お久しぶりです。夫です。
実は我々夫婦、最近引っ越ししまして、もろもろ忙しくて更新できていませんでした。
引っ越したらまず何をするか。読書好きならやっぱり、近所の本屋さんに行く!でしょう。本屋さんはお店はもちろん、地域によってもかなり違いが出ます。
例えば、夫が昔住んでいた家の近くの本屋さんは漫画と雑誌ばっかりでした。1人暮らしの人が多い土地だったのでそういう本の方が需要があるのでしょう。そして今回引っ越したのはビジネス街の近く。近くの本屋さんもビジネス書がかなり充実していました。
ということで、今回は引っ越した翌日に近所の本屋さんで購入した「億万長者だけが知っている教養としての数学〜世界一役に立つ数学的思考力の磨き方」という本を紹介したいと思います。
難しい数式は覚えず、教養として数学を学ぶ
「億万長者だけが知っている教養としての数学〜世界一役に立つ数学的思考力の磨き方」タイトルだけ見るとなかなか難しそうです。
僕は理系大学出身なので、人並み程度には数学を理解できるつもりでしたが、本書で出てくる数式や数学的思考のいくつかは難しくてよくわかりませんでした。
しかし本書の趣旨はあくまでも「教養としての数学」です。数式を覚えるのではなく、「数学ってこういうもんなんだ」「身の回りにはこんな数学があるんだ」「数学を使えばこういう事ができるんだ」という感覚が大切なんだと思います。
最近、「教養としての〇〇」という本、増えましたよね。求められるスキルが高度化、多様化していますし、基本的な仕事は機械やソフトウェアがやってくれるようになりました。スキルを身に付けるというより、教養として知っている、理解できることが大切なんだと思います。
なので、僕がちゃんと理解できていない数式を紹介することもありませんし、そもそも数式はほとんど出さずに紹介したいと思います。
まず本書が問いかけるのは、「数学への依存度が高まっている」という現状です。
身の回りで言うとお金。
収入より支出が少なければ、お金が余り、貯蓄や投資に使うことができる。収入より支出が多ければ、借金を抱えることになり、借金は未来の購買力を前借りした上、金利を追加で支払う行為である。
数学というより算数レベルですが、このことが理解できているかは重要です。お金の名著である「バビロンの大富豪」でも、収入の10分の1を貯蓄しろ、と教えられますが、その段階で多くの人が離脱してしまいます。
収入の10分の1を貯蓄するにはどうすればいいか?収入の10分の9に支出を抑えれば良いんです。超簡単ですよね。
他にも、目に見えないところですが、機械やソフトウェアも数学によって動いています。あるキーワードで検索した時、何がどういった順序で表示されるか、SNSのタイムラインにはどの順番でどんな投稿が並んでいるか。これらは数学によって動いています。
値段を付けるのも数学です。僕は本書を新品で1800円+税で購入しました。でもほとんど同じサイズの本が違う値段で売られたりしていますし、たぶん本書もそのうち文庫本になって同じ内容なのに半分程度の値段で売られるでしょう。アマゾンで中古を探せば、もっと安いものも見つかると思います。
なぜこれはこの値段なのか?これも数学によって決まります。
本の値段1つをとっても、製造原価、著作権料、配送料、在庫・廃棄コスト、マージン、需要調査と販売予測など色々な数字が入って、最終的に値段という形で僕たちの目に入りますよね。出版社の業績や担当者のノルマなんていうのも入ってきたりするのかも…
あと、本書でかなりの割合を割いているのが投資とギャンブル。この2つが同じ段落の中に出て来たら気をつけろ、というのは持論ですが、本書の中では数学を知ることで、節度を持ってギャンブルを楽しむ、リスクを理解して投資で資産を増やす、といったことも紹介されています。
なんとなく、教養としての数学がイメージできたでしょうか?
