こんにちは。夫です。
今日紹介するのは鈴木祐さんの「無(最高の状態)=MU(The Best Condition)」です。
著者の鈴木祐さん、「最高の体調」「科学的な適職」など結構面白い本を書かれています。これらも紹介しようと思っていたのですが、最新刊「無(最高の状態)」が出ているので、そちらを先に紹介することにしました。ちなみに「最高の体調」と「科学的な適職」は中田敦彦さんのYouTube大学でも紹介されています。
本書の帯には「幸福度」「意思決定力」「創造性」「ヒューマニズム」「無我」などなど、難しい言葉が並んでいます。でも本書のコアなメッセージは「もっと楽に生きることはできないのか?」というシンプルなもの。
鈴木祐さんの本は、大量の文献、論文をもとに、科学的にかかれています。でも、言葉がわかりやすいんですよね。「無」なんてタイトルがついた本、絶対小難しくて、スピリチュアルで、よくわからないんだろうと思っていましたが、全然そんな事はない。
無(MU)が与えてくれるもの
鈴木祐さんは以前、「最高の体調」という本を出されました。そしてこの本のタイトルは、「無=最高の状態」です。サブタイトルから分かる通り、フィジカル面を中心に取り上げた「最高の体調」に対し、メンタル面を中心に取り上げたのが「無=最高の状態」です。
「最高の体調」は、「自分自身が持つ最大限のパフォーマンスを発揮する」ために、疲労や肥満、不眠、そして様々な文明病から脱却することを目指した内容です。本書も同じですが、フィジカルではなくメンタルに焦点を当てています。
僕はいつも本の内容を、本の順序に沿って紹介しています。著者がその順番で伝えるのが一番伝わりやすいと考えている順番だからです。でも今回は、結論の部分、本書に書かれている内容を知り、実践することで、どうなるのかを最初に紹介したいと思います。
本書は、現代社会にある”苦しみ”の正体を探り、苦しみから脱却した状態「無」を目指します。そして鈴木祐さんは「無に至ることで、本物の智慧が手に入る」と言います。
智慧とは、単純な知識やIQのことではありません。智慧とは、
- 人生経験から得た知識を正しく利用できる
- 困難に直面しても不安が少ないままに行動できる
- 自分や他人の精神状態を注意深く考察できる
そんな状態を表します。
そして、智慧を手に入れた人に訪れる4つの変化があります。
- 幸福度の上昇…瞑想など智慧を高める行動をとった後、その人の幸福度やポジティブな感情が上昇し、ネガティブな感情や執着心が低下した。
- 意思決定力の向上…観察(智慧を高めるトレーニングの一つ)を行った人は、客観的な判断がうまく、上昇処理の質が高く、フィードバックから多くを学べるようになった。
- 創造性の上昇…智慧のある人、智慧を高めるトレーニングを長く行っている人ほど、受容的で好奇心が強く、創造性の高いアイデアを生み出しやすい傾向にあった。また、トレーニングを行った後の創造性テストの結果が上昇した。
- ヒューマニズムの向上…自分が欲するものを他人にも与える態度を意味するヒューマニズムも、智慧との相関がわかっている。智慧によって「自分」と「自分以外」といった境界がなくなり、共感力、寛容さ、他人の感情を見抜く能力が向上した。
どれもまさに今、必要とされているものではないでしょうか。
例えば、コロナ禍を例にあげてみましょう。
この1年半ほどの間に、世界中で幸福度が低下したと思います。2020年の自殺者数は11年ぶりに増加したそうです。
意思決定力や創造性もこれまで以上に求められるようになりました。テレワークなど、激変した働き方の中で成果を上げるには、これまでと違った工夫が必要ですし、事業、社会レベルでも、何を辞めて、何をやるべきか、難しい意思決定がたくさんあったと思います。
