「変化を嫌う人」を動かす|逆算的4つのマーケティングテクニック

ビジネス・マーケティング
「変化を嫌う人」を動かす|逆算的4つのマーケティングテクニック
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こんにちは。夫です。

今日紹介するのは『「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』です。

僕は日々マーケターとして魅力的な提案を作る仕事をしています。でも、素晴らしいオファー、素晴らしいコピー、素晴らしいデザインを作っても、反応するのは広告を見た人の数%未満…なぜなのか?本書ではその理由を教えてくれました。

まず本書が指摘しているのは、世の中のマーケティングは「攻め・攻撃力」言い換えれば、魅力度を高めることにフォーカスしすぎだということです。本書の冒頭ではピストルの例が紹介されています。世の中のマーケターは、弾薬に入ったピストルの火薬を多くして、球を力強く押し出すことに一生懸命になる一方、現実のピストルで欠かせない”ある要素”を見逃しているといいます。

それが、空気抵抗です。

弾丸がよく飛ぶのは、火薬で推力を得ているからではない。弾丸に空気力学が働くからだ。弾丸は、空気抵抗が小さくなるような作りになっている。この弾丸、というより弾丸が飛ぶ理由として人々が直感的に思い浮かべるものは、本書のテーマの素晴らしい喩えだ。アイデアを飛び立たせるには推進力を与えなければならないと私たちは直感的に思う。しかもそれは正しい。だが、空気力学を考慮せず、エンジンの出力だけを考えて飛行機を作ったらどうなるだろうか。私たちはこれとまるっきり同じことを、新しいアイデアや取り組みに着手するときにやっている。そのため、飛び立つアイデアがほとんどないのも当然だ。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

言われてみればその通り!僕たちマーケターは日々魅力を高めるために四苦八苦して、それが唯一の正解のように考えてしまいます。本書ではそれを「イノベーターや経営者など、変化を生み出す人たちが持つ”思い込み”」だといいます。

本書では、こうした魅力を高めるアプローチを、弾丸の火薬を増やすことに例えて「燃料のアプローチ」と言っています。実際、燃料がなければアイデアは実現しません。ですが、燃料だけでは不十分なんです。弾丸が力強く飛び出すように、燃料を与えられたアイデアが前に進んで変化を生み出すには、力強い「抵抗」を乗り越える必要があります。
そして厄介なことに、燃料が多く、変化が大きいアイデアほど、「抵抗」も大きくなるんです。

起業して30年存続し続ける企業は、0.02%しかないそうです。もちろん中には十分稼いで、創業の意図を全うして解散する例も含まれていると思いますが、それにしてもあまりに確率が低い。起業にはかなりの労力が必要ですから、何かしらの信念、魅力的なアイデアがあったはずです。多くの企業は本書がいう「抵抗」に負けてしまったんだと言えそうです。

さて本書では魅力的なアイデア、燃料を消耗させる「4つの抵抗」を教えてくれますが、その前に、冒頭で紹介されている「抵抗へのアプローチ」で成功した2つの事例を見てみましょう。

ある革新的な家具店は、生産イノベーションによって、フルカスタマイズした世界で唯一の家具を、他のオーダーメイド家具会社より75%も安く作ることができ、急成長していました。

しかしいろいろ分析していると、不思議なことがわかります。多くの顧客が、ウェブサイトで何時間もかけて自分好みの家具をカスタマイズしたり、店頭でデザイナーと相談しながら自分だけの家具作りを楽しんでいます。
ですが、いざ購入という段階になると、多くの人が買わずに離脱してしまうんです。

競合より75%も安く、カスタマイズ家具が作れるというオファーは魅力的ですし、何より顧客は何時間もかけて購入体験のプロセスにどっぷり入っています。「燃料マーケティング」でいうなら、魅力を感じていない、買う余裕がない人は何時間もかけてカスタマイズしたりしないので、あとは買うだけに思えます。なぜ、ここまで来て離脱されてしまうんでしょう?

それは、「抵抗」が買い物客の行手を遮り、希望する商品を購入できなくしていたためなのだ。
<中略>新しいソファーの購入を阻んでいたもの–物語の悪役–は、(驚くなかれ…)自宅に今あるソファだったのである。買い物客のいく手に立ちはだかっていた「抵抗」は、古いソファをどうすればよいかわからないことだった。ゴミ収集車は古いソファを持っていってくれるのだろうか?<中略>新しいソファーが欲しいと思っているとしても、今あるソファをどうするかが決まらない限り、購入に踏み切れない買い物客が圧倒的に多いのであろう。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

このエピソードを聞いた瞬間、まさにこれこそ僕が今読むべき本だ!と思いました。僕自信、妻と買い物に出掛けて「この椅子めっちゃいいやん!」とか思うんですが、「今あるやつが壊れたら買うか」という感じで買わないことが95%。これまで何度も、もしそこで店員さんに「今ある椅子の買取もやっているのでよかったら〜」って話しかけられたら買っていたな、という椅子を買いそびれてきました。

もう一つの事例は入院中の子ども達を支援するNPO団体の例です。このNPO団体は入院中の子ども達にメッセージカードを書くボランティアを集めています。メッセージカードを多く書いてもらうために、3つの方法を試しました。
1つは「カードがどれほど子ども達を元気づけているかを説明する」というもの。2つ目は「カードを書いてくれた人に謝礼を支払う」というもの。そして3つ目が「書きやすくするために、いくつかのひな形を用意する」というもの。
1つ目と2つ目はほとんど違いがありませんでした。ですが3つ目の方法は、他の2つより1.6倍もの人がメッセージカードを書いてくれたんです。