僕らの身の回りには数学が溢れています。にも関わらず、そのほとんどが理解できない。数式が理解できないのは問題ではなく、数学に囲まれているという事実、数学という考え方が理解できていないことが問題です。
「バビロンの大富豪」でも教えられている「収入の10分の1を貯蓄(投資)しろ」を聞いた時、たぶん2パターンに分かれます。
1つは「今の生活もいっぱいいっぱいなのに無理」とか「せいぜい数万円。そんなことより大きく稼ぎたい」と考えるタイプ。
もう1つは「なるほど、収入の10分の9で生活すれば良いのか」「それを年利5%を目標に投資に回せば、30年後には…」と考えるタイプ。
後者には教養としての数学があり、前者には数学としての教養がありません。
どちらが豊かな人生を歩んでいけるかは…たぶん分かりますよね。
お金とはなにか?最も身近な数学
身の回りにある数学で最も身近なのは時間とお金です。
時間は比較的単純ですよね。例えば、僕は今日友人が訪ねて来る予定があるのですが、それまでに記事を書き終わって公開したいと思っています。となると、今の時間−友人が来るまでの時間=僕に与えられた執筆時間になります。
今日朝ごはんを食べようと思ったらご飯を炊き忘れていた…ご飯を炊くには約1.5時間かかるので、朝起きてから朝ごはんまでに1.5時間以上ないなら、前日の夜に準備しておかないといけないことは当たり前の数学なのに…
本書の始まりは「お金とはなんだろう?」という問いから始まります。
お金を定義することは難しく、ちゃんと理解するには数学に加え、経済学や歴史の知識も求められます。なのでここでは単純に、「価値を数えるための数学的な道具」としておきましょう。
この本は1冊1800円です。しかしその言い方は正確ではないかもしれません。この本は、1800円分の価値があり、1800円と交換できる、と言った方が正確です。
では、1800円分の価値とは何でしょうか?
昨日食べたブリは2切れで500円ほどでした。つまり、ブリ2切れは500円分の価値があり、500円と交換できる、ということです。
なので、ブリ7.2切れは1800円分の価値があり、本の価値と一致します。
ブリ7.2切れと本書の価値が同じ。ということは、ブリ7.2切れと本書を交換することができるのでしょうか?
双方が応じれば可能です。日本円という単位にして、同じ価値があるとされるからです。
とはいえ、僕の家にブリ7.2切れ、ちょっとおまけで8切れ持ってきても、本書はあげませんよ。
ブリ7.2切れと本1冊には同じ価値がある。日本円という価格に置き換えるなら数学的に問題ありません。
しかし、価値というのは主観的なものです。ブリがめちゃくちゃ好きな人やお腹が空いてたまらないという人にとって、本よりブリの方が価値があるでしょう。僕は今お腹を空かせているわけでもないですし、本には特別な価値を感じているので、ブリを大量にもらっても困ります。
お金を「価値を数えるための数学的な道具」と紹介しましたが、この価値というのは主観的ですし、他のものと比較して初めて分かる相対的なものです。
同じ1万円でも、お金に余裕がある時の1万円と余裕がない時の1万円では、お札の値段は同じでも、価値は違いますよね。
そう考えた時に、お金の使い方が少し変わると思いませんか?
