こんにちは。夫です。
今日紹介するのは米国防総省の人口統計コンサルタント、ジェニファーD・シュバ氏の「人類超長期予測」です。2030年や2040年を予測する本はよく見かけますが、この本ではなんと2100年まで。今から80年近く先までを予測しています。
本書をどのように紹介すればいいのか。書き始めてもまだまとまっていません。本書は「人口統計」という単純な切り口から、さまざまな政治・社会問題を説明し、将来を予測しているからです。全てが人口統計に紐づいて語られるので、どこかの前提を省けば話が通じなくなってしまいます。
例えば、イギリスのブレグジット(EU離脱)投票の前、イギリスの人口統計は20年で大きく変化していました。変化を主導したのは、人口動態を決める主要要素の一つ”移民”です。2004年に16万人ほどだった移住者は2014年には124万人に増え、非白人比率は倍増。そんな中行われたのが、ブレグジット投票です。調査によると、ブレグジットを支持した有権者の95%は、ブレグジットに経済的メリットがほとんどないことを理解していました。彼らは経済的メリットより、移民によって社会が変わることを恐れたのです。本書ではブレグジットに至った人口動態の変化をかなり詳しく解説していますし、移民への拒否反応がなぜ生まれるのかも分析しています。
本書では人口動態の出発点である「出生率」が過去と現在でどう変わってきたか、政策や社会がどう影響してきたかに始まり、我々日本も悩まされる「高齢化」を分析します。過去、人口が減少した国は存在しました。しかしそれらは疫病、戦争、飢餓などです。高齢化は、人類が初めて直面するタイプの人口減少なのです。
ちなみに本書執筆時点で、ロシアはウクライナに侵攻していませんでした。ですが、本書では人口動態の変化から「国力が低下しつつある国は、まだ体力があるうちに攻撃的な行動を取りやすいという理論で、ロシアの行動は最後のあがきとして説明できる」と警鐘を鳴らしています。この時点でロシアの行動に言及しているとは、さすが米国防総省の人口統計コンサルタントですね。
高齢化の次は、健康状態と死因の多様化を深掘り、さらには移民、政治、経済への話を展開していきます。全部が絡み合っているので、どこかを切り取ってわかりやすく伝えるのは困難。なので、この記事では、一部の引用と本書の最後「世界人口の行方について断言できる6項目」を紹介したあと、僕が気になった各論をピックアップしていこうと思います。
おそらく、ピックアップした各論を読んでもイマイチ意味がわからないと思います。本書の内容を理解するには、本書を全部読むしかない。久しぶりにそういうタイプの、濃い本に出会いました。
人口統計は私たちの過去を見るための窓だ。人口統計学は、政治、社会、経済がどう変化してきたかを理解し、それらのあいだにパターンを見出すうえで役に立つ。人口統計学はまた、私たちの未来を見るための窓でもある。未来の世界の全体像を掴むには、人口統計学が不可欠だ。
<中略>
人口動態とそれが意味するところがわかっていれば、暴力または平和、民主主義または抑圧、繁栄または貧困が世界的規模で展開するかを予測するうえで、大きな一歩を踏み出せる。人口はあらゆる社会の基礎であり、未来を予測する最高の水晶玉であるため、将来を評価するうえで重要な役割を果たす場合が多いのだ。
<中略>
予測とは未来を予言することではない。現在への投資を促すことだ。つまり、人口統計学的に広範な予測を立てれば、明日に望む未来を実現させるために、いま、実施しなければならない投資の方向性が見えてくるのだ。
引用:人類超長期予測
IntroBooksでは投資関係の本もたくさん紹介していますが、投資をする最も大きな理由は、「紆余曲折はあれど、世界は今後も発展し続ける」という大前提があるからです。そしてその大前提の元になっているのが、人口動態。人口統計という窓から未来を見ることは、単なる教養や雑学ではなく、ビジネスや資産形成にも役立ちます。
世界人口の行方について断言できる6項目
ということでまずは本書の最後に書かれている「世界人口の行方について断言できる6項目」を紹介します。前述の通り、本書ではさまざまな前提、過去と現在を徹底して説明した後でこの結論に行き着いています。なので、ここだけ読んでも6つの予測が意味するものがピンと来ないかもしれません。
