こんにちは。夫です。
ゴールデンウィークに実家に帰ったのですが、帰りの電車で読む本を駅構内の本屋さんで探していました。そんな時に出会ったのが今日紹介する「THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す」です。
著者のアダム・グラント氏は組織心理学者で、Googleやディズニー、ゴールドマンサックス、国連など、超一流巨大組織でコンサルティングをされている方。フォーチュン誌の「世界でもっとも優秀な40歳以下の教授40人」や、同誌の「THINKERS 50(世界でもっとも重要な50人のビジネス思想家)」にも選ばれたことがあるすごい人。
本書は400ページ以上ある大著ですが、言いたいことはシンプル。今の時代に求められるのは知識や才能ではなく「学び直すスキル」だということです。
それでは早速本書の内容を見ていきましょう。僕も日々本を読んで、新しいことを学んで自己満足に浸っていましたが、知識を学ぶことそのものに大した価値はないんだと痛感させられます。大切なのは、自分の持っている知識を手放し、新しい知識を受け入れることができるか。いわゆる「アンラーニング」です。
本書では周りの人にアンラーニングを促す方法も詳しく書かれていますが、僕自身、自分のアンラーニングもままならない状態なので、その辺は省きました。アンラーニングの重要性と、自分がアンラーニングを取り入れる方法をピックアップしていきます。最近、ビジネス・プライベートに限らず「伸び悩んでいるなー」と感じることがあるなら、本書がブレイクスルーになるかもしれません。
頭の中には、あなたが日頃からよく使っているツールがある。それらは、既存の概念や知識(あなたが知っていること)、憶測・思い込み(こうなる・こうであるだろうと信じていること)、または見解(ものごとに対するあなたの意見)かもしれない。それらは、あなたの仕事に関わるだけではない。あなたの自我の一部なのだ。
<中略>
再考するとは、周囲の人からより多くのことを学び、後悔のない人生を歩むための方法である。あなたのもっとも大切なルーツ – おそらく、あなたのアイデンティティで最も大切な部分 – を捨てるべき時もある。その時を悟ることが、真の英知であろう。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
4つの思考モードに支配されている
僕たちは普段、無意識的に4つの職業思考モードを使い分けています。それが「牧師」「検察官」「政治家」そして「科学者」です。
「牧師」は信念や正しさをもとに考えます。しかし証拠や根拠といったものを求めません。「検察官」は証拠に基づいて考えることが多いですが、その証拠をもとに自分の正しさを主張します。「政治家」は周りや自分自身を納得、正当化しようとします。この3つの思考モードに共通していることは、結論ありきだということです。
例えば、友達から投資話を持ちかけられた場合。
「こいつが俺に損な話を持ってくるわけがない」「友だちの話は真剣に聞いてあげるべきだ」というのは「牧師」的な思考です。そしてその投資話に乗ることが自分の中である程度決まったら(結論が出たら)、「政治家」と「検察官」が顔を出します。政治家は自分の選択の正しさ(その投資話の正当性)を見つけ、自分自身を納得させたり、周囲を説得したりします。もし別の人から「その投資はやめといたほうがいいよ」と言われたら、検察官が自分の正しさと相手の過ちを立証しようとします。
後から見れば明らかな詐欺話に引っかかってしまうのは、この3つの思考モードによる部分が大きいそうです。結論ありきで、結論をもとに牧師、政治家、検察官が主張を固めていくので、結論の成否を考える機会がないんです。
そして最後の思考モードが「科学者」ですが、検察官と同じく証拠や根拠に基づいて考えますが、結論はありません。「どうなるかわからない」が科学者の思考モードの前提です。
先ほどの投資話の例で言えば、科学者はその投資話が本当に価値があるものなのかさまざまな方法で検証します。詳しく話を聞いて論理に矛盾がないか確かめたり、他の投資手法と比較したりします。場合によっては、失ってもいい少額の資金で投資話に乗ってみる、つまり実験するでしょう。