どれだけ役立つか説明する、謝礼を払うというのは、魅力を高める、本書の言葉を使うなら「燃料を増やす」アプローチです。一方、ひな形を用意して「こういうふうに書けばいいんだよ」と教えてあげることは、何を書いたらいいかわからないという不安という抵抗を払拭するアプローチです。しかも重要なことは、役立つか説明するほどの文才も必要なければ、謝礼のようなコストも必要ないのに、かなりの効果があったということです。

さて本書では、そんな「抵抗」には4つの種類があるとしています。

  • 惰性:これまでの習慣や現状を変えたくないという思い
  • 労力:変化を起こすために必要なエネルギー量
  • 感情:変化に対する否定的感情
  • 心理的反発:変化させられたくないという衝動

 

先ほどのカスタマイズ家具の場合は、新しい家具を買うにあたって、既存の家具を処分する方法がわからない、それに手間とコストがかかりそうと思われていました。なので「労力」という抵抗が大きかったと言えそうです。「労力」は実際にかかる労力だけでなく「これくらい労力がかかりそう」という想像でも抵抗になります。この家具店は処分方法を提案するというシンプルな方法で、想像上の労力を取り除き、、成約率を大幅にあげました。

 

本書では「燃料」に頼るマーケティングにはいくつかの限界があるといいます。その一つが、燃料に頼ると「コストがかかる」ということです。
NPO団体によるメッセージの募集例のように、謝礼をつけるようなやり方では、コストが増える割に効果が見込めません。仮にうまくいったとしても、もっとメッセージを多く集めるには、より多くの謝礼をつける。つまりコストを増やし続けるしかないわけです。

「燃料」はすぐに燃えてなくなるうえに、「燃料」の影響力の大きさは注いだ「燃料」の量に比例するのだ。<中略>
人は「燃料」で一時的に従順になる。一過性の関わり合いであればそれで良いかもしれない。だが、長期的な成果を望むのであれば、「燃料」を注ぎ続けなければならないのである。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

いわれてみればその通りですが、マーケターなど商品を提供する側の人間には「抵抗」が見えません。あらゆる商品やサービスは顧客に何らかの変化を提供するわけですが、「抵抗」は変化するときに生まれます。
提供する側の人間はすでに変化を受け入れているので、「抵抗」を感じることができないんです。マーケターが「抵抗」を感じるには、スポットライトを商品やアイデアではなく、顧客、オーディエンスに移動させる必要があるんです。

 

めちゃくちゃわかります。企画して、広告を作って、ローンチして…これをみたら買わないわけがないだろう!!と思って出すのですが、当然、みた人全員が買うわけではありません。これは僕の頭の中から「抵抗」が全く抜け落ちていたからだと思います。

 

ということで、本書の本題である「4つの抵抗」をみていきましょう。本書はそれぞれの抵抗について、抵抗が起こる要因や事例と、その抵抗を取り除く方法の2章立てで展開されていきます。

 

4つ全部取り上げるわけではないので、全ての抵抗と取り除き方を学んで売上を爆増させたいマーケターはぜひ本書を手に取ってみてください。ここ数年、僕が読んだマーケティング書籍の中では最も実務に役立ちました。何といっても、抵抗を取り除くのは、気づいてしまえばほとのコストがかからない、あたり前の施策ばかりだからです。

 

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惰性:人は新しいものが好きじゃない

マーケターなら誰もが聞いたことがある「親近効果」や「現状維持バイアス」を、本書では「惰性」と表現しています。馴染みのないものよりは馴染みあるもの、初めて見るものよりはみたことがあるもの、成否がわからないものよりはすでに成否がわかっているものを好むのは人間の本能に組み込まれています。初めて見るキノコを抵抗なく食べる人は、すぐ毒キノコにやられた一方、以前食べて大丈夫だったキノコだけを食べていた人だけが生き残りました。彼らが僕たちのご先祖さまです。

このバイアスは非常に強力で、不思議な働きをします。例えばあなたは、「快楽マシン」を使えば、今の不自由な人生をやめて楽しい人生シミュレーションの中に入れますよ、と言われたら断るでしょう。多くの人にとって、シミュレーションされた仮想の人生よりは、辛いことがあっても本物の人生を選びたいと考えているはずです。

 

でも実は、この選択は「本物の人生を歩みたい」という欲求ではなく、今ある状況を変えたくないという現状維持バイアスでしかなかったと言われたらどうでしょうか…

 

今度はこんな状況を考えてみてください。パッと目を覚ますと、みたことがない白い部屋にいます。スタッフが近寄ってきてこういいます。
「お疲れ様でした。人生シミュレーションはいかがでしたか?あなたが体験した全ての人生はシミュレーションです。定期的にこのシミュレーションを継続するか確認をとっています。継続される場合は、中断中の記憶は消失し、シミュレーションに戻ります。ちなみに過去に3回中断していますが、あなたは全て継続を選択されました。どうしますか?」

こう聞かれたとき、ほとんどの人がシミュレーションされたこれまでの人生に戻ることを決断します。どちらも、シミュレーションの人生と実際の人生、どちらかを選べといっているのに変わりはありません。違うのは、すでにシミュレーションの中にいるかどうかだけです。

