TECHNO KING(テクノキング)|イーロン・マスクは本物のイノベーターか

ビジネス・マーケティング
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こんにちは。夫です。

イノベーターと言えば?
僕はやっぱりスティーブ・ジョブズを思い浮かべます。プライベートではiPhoneとiMacをメインで使って、仕事ではMacbook、趣味のバンド活動のときは主にiPadを使っている僕にとって、スティーブ・ジョブズはやはり欠かせない存在です。

マット・リドレー氏の「人類とイノベーション」では「特定の個人がイノベーターではない。たとえスティーブ・ジョブズがいなくてもiPhoneは存在していた」という話がありましたが、それでも僕にとってジョブズは個人として圧倒的イノベーターです。

そんな僕が先日、あべのハルカスにあるジュンク堂書店をうろついているときに見つけたのが、今日紹介する一冊。

TECHNO KING(テクノキング)イーロン・マスク-奇跡を呼び込む光速経営」です。

この本の帯を見ると「ジョブズを超える才能とゲイツにまさる資産を持つ男」との文字が…

聞き捨てなりませんねー。僕はイーロン・マスクも基本的には好きですし、興味を持っていますが、ジョブズを超える才能はちょっと言い過ぎじゃないかと。ビル・ゲイツを超える資産というのも、一応事実ではありますが、ビル・ゲイツはこの20年くらい慈善事業に注力していますからね。もしずっとビジネスをしていたらイーロン・マスクに抜かれていたとは思いません。

僕はどちらかというとイーロン・マスク否定派の人間ですが、なにかを否定するにはその事をよく知らないといけません。知らずに否定するのは最低ですからね。

ということで今日は世界で一番有名な経営者イーロン・マスクについて書かれた最新巻「TECHNO KING(テクノキング)イーロン・マスク-奇跡を呼び込む光速経営」を紹介します。

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イーロン・マスクは何者だ?

本書の内容に入る前に、イーロン・マスクがどういう人なのか簡単に振り返って起きましょう。
動画で見るなら中田敦彦のYouTube大学がおすすめ。

簡単に経歴をピックアップすると、

  • 1971年南アフリカで生まれ、図書館にある本をすべて読み尽くした。10歳でコンピューターに触れ、通常半年かかるプログラミングを3日で習得。12歳のときにブラスターというソフトウェアを500ドルで販売。
  • 高校生の頃、不良に目をつけられていじめられたイーロンは読書を辞め、半年かけて空手、柔道、レスリングを学び、いじめていた不良をノックアウト。
  • 南アフリカでは18歳になると兵役に就く必要があるが、それを拒否し、17歳の時、親戚が住むカナダへ移住し、農場や製材所などで肉体労働につく。
  • カナダのクイーンズ大学に入学し、経営学と物理学を専攻。3年後、奨学金を得てアメリカのペンシルベニア大学に編入し、そこでも物理学と経営学を専攻。物理学を突き詰めるため1995年にスタンフォード大学院に入学するも、Windows95に衝撃を受け2日で退学。オンラインコンテンツの制作会社「Zip2」を創業。
  • 1999年、コンパック社がZip2を3億ドルで買収し、イーロンは約25億円を手に入れ、インターネット送金サービスを提供する「Xドットコム」を創業。
  • 2000年、「Xドットコム」は競合でペイパルを提供する「コンフィニティ社」と経営統合し、会長に就任。その後、ペイパルのCEOになるも解任。次のCEOのピーター・ティールがペイパルを15億ドルでeBayに売却。イーロンは190億円を手に入れる。
  • 2002年に宇宙輸送事業を行う「スペースX」を創業。2004年には2003年に設立された電気自動車ベンチャーのテスラに出資。その後会長に就任。2008年には同社の4代目CEOに就任。
  • 2020年、テスラ株の急騰により資産ランキングで一時イーロン・マスクを超え世界一位の大富豪に。

ざっくりとまとめました。もう10歳のときから半端無いですね。案外知られていないことは、テスラはイーロンが創業した会社ではない、ということでしょうか。あとペイパルの創業者でないことも意外かもしれません。

補足しておくと、初期のペイパルのメンバーは「ペイパルマフィア」とも呼ばれていて、陰謀論者の間では「支配者層」なんて呼ばれたりしています。それぞれペイパルを売却して得た報酬で、新しい事業を次々起こしているからです。