値段は売り手にとっての価値であり、買い手にとっての価値ではありません。自分の主観的、相対的な価値が、値段より高ければ買えばいいし、安ければ買わない方が良いということになります。
さて、ここまで紹介した方法。実は本書の7ページ目までしか進んでいません。途中バッサリ飛ばす予定ですが、長くなりすぎるのでスイスイ行きましょう。
お金儲けの4つの数学的法則
そうそう、それが知りたかった。そんな声が聞こえてきますが、続いては「お金の儲けのための4つの数学的法則」という章をさらっと紹介します。
先ほど、お金について「価値」と「価格」は違うという話をしましたね。
価格で換算すると本書はブリ7.2切れと同等ですが、今の僕にとってはブリ7.2切れより価値があるので、頼まれても交換しません。
お金を使った取引というのは、1つのものに対して買い手と売り手がそれぞれ価値を付け、その価値と価格に合意が生まれると成立します。
そうですよね。本書の売り手は、1800円という価格で販売することで得られる利益や売上に価値があると判断し、僕は1800円という価格で買い取ればそれに見合った知識や体験などの価値がある、と判断して合意したのです。なので僕は1800円を手放すことで本書を手に入れ、売り手は本書を手放すことで1800円を手に入れました。
これはどんな取引でも成り立ちます。
ある株が10000円で取引されているとすると、10000円で売りたい人と、10000円で買いたい人がいるわけです。売りたい人にとってその株は10000円以下の価値があると判断しているから10000円で手放すわけですし、10000円で買いたい人にとってその株は10000円以上の価値があると判断しているから10000円で買いたいのです。
お金を儲けるとは、あるものを自分が思う価格より高い価格で買ってくれる人と交換することです。本書ではそのための方法を4つ紹介してくれています。
1つは自分の労働力を売って給料を貰う方法。一番一般的ですね。自分の時間やスキルなどの労働力に価格にして1時間1500円の価値があると考えているなら、時給1500円以上で働けばお金を儲けることができます。逆に1500円以下で働けば提供した価値以下の価格しか受け取れていないので、損をしていることになります。
単純なことですが、転職や就職の際はこの考え方を持っておきたいですね。
2つ目はビジネスを起こし、商品やサービスを生み出す方法。これもわかりやすいですね。他の人の労働力や原材料、製造費用などを費やして生み出した商品やサービスが、市場でそれ以上の価格で売れるなら、お金が儲かります。
絵などで考えるとわかりやすいかもしれません。数百円の絵の具と数千円のキャンバスを買って、素晴らしい絵を書いて1万円で売れたら、その差額分の利益を手にしたことになります。どんなビジネスでも、原価に付加価値を付けて、より高い価格で販売することで利益を生みます。
3つ目は投資です。投資の本質は、自分のお金をよりうまく使って価値を生み出してくれる人や組織に預けるという行為です。例えば、僕はアップルに投資していますが、僕が持っている10万円を僕が持っていても大した価値は生みませんが、アップルが持っていれば新しいiPhoneやウェアラブルデバイスなどを開発して、価値を生み出してくれますよね。そしたらその一部が自分に返ってきます。これが投資の本質です。
4つ目は価格変動を見つけて「安く買って高く売る」という方法です。投資も本質的には3つ目ですが、短期トレードなどでは「安く買って高く売る」という行為になります。投資といえばこっちと思っているかもしれませんが、本質は「安く買って高く売る」ではなく、「自分のお金をよりうまく使ってくれる人に預けて価値を生んでもらう」行為です。一般的にこうした差額を狙う取引は投機と呼ばれます。
お金に固執するのは意地汚いと思うかもしれませんが、お金は価値の尺度です。お金を儲けるということは、その分価値を生み出したということです(詐欺的なことをしていない限り)。全力で価値を生み出すことに意地汚さはありませんよね。
本書では4つの方法を紹介されていますが、ほとんどの人は2つ目のビジネスを起こすこと以外の方法でお金を稼いでいると思います。
1つ目は日本社会で最も一般的ですし、3つ目の投資も、株を買うだけでなく、自己投資などは必ず経験があるはずです。4つ目についても、メルカリで売ったりしたことがあるかもしれません。メルカリで売る場合、買値より安く売ることが大半とは思いますが、少なくとも今の自分が感じている価値よりは高い価格を付けますよね。
メルカリでほとんど利益が出ないような売り方をすることがありますが、ほとんどど使わない、家にあっても邪魔になるようなもの(自分にとっての価値がマイナス)のものは、タダで売っても利益を手にしたと考えられます。ものを処分するにもお金がかかりますからね。
数学を使えばギャンブルで勝てるのか?
さて続いてはギャンブル。ギャンブルに関わらないに越したことはないというのが個人的意見ですが、節度を持って楽しむ分には良い娯楽だとも思います。その節度を持って、という部分に数学的思考が欠かせません。
僕はギャンブルをしないので、正直良くわからないことも多いのですが、面白いなと思ったところをかいつまんで紹介します。
数学的必勝法は存在するか?