「牧師、検察官、政治家」と「科学者」の違いはなんでしょうか。
1つは結論ありきではないことです。
牧師は聖書に書かれていること(信念など)を正解(結論)として判断しますし、政治家と検察官も自分の主張や立場によって、あらかじめ結論が決まっています。
一方、科学者に結論はありません。わからないことに挑戦し、明らかにすることこそが科学なので、結論ありきでなにかを考えるということはあり得ないんです。科学者が持っているのは「結論」ではなく「仮説」です。
2つ目は再考できることです。
牧師も政治家も検察官も、結論ありきなので、その結論に沿って考えます。結論にそぐわない意見やデータは無視するか、否定するための根拠を探すでしょう。
一方、科学者は再考することこそが仕事です。地球は平だという認識を疑い再考したからこそ、科学者は地球が丸いことを見つけました。既存の知識を捨て、新しい知識を得ることこそが科学者の使命です。
本書では牧師や政治家の思考モードを否定しているわけではありません。信念に基づいて行動したり、自分の考えの正しさを主張すべき時もあります。しかしそれより圧倒的に重要で、多くの人に足りていないのが「科学者」の思考モードなんです。
科学者、というのは単に専門的職業を指しているわけではない。私がここで意味するのは科学者の思考的枠組み、つまり、説教も不正探しも政治活動も行わない、全く異なった思考モードを持つということだ。真実を追求する時、私たちは科学者の思考モードに入る。仮説を検証するために実験を行い、新しい知識を発見する。科学的なメンタルツールは、白衣をまといビーカーを持つ人だけのものではない。科学的なメンタルツールを持つために、何年も顕微鏡とシャーレをのぞき込む必要もない。仮説というのは、研究室の中だけでなく、私たちの生活の身近なところにも多くある。試行錯誤し、そこから得た知識に基づいて、人は日々の些細なことに決断を下すことができる。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
思考を固定する「確証バイアス」と「望ましさバイアス」
牧師、検察官、政治家は結論ありきで、最初の結論から変えることができない、あるいは大きくその結論に引っ張られてしまいます。
例えばデータ分析の専門家にさまざまなデータを分析してもらった時、自分のイデオロギーと反するデータを分析してもらうと精度が著しく下がるという研究結果があるそうです。
つまり、ワクチン反対派の人にワクチンの有効性に関するデータを分析してもらうと、専門家でも精度が落ちるということですね。もちろん逆も然りで、ワクチン賛成派の人にワクチンの危険性を分析してもらっても精度は落ちます。彼らは科学者のはずですが、自分の主張などが絡むと牧師、検察官、政治家の思考モードが顔を出してしまうんですね。
こうした傾向を心理学では「確証バイアス」と「望ましさバイアス」と言います。自分が「こうである」「こうあってほしい」という考えを持っていると、それを裏付ける方向に思考が偏ってしまう心理的な効果です。
本書ではこうしたバイアスを、「知性を曇らせるだけでなく、知性を捻じ曲げ、真実に対抗する武器に変えてしまう」と言います。
また本書では「私は偏見に捉われていないバイアス」にも注意しろと言います。これは筆者の造語ですが、偏見に捉われていないという思い込みが、自分が偏見に捉われた時に科学的思考を曇らせてしまいます。
地球温暖化についても賛成派、反対派がいますよね。正直、地表温度、気体温度、海表温度、海中温度のどれを見ているかで全く違う結論になるので、もうちょっと中間派がいてもいい気がしますが…
科学者のように考えるとは、単に偏見のない心でものごとに対応することではない。それは能動的に偏見を持たないことをいう。
<中略>
牧師モードでは、考えを変えることは心の弱さの表れだ。科学者モードでは、考えを改めることは知的誠実さを示す。検察官モードでは、他社に説得されるのは負けを意味する。これは科学者モードでは、真実に一歩近づいたと認識される。政治家モードでは、人はアメかムチかに応じて反応を切り替える。科学者モードでは、より明晰な論理、より確かなデータに基づいて見解を改める。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