有名なのはピーター・ティール。イーロン・マスクの後にペイパルのCEOを務め、ペイパル売却で得た資産でヘッジファンドを立ち上げ、初期のFacebookに出資したことで知られています。また、データ解析のパランティアも立ち上げ、昨年上場したことも話題になりました。

他にも、リンクトインの共同創業者のリード・ホフマンや、YouTubeを作ったスティーブ・チェン、チャド・ハーレー、ジョード・カリムなどがいます。ジョード・カリムは最初に公開されたYouTube動画を撮影した人としても知られています。

ちなみに、ピーター・ティールが創業したパランティアは昨年上場したので、少し投資しています。調べてみるとなかなか面白い会社なので、ピーター・ティールやパランティアに関する本もまた紹介したいと思います。

ビジネスに役立つイーロン・マスクの異常行動

イーロン・マスクといえば、その言動や行動の破天荒さが話題になります。
特にここ数年はビットコインなど仮想通貨を推奨していることもあり、テスラがビットコインでの決済を受け付けることでビットコイン価格が大きく上昇しました。しかしその後、ビットコインの決済を受け付けないと一転。ビットコインは大暴落しました。

僕はイーロン・マスク否定派なのはこうした発言からです。上場企業のSEO、会長で、5000万人ものフォロワーがいながら、公式なのかプライベートなのかよくわからない発言をして周りを混乱させる。ちなみに、テスラがビットコイン決済を受け付けるかどうかで乱高下したビットコイン相場ですが、テスラ自体は2021年2月に投資したビットコインを高値で売却してしっかり利益を獲得していたそうです。市場操作なんじゃ…

イーロン・マスクのTwitterはかなりの影響力がありますが、過去には市場操作だと裁判で有罪になり、多額の賠償金やテスラの会長退任などもあったので、真剣に見ている人はもうあまりいないかもしれません。

ということで、本書の中からイーロン・マスクの異常行動をいくつか紹介します。
なんだかんだ言って、イーロン・マスクは偉大な経営者です。テスラを時価総額で世界最大の自動車メーカーに育て上げ、スペースXで宇宙産業の在り方に大きな影響を与えた、こうした事実は無視できませんからね。

こうした本を読む一番の面白さは、世界を変えた圧倒的なビジネスパーソンから、「自分にも活かせるなにか」を見つけ出すことです。ぜひ探してみてください。

最大の取引先でも正しくなければ徹底的に戦う

イーロン・マスクは経営者というよりビジョナリー。自分が信じることに従い、世界を変えることに全力を尽くす人です。
そのため、利益と相反することも度々行い、株主と揉めることもしばしば。

例えば、2014年、テスラは「EV特許を無償公開する」と発表しました。特許は企業にとって収益の源泉です。アップルは特許を駆使して自社製品の優位性を固く守っていますし、IBMなどは特許収入だけで莫大な現金を稼いでいます。

しかしテスラは(というかイーロン・マスクは)「EVを普及させる」というビジョンに従っているので、特許を開放しました。

これが良いことなのかどうか、いろんな議論があると思います。もしテスラが特許を守り、権利収入を得ていたら、それを元にさらに研究開発を行い、EVや自動運転はさらに早く進んだかもしれないからです。特許に限らずいろんな規制やルールには必ず良い面と悪い面があるので、アップルやIBMが悪いとも思いません。難しいですね…

そんなイーロン・マスクはビジョンを実現するためなら、会社が潰れても構わないとさえ考えています。
そのことがよく分かる例が、スペースXとNASAの訴訟です。NASAがロケット打ち上げに関する競争入札で、元NASAの重役がCEOを勤める会社に随意契約をしたと訴えたのです。

重役が勤めているという理由で入札が決まるような状況は、宇宙産業の発展のために良いことではありません。より優れた技術を持った会社に仕事が回って来ないからです。
とはいえ、当時スペースXはまだロケット打ち上げを一度も成功させていないベンチャー企業。スペースXが今後事業を続けられるかどうかはNASAから仕事をもらえるかどうかにかかっていると言っていいほどの状況です。