そして僕自身、今の社会の大きな問題だと思っているのがヒューマニズムの欠如です。これは「分断」という言葉で一気に表面化しました。異なる意見や異なる立場に対し、理解して共感し、社会全体として最適を目指す。そのために必要なのはヒューマニズムでしょう。しかし今、ネット上では「ワクチンを打たない人は無責任だ」「ワクチンは絶対打たない」「ロックダウンすべきだ」「自粛は意味ない」など、意見や立場が違う人同士が激しく言い争っています。
人間の弱い部分、汚い部分が強く見えるようになった。それがコロナ禍だと思います。僕はSNSも、テレビのニュースも、あまり見ないようになりました。いつも誰かが誰かを批判している。そんな時代だからこそ、本書が提唱する「無」が求められているんでしょう…
本書が目指すものがわかったところで、「じゃあその無の境地、智慧とやらはどうやったら得られるの?」という部分を見ていきましょう。
まずは、”苦しみ”の正体を知ることから始まります。
苦しみの正体|人間は生まれながらにネガティブ
「人生は苦である」
仏教の開祖であるブッダは、人生の真実は苦であると言いました。
キリスト教などは「良い行いをすれば天国に行ける」という教えで、つまり人生はプラスをどれだけ重ねるかだという世界観。対して仏教はブッダの言葉にあるように、マイナスをどれだけ減らしてゼロに近づけるかという世界観です。この違いは日本と欧米の文化にも現れていますよね。
どちらの世界観が正しいかはさておき、本書ではブッダと同じく、人生は苦である、人間は苦しみを感じるようにできている、という立場です。
科学的にも、人間はマイナスのことのほうが記憶に残る「ネガティブバイアス」を持っていることが裏付けられています。また、ネガティブなことは記憶に長く残るのに、ポジティブな情報は長持ちしないことも明らかになっています。
これはいろんな実験から明らかになっていて、例えば、
- 宝くじに当たった人の高揚感は即時的なもので、半年後にはほぼ全員が元の精神状態に戻っている
- ボーナスをもらった直後、車が故障して大金が必要になった場合、ほとんどの人が「ボーナスがもらえてよかった」という記憶より、「車が故障して大金を失った」ことを記憶している。
などがあります。
つまり人間は、「良いことはすぐに忘れるのに、悪いことはずっと覚えている」生き物なのです。どう考えてもストレスが溜まりそうですが、なぜそうなってしまったのでしょう?
なぜ人間にネガティブバイアスがあるのかは、進化の歴史を辿れば明らかです。
僕たちは、ネガティブに反応した人類の子孫なのです。
大昔は常に危険と隣り合わせでした。
「明日も木の実が手に入るだろう」と今日手に入れた木の実を全部食べてしまうポジティブさんは餓死してしまい、「明日は何も手に入らないかも知れない…」と不安に駆られ木の実を貯めておいたネガティブさんが生き残ることができました。
茂みが揺れたときに「どうせ風だろう」と楽観視したポジティブさんはライオンの餌食になり、「ライオンかもしれない。別の道を行こう…」と考えたネガティブさんが生き残ることができました。
こうしてネガティブに反応した人たちが生き残り、僕たちの祖先となったのです。つまり、命の危険がある場面では過度に不安になる、ネガティブに考えたほうが生き残る確率が高かった。
当然、そうした傾向は今の僕たちにも受け継がれていて、危険を察知した時の脳は、その情報が正しいかどうかを察知するより早く、全身に厳戒態勢を取らせます。
しかしこの傾向は、身の安全がある程度確保され、情報が溢れている現代には合いません。
現代ではこの傾向によってもたらされる根拠のない孤独感や、うつと不安が蔓延しています。
ニュースがネガティブなものばかりなのも、この傾向のせいなんでしょう。ある研究では、正確な事実は1000人にしか広がらないのに、恐怖を煽るフェイクニュースは10万人以上に拡散されるそうです。多くの人が、その情報が正しいかどうかを検証する前に、脳のシステムによって半自動的にリツイートボタンを押してしまっているんでしょう…
僕たちの祖先は過度にネガティブになることで、生き延びてきました。