 

幸福に関する哲学的な問いで、人は仮初の幸福より現実を選ぶ、みたいな話と思っていましたが、全然違うんです。大事なのはシミュレーションかどうかじゃなくて、現状を維持できるかどうか。ちなみに僕の説明だとよくわからなかった方、本書ではもっと細かくシチュエーションを描写してくれています。それを読めば間違いなく、「シミュレーションの世界に戻りたい!」って思うと思います。僕たちは、たとえ仮初の現実であっても、慣れ親しんだ方を選ぶほど、惰性の生き物なんです。

 

「惰性」を取り払う6つの戦略

人間の本能にまで組み込まれた「惰性」を取り払うのは、非常に簡単です。よく知らないものを、知っているものに変えるだけで、惰性の抵抗を減らすことができるからです。

 

マーケティング担当者なら、リマーケティング広告が通常のターゲティング効果より費用対効果がいいこと、既存顧客に追加購入してもらう方が、新規顧客に購入してもらう方が何倍も易しいことを知っていると思います。これも、繰り返し見たり、過去の購買体験があることで、「惰性」の抵抗が小さくなるからです。

 

とはいえ、ただリマーケティングをしましょう、既存顧客に追加購入してもらいましょうでは、役立つシーンは限られます。リマーケティング広告はコストがかかりますし、既存顧客だけに頼っていると先細りは目に見えています。

そこで本書で紹介されている、惰性を取り払うための6つの戦略を見てみましょう。

戦略:何度も繰り返す

接触回数が増えれば増えるほど好感度が増す、単純接触効果という有名な心理効果があります。リマーケティング広告の費用対効果が高いのも、単純接触効果ということができます。

ナポレオンは次のように述べた。「極めて重要な修辞技法はただ一つ。反復法だ。同じ主張を何度も繰り返すことで言葉が心の中にしっかりととどまり、最終的には実証された事実として受け入れられる」
繰り返し接していると、奇抜なアイデアでもセイン金冠を覚えるようになる。政治の世界では初歩的な選挙戦術だ。メッセージを十分に発すれば、有権者はそれを信じるようになる。製品であれば、繰り返し接する機械を広告で作り出すというのが一般的な方法だ。
<中略>
(新しいアイデアは隠して煮詰めるのではなく)機会があるたびに自分のアイデアが話題にされるようにするべきだ。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

 

リマーケティング広告や既存顧客へのアプローチに代表される方法ですね。でもこれは広告や販売だけではなく、会議でのアイデア出しでも同じです。大事なアイデアほど入念に細部を詰めて…としてしまいますが、それよりは小出しに触れさせた方が、最終的に受け入れられる確率が上がります。

 

何度も繰り返すことは、かならずしもメッセージの発信者本人がやる必要はありません。
ある実験では、学生を対象に「課題の提出期間を遅らせることができる。その代わり最終的な評価を返すのも遅くなる。遅らせるべきか?」と質問しました。授業の最後にこの質問をして、すぐにアンケートをとったところ、30%の学生が反対しましたが、授業が終わって3時間後にアンケートをとったところ、反対した学生はわずか5%だったんです。
アイデアを伝えたのは一度だけ。ですが、相手に反復する時間を与えるかどうかで、抵抗が大きく変わったんです。

 

なるほど。アイデアを伝えて少し時間をおくと、相手はそのアイデアについて頭の中で思考する。それ自体が、繰り返し効果を生み、惰性の抵抗を下げてくれるんですね。

 

戦略:小さく始める

小さく始めることは抵抗をなくす手段として、誰もが当たり前に行っています。初めて飲んだビールの味を美味しいと感じる人はそこまで多くありません。ですが少し飲んで、また少し飲んで、別の日にまた飲んで…気づけばビールジョッキ一杯は余裕で飲めるようになり、いつしか「まずビール」が定着する。これも小さく始めることの効果です。初めて飲んだビールがジョッキ一杯の一気飲みなら、多くの人が2度とビールを飲みたいと思わないでしょう。

また、恐怖症治療でも頻繁に使われる戦略です。ヘビ恐怖症の人には、まずヘビの人形を与えたり、マジックミラー越しに遠くからヘビを眺めたりすることから、少しずつ慣らしていきます。そして徐々にヘビとの距離を詰めていき、やがてヘビ恐怖症患者はヘビを首に巻いても平気になります。

 

言葉にすると単純すぎて信じられませんが、実際にこの小さく始める戦略は、恐怖症治療の基礎的な治療法なんです。

 

例えば最近のビジネス界隈では「DX、デジタルトランスフォーメーション」という言葉が人気です。これは大きな変化をイメージさせるので、一部で盛り上がっている一方、実際にはあまり浸透している印象がありません。

これも、DXという新しい言葉を産むことで、大きな変化を予想させてしまい、逆に惰性による抵抗が大きくなっているからなんです。
あるコンサルティング会社では、DXという言葉を使わず、ただ今ある目標の達成のためにこのデジタル技術が必要です、と案内するように指導しています。

なるほど。DXみたいなかっこいいキーワードを使って大きな変化を一気に進める。そういうアプローチは、確かに「燃料」としては有効ですが、激しい抵抗も産んでしまう。SDGsやESGなどもそうですが、立派な旗を振りかざすものが、案外浸透しない理由がわかった気がします。