この6つを深く理解したい方はぜひ本書を手に取ってください。
筆者は「予測には限界があり、絶えず仮説をアップデートする必要がある」としたうえで、この6つだけは断言できると言っています。
人口規模には思い意味がある
社会を動かす最も大きなエネルギーはなんでしょうか?技術発展でしょうか?たしかにGAFAMなどのハイテク企業は、トヨタよりはるかに少ない人数で、圧倒的に大きな(主に金銭的な)価値を生み出しています。
しかし筆者は、どれほどテクノロジーが発展し、社会の風潮が変わろうが、「人口は多ければ多いほどいい」という基本原則は今後も変わらないといいます。
確かに、政治・経済の現場でも、人口減少はよくないという意見が前提にあります。人口は減ってもいい、その分技術でカバーしようという人はほとんどいません。富の集積こそが国家権力だと考えた重商主義(商工業を重視する思想)でも、その富は人が生み出すため、人の蓄積が富の集積につながると考えていました。
社会の人口とその構造は、社会のほかの要因にダイレクトに影響を及ぼし、ある集団がほかの集団と比べて自分たちにはどんな強みがあるかを認識するうえで、大きな比重を占めている。
引用:人類超長期予測
人々はある程度、予測可能なパターンで移動する
人の数だけ人生があり、子どもをもつかどうか、結婚するかどうか、ほかの国に移住するかどうかなどは、人の数だけ理由があります。ですが、全体を見れば、ある程度予測可能なパターンで移動しているのも確かです。
その中でも、経済的な理由による移住は最も予測がしやすく、労働者は賃金が高い場所へと動いていきます。実際、移住労働者の大半は中所得国から高所得国に移動しており、本書ではそれを示すさまざまなデータを紹介しています。アメリカに夢を見て移住する人は多いですが、アメリカから移住する人は決して多くありません。これはアメリカより裕福な国がほとんどないからです。1人あたりGDPが1〜1.2万ドルを超えると、国外への移住率は下がり始めます。
移動、移民は高齢化とも直結します。高齢化が進むと、労働力の供給不足によって働く人の条件がよくなり、その国に行きたい人が増えていくんです。メキシコは治安も悪く、これまではアメリカへ移民を排出する側でしたが、所得が上昇し、高齢化が進んだことで、移民を受け入れる側に変わってきました。
世界では都市化が進んでいる
日本では東京一極集中の是正などが話題ですが、これはあまりに極端に集中しすぎていたことへの反動でしょう。世界の都市化はどんどんスピードを増しています。1800年代、工業化が大きく進んだ時、ロンドンは年2%のペースで成長しました。25年で人口が2倍になるスピードです。一方1900年代後半、ルワンダの首都キガリの人口は年7%で成長し、10年ごとに倍増していました。
2050年には世界人口の70%が都市で暮らすと予測されています。欧米や日本の年はすでに飽和状態にあるので、都市化の大半はアジアとアフリカで起こります。
都市化が進むと、イノベーション、資本、人財、投資の全てが集まり経済的メリットを享受する一方、急激な環境変化による弊害、自然災害や食料問題などを引き起こすでしょう。
高齢化世界がやってくる
以前紹介した「LIFE SPAN~老いなき世界」では、最新研究が老化の唯一の原因を突き止め、それによって120歳まで健康に長生きできる未来がやってくることを紹介しました。
筆者は医療テクノロジーの専門家ではないので、寿命が伸びるのかどうかはわからないといいます。ですが、断言できることは、100歳を超える人はどんどん増えており、今後も増え続けるということです。
日本政府は100歳を超えた人に記念として銀杯を贈っています。ですが最近、純銀製だった銀杯が銀メッキに変わってしまったんです。それもそのはず、1963年には153人しかいなかった100歳越えの人は、2020年には8万人近くになり、2027年には17万人になると予測されているからです。
高齢化は一時的な流れではとまりません。高齢化が一定を超えて進むと、経済は縮小し始め、政府による支援も難しくなります。いち早く経済発展し、高齢化の第一波に乗った日本をはじめとする先進国は、少子高齢化に対応した年金制度が整っていないことも課題です。