しかし今の僕たちは、基本的な身の安全が確保されている以上、過度にネガティブになる必要はありません。数少ない情報から推測しなかった時代と違い、今はむしろ情報が溢れています。
ネガティブ本能に惑わされるのではなく、理性的に、客観的に考える。祖先と違う世界に生きている僕たちは、それを意識的に訓練して身に付けないといけません。
苦しみをこじらせる”二の矢”
とはいえ、ネガティブな情報に過度に反応してしまうことは、基本的に悪いことではありません。現代でも危険はいっぱいあります。本書でも、ネガティブな情報を無視してしまえと言っているわけではありません。
ただ、苦しみをこじらせる「二の矢」をわざわざ放つ必要はない、と教えてくれます。
ブッタは弟子たちに「一般人と仏弟子の違い」について「”二の矢”が刺さるか否かだ」と教えました。
世の中にはネガティブな情報がたくさんあります。その情報が”一の矢”です。
仏教では、一の矢が刺さるのは仕方がないといいます。
しかしここで、多くの人は自ら”二の矢”を刺してしまいます。
例えば、病気で半身不随になった。これは一の矢です。この事実としての苦しみは避けようがありません。
しかし多くの人は「もう終わりだ」「家族はどうすれば良いんだろう…」「仕事もできない、お荷物になってしまった…」などと考えてしまいます。これが二の矢です。
- 上司が文句を言ってきた(一の矢)に対し、自分が無能だ、または上司はリーダー失格だなどと思い悩む(二の矢)
- 同僚が昇進したこと(一の矢)に対し、自分の能力が低いのか、と自分を攻めてしまう(二の矢)
- SNSに書かれた心無い言葉に(一の矢)に対し、もしかして自分のことを言っているんじゃ、こんなことを書くなんて最低の人間だ、などと考えすぎてしまう(二の矢)
二の矢だけで済めばまだマシかも知れません。さらに三の矢、四の矢と最初の事実からどんどんネガティブな思考を繰り返し、不安が不安を生み、という状態を作ってしまうこともあります。
こうした思考が多ければ多いほど、うつ病や不安障害、さらには心臓病や脳卒中などのリスクが高い、という研究もあります。
二の矢、大事な言葉ですね。確かに、何かに悩んでいる時、気づけば最初の事実と全然関係ないことまで考えてしまうことがあります。「あれはきつく言い過ぎてしまったな…」と反省していたら、気づけば他のときに言った言葉や言われた言葉まで思い出して、、という…確かに不安や苦しみをこじらせるときは、かならず自分で二の矢、三の矢を刺しています。
苦しみにつながる心の悪法
苦しみを生むのは、ネガティブな事実そのものではなく、二の矢を刺してしまう自分自身である。
このことを学べただけでも本書を読む価値があったと思います。茂みが揺れた時「あそこにライオンがいるかもしれない…」と不安になるのは、生存戦略上大切ですが、そこから「もう終わりだ、食べられて死ぬんだ。残された家族は…」と二の矢を刺しても、生存には役立ちませんよね。
自分で自分に二の矢を刺さない。
このことだけ意識すれば、かなりの苦しみから逃れられるはずです。
でも問題は、二の矢を刺してしまうのは脳のシステムであり、理性ではない、ということです。人間の脳はネガティブな情報に出会った時、理性で判断するより早く反応してしまいます。これは全自動で行われるので、意識して回避できるものではありません。
そこで大切なのが、自分の脳のシステムがどう働いているのかを知ることです。 自分の脳のルール、つまり、自動的に苦しみをこじらせてしまう「悪法」です。
本書では、コロンビア大学の心理学者ヤング博士が生み出した「スキーマセラピー」という手法で使われる18種類の悪法を紹介してくれています。
自分の過去を思い出して、どれがよく当てはまるか考えてみてください。
- 放棄…他人に対して期待できず「どうせ…」と考えてしまう悪法。コミュニケーションを避けたり、自分から仲を壊してしまったり、逆に親しい相手との関係にしがみついたりしてしまう傾向にある。