戦略:伝達者をオーディエンスに寄せる

人は群れを作る生き物なので、基本的に自分が知っている人や自分に似た人からのメッセージには耳を傾ける傾向があります。同じメッセージも自分と同じような見た目、立場の人から聞いた方が、納得感が強いということです。

心理学でミラーリングと呼ばれるテクニックも存在し、ある実験ではインタビュー中に意識的なミラーリング(話し方や手足の位置などを相手に合わせる)によって、うっかりペンを落とした時に相手が拾ってくれる確率が3倍にもなったという結果もあります。

営業ではより顕著な効果があり、オーディエンス・チューニングと呼ばれています。世界記録を持つ営業パーソンのアリ・リダ氏は、自分の見込み顧客にメキシコ系アメリカ人が多く、彼らへ効果的なアプローチができていないことに気づきました。
そこでアリ・リダ氏はメキシコ系アメリカ人を弟子に迎え入れ、メキシコ系アメリカ人の見込み顧客への対応を任せることにしました。弟子なので営業方法はアリ・リダ氏とほとんど同じです。ですが、メキシコ系アメリカ人への成約率は、弟子の方が高かったんです。

営業の神様に出てきたジョー・ジラードは、主要な銘柄のタバコを全てデスクに用意していました。ジョー・ジラード本人はタバコを吸いません。相手がタバコを取り出したら相手が吸っている銘柄を確認しておき、商談の合間に「一本どうですか?」と同じ銘柄のタバコを渡すんです。これも相手と自分が同じ立場であることをアピールする方法の一つでしょう。

奇策なし!「営業の神様」が教える当たり前の成功哲学
こんにちは。夫です。 今回紹介するのはジョー・ジラード氏の「営業の神様」。 夫 大学生のころ、コピーライティングやマーケティングを学ぶため営業手法についても学んでいました。営業はマーケティングの一つの形態ですからね。その中で出会った一冊。営...

戦略:提案を典型的なものに似せる

魅力的なアイデアほど、全く新しい、他に似たものがない革新的なもののように見せたくなるのがイノベーターです。ですが、スティーブ・ジョブズはiPhoneという全く新しいデバイスに、聞き馴染みのある「Phone」という名前を使いました。電話機能なんてごくごく一部で、今となってはおまけ程度のものでしかないにも関わらず、「これはあなたが全く知らない未知のものではありません。あなたがよく知っている電話です」とアピールしたわけです。

テスラのような先進的な企業であれば、車の特徴を何から何まで完全にデザインし直すものと思われていたはずだ。ところが、最初に生産が開始されたテスラのモデルSは、典型的な車によく似ている。動く仕組みは違うし、素晴らしい新機能がたくさん内蔵されているらしいが、外見は見慣れたものだ。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

僕が学んできたマーケティングの多くは、平凡な商品をいかにユニークで革新的で、他に似たものがないように見せるかを考えるものでした。本書はその逆を言っているわけですが、言われてみれば世界を変えた革新的な製品の多くは、見慣れたものからスタートしている気がします。AIの最新技術が、「チャット」という馴染みある形で提供されたChatGPTが世界を一変させたように…

戦略:アナロジーを使う

「〇〇のようなもの」という表現は、馴染みがないものを理解する時、多くの人にとってわかりやすいものです。
スティーブ・ジョブズが電話がおまけ程度についた革新的な新デバイスを「新しい携帯電話です」といったのも、一種のアナロジーです。ですが、スティーブ・ジョブズはそれ以上にものすごい発明を、iPhoneの数十年前に行っていました。

コンピューターが登場する以前、人々は物理的な世界で仕事をしていた。紙とペン、そして物理的なファイル・フォルダーなどを使っていた。仮想の世界で仕事をするというのは、これとは根本的に異なる概念だった。少なくとも、根本的に異なるように思えた。ジョブズが理解していたのは、物理的なオフィスと仮想のオフィスは基本的に似ているということだ。一般大衆の受け入れを図るために、ジョブズは人々がよく知っている従来の職場と、馴染みのない新しい仮想の職場とを効果的な喩えで結びつけた。
コンピューターが登場する前の職場ではアイデアを紙に書いたが、それを何と呼んでいたっけ?…「ドキュメント」だ。そのドキュメントを保存する必要があるときには何に入れていたっけ?…「フォルダー」だ。それで、そのフォルダーはどこに置いたんだっけ?…「机の上(デスクトップ)」だ。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

ジョブズがいなくてもPCやスマホは登場していた、というのは多くの人が同意しています。ですが、ジョブズがいなければPCやスマホの普及は10年、20年以上遅れていた、ということにもまた、多くの人が同意しています。その理由は、ジョブズの本質が優れたエンジニアやデザイナーではなく、優れたアナロジー使いだったからです。

ここまでは主に繰り返し伝える、馴染みのある別のものと紐づけることで、惰性による抵抗を取り除く戦略でした。ですが、初めて見たもの、全く新しいものでも、惰性を取り除く方法があります。
それが、相対性を利用する方法です。

戦略:極端な選択肢を追加する

相対性とは、300万円の車を買う時に5万円のオプションは気軽につけるのに、1000円のランチと1500円のランチで真剣に悩んだり、単純な目の錯覚、騙し絵のようなもので、大きさや長さが違って見えたり、いろいろなところで自動的に発生してしまいます。

自動的に、ということがポイントで、相対性が発生しない瞬間は現実には存在しません。たとえ選択肢が1つしかなかったとしても、顧客はそれを現状の自分と、選択肢を受け入れた自分で比較することで相対性をイメージします。