まあ結論から言うと、ギャンブルに必勝法など存在しません。しかし、必勝法らしきものは色々あります。僕は詳しくないのですが、「1-3-2-6法」や「ラブジュール法」など、ギャンブル好きの間では定番の必勝法らしきものがあるそうです。
当然、実際にそれが必勝法で、しかも「〇〇法」などと名前が広がって誰もが使うようになれば、世界中のカジノが破産します。
そうなっていないということは、そもそも必勝法ではないか、カジノなど胴元が通用しなくなるルールを設けているかのどちらかです。
難しい数式が出てくるものもありますが、ここでは簡単に理解できる「マーチンゲール法」というものを紹介します。
これは勝てば2倍、負けたらゼロというタイプのギャンブルで使われます。ルーレットみたいなものですね。赤に賭けて、赤に入れば2倍、黒に入ればゼロになります。
マーチンゲール法は非常に単純で、1単位を決めて(例えば1万円)、1回目で勝てば2回目で1単位の賭けを行い、1回目で負ければ2回目で2単位(2万円)を賭けるというものです。
最後に勝つまでこれを続けて、勝ったところで止めれば必ず1単位分勝つことができます。
どういうことが具体的に見てみましょう。
1単位を1万円と決めます。
1回目で勝てば、1万円のプラスで、2回目は1万円を賭けます。
1回目で負ければ、1万円のマイナスで、2回目に2万円を賭けます。
もし4回連続で負けて、5回目で勝ったらどうなるでしょうか。
1回目で負けて、2回目は2万円を賭ける。
→1万円のマイナス
2回目も負けて、3回目は4万円を賭ける。
→2万円のマイナス
3回目も負けて、4回目は8万円を賭ける。
→4万円のマイナス
4回目も負けて、5回目は16万円を賭ける
→8万円のマイナス
ここまでで15万円のマイナスです。大変ですね。次に行きましょう。
5回目で勝って、32万円を手に入れる。
6回目の取引に行くなら、最初の1単位に戻って1万円で始める。
5回目を賭けた時、15万円のマイナスと16万円の掛け金で31万円投じていることになりますが、勝てば32万円入るので1万円のプラスになります。
マーチンゲール法を使えば、大きく儲けることはできないにせよ、勝つところまで続けて勝ったら終われば必ず1単位儲かることになります。
「え、これは必勝法として通用するんじゃ…」
僕もそう思ったのですが、もう少し考えてみましょう。もし5回目でも負けたら31万円のマイナスでそこから次は32万円を賭けないといけません。
負けたら倍にしていくので、負けが続けば賭け金は指数関数的に増えていきます。もし10回連続で負ければ賭け金は1000万円を超えます。もし2000万円以上持っていなければ、次の賭けを行うことができません。
つまり、無限に掛け金があるなら理論上1単位儲かるが、賭けができなくなった場合の損失が非常に大きい、ということになります。
つまり、マーチンゲール法はうまくいけば1万円儲かるが、うまくいかなかった場合はすべてを失うというハイリスクローリターンな戦略です。
ちなみに10回連続で負ける確率は1024分の1です。つまり、1024回中1023回は1万円勝ちますが、1024回中1回は1023万円(それまでの掛け金の総額)も負けるんです。
賭け金の上限を1023万円と考えた時、期待値はゼロです。これは掛け金の上限を1億にしようが100億円にしようが同じで、あくまで理論上はかならず1単位勝てるというだけで、資金に限界がある現実では期待値はゼロなのです。
そしてカジノなどでは胴元のマージンがありますよね。パチンコなんかだと還元率とか呼ばれるものです。取引の度、数%のマージンが取られるなら、当然期待値はマイナスになります。
面白いですね。理論上必ず勝てるギャンブル法というのはありますが、それは現実では通用しないんです。
人の脳は確率を素直に認識できない
本書では他にもいろいろなギャンブルの必勝法と呼ばれるものに対して、数学的な指摘をしてくれているので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
一見、「え、これ必勝法じゃね?」っていうものがたくさんありますが、数学的に考えれば必勝法じゃないことが分かります。
ここで身につけたい”教養”は何かというと、人は確率をちゃんと考えられないということです。マーチンゲール法は理論上必勝法ですが、現実的な掛け金の上限やマージンのことが忘れられています。
こうした理論についても本書では紹介されており、いくつか紹介してみましょう。
1つは「大数の法則」と「少数の法則」です。
簡単に言うと、大数(ものすごく数が多い集合)を見ればある程度正しい判断ができるけど、少数(少ない事例など)では間違った判断をしてしまいやすい、というものです。
マーチンゲール法は、10回を上限とした場合、1023回は勝って1回は負けます。大数の法則で見ると期待値がゼロであることに気づきますが、人は自分の経験や自分が賭ける回数を前提に考えてしまって、「10回連続で負けるなんてありえない」と思ってしまいます。これは、自分の経験や自分の取引回数など少数に基づいて間違った判断をしているということになります。
他にも、フレーミングというものがあります。これは数学的には同じでも、周りの状況が違うことで違う判断をしてしまうという例です。
例えば、あなたなら次の2つのうちどちらを選びますか?