- 不信…他人に対し「私を騙すはずだ」「私を利用しようとしている」と考えてしまう悪法。「騙されている、損をしている」といった感覚が強い。他人の行動を警戒し、人の言葉を信じず、理解されていないと感じてしまう傾向にある。
- 剥奪…自分が求める精神的なサポートを得られないという感覚を生む悪法。最も一般的な悪法の人杖、「何かが欠けているような感覚」を持ち、周囲に過剰な愛情を向けるか、逆に親密な人間関係を諦めてしまうことがある。
- 欠陥…自分にはなにか欠点がある、他人より劣っていると考えてしまう悪法。「なにか悪いことをしたのかも知れない」という考えがあり、自意識過剰で、ミスを過度に恥じたり、自己嫌悪や自己批判を行ってしまう。
- 孤立…周囲に溶け込めない、みんなに変に思われていると考えてしまう悪法。自分からは人に話しかけない、他人を避ける閉じたコミュニティの中では威勢がよかったりする傾向にある。
- 無能…自分は問題に対処できない、他人に助けられないと生きていけないという感覚を生む悪法。「私は無能だ」という意識が強く、自分の判断が信用できず、物事を決められない傾向にある。
- 脆弱…「なにか悪いことが起こるのではないか?」という恐怖を生み出す悪法。自分は病気ではないか、地震などの災害ですべてを失うのではないか、といった恐怖から不安に付きまとわれ、低いリスクにも危険を見出そうとしてしまう。インターネットでネガティブな情報を調べ続けてしまい、世界は危険な場所だと感じてしまう傾向にある。
- 未分…他人にばかり目がいき自分がおろそかになってしまう悪法。他人の感情に左右され、他人が落ち込むと自分も落ち込み、他人の失敗を自分の失敗のように感じてしまう。
- 失敗…自分は他人より失敗しているという感覚を生む悪法。キャリアや人間関係などあらゆる分野で自分が失敗していると感じてしまうため、絶望感や抑うつ感をいだきやすい。挑戦を避け、仕事を先延ばしにしたりする一方で、自分を追い込んでしまったり、他人は自分より優秀だと考えてしまう。
- 尊大…自分は他人より優秀だと信じ、特別な権利を得る資格があると感じる悪法。競争心が強く、利己的な行為をとってしまう一方で、批判に過度に反応する傾向にある。自分のことを第一に考え、社会のルールや制限に従うべきでないと考える傾向にある。
- 放縦…新しいアイデアや計画に夢中になっても、すぐに興味を失ってしまう悪法。集中力を維持することが難しくすぐ別のことに意識が向いてしまい、不快な感情に耐えるのが苦手だったり、後で後悔するような決断をすぐにしてしまう傾向にある。
- 服従…自分の意見や感情を表に出すのが苦手で、何もしないほうが安全だと考えてしまう悪法。傷ついても人に相談せず、争いを避けるため他人を喜ばせることに注力したりする一方、電話に出ない、他人を無視するなど受動的な方法で他社を攻撃する傾向にある。
- 犠牲…頼まれたことは断れない、自分を優先するのはいけないことだという感覚を生む悪法。人助けや寛大な行動を行うが、その裏側では自分の感情を犠牲にしてしまうため、疲労感や空虚感、憤りが蓄積されてしまう。
- 承認…他人からの注目を過度に重んじる悪法。自分の感情や欲求を無視して他人に好かれるためにエネルギーと使ってしまう。
- 悲観…人生の否定的な面に目を向けポジティブな面を無視する悪法。悪いことが起こるだろう、大抵のことはうまく行かない、といった感覚を持ち、楽観的な人に「現実を見ていない」と思ってしまう。
- 抑制…感情を表現するのは良くないことだ考える悪法。行動と感情を押さえつけてしまい、他人からは理性的に見られるが、自分の内面を知られるのを恐れている。
- 完璧…高い基準を設定しそれを満たし続けなければならない、という悪法。常にプレッシャーを感じ、自分はもっとうまくやれるはずだという感覚を持つ。成功したのに満足できず、いつも時間が足りないと感じてしまう傾向にある。