そんな相対性をうまく使う方法が、極端な選択肢を追加する方法です。例えばこんな2つのワインメニューがあったとします。

【メニュー①】
ビノ・ノワール 17.99ドル
カベルネ・ソーヴィニヨン 23.99ドル
ブルゴーニュ・ルージュ、ラフォーレ 22.99ドル
ボジョレー・ヴィラージュ 44.99ドル
モルゴン・G、デュブッフ 29.99ドル
シャトー・ラ・シャテニエール 19.99ドル
シャトー・オー・モンデン 125.99ドル
シャトー・ラギャルド、サンテミリオン 25.99ドル
コート・デュ・ローヌ、レ・アベイ 50.99ドル
【メニュー②】
ビノ・ノワール 17.99ドル
カベルネ・ソーヴィニヨン 23.99ドル
ブルゴーニュ・ルージュ、ラフォーレ 22.99ドル
ボジョレー・ヴィラージュ 44.99ドル
モルゴン・G、デュブッフ 29.99ドル
シャトー・ラ・シャテニエール 19.99ドル
シャトー・ローラン・ド・ヴィ 25.99ドル
シャトー・ラギャルド、サンテミリオン 25.99ドル
コート・デュ・ローヌ、レ・アベイ 50.99ドル

違いは「シャトー・オー・モンデン 125.99ドル」と「シャトー・ローラン・ド・ヴィ 25.99ドル」だけで、ほとんど同じワインメニューです。

多くの人はワインの価格はどれくらいが適正か、今の自分の味わいたい雰囲気やかけられるコストを比較して最適な答えを選べるわけではありません。メニュー表だけを頼りに判断します。
メニュー②を見た人の多くは、50ドルのワインがかなり高いと考え「今の自分の気分なら29ドルのものがちょうどいいかな」などと考えます。一方、メニュー①を見た人も同じように考えますが、結論は全く違います。125ドルのワインに少し驚いた後、50ドルくらいなら出してもいいか、と考えるようになっています。

映画館で売っているポップコーンのサイズがいくつあるか気にしたことはあるだろうか。S、M、L、XLだ。125ドルのボトルと同じで、XLがメニューにあるのは戦略上の理由からだ。Mサイズにしようと思っていた人にLサイズをかわせるためなのである。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

本書ではある廃棄物処理会社の例が書かれています。この会社は1年単位で廃棄物処理を受注していましたが、ほとんどの会社は1年だけの契約を申し込んできます。当然、会社はより長期の契約を勝ち取りたいと考えていました。そこで、1年契約、3年契約、5年契約という3つのプランを用意しました。するとそれだけで3年契約の申し込みが増えたんです。そのプランが登場する前は、ほとんど全員が1年契約だったのに。これも相対性をうまく使った例です。

戦略:欠陥のある選択肢に光を当てる

何かを提案する時、提案したいアイデアだけを提出するのは二流のやり方です。一流は複数選択肢を提案する中で巧みに比較を使い、自分が望んだ提案を選び取ってもらうようにもっていきます。

消費者心理学ではこの現象を「おとり効果」と呼ぶ。たとえば、選択肢が2つしかない場合は、両者の長所を比べていずれか1つを選択せざるを得ないため、消費者は個人的な好みで選ぶことになる。価格に敏感な人なら、安いほうを選ぶだろう。だが、第3の選択肢を提示されたらどうなるだろうか。その選択肢は、しっかりとした機能を備えているものの、結局のところ、製品機能の優れた既存の選択肢には劣る。そうなると、製品機能が充実している既存の選択肢が選ばれるようになるだろう。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

安いけど低品質、高品質だけど高い、という2つの選択肢だと、相手が品質と価格どっちを重視しているかによって決まります。もし自分が高品質だけど高い選択肢を選んで欲しいと思うなら、品質が良くないくせに高い別の選択肢も入れて、「これと比べたら、高品質だけど高いこの製品は、値段分の価値があるよね」という方向に持っていきやすいということですね。

ここまで本書が提唱する4つの抵抗の1つ目を取り上げただけなのですが、すでにかなり長くなってきました。ここで終わってもいいのですが、もう一つの抵抗も僕自身、絶対に押さえておきたい、次に担当するマーケティングキャンペーンで取り入れたいと感じるものだったので、取り上げたいと思います。

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最小の労力で最大の成果が欲しい

2つ目の抵抗は「労力」です。新しいアイデアにであった時、私たちは頭の中でそのアイデアを受け入れるのに必要な労力を想像します。その労力の大きさが、抵抗になります。
そして残念なことに革新的なアイデアほど、それを受け入れるために既存の何かを捨てたり、新しい知識を得たり、必要な労力も大きくなります。

これは「最小努力の法則」と呼ばれる人間社会全体に適応されたルールでもあります。例えば、英語で「goodby(さようなら)」を表す言葉は、元々「God be with ye(神のご加護がありますように)」という言葉で使われていました。
それが徐々に「God b wi ye」と略して表記されるようになり、音数もなくなり、「goodby」になりました。

確かに言葉ってどんどん短くなりますよね。「了解しました」→「了解」→「り」→スタンプ、みたいに。「おけまる水産」みたいな例外もありますが笑。例外はあんまり浸透せず、一時のブームで消えていくことの方が多い気がします。