A:50%の確率で10万円もらえるが、50%の確率で何ももらえない
B:確実に5万円をもらう
A:50%の確率で10万円失うか、50%の確率で何も失わない
B:確実に5万円を失う
この2つのケースはどちらも、2分の1の確率で20万円になるが、2分の1の確率で10万円になるという選択肢と、確実に15万円になるという選択肢を選ぶことになります。
つまり、その10万円または5万円を、失うか得るかの違いであり、最終的に手元に残るお金は数学的に見ればどちらでも同じです。
しかし実際には、1のケースではリスクを取らずBを選ぶ人が多いのに対し、2のケースではAというギャンブルを選択する人が多くなります。
これはノーベル経済学賞も受賞しているダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」というもので、人は利益を手にするより損失を回避する方に賭ける傾向にある。言い方を変えると、人は損失を避けるためならリスクを冒すという理論です。
2のケースでは、お金を得られるのではなく失う選択肢です。その場合は、確実に5万円失うくらいなら、たとえ10万円失うリスクを冒してでも1円も失いたくないという心理が働き、Aを選択するのです。
この他にも色々と人がやってしまう数学的には不合理な傾向がたくさん紹介されています。全部読んで、僕の結論としては「やっぱりギャンブルには近寄らない。数学的にあまり損をせず楽しむことは可能だけど、人間の脳はそれさえ正しく実行できない。」ということです。
数学的に投資で成功することはできるのか?
僕も数年前から株式投資を始め、順調に資産を増やしていっている(僕がすごいのではなく、僕が株式投資を始めてからは株式市場が好調で、よっぽど変なことをしない限りみんな儲かっている)のですが、投資でも数学は役立つでしょうか?
もちろん役立ちますが、その前に、ギャンブルと投資の違いを整理しておきましょう。
ギャンブルはある特定の価値を、胴元を介してギャンブラーたちが分け合っているだけです。その賭けに参加する人が100の価値を投じたら、最大でも100の価値しか受け取ることができません。
一方、株式投資は違います。投資とは、自分よりうまくお金を使い、社会に価値を生み出していってくれるであろう企業にお金を預ける行為です。なので、賭けたお金を分け合うのではなく、預けたお金で新しい価値を生み出してくれるので、理論上は全員が儲かります。
ただし、安く買って高く売る売買を頻繁に行うトレードはギャンブルと同じく、他のトレーダーと利益を奪い合っているだけです。企業が投資したお金を使って新しい価値を生み出すにはそれなりに時間がかかりますからね。半年や1年程度で売買する想定なら、それは投資ではなく、投機、トレードと考えた方が良さそうです。
本書ではポートフォリオ理論やリスクとボラティリティなど、株式投資に欠かせない数学を紹介してくれているのですが、結構複雑でここでわかりやすく紹介できる気がしないのでバッサリ割愛。僕自身は使えるものはスプレッドシートなどに数式を入れて、自分の投資判断に使おうと思っているものもあるので、ぜひ本書を手にとって学んでみてください。
他にも∑計算などが出てきます。理系大学出身とはいえ、数学専攻ではないのでもはやどう計算するものだったのかもあやふや…
なのでオモシロイと思った2つのトピック。「ケインズの美人投票」と「チャート投資」について簡単に紹介して、今回の記事は終わりにしたいと思います。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。あと3分、お付き合いください。
バブルを生むケインズの美人投票
株式投資で怖いのがバブル崩壊ですよね。リーマン・ショックも発端はサブプライムローンという金融商品によって不動産市場がバブルになり、バブルが弾けたあとでリーマン・ブラザーズという大きな金融機関が倒産してしまい、世界的に波及してしまったものです。
日本でも最近は株価が好調ですが、ニュースの見出しでは「バブル後最高値」とか言われます。つまり、30年以上経った今でも、バブルピークの株価に戻っていないのです。長期投資であれば全員が利益を出せると言われる株式投資ですが、バブル崩壊直前に投資していた人は30年経っても資産が減ったままです(配当などを含めれば利益が出ているでしょうが…)。
ではそのバブルはなぜ起こるのか?