さらには足りなくなった労働力を補うため、あらゆる年齢の女性にも労働市場に参加してもらう必要があります。
仕事だけでなく、高齢者の介護や財政面での負担などから、さらに少子化が進んでしまうループに入ります。
適切な政策を実施すれば、私たちが望む未来へと歩めるようになる
この記事の冒頭で「予測とは未来を予言することではない。現在への投資を促すことだ。つまり、人口統計学的に広範な予測を立てれば、明日に望む未来を実現させるために、いま、実施しなければならない投資の方向性が見えてくるのだ」という引用を載せました。
人口動態予測はかなり精度が高く、大きな波のようにトレンドをもって動くため、先行きが見通しやすく、簡単に変えることができないものです。それでも、予測は予言ではありません。適切な未来に向けた投資の指針になるものです。
人口動態と、社会、政治、経済の因果関係は双方向です。人口動態が社会や政治、経済に影響することもあれば、逆に社会や政治、経済が、人口に影響することもあるんです。少子高齢化のループは、政治的アプローチで断ち切ることも十分可能なのです(難易度は高く、人類史において誰も成し得たことがない課題ですが…)。
国が導入する教育、都市化、年金といった政策によって、人口動態の未来は変化します。似たような人口規模を持つ国にインドと中国がありますが、実際、深く見ていくとかなり違う部分があります。
例えば都市化。中国ではかなり都市化が進み、深圳のように急速に発展したハイテク都市も登場しました。一方、インドの都市化は世界平均と比べても低く、圧倒的人口ボリュームを十分に活かせていない現状があります。女性の識字率も、中国ではほぼ100%なのに、インドではまだ66%。
少なくとも現状では、中国の方が人口規模をうまく活用していると言えます。しかし中国はすでにかなり高齢化が進んでいるので、今後10年、20年でインドがどのような政策を取るのか?に注目が集まっています。もしインドが大きく舵取りを間違えると、世界中に何億人という移民が飛び出し、世界規模で人口動態を大きく変えてしまうかもしれません。
人口統計に見られる格差が国の命運を分ける
人口データには、人数だけでなく、年齢や性別、識字率などさまざまな種類があります。そしてあらゆるデータが先進国と途上国の間で格差が広がっていることを示しています。2020年から2070年までの人口増加の89%が低所得国で生じ、高所得国ではわずか3%しか増加しません。他にも、出生率や平均余命など、あらゆるデータで格差が広がっています。
本書では途上国のデータが数多く紹介されるのですが、日本に住む僕たちには信じられないようなデータがたくさんあります。現代の日本よりは、紀元前のほうが近いんじゃないかというくらいの格差に驚きます。
年齢構造はすべてを物語るわけではないものの、さまざまな国の政治・社会・経済の問題に関する明確なヒントを伝えている。出生率と年齢構造の関係、そして年齢構造と紛争や発展の関係を考慮すると、出生率が極めて低い国と高い国の経済は、それぞれが従属人口の要求を満たすうえで課題に直面するだろう。その一方で、多くの新興国のように中間の年齢構造を持つ国は、高い経済成長と平和というボーナスを得るだろう。こうした変化がどのように列強に影響を及ぼし、世界に平和や繁栄をもたらしていくかは、今後、注目していくべきだろう。
引用:人類超長期予測
この6つが筆者が「世界人口の行方について断言できる」と言ったものです。これだけ読んでもピンと来ないかもしれませんが、この6つを抑えたうえで今と過去のデータを見ると、未来が見えるようになってきます。未来が見えるというのは「今の人口動態がこうだから、この国は今後このように発展していくだろう。ただし、こうした政策が行われたら、このように変化するだろう」のように、さまざまなシナリオを自分で考えられるようになるということです。
本書ではこの結論に至るために、出生率や高齢化、移民、医療、政治と経済などさまざまな人口変化要因に言及しています。人口動態によって経済が発展する「人口ボーナス」とその逆の「人口オーナス」都市化のメリットデメリット、今後の人口動態推移などにも触れています。
この記事では最後に、本書の中で僕が最も面白いと思ったトピック「子どもが多ければいいわけではない」を取り上げて終わりにしたいと思います。
理想的な出生率は存在するのか?