自分を疑うことが最高の知性
100年前であれば牧師、検察官、政治家の思考モードで人生をまっとうできたかもしれません。でも21世紀になった今は違います。日々新しい発見があり、社会の状況も変わる中、1つの信念や結論にそって考えを変えないことは非常に危険です。
「俺はガラケーしか使わん!」って言ってた人は3G終了にともなって苦労しているでしょうね。いまだに「1192(いいくに)つくろう鎌倉幕府」と覚えている人は残念ながらテストで点は取れません。正解は常に変わりますし、近年その変化のスピードはどんどん増しているので、科学者モードで再考することの重要性も増しているんです。
しかし難しいのは、再考する、またはしないという思考は、ループで循環してどんどん強化されていくということです。
学生時代に「1192(いいくに)つくろう鎌倉幕府」と一生懸命覚え、歴史のテストで良い点数を取った人ほど、「1185(いいはこ)つくろう鎌倉幕府」への再考を受け入れられないかもしれません。
他にもいろんなものに対して同じことが言えます。「自分は仕事ができる」と考え、実際に成果を出してきた人ほど、仕事ができなくなった時にそれを受け入れることができません。「消費税をなくすべき!」と言い続けている人ほど、消費税があったほうがいい理由を受け入れることができないんです。
逆に、再考することも循環して強化されていきます。自分は何も知らない、自分が間違っているかもしれない、だから新しいものを学び、受け入れないといけない。そういう姿勢を持つと、新しい学びに好奇心が生まれ、さらに再考したくなります。優秀な科学者やビジネスパーソンの中には「自分が間違っていることに気づくことが最大の喜び」という人もいます。
これは本当にその通りですね。似たようなことが「複利で伸びる1つの習慣」にも書かれていました。日々の小さな決断や行動が積み重なると、やがて変えられないアイデンティティになるんです。
欠点を自覚することで懐疑への道が開かれる。欠けている知識を問うことで、自分が持たない情報に対する好奇心が生まれる。探し求めるうちに新しい何かを発見し、「学ぶべきこと、発見すべきことは、まだたくさんある」と自覚することで、謙虚さを保てる。知識がパワーであるなら、無知に気づくことは英知と言えるだろう。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
ソクラテスが言った「無知の知」と同じことですね。知っていることは知識、知らないことを知っているのは英知です。だから本を読む時も、自分が納得できない、理解できない、受け入れられない内容のものを選んだほうが、学びが大きいんですよね。
iPhoneのアイデアを切り捨てたスティーブ・ジョブズ
本書では再考したことで大きな成果を残した例(命を救われた例まで!)がたくさん紹介されているので、その一つをピックアップしたいと思います。
成果を残した例として挙げられているのはアップル創業者、iPhoneの生みの親、スティーブ・ジョブズ氏です。彼は再考することができたので成功しましたが、実はもう一人、スティーブ・ジョブズに劣らない才能を持ちながら、再考できなかったことが要因で失敗した人がいます。
それがマイク・ラザリディス氏です。
名前を聞いてもピンとこないでしょうが、テクノロジー分野の神童。彼は12歳の時、図書館内の科学書の全コレクションを読んで公共図書館から賞を受賞した天才です。
彼の最大の功績はなんといっても2002年、iPhoneが登場する5年も前に元祖スマートフォンと呼ばれる「ブラックベリー」を開発、販売したことです。今スマートフォンと言えばiPhoneとアンドロイドですが、10数年前は「スマートフォンといえばブラックベリー」でした。
しかし今、ブラックベリーを使っている人はほとんどいませんよね。どんどんシェアを落としていき、独自OSの開発も止まり、2022年2月には5G対応端末の開発中止を公表しています。