くだらない話のように聞こえますが、なるべく楽な方を選ぼうとする性質は生き物にとって根源的であり、僕たちの知覚システムはより簡単な選択肢がより魅力的に見えるように設計されています。

最小努力の法則がイノベーションに与える影響は極めて大きい。この法則によれば、人々が新しいアイデアや機会について検討するとき、最初に考えるのはそのアイデアがもたらすメリットでも価値でもないいちばんの関心ごとは行動に要するコストだ。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

本書ではカスタマーサービスの責任者100人に「顧客ロイヤルティはどうすれば高められるか?」を聞いたところ、9割近くが「顧客の期待を超えること」と答えました。ところが、7万5千人の顧客に対象にした「どんな企業にロイヤルティを感じるか?」という調査では全く違う結果が出ました。この調査の結果、顧客がロイヤルティを感じるのは、期待を超えるサービスではなく、そのサービスの中で発生するやり取りなどの労力が低い時に感じることがわかったのです。つまり、期待を超えるキャッシュバックをお届けしたところで、そこで数回の電話とメールでのやり取り、面倒なフォームの送信などがあれば、ロイヤリティはむしろ下がってしまうということです。

この調査結果は、顧客サービスに対する企業の考え方を根本的に変えるはずだ。とうべきことは、「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか?」だ。この問いかけをすれば、新たな改善余地や優先すべき事柄が見つかる可能性がある。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

非常に面白い研究で、被験者にテストをしてもらう時、お菓子のボウルを被験者から75センチ離れたところに置いた時と、25センチ離れたところに置いた時とで、お菓子を手に取った人が倍も違ったんです。どっちが倍も多かったかはいう必要がないですよね。人はお菓子を食べるのに、手を伸ばすくらいの労力は払っても、腰を上げて身を乗り出すほどの労力は払いたくないんです。

さらにはある大学がたった一つの施策で出願件数を6倍以上に増やした例も紹介されています。大学出身者から有名人が出たわけでも、メディアに取り上げられたわけでもありません。やったことはただ一つ。出願フォーマットを他大学と同じものに変えただけです。
大学を選ぶという人生でかなり重要な選択でさえ、人は労力を削りたいので、他大学に提出した出願書類がそのまま使えるかどうかで大きく行動が変わったんです。

最小努力の法則を活用する

労力による抵抗を減らす方法も、非常にシンプルです。簡単にして仕舞えばいいだけです。

ある貧困地域では、汚染された水による健康被害が深刻でした。上下水道が整備されていない地域では、泥水をすくって生活用水に使っていたのですが、その水が汚染されていたのです。
水を浄化する方法はシンプルで、塩素を入れればいいだけで、多くの支援団体が家庭に塩素ボトルを配布していました。

ですが、塩素を使ってくれる世帯はわずか10%ほど。塩素を使わないと命の危険があることは認識しつつも、ただでさえ面倒な水汲みの時に、塩素を計量して入れて、水が浄化されるまで20分ほど待つのが面倒だったんです。

そこである団体が、水を組んだらその場で投入できる塩素ディスペンサーを開発しました。これまでは水を汲んで、持って帰って、それから計って入れて、浄化されるのを待ってようやく使えるのですが、このディスペンサーを使うと、水を汲んだ時に汲んだ量に合わせて数回プッシュ(正確な量で塩素が出るように設計されている)して、持って帰って使います(浄化されるのに必要な時間は持って変える間に立っている)。

水の浄化という命に関わる事柄なら、多少の手間はどうでもいいと思うかもしれません。ですが、たったこれだけの違い、少し手間を省いて労力を減らしただけで、塩素消毒を使う家庭の割合が4~5倍に跳ね上がったんです。

労力による抵抗を減らすシンプルな方法。そもそも手間がかからず、簡単にすることで命を救った例ですね。

他の調査では、「なぜ支援すべきなのか?」というメッセージよりも「いつ支援すべきなのか?」というメッセージのほうが何倍も効果的だったという例もあります。マーケティング担当者なら、購入すべき理由(ベネフィット)を論理的に説明するキャンペーンより、「⚪️月⚪️日まで限定キャンペーン!」とデッドラインを設けたキャンペーンの方が効果的なことが多いことを知っていると思います。

「いつ何をやるのか?」が明確になるだけで、人は労力を小さく感じます。EFO(エントリーフォーム最適化)でよく言われる手法として、申し込み完了までのステップの明示があります。これも、実際の手間を減らしたわけではなく、ただロードマップを提示して、「必要な労力はこれだけです」と教えることで、「必要な労力がわからない不安」や「必要な労力を創造する労力」を省く施策です。

そもそも簡単にする。アンケートの質問は50問より10問のほうが解答率が高いのは検証するまでもありません。そしてロードマップ(手順)を明示して必要な労力を明確にする。ここまではある意味当たり前として、本書はさらに3つのテクニックを紹介してくれます。

ノーと言いにくくする

科学論文では公開までに「査読」という厄介なプロセスがあります。自分や関係者だけでなく、第三者に論文を読んでもらい、間違いがないか指摘してもらうというプロセスで、きちんと査読された論文には高い権威性が宿りますが、そうでない場合、論文の結論には常にケチがついて回ります。
問題は、どうやって査読してもらうかです。査読に報酬をつけるのもいいですが、多くの研究者にそんな余裕はありません。論文の査読には数時間〜数日かかるので、やるほうもかなりの労力が必要です。