1965年、ルーマニア最後の共産主義統治者のニコラエ・チャウシェスクは人工妊娠中絶を禁止し、産婦人科病院に警官を配置。45歳未満の女性に毎月、産婦人科健診を義務付けました。
当時のルーマニアには、共産主義の経済モデルを実現させるために十分な労働力がなかったからです。
この政策により、1.8だった出生率は1年で3.66にまで急上昇しました。この子どもたちはやがて大人になり、共産主義的経済モデルを実現する素晴らしい労働力になると考えたのです。
一方、同じ共産主義国家でも、中国は真逆でした。1979年には一人っ子政策を導入し、出生率を下げるための政策をとったのです。
似たような経済モデルを掲げても、理想とする出生率は真逆で、実施する政策も真逆です。日本では出生率の低下が問題視されているので、出生率を上げるための政策がいいように感じてしまいますが、経済が急成長したのは、出生率を下げた中国でした。そもそも理想的な出生率はどれくらいなのでしょうか?
現在、実は多くの国が出生率を下げる努力を続けています。例えば今後も人口が増え続けるとされるアフリカでは、出生率が高すぎること、その裏にあるさまざまな事情が問題視されています。
出生率が高いということは女性が若い年齢で、妊娠可能な期間のほとんどで子どもをもっているということです。開発途上国のチャドでは、第一子出産平均年齢は18歳です。平均が18歳なので、当然かなりの人が18歳以下で子どもをもっています。
当然、そんなに若く子どもをもって、それからも何人も産むとなれば、教育の機会は制限されます。一般的に、生活水準が向上し、死亡率・就学率が改善すればするほど、望む子どもの数が減るとされています。こうした国ではあまりに若く子どもをもってしまうからこそ、就学率が低く、生活水準を向上させる機会に出会えず、多産が連鎖してしまうんです。
アメリカのシンクタンク、平和基金会は毎年「脆弱国家指数」と呼ばれるものを発表しています。国民に基本的なサービスが行き渡らず、暴力行為が蔓延している危険な国を示す指数です。その上位の国はどこも、(日本からすれば羨ましいですが…)子どもの数、人口に占める未成年の割合が以上に高いんです。脆弱国家指数上位10位はほぼ全て、人口に占める未成年の割合が5割を超えています。
人口の半分が子どもや若者である国を、いったいどう統治すればいいのだろう?数百万もの子どもたちの口に入れる食料を確保するために、どうやって経済を成長させればいいのだろう?実際のところ、私たちにはその方法がわからないのだ。
引用:人類超長期予測
しかしこうした国が強制的に子どもの数を制限すればうまくいくのかというと、そうとも限りません。急激な出生率の転換には、負の側面もあります。
その一つが「行方不明の女児問題」と呼ばれるものです。自然に妊娠・出産すれば、生まれてくる子どもは女児100人に対し、男児103〜106人という若干の偏りが生じます。
2010年、中国の新生児は、女児100人に対して、男児117人と、自然ではあり得ない偏りが生じていました。一人っ子政策により、子どもの数が制限された結果、多くの家庭で跡取りになれる男児が選好された結果と言われています。この問題は、アフリカにも及んでいて、多くの途上国で不自然に男児が多くなっています。
ちなみにこの数字はあくまでも平均で、第何子か、都市部か農村部かなどによっても変わります。2010年、中国の新生児は女児100人に対し、都市部では男児118人、農村部では122人でした。また、都市部の第1子は男児113人であるのに対し、第2子では132人、かなり珍しいですが、第3子では175人でした。