当然いろんな理由があり、特定の理由を突き止めることも、特定の理由で今がバブルかどうかを判断することもできませんが、「ケインズの美人投票」という考え方がヒントになるかもしれません。
ケインズの美人投票とは、
100枚の女性の写真からもっとも美人だと思う6枚を選択する。参加者の平均と最も近い6枚を選んだ人を優勝者とする。
というゲームにおいて発生する状況です。
つまり、本来は自分が美人だと思う女性を6枚選べば良いのですが、優勝を狙うなら「他の人が美人だと思う6枚」を選ばないといけないのです。自分の好みと一般的な好みがずれていたら優勝できませんからね。
ケインズはこれが株式投資に似ていると言いました。自分が良いと思う企業の株を買うのではなく、他の人が良いと思って価値が上がりそうな株を買うということです。
これを数学的にわかりやすくしたものが「p-美人投票」というゲームです。
これは0〜100までの数字の中から、参加者の全予想の平均値の2/3になる数字を予測するものです。
ちょっと考えたら分かりますが、66以上の数字を予測する意味はありません。参加者全員が100を選択した時の平均が100で、その時の2/3が66だからです。
なので、みんな66以上の数字は選ばないと予測できますよね。みんなが0〜66の間の数字をランダムに選べば、平均は33になるはずです。となると、その2/3である22を選ぶのが良さそうです。
でも少し待ってください。周りのみんなも同じように考えて22を選べば、勝つためにはその2/3である14を選ばないといけません。でもさらにみんなが同じように考えたら…と考えると、この美人投票で勝つには0を選ぶのが一番合理的になります。
全員が0を選べば、平均は0になり、その2/3も0なので全員が勝てます。
ところが実際にはそこまで考えませんよね。最初に「66以上を選ぶことは意味がないな」というところまではだいたいみんなが考えるでしょうが、そこからさらに「となると平均が33だから22を選ぼう」「いや周りも22を選ぶはずだから自分は14にしよう」というところまで考える人は珍しいでしょう。
となると、「p-美人投票」は理論上は0を選べば勝てますが、実際には0では負けてしまいます。全員が0になるまで合理的に数学的思考をもって計算し続けるわけではなく、おそらく何人かは感覚で適当な数字を選んだりするからです。
とすれば、みんながどこまで推測するか(最後まで推測すれば0になる)を元に、数字を選ばないといけません。
これが株式市場のバブルとどう関係するかと言うと、まさにこの美人投票のように、「周りの人はより高い価値を付けるはずだ」という考えの元、みんなが行動してしまうことで起こります。
本来なら、その企業の価値と株価を評価して、自分が思う適正な価格で投資するものですが、そこから明らかに外れているのに「みんなもっと上がるはずだ」と考えます。
「p-美人投票」でいうなら、0になるまで推測を重ね続けるわけです。しかし結局0に辿り着いた時、先はありません。ゲームであれば全員勝ちでハッピーかもしれませんが、現実では参加した人全員が負けです。
投資する立場としてこの話から、結局美人投票の行き着く先は全員負けだということです。理論的にそうなわけで、株式投資は賢い人が大切なお金を使っているわけですから、美人投票は0になるまで続いてしまいます。
数学を学べばチャート投資で勝てる?