スペースXの社員は「将来の最重要顧客を敵に回すべきじゃない」と忠告しましたが、イーロン・マスクは「競争入札で決めるべき契約が随意契約になっていた」と聞く耳を持ちませんでした。

結果、スペースXは訴訟に勝ち、その後NASAから仕事を請けることにも成功しています。

正しいと信じることに従う。イーロン・マスクは意味不明な行動・言動が多いですが、こうした視点を知っていたら理解できることが増えるかもしれません。

柔軟な発想で限界を簡単に超える

ロケット開発もEV車の開発も、本来イーロン・マスクの専門外です。物理学を専攻していたものの、本来はソフトウェアエンジニア。だからこそなのか、従来とは全く違う方法で、限界を超えた製品を作り出してしまいます。

例えば、電気自動車の心臓部でもあるバッテリー。多くの自動車メーカーが車を動かせるほどパワーのあるバッテリー開発に力を注いでいたのですが、イーロン・マスクは汎用性のあるパナソニック製のバッテリーを何千個も連結させ実現してしまいました。

スペースXも、従来はすべての部品をオーダーメイドすることが一般的だったのに、既存製品を組み合わせることで、新しい技術革新を起こすことなくロケットの価格を10分の1に下げることに成功しました。

この発想の柔軟性は僕らビジネスマンも見習うべきでしょう。どうしても一度決められた枠のなかで考えてしまいますが、意外なほど非効率的なことを行っていることがあります。ちなみにテスラ車の当時のバッテリーは汎用性が高い一般的なものだったからかわかりませんが、スマホなどを充電できるモバイルバッテリーも販売しています(笑)

常識にとらわれないマーケティング戦略

イーロン・マスクは広告投資をしないことで有名な経営者です。僕は広告関連の仕事をしている立場なので、ビジネスに広告は必要だと思いますし、適切な広告展開は社会を良くする潤滑剤のようなものだと考えています。

が、イーロン・マスクはいわゆる広告を使う代わりに、全く違う方法を取ります。

例えば、スペースXの最初の打ち上げ実験を行う「ファルコン1」のお披露目のとき。
当時、宇宙産業という言葉自体、今ほど一般的ではありませんでしたし、ロケットの打ち上げはNASAなど公的機関がやるものと考えられていました。

スペースXはロケットの値段を10分の1にまで下げると公言していましたが、すぐにそれがビジネスとしてお金を生むわけではありません。イーロン・マスクの個人資産だけでどうにかなるものでもありません。

そこでイーロン・マスクは最初の打ち上げ実験機「ファルコン1」の原寸大モックアップを創り、特注のトレーラーを使ってロサンゼルスからワシントンDCまで運んだんです。
当然ですが、そんな事する必要はありません。現物を工場から打ち上げ場まで運ぶことはありますが、これはモックアップです。観光客やビジネスマンの注目を集めるためだけに、原寸大のモックアップを作り、特注のトレーラーを発注し、警察に警護してもらって運んだんです。

何十万台と販売する主力自動車メーカーになったテスラも、広告を使いませんし、既存の販路も使いません。
通常、自動車はメーカーが作り、ディーラーに納車し、ディーラーからユーザーに販売し、メンテナンスなどまでサポートします。メーカーはあくまで作るだけ、というのが一般的です。

しかしテスラは一切ディーラーを使わず、直販にこだわっています。これは常識と違うだけでなく、アメリカでは法律で禁止されていることでした。メーカーからユーザーへ直接販売せずディーラーを挟むというのは、消費者保護でもあったのです。
結果、訴訟でいくつかの州ではテスラの直販店が閉店されたりもしたそうです。しかしそれでもディーラーに販売させなかったテスラ。自動車業界の在り方を根本から変えようとしていたんです。

そして2019年にテスラは全面ネット販売へ移行。その結果、2020年はテスラにとって最高の業績を出した1年になりました。

ソフトウェアの考え方をハードウェアに取り入れる

EVは決して新しいものではありません。実は自動車の歴史を遡ると、ガソリン車より前に電気自動車が作られています。
つまり、電気自動車そのものは新しいものではない。もちろん、バッテリー性能やエネルギー性能はどんどん良くなっていますが、それそのものは大きなイノベーションではありません。