株価もご覧の有り様。2008年、iPhoneが登場した頃から株価は20分の1程度に…企業としてはまさに死に体ですね…大天才率いる企業がどうしてこんなことになってしまったんでしょう…
本書ではその理由をCEOのマイク・ラザリディス氏が「再考」できなかったことにあるとしています。技術力・開発力・マーケティング力が不足していたわけではありません。ブラックベリーの大成功という過去の偉業に捉われ、時代の変化に合わせて再考できなかったため、ここまで低迷してしまったんです。
ブラックベリーはもともと、携帯端末にPCと同じようなキーボードをつけたことで大ヒットしました。そしてiPhoneはキーボードではなくタッチディスプレイを搭載したことで大ヒットしましたよね。つまり、2000年代はキーボードが必要でしたが、2010年代にはキーボードが必要なくなったんです。
しかしマイク・ラザリディス氏は「顧客はキーボードがあるからブラックベリーを買うんだ」と2000年代の考えに固執しました。
一方、iPhoneの生みの親スティーブ・ジョブズ氏はというと、彼もすんなりと再考したわけではありません。2004年にアップルの小規模チームがiPhoneのもとになるアイデアをジョブズにプレゼンしましたが、ジョブズは「なんのためにそんなことをするんだ?冗談もほどほどにしろ」と罵倒しました。公的な立場でも私的な立場でも、「絶対に携帯電話は作らない」と何度も断言していたそうです。
ジョブズはiPhoneのアイデアによって当時大ヒットしていたiPodの売上を失うことを危惧していたんです。
しかしiPhoneのアイデアをプレゼンしたチームは諦めず、ジョブズに提案し続けました。その提案は「この製品を出してもアップルは携帯電話の会社ではなく、コンピューター会社であり続けられますよ」「既存の製品に電話機能を加えるだけですよ」と今思えばかなり消極的な提案です。
半年にわたる議論の末、ジョブズはついにチームの熱意に押され、iPhoneのプロジェクトを承認しました。
結果は今手に持っているものを見ればわかりますよね。世界最大の時価総額を誇るアップルの売上の約6割がiPhoneです。
スティーブ・ジョブズ氏がiPhoneに否定的だったというのはどこかで聞いたことがありますが、予想以上に否定していたんですね。笑 ラザリディス氏も再考していたらスマホ業界はもっと進んでいたと思います。良くも悪くもiPhoneが一瞬でスタンダードを作ってしまったので、似たようなスマホしかないですよね。いち消費者としてはブラックベリーとiPhoneが共に競い合いながら発展していく未来も見てみたいです。
知識の欠点は、時として未知を受け入れたがらないことだ。人は、新しいことを受け入れる能力や積極的な意志があってこそ、よい判断ができる。人生において、見直すこと、考え直すことはますます重要な習慣となっていく、と私は自信を持って言える。もちろん、私のこの見解が間違っている可能性もある。もしそうなら、即座にその考えを改めるとしよう。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
自分の思考を科学者モードに切り替える
ここまで再考することの重要性をいろいろな観点から見てきましたが、思い返せば日常生活でも再考できずに苦労し続けることってありますよね。例えばスマホや保険の料金見直し。一回立ち止まって見直すだけで、年間数万円の節約になるのがわかっていても、「今さら変えるのは…」と抵抗してしまいます。これはこれまでの自分を正当化しようとする政治家の思考でしょう。「格安スマホは災害時に繋がりにくい」などデメリットを上げてしまうのは検察官の思考でしょう。
ということでここからは自分が牧師、政治家、検察官のように思考している時に自覚し、科学者モードで考えて成長するための方法を見ていきたいと思います。
自信過剰を避け思考の盲点に気づく
本書ではさまざまな実験・研究データやエピソードが紹介されていますが、その中で最も重要だと思ったグラフがあります。それがこちら。知識と意欲(自信)の相関図です。