第3子の偏りがすごいですね。どうしても跡取りが欲しくて、男児以外出ないと困る…という状態なんでしょうか…1990年の韓国でも第1子が男児113人に対し、第3子では192と明らかに異常な偏りが見られたそうです。韓国でも子どもの数を制限している時期がありました。
日本にいるとどうしても少子高齢化は悪いものだという印象で考えてしまいますが、実は世界では人口の増えすぎに悩む国も少なくないのです。
例えば、本書では若者の比率が高い国は、民主化しにくいというデータも紹介しています。
国が若い人口構造を抜け出し、高齢化するにつれ、民主化する見込みは大きくなる。人口統計学者リチャード・チンコッタの研究によれば、若い人口構造の国で10代後半の若者の割合が約4割に低下し、中位数年齢が29.5歳程度になると、政治体制が自由民主主義と見なされる確率が半分になるという。チンコッタの研究によると、中位数年齢が25歳以下では、国際NGO団体フリーダムハウスによって自由と評価された国が、その状態を10年以上維持できることはまずない。中位数年齢が15歳の時点で、自由と評価される可能性がある国はたったの8%ほどだ。中位数年齢が25歳を超える国の可能性は30%にすぎないが、中位数年齢が35歳になると可能性は75%に上昇し、中位数年齢が45歳に達した国々では90%になるという。
引用:人類超長期予測
高齢化するほど民主化して、自由度が増すというのは衝撃的ですね。若者の方がアグレッシブに変化を求めるので、結果的に急激な変化をもたらしそうな独裁者が誕生しやすいんでしょうか。高齢化によって国が安定するという考え方はしたことがありませんでした。出生率が高ければいいわけでも、若者が多ければいいわけでもありません。人口動態では、急激な変化や極端な偏りが問題なんです。
人口動態は当然、働き方や給与、年金にも影響します。より正確には、人口動態と働き方や給与、年金は相互作用しています。
日本以上の高齢化に悩む韓国の年金支給額は、平均賃金のわずか6%しかありません。日本で言うと平均賃金が443万円なので、その6%の約26.6万円。1ヶ月あたりにすると、2.2万円ほどの年金しかもらえないのです。その影響か韓国の高齢者の自殺率は国全体の3倍にものぼっています。少子高齢化が進んだから年金が減ったのか、年金が減ったから現役時代にしっかり貯めておく必要があり子どもを産まなくなったのか、その答えは微妙なところです。
また、男女の社会進出も人口動態に相互作用します。
女性が働くことを奨励されない場合、主婦や母といった役割がより明確になり、出生率は高くなる。それでも、出生率に影響を及ぼす不安要素はある。男性が稼ぎ手になることを期待され、安定した職を得てから家庭を持つ慣習のある因習的な社会では、就職口が少なければ出生率は低くなる。
<中略>
性別役割分担の意識と労働市場の状況が相互に作用しあい、出生率に影響を及ぼしているのであり、どちらか一方だけが原因ではない。実際、男女が平等の役割をになっている国では、出生率はより低い。というのも、男女平等の役割を担うことを期待されているからこそ、女性たちは特定のライフスタイルを送らざるを得ないのであり、仕事と家庭を両立させるうえで社会が認める方法の選択肢が増えるわけではないからだ。
引用:人類超長期予測
これは難しい問題ですね。男女平等、女性の社会進出が進んでいますがそれによって少子高齢化がさらに進んでしまうという負の側面もあるんです。かといって女性に女性の役割を押しつけるわけにもいきません。日本以上に少子高齢化が進んでいる韓国は、男女の賃金格差がOECD加盟国の中で最も大きいというデータもあります。不思議ですよね。女性の社会進出が進み男性と同じ役割を求められるようになると出生率が下がる。でも、女性の社会進出があまり進まず賃金格差が非常に大きい韓国は、最も少子化に苦しむ国の一つなんです。
結局、100年後はどうなる?