ではなにがテスラを時価総額で世界最大の自動車メーカーにしたのか。
それは、ソフトウェアの考え方をハードウェアに取り入れた、ということだと思います。

通常、自動車は買った時が最新版。そこから古くなっていく一方ですが、テスラ車はスマホのOSをアップデートするように、ソフトウェアをアップデートすることができるんです。

例えば、テスラの「モデルS」は販売当初、自動緊急ブレーキの対応速度が45キロでした。しかしその後、ソフトウェアアップデートで154キロまで対応できるようになったのです。
実は元々154キロまで対応できる車だったのですが、ソフトウェアの開発が間に合わなかったので、一旦45キロで出荷して、ソフトウェアが完成してからアップデートしたのです。

テスラ車はバグ修正的なものにも対応しています。2013年、テスラ車が火災事故を起こしたのですが、その理由は路面に落ちていた金属製の物体が車体の下を傷つけたことでした。
そこでテスラはソフトウェアを走行速度に応じて車高を調整するようにアップデートしたのです。

テスラ車はソフトウェアアップデートできる、という話は聞いたことがありますが、これほどとは思いませんでした。普通、車体の構造に原因がある事故が起こるとリコールして修理しますが、テスラはオンラインでアップデートするだけで対応したのです。これは本当の意味でイノベーションだと思います。

自動車のように人の命が関わる製品の場合、100%完成した段階で販売します。しかしソフトウェアは「β版」と呼ばれる仮状態でリリースし、フィードバックを受けながら改善していきます。
だからソフトウェアの進化スピードは早く、この30年で時価総額上位をソフトウェア関連企業が多く占めるようになったのです。

イーロン・マスクはその考え方を自動車にも取り入れました。

当然、テスラには完成していない製品をリリースして万が一、人命が奪われたらどうするんだ、という非難もあります。しかしそれでも、より早く開発し、世界を変えるには必要なことなのでしょう。実際、テスラの自動運転機能のバグで死亡事故が起こった後も、「完璧な自動運転はない」と言い、その後も自動運転機能の実験や提供、アップデートを続けています。普通の自動車メーカーなら経営陣が謝罪会見を開いた後、リコールして原因を究明し改善が完了するまで足踏みするでしょう。

イーロン・マスクは火星に行くのか?

ということで今回は「TECHNO KING(テクノキング)イーロン・マスク-奇跡を呼び込む光速経営」という本から、イーロン・マスクの異常行動とそこから学べることいくつか紹介しました。

本書を読むと、最初は著者の竹内一正さんはイーロン・マスクを盲目的に崇拝しているように感じるときがあったのですが、最後まで読むとイーロン・マスクの弱さや課題、批判もしっかり分析されていると感じました。

それもそのはず、竹内一正さんはただのイーロン・マスク信者ではなく、パナソニックで製品開発や海外ビジネスを担当され、アップル社でマーケティングにも従事された超一流のコンサルタントです。

アップルでマーケティングに関わった人が、「ジョブズを超える才能」と評価するのがイーロン・マスクなのです。

最初に言ったとおり、僕はイーロン・マスク否定派、というかまあ少なくとも肯定派ではありません。あれだけ影響力がある立場でありながら無責任な発言が多いように感じますし、本当の意味で世界を変えるのかどうかはこれから評価されることだと思います。すでにテスラが世界を変えたように語る人もいますが、テスラ車の販売台数はトヨタの30分の1程度です。

しかし本書を読んで、圧倒的なビジョナリーであることは感じました。
正直、個人的にはテスラを辞めて、スペースXに全力集中して、早く火星移住を実現させてほしいなと思います。個人的な感覚ですが、テスラでしっかり利益を出して〜というより、夢を追って火星に行くほうがイーロン・マスクらしい。

といっても、本書でも指摘されていますが、現状テスラにはイーロン・マスクの代わりがいません。

つい先日、ヴァージン・ギャラクティックのCEOが初の宇宙旅行を実現させ、ブルー・オリジンのジェフ・ベゾスが続きました。

たぶんイーロン・マスクもそれに続くでしょう。いや、イーロン・マスクのことだから、宇宙旅行という途中ステップを挟まず、いきなり火星への有人飛行をするかもしれませんね。

僕はイーロン・マスクの発言に振り回されないよう一歩距離を取りながら、宇宙産業の続報を楽しみに待ちたいと思います。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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