この画像からわかることは、知識と自信は比例しないということです。より具体的に言えば、人はド素人からワンステップ進んだ時、一番自信過剰になってしまうということです。これを心理学用語では「マウント・ステューピット(自信過剰・優越の錯覚)」といいます。
また「ダニング・クルーガー効果」と呼ばれるものもあります。さまざまなテストで、点数が低い人ほど結果に自信を持っている、平均以下の点数を取った人ほど、自分の点数が平均以上だと考えている、という研究結果があります。人は能力が欠如している時ほど自信過剰になる傾向にあるということです。
これはすごくわかります。僕は楽器を弾くことが趣味ですが、弾くのが上手い人はみんな「もっと上手くならないと」「まだまだ足りない」と言いますが、下手な人ほど「俺、結構弾けるよ」と言います。笑 仕事でもよくありますよね。入社2、3年でなんでもできると勘違いしてしまったり…
素人からアマチュアに移行する過程で、再考サイクルが崩れる可能性がある。人は経験を積むにつれて、謙虚さを失うものだ。速い進歩を遂げていることに得意になり、専門的技術を身につけたと錯覚する。そうすると、過信サイクルが起動し、その中で人は、自分の知識の質や量を疑問視したり、知らないことに興味を持ったりしなくなる。錯覚や誤った思い込みにとらわれ、自分の無能さに気づかない。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
このアマチュアの罠に嵌って恥ずかしい思いをするだけならまだしも、仕事で大きなミスをしたり、人生の選択を間違えたりしてしまうのは避けないといけません。ちょっとビジネスについて学んだだけで「俺は独立して一人でやっていける!」と考えるのはちょっと危ないですよね。
この罠に嵌まらないためには、なんといっても自覚することです。新しい仕事を覚えて「なにこれ簡単じゃん。もうマスターしたよ」と思ったら、上の画像はダニング・クルーガー効果を思い出してください。
そして「自信」という言葉に注意してください。自信の本題の意味は自己信頼度、つまり自分をどこまで信じているかという感覚であって、自分の能力に対する確信とは別なんです。適切な自信を持つことは精神衛生上重要ですが、それを自分の能力とは分けて考える必要があります。
もう一つ、「謙虚さ」に対する捉え方を正しく持つことも大切です。一般に謙虚さは「控えめ」といった意味がありますが、語源を辿れば「根ざしている」という意味になるそうです。
つまり「謙虚さ」とは自分の実力を正確に把握し、過ちや不確実さを認識する能力のことなんです。謙虚すぎると卑屈になってしまう印象がありますが、そもそもの定義を考えるとそんなことはありません。自分を小さく見せることではなく、等身大に把握することこそが謙虚さです。
最近は自己肯定感を高める、自信を持つ、といったことがもてはやされていますが、本書では「不安」にも重要な役割があると言います。
人は不安を感じることでさらに努力しようと思い、劣等感を払拭するためにモチベーションが湧き、学習能力を高めることもできます。不安を切り捨てるのではなく、不安を学習に活用する方が、能力を高める上では効果的でしょう。
自分の間違いを発見する喜び
優秀な科学者は新しい発見をした時はもちろん、自分の間違いを発見することを喜びます。しかし多くの人は、自分の考えや信念が間違っている可能性と出会うと、扉を閉めてしまいます。本書では「私たちの頭の中には小さい独裁者がいて、真実が思考に流入するのを制限しているかのよう」と表現しています。
独裁国家では都合の悪い情報が流れないよう、言論統制や情報封鎖が行われていますよね。それと同じことが大小さまざまですが、僕たちの頭の中でも行われているということです。
この小さな独裁者は自分の知識や人格、アイデンティティが否定されたり、危機に瀕した時に強く訴えかけます。明らかに詐欺まがいの新興宗教に嵌っている人は、まわりから忠告されると強く反発します。
これは脳の扁桃体という非常に原始的な構造から生まれる思考なので、制御するのは簡単ではありません。アイデンティティが危機に瀕した時の防衛本能なんです。
だったらどうすればいいのか?