さて最後に、チャート投資について考えてみましょう。チャート投資とは企業の価値を分析(ファンダメンタルズ分析)して投資する一般的な投資と異なり、株価の値動きなどを分析(テクニカル分析)によって投資する行為です。
これはそもそもトレードなので投資というべきではないと僕は思いますが、一定の信奉者がいて、実際に資産を増やしていることも確か(平均的な成績は悪いらしいですが)。
チャート投資で有名なものは、「サポートライン」や「ヘッドアンドショルダー」など株価の値動きが描く象徴的な形を投資判断に使うものや、「RSI」「MACD」「移動平均線」など、株価を標準偏差や動きの大きさなどを投資判断に使うものなど、色々あります。
しかし本書では、「テクニカル分析は人間の脳のクセが生み出した幻想だ」と言います。
人間の脳は確率を正しく判断できないということを紹介しました。例えば、コイントスをして、裏が5回連続で出たら次はかなりの確率で表になると感じてしまいますが、コイントスで表が出る確率は、その前後で裏が100回連続で出ていようと2分の1です。
当たり前なのですが、「コイントスをして5回連続で裏が出ました。次に表が出る確率はどれくらいでしょう?」と聞かれると、つい2分の1より高く考えてしまいますよね。
これは「6回連続で裏が出る確率」が64分の1と非常に低いためです。しかし、冷静に考えると、「6回連続で裏が出る確率」と、「5回連続で裏が出たあとで、もう一度裏が出る確率」は全く違います。前者は64分の1ですが、後者は2分1です。
つまり、ただの確率の偏りによって、次の結果を誤って見積もってしまうのです。
「ヘッドアンドショルダー」のようなチャート分析の手法は、「今5回連続で裏が出ているから、次は表が出るはずだ」と言っているようなもので、本来法則がない部分に意味を付けてしまっているだけなのです。
ただし、僕はこの理論については若干の反論があります。
例えば、サポートラインというのは、その価格帯で株を売った人(つまり、その価格ほどの価値がないと思っている人)とその価格帯で株を買った人(つまり、その価格以上の勝ちがあると思っている人)が多い価格帯です。
ということは、その価格帯に来たらまた買いたい人と売りたい人が増えて、その価格帯で留まる、ということは十分にあります。サポートラインを上に突破したということは、もともと売りたいと思っていた人や買いたいと思っていた人が、今回はその価格帯で取引しなかったということです(厳密には違いますが、大局的には)。つまりそれは、企業価値、株価の評価が変わったということになるのではないでしょうか。
とはいえ、やはりチャートで投資するのは危険だと思います。投資はチャートに対して行うのではなく、企業に対して行うものですから。
ちなみに僕は投資する際、ボリンジャーバンドやRSI、MACDといったテクニカル分析の指標を使います。が、それはあくまで指値注文をいくらで入れるかを判断するためのもので、投資判断そのものをテクニカル分析で行うことはありません。
教養としての数学を身につければ出世できますか?
さて、今回もかなり長い記事になりましたが、実はまだ本書の半分ほどまでしか紹介していません。ここから先、こうした数学を仕事に活かしたり、最近話題のビットコインについて論じたり、もちろん投資やギャンブルについてより深く入っていったりします。
結局大切なことは、この質問だと思います。
「教養としての数学を身につければ、投資で儲かるの?ギャンブルで勝てるの?仕事で成果出せるの?人生はより良くなるの?」
僕の答えは、基本的にはYesです。投資もギャンブルも、仕事も人生も、数学的教養はないよりあった方が良いでしょう。
必ず胴元が勝つように設定されているギャンブルはいくら数学を使っても勝てませんが、胴元ではなくプレイヤー同士が戦うタイプのギャンブルであれば勝てるかもしれません。胴元が必ず儲かる普通のギャンブルであっても、数学的教養があることで、節度を持った楽しみ方ができるんだろうなとは思います。投資や仕事はもちろん、身の回りに高度な数学があふれるなか行っているわけですから、当然あった方が良いでしょう。
今回紹介したのは本書のごく一部。数学的教養を身に付けるなら、「億万長者だけが知っている教養としての数学〜世界一役に立つ数学的思考力の磨き方」を読んでみてください。
この記事を書いた人
- かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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