- 懲罰…過ちを犯した人は厳しく罰せられるべきだという信念を生み出す悪法。基準を満たさない人に怒りを抱きやすく、間違いを責め立て、厳しい批判をしてしまう。自分自身にも厳しい批判を行い、人間の不完全さを受け入れられない。
長々と書きましたが、これが僕たちの脳によくある18種類の悪法です。当然、人間の脳の傾向を完全に区別することはできないので、「まさに自分がコレだ!」というものはないと思いますが、「こういう傾向あるかもな…」というものがいくつか見つかったのではないでしょうか。僕は「放棄」「尊大」「放縦」「完璧」の悪法を持っているかもしれないな、と思いました。
苦しみを逃れ「無」に至る方法
それではいよいよ、本書で紹介されている「無」に至る方法を見ていきましょう。
本書の大切なメッセージは「人間はそもそもネガティブな生き物である」「苦しみの正体は、自分自身で刺している”二の矢”である」というところだと思います。
この2つをちゃんと認識できていたら、日々の生活も長い人生も、すこし楽になるんじゃないでしょうか?
本書では「無」に至る方法を色々紹介していますが、2つに厳選しました。僕自身、これらの方法をマスターして無に至った人間というわけではないので、実践する際は本書を読むか、マインドフルネスや瞑想を専門的を扱った本で学んでくださいね。
悪法日記をつける
先ほど紹介した18の悪法は、幼少期の環境やこれまでの人生の経験から少しずつ作られてきました。なので、ただ認識して、意識するだけではどうにもなりません。繰り返しになりますが、脳の悪法というシステムは、理性的な思考より早く働いているのです。
だからといって、悪法は放置しておくしかないわけでもありません。悪法を書き換える事は簡単ではありませんが、悪法に対処することができます。
その方法が、悪法日記です。
悪法日記はまず「悪法スコア」をつけることがあります。まず18の悪法にそれぞれ自分の主観で点数をつけます。「大勢の飲み会では「孤立」の悪法が発動してしまっているな。他のときにはあまりないから、「孤立」の悪法スコアは30点くらいかな」くらいざっくりしたもので大丈夫です。
その後は毎日日記をつけるように、ネガティブな感情を抱いた時に、その原因や状況、その感情や自分が取った行動を言語化しておきます。その感情や状況に対するイメージや身体反応も書いておきましょう。
続いて、その内容が、18の悪法のどれに当たるのかを考えます。「この悪法だ」というのが明らかになったら、その悪法の起源、なぜ自分にはその悪法があるのだろう、ということを考えます。明確にわからなくても、考えるだけでトレーニングになります。
同時に、その悪法が自分にとってどう役に立っているのかも考えましょう。悪法ができたということは、それが自分に役立つ瞬間があったということです。
続いて、ネガティブな感情を抱いた時の状況やイメージの中から、現実的な部分だけを抜き出します。例えば、上司に呼び出されて、「あのミスを指摘されるんじゃ…」と不安になったのなら、現実的な部分は「上司に呼び出された」という部分だけです。
最後に、もし悪法がなかったら、事実だけに基づいていれば、どういった行動を取れば最適だったか考えましょう。
降伏と観察
悪法とその悪法をコントロールするための悪法日記を紹介してきましたが、本書では別のアプローチ、悪法を取り除いたり、コントロールしようとするのではなく、無抵抗に受け入れるというアプローチを教えてくれます。
無抵抗に受け入れる、というのは違和感があるかも知れません、しかし、同様の事は古くから言われてきました。
人生は自然に起こる変化と自ら起こす変化の繰り返しである。それに抵抗すれば不幸を生むだけだ(老子-古代中国の思想家)
降伏とは混乱から平和への旅だ(シュリ・チンモイ-インドのヨガ指導者)
人は自らの承諾なしに快適でいられない(マーク・トウェイン-小説家)
私達は計画した人生を諦める石を持たねばならない(ジョーゼフ・キャンベル-神話学者)
こうした言葉の他に、近年の研究でも、不快な感情に抵抗するより、降伏し、受け入れたほうが満足度、幸福感が高くなることが示されています。