そんな時、簡単にできて実際に使われているテクニックが、ノーと言いにくくする依頼方法です。
情に訴えかけて断りづらくするのではありません。依頼する時、「依頼を受けてもらえますか?」と聞くのではなく、「依頼を受けるか、受けない場合は他の人を紹介してください」と尋ねるんです。

実際にこれは科学論文の査読ではテンプレートなやりかたになっているみたいです。確かに、自分が労力をケチって適当な誰かを紹介すれば、その人に労力をかけてしまうことになります。他の人を紹介するのはメールアドレスを書くだけなので一瞬ですが、相手との関係性などいろいろなことを考えてしまって、結局自分でやってしまうか…ってなりそうな聞き方ですね。

デフォルトにする

労力とは、要するに変化するのに必要なコストです。申し込むために必要な書類を書くこともコストですし、新しいアイデアを受け入れるために既存のアイデアを捨てることもコストです。
労力が変化に必要なコストなら、労力を実質的にゼロにする方法があります。それが、望ましい選択肢をデフォルトにする、つまり何もしなかった場合に起こる結果を、望ましい選択肢に設定するという方法です。

ディズニーは長年、園内の子どもたちに健康的なメニューを選ぶよう発信してきました。ですが、マーケティングを駆使して野菜や果物を推奨しても、ほとんどの子どもたちはフライドポテトやピザをたべたがります。
そこでディズニーは、子ども向けメニューのデフォルトを変更することにしました。これまでは「サンドイッチ+フライドポテト+ソーダ」が基本メニューでしたが、それを「サンドイッチ+フルーツ+ジュース」に変更したのです。もちろん子どもたちは追加料金なしで、フルーツをフライドポテトに、ジュースをソーダに変更することもできます。

ですが、、ほとんどの子どもたちは”デフォルト”の選択肢から、労力を払って本当は食べたいフライドポテトを選ぶことはしませんでした。この簡単な変更で、ディズニーで子どもたちが摂取するカロリーは21%、脂質は40%、塩分は45%も減少したそうです。

臓器移植のドナー登録で、免許書の裏に「同意する場合はチェックしてください」とした場合と「同意しない場合はチェックしてください」とするだけで、同意している人の割合が爆増した、なんて話もあります。要するに人は”変化”に労力を感じるわけですから、最初から望ましい形を与えたら、ほとんどの人がそちらを選ぶということです。

UXデザイナーのように思考する

UX(ユニバーサルエクスペリエンス)デザイナーは、特定のウェブサイトやサービスを心地よく、使いやすくする仕事です。究極のUXはiPhoneでしょう。従来の携帯には分厚い説明書があり、使い方を習得するのにかなり苦労しました。しかしiPhoneには説明書がありません。それでも、ユーザーは”直感的に”どう操作すればどう作用するのか理解することができます。iPhoneが電気製品のスタンダードになるにつれ、今では多くのデバイスが説明書なしで使えるほどUXを高めています。

そしてそのUXデザインの基礎・基本が、労力による抵抗を省くのに役立ちます。UXデザインは徹底して”わかりにくさ”を省き、直感的に、労力なく操作できるようにするものなので、言われてみれば当然ですね。

負担を軽減する

ユーザー体験に含まれる必須のステップが多ければ多いほど、ユーザーが途中で諦めてしまう可能性は高くなる。
<中略>
1つ1つのステップが微小な「抵抗」を引き起こし、そのせいでユーザーは注意が散漫になったり購入を再検討しようと操作を一時停止したりするようになる。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

そこでUXデザイナーは徹底してプロセスをシンプルにします。なくてもいいステップは徹底して省きます。フォームの入力項目にはわかりやすいプレースホルダー(記入例)を表示し、フォーム送信完了までのステップをわかりやすく表示します。

僕はマーケティングの仕事で広告運用を行っていますが、たまに使いにくい広告管理画面があるんですよね。某広告管理画面では、広告入稿の際、一番最後の保存のタイミングでいろいろなエラーが出るんです…優れたUXデザイナーなら、エラーは最後にまとめてではなく、発生したタイミングでわかりやすく表示してくれます。

その中でも最大のUXイノベーションがオートコンプリートです。Googleなどをブラウザを使っていると、メールアドレスの最初の一文字目を入れただけで候補が表示され、それを選ぶと名前や住所、電話番号など、ブラウザに保存された情報を自動的に入力してくれます。
これがオートコンプリートで、これの有無だけでフォームの送信達成確率が大幅に変わります。

デザインをシンプルにする

製品に機能を追加できるからといって、そうするべきとは限らない。多くの機能を搭載した製品は、ユーザーが困惑するほどインターフェースが複雑になりがちで、その結果、「労力」面(時間とエネルギー)と「感情」面(困惑感)、両方の「抵抗」を招くことになる。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

ここでもわかりやすいのはiPhoneです。それまでもスマートフォンと呼ばれるものはありましたが、大量のボタンが並んだ醜いものでした。ですがiPhoneの前面にあるボタンは1つだけです。今ではゼロになりました。
もちろんiPhoneはボタンを数多くつけて、使い慣れたらワンタッチで使える便利な機能をたくさんつけれたでしょう。でも、Appleのデザイナーは機能を追加することより、抵抗を減らすことを選びました。

