)を見つけ出し(絵画では中央や構成上の焦点が集まる場所にある)その細部を入念に観察する
  • ステップ③他の要素を部分に分けそれぞれを観察する…フォーカルポイント以外の部分を分割し、部分に付随する要素を観察する
  • ステップ④一歩下がって全体図を解釈する…一歩下がり、部分とフォーカルポイントの関連性を認識しながら解釈する
  • ステップ⑤周辺部を確認し再解釈を検討する…最後に見落としがないか周辺部をもう一度解釈し、ステップ④の解釈を変更する必要がないかチェックする

こうして文字で書くと伝わりにくいかもしれませんが、本書では実際の絵画をこの5ステップで観察していきますし、ビジネスの事例に当てはめて教えてくれます。

技術③:周辺部を観る

大きなヒントは周辺部に潜んでいることがあります。レゴ社の例でいうと、データが示す主題は「男の子がレゴで遊んでいる」でした。しかしビジネスのヒントはそのデータの外にある「女の子はレゴで遊んでいない」というところにありました。

周辺部にはまだ他の人が気づいていないアイデアのヒントが眠っていることがあります。ここに新しい目の付け所があるので、ビジネスパーソンなら周辺部の観察力は勝敗を分けます。

絵画であれば光が当たっていないところ、主題から大きく離れたところ、背景の一部などが周辺部です。本書には実際の絵画が載っていますが、やはり歴史に残る作品というのは周辺部にも重要な意味が込められているんです。それを発見する絵画鑑賞が、ビジネスのトレーニングにもなるんですね。

技術④:関連づけて観る

「高い創造性とは関連性が希薄なものをあえて結びつけることから生まれる」
この記事の前半でこのように書きましたが、絵画鑑賞はまさに物事を関連づける訓練になります。

絵画はそもそも曖昧なものです。美術館に行っても、画家が何を描き、どんなメッセージを伝えたかったのか説明されているものはほんの一部。大半の作品は自分で意味を見つけないといけません。

もちろん絵画を理解するには前提となる知識が必要になることもありますが、そうしたものがなくても描かれているものを入念に観察し、自分の持つ知識と関連づけることで、意味を見つけることはできます。
実は絵画を鑑賞する時、脳は自動的に意味を見つけようとします。そこに意識を向けることが高い創造性につながる知覚力の磨き方です。

世界をあるがままに知覚しよう

ということで今回は「知覚力を磨く〜絵画を観察するように世界を見る技法」を紹介しました。

知覚力という言葉自体、本書で初めて出会いましたし、僕自身これまで思考力、行動力ばかりに注目してきました。なので本書はものすごく刺激的。実はこの記事を書く前に3回も読み直しています。

現在はVUCAの時代と言われています。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、要するに変化が早く、将来は複雑で、状況はますます複雑で曖昧になるということです。

本書で繰り返し描かれているようにVUCAの時代で活躍するには思考力、実行力だけでは足りません。思考の前段階である知覚、変化が早く不確かな世界をありのままに知覚して、適切な判断や行動に繋げる知覚力こそが勝敗を分けます。

そして本書では知覚力を磨く4つの方法と、その中の一つを深掘りして美術鑑賞トレーニングについて教えてくれました。

僕は年に3〜5回ほど妻と美術館に出かけます。単純に好きだからという理由でしたが、本書を読んで見方を変えないといけないなと思いました。知覚をブーストする4つの技術を頭に入れて絵画を観たら、全然違う気づきが得られそうですね。

もちろん知覚力を磨くのは美術鑑賞だけではありません。知覚力を磨く4つの方法はどれも効果的だと思います。
重要なことは、僕たちはただ純粋に観ることさえできなくなってきているという事実です。ただ観るなんて簡単で、大切なことはどう思考するか、そしてどう行動するかだと考えてしまっています。そして、無意識のうちに余計な情報を省き、自分にとって都合のいい解釈にたどり着いてしまいます。

そうではなく、知覚こそが思考、行動の源泉であり、VUCAの時代に活躍するために重要な要素なんだと認識できただけで本書と出会った価値があります。

知覚は無意識です。だからこそ、そこに意識を向けるだけでものの見え方が変わってきそうですね。最近は美術鑑賞に関する本も多いので、それらも読んで知覚力を磨いていきたいと思います。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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