ということで今回は「人類超長期予測」を紹介しました。
本書を読めば、今の世界が抱える課題と、そこから必然的に導かれる未来がかなり鮮明に見えてきます。
個人的に一番面白かったのは「予測とは未来を予言することではない」という言葉。本書では人口動態から導かれるさまざまな未来を予測していますが、そのいずれも予言ではありません。あくまでも「このままいけばこうなる」というシナリオを示しているだけです。
つまり、そのシナリオが気に入らないのであれば、自分たちの手で変えることができると言うこと。
一方、本書では人口動態に対するさまざまな政策にも触れていますし、子どもや老人、就労人口、男女、移民など、さまざまな切り口で見た人口統計がどこかに偏った時に起こる問題も教えてくれます。
日本は今少子化高齢化に悩んでいます。もし強引な政策で出生率を倍以上にして、毎年150万人もの子どもが生まれるようになればハッピーでしょうか?
いえ、子どもは生産せず、消費だけを行う存在です。彼らが大人になって生産し始めるまでの20年余り、日本はほんでもない生産不足による物価高騰に苦しめられるでしょう。病院や学校の整備など子どもの福祉のために莫大なお金が必要になり、かなりの増税が行われることも予想できます。また、20歳以下の割合が増えると民主主義が揺らぐという問題もあります。
つまり、極端に子どもを増やしても、社会は不安定化するんです。実際、高すぎる出生率に悩んでいる国も少なくありません。
政治や経済という無数の要因が絡み合う事柄について、「これをすればうまくいく!」みたいなインスタントな解決策は存在しません。バランスをとりながら、なんとか綱渡りしていくしかないんです…
人口が増えると経済が発展する「人口ボーナス」についても、本書を読んでイメージが変わりました。それまで、単純に人口がどんどん増えていくとそれに従って経済も発展すると言うイメージでしたが、実際には少し違います。
一般的に、人口統計学的な「機会の窓」は、出生率が低下したあと、15歳未満の子どもの割合が総人口の30%未満で、65歳以上の高齢者の割合が総人口の15%未満の時に開くと考えられている。中位数年齢は26歳から40歳程度だ。このチャンスが訪れているあいだに、国は健康、教育、経済成長、政治的安定というボーナスを得る。
研究者たちはこの年齢構造の変化によって得られる恩恵を「人口ボーナス」と呼んでいる。人口ボーナスは、生産年齢人口の増加率が総人口の増加率を上回り、1人当たり国民所得の増加率も伸びているときに得られる。
引用:人類超長期予測
人口ボーナスは、どんどん人口が増えて、出生率が低下し始めた時、つまり少子化のスタートラインで起こるんです。大切なのは、総人口に占める生産年齢人口の割合の変化です。生産年齢人口の割合が増えていれば、1人あたりの所得が増えます。そうして増えた所得などのリソースをより良い教育などに費やし、より付加価値の高い人材を生み出すことができます。
しかし、少子化対策で子どもが増えた場合、生産年齢人口の割合は下がります。子ども1人あたりにかけられる教育リソースも減り、子育て支援などによる社会福祉の負担増に対応するため、税金や人的リソースが投じられ、経済成長のための投資が疎かになります。
かといって少子高齢化で人口が減っていくのを放置しても、経済はジリ貧。なんだこれ、、、めちゃくちゃ難しい問題じゃないですか…「哲学の世界へようこそ」を読み直して答えのない問題に立ち向かうか…
人口動態は僕たちそのものでありながら、深く意識することはありません。その理由は、僕たちが人口動態の一部に完全に組み込まれているからでしょう。ですが間違いなく、人口動態は僕たちの生活に影響しています。
人口動態に特化した本を読むのは多分初めてですが、めちゃくちゃ面白かったので別の本も読んで、取り上げたいと思います。
この記事を書いた人
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かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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