Yahoo!とGoogleの検索画面の違いもわかりやすいですよね。Googleの検索画面を訪れたらやることは2つ。ブックマークしている場所をクリックしていつものサイトへ行くか、検索するかだけです。Yahoo!なら?興味のあるものもないものも含めて無数のニュース、外部サービスへのリンク、大量の広告…どちらが「抵抗」が少ないか、検索エンジン・ブラウザシェアをみれば明らかです。

選択肢を増やしすぎない

体験を重視する高級レストランのメニューは、小さな紙一枚だったりします。人は多すぎる選択肢から何かを選ぶことに大きなストレスを感じるからです。

「影響力の武器」だったと思いますが、ジャムの数が数個だとよく売れたけど、10数個になると悩んだ末買わない人が増えて売り上げが下がる、みたいな話があったと思います。僕もよく買い物に行って、これもいいな〜あれもいいな〜うーん、、、またにしよう、ってなることが頻繁にあります(笑)

影響力の武器|悪用される本能から身を守れ
こんにちは。夫です。 今回解説するのはロバート・チャルディーニ氏の「影響力の武器」。 夫 「影響力の武器」は大学生の頃、コピーライティングの勉強のために読んでどハマり。その後、何度も何度も読み直した本です。たぶん僕の人生で一番繰り返し読んだ...

iPhoneのボタンが一つなのも、Googleの検索画面に検索ボックス以外の要素がほとんどないことも、余計な選択肢を減らして、「選ぶ」という労力からユーザーを解放するためです。

Facebookが伸び悩んでいる理由はこれかもしれませんね…仕事柄使うこともあるのですが、、、Facebookの中は迷路です(笑)

進捗状況をユーザーに知らせる

氏名や住所、申し込みプラン、クレジットカード情報etc…膨大な項目数のある深刻なフォームの送信完了率をあげるには?

ステップをいくつかに分け、進捗を表示することです。フォームの上に「1 / 4」のように簡単な進捗状況が書かれたもの、メーターを用意して「25%完了」のように視覚的に表示するものを見たことがあります。

このような小さな励ましと確認がちょっとした褒美となり、フィードバックがない場合には大変なものに感じられがちなユーザーの道のりが、そうは感じられなくなる。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

魅力を高めるマーケティングは高くつく

ということで今回は『「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』から、僕がより大事だと思った2つの抵抗「惰性」と「労力」を紹介しました。

僕たちマーケターは、商品の魅力を高めるプロです。商品と市場について深くリサーチし、抗いがたいオファーを見つけ、魅力が最大限伝わるコピーライティングと広告戦略を実行します。ですがこの時、魅力を高めれば高めるほど「抵抗」も大きくなってしまう、そんな事実に気づかせてくれる本です。

本書では他にも2つの抵抗を紹介しています。

例えば、あるお菓子メーカーがケーキミックスを販売しました。水を加えて混ぜたら焼くだけで、ケーキができあがります。革命的に”楽”で、「労力」による抵抗をかなり下げることができています。
ですがこの製品、最初は全く売れませんでした。

そこでこのお菓子メーカーはさまざまな調査をもとに、ケーキミックスの素材を減らし、水を加えるだけでなく、卵も加える必要があるようにしたんです。つまり「労力」を増やしたんです。
ここまで学んできたなら、そんなことをしたらうまくいかないと思うでしょう。

でも、これによってこのケーキミックスは大ヒット。今も同じコンセプトの商品がスーパーの棚を占領しています。

確かに卵を加えるという手順によって、労力は増えました。ですがこれによって、本書で紹介されている第3の抵抗「感情」が引き下げられたんです。

ある抵抗を下げると、別の抵抗が大きく上がる。ある抵抗をちょっとだけあげると、別の抵抗が大きく引き下がる。そういうこともあるんです。つまり、何がなんでも労力を減らせばいい!惰性でできるようにすればいい!というわけでもないのが、難しくて、面白いところです。

本書はハウツー書だが、”How to do”ではなく”How to think”の本である。本書で紹介される理論や手法は以前からあるもので事足りる。ジョブ理論、エスノグラフィー、UXデザイン、ナッジ、トヨタのなぜ思考法など、使いたければ既存の解説書を開けば良い。本書が焦点を当てているのは、何を問題として捉え、何に注意を払い、どういう視点で考えればいいかという点である。特に、問題に対処する姿勢として、人間の本質(本性)を否定するのではなく、むしろうまく使うことを推奨する。たとえば、人間に将来備わっているショートカットを求める性質や馴染みあるものを好む性質、ものごとの判断に相対的な比較に頼る傾向などである。
<中略>
本書のコアメッセージは、アイデアを売り込むアプローチから抵抗に思いをめぐらすアプローチへの転換である。これは、友人との意見対立、夫婦喧嘩、子どもの教育など、身近なことにも色々応用で切ろうである。少しでも多くの人の役に立てば幸いである。
引用:「変化を嫌う人」を動かす〜魅力的な提案が受け入れられない4つの理由

この言葉通り本書はマーケティングの抵抗、顧客心理という一見曖昧なものをテーマにしながら、研究結果と事例で埋め尽くされています。最終章では実際の企業の事例をまとめた事例集もあります。
「こうすればいい」のようなわかりやすい”How to do”はありませんが、無数の事例からは”How to think”がたくさん見つかるはずです。

本書を読んで何を学んだか?ではなく、本書を読んで、どう考え、どう活用するか?です。僕はさっそく、普段の仕事に活かすことがたくさん思い浮かんだので、一つ一つABテストを繰り返して行こうと思います!

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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