実際、怒ったり、引きこもったり、頑張りすぎたりといった苦しみに抵抗する行動は、二の矢を撃ち、かえって苦しみをこじらせてしまう原因になってしまいます。
こうした抵抗行動の多くは、一時的に苦しみを紛らわせることはできても、長続きせず、むしろ悪化してしまいます。
例えば、急な頭痛に見舞われた時、それに抵抗するとどうなるでしょうか。「この痛みは治さないといけない」と考え、治療の効果を過度に期待して落胆したり、なかなか治らない痛みに必要以上のストレスを感じてしまうでしょう。
しかし、抵抗しない人は、外から見た行動はほとんど同じですが、内面は大きく違います。
痛みがあることも、薬の効き目が悪いことも、ある程度仕方ないと考え、ただ冷静に現実を見つめ「今の痛みはこれくらいだな」「30分前よりは少しマシになったな」などと考えます。
苦しみを受け入れるというのは、苦しみを楽しむとか、放置するという意味ではありません。ただ現実を認めて向き合うだけということです。
そこで大切になってくるのが、自分自身を客観的に「観察する」ということです。
禅やヨガなどマインドフルネスの手法の多くは、この「観察する」という行為を体系化したものとも言えます。
苦しみに抵抗するとさらなる苦しみを生むから、降伏して客観的に観察する。マインドフルネスに関する本は色々読んできましたが、ここまでシンプルな結論を出しているものはなかなかありません。でも、真理ですね。
もっと楽に生きることはできないのか?
ということで今回は鈴木祐さんの「無(最高の状態)=MU(The Best Condition)」を紹介しました。
本書ではもっと細かく、例えば「観察する」という部分に対しても悪法日記のような細かなステップやメソッドが紹介されていますが、この記事では省きました。
というのも、あまり書きすぎると僕が本書で一番大切だと思ったメッセージが伝わらなくなると思ったからです。
それは、
苦しみの正体は自ら放った二の矢である
という部分。
同様のコンセプトの本は色々ありますが、基本的には外的環境への対処です。でも本書では、苦しみの正体を自分自身が放った二の矢と表現しています。つまり、外的環境に原因があるのではなく、内的なもの、自分でコントロールできるところに、苦しみの正体があるということです。
これを知っているだけで、本書のコアなメッセージである「もっと楽に生きることはできないのか?」の答えに近づくのではないでしょうか。
もっと楽に生きるためにどうすれば良いのか。
自分で自分に二の矢を刺すのをやめればいいだけです。その方法は、本書でもいろいろ書かれていますし、その他にも多くのマインドフルネスの名著が教えてくれます。
僕は本を1冊読んで、一つでも明確なメッセージを得ることができたら大成功と思っていますが、本書では「苦しみの正体は自ら放った二の矢である」という明確なメッセージを得ることができました。
今は苦しみが多い時代ですし、最初に少し書いたように、分断が社会問題になるような、特殊な時代でもあります。
主義主張があることは素晴らしいことですが、僕個人的には、何にも極端にならず、一歩下がって傍観していたいなと思っています。
とはいえ、自分も社会の一員である以上、分断の双方から心無い言葉を受けたり、偏った情報や意見を耳にすることも珍しくありません。
そうしたことに一喜一憂したときは、「苦しみの正体は自ら放った二の矢である」を思い出そうと思います。それだけで少し、楽に生きられると思います。
あなたはどうですか。楽になれそうですか?
もし楽になれそうにないなら、その苦しみの”二の矢”はなんですか?
そんなふうに考えるきっかけをくれる本だと思います。
この記事を書いた人
- かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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