本書では二つの「分離(デタッチ)」を教えてくれます。
1つ目の「分離(デタッチ)」は過去の自分と現在の自分を分離させることです。
自分の知識や信念はすべて過去の自分が生み出したものです。過去の自分と現在の自分が同一であれば、過去の自分が否定されそうになった時、現在の自分が守ろうとするのは当然です。
でも過去の自分と現在の自分は違います。現在の自分は、過去の自分が持っていなかった情報を持ち、成長しているはずです。過去の自分とデタッチできていれば、過去の自分が否定された時、過去の自分より成長できた現在の自分を喜ぶことができるようになります。
著名投資家レイ・ダリオが筆者に「過去の自分を振り返って”1年前の自分はなんとばかだったのか”と思わなかったとしたら、それは1年間でなにも学ばなかったということだ」と言ったそうです。
まさに過去の自分と現在の自分を分離して、過去の自分を客観的にみて成長する人の言葉ですね。過去の自分が別人のように思える人は、その後、憂鬱になる可能性が低かったという研究もあるそうです。
2つ目の「分離(デタッチ)」は自分の意見や考え方とアイデンティティと分離することです。
アイデンティティは自分の軸になるものなので、変わらず持ち続けていいでしょう。でも意見や考え方は頻繁に変えるべきものです。スマホが登場する以前に上手くいったマーケティング施策は、スマホが登場した後には変えないといけませんよね。地球温暖化を証明、または否定する新しいデータが出てきたら、そのデータをもとにもう一度自分の意見を再考しないといけませんよね。
変化していく意見や考え方と、変化しないアイデンティティ。これが同一だと、意見や考え方を変えるのが難しくなります。アイデンティティの方が強固だからです。
自分は誰なのか、アイデンティティを問う時、あなたの信念ではなく、価値観に基づいて自分を定義するべきだ。価値観とは、人生の中核となる原理である。それは優秀で寛容であることかもしれないし、自由で公正であることかもしれない。または安全・安心で誠実であることかもしれない。このような価値観を自分のアイデンティティの基盤におけば、柔軟な心を持ち、視野を広げるための最善の方法を喜んで受け入れるはずだ。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
僕は高校生くらいの時、プロのギタリストになろうと思い、それがアイデンティティの一部になっていました。今では諦め、もっと自分に向いている方向で活躍していこうと考えていますが、やっぱりアイデンティティの一部になってしまっていることを変えるのは簡単ではありません…分離という考え方があれば、「プロのギタリストになれなくても、音楽や芸術を楽しむ自分のアイデンティティは変わらない」と柔軟に考えることができますね。
タスク・コンフリクトを歓迎する
自分の思考を牧師、検察官、政治家から科学者に切り替え、学び続ける方法。続いてはしっかり議論すること。そして正しく対立することです。
対立という言葉にあまりいい印象はありませんよね。でも僕たちがパッと思い浮かべる対立は「リレーションシップ・コンフリクト(人間関係で起こる対立)」なんです。
でも実は、対立にはもう一つの形があって、それが「タスク・コンフリクト」です。
様々なベンチャー企業を調査した結果、生産性の高いグループは、リレーションシップ・コンフリクトが少なく、タスク・コンフリクトが多いことが明らかになっています。
リレーションシップ・コンフリクトが生産性を損ねる原因の一つとなるのは、そうした対立が再考する際の妨げとなるからだ。衝突が個人的なものや感情的なものになると、自分の見解については独りよがりな牧師に、他社の見解に対しては悪意に満ちた検察官になる。政治家のように1つの策しか眼中になく、味方以外の意見はすべて却下することもある。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
リレーションシップ・コンフリクトはどうしてもアイデンティティのぶつかり合いになります。先ほど紹介したように人はアイデンティティが危機に瀕すると本能的な防衛本能が働いてしまうので、再考することができません。
一方、タスク・コンフリクトは思考や意見の多様性がもたらされ、過信サイクルに陥るのを止めてくれます。タスクについて衝突する時、解決策を見つけるため人は謙虚さを保ち、疑問を表明し、新しいアイデアを探し求めるようになります。
しかしタスク・コンフリクトも白熱してくると、リレーションシップ・コンフリクトに変わってしまうことがあります。次のプロジェクトをどう進めるか話していたはずなのに、気づけば相手の過去の失敗を指摘したり、性格などタスクと関係のないところで議論が進んでしまうケースです。
人は「なぜ」について討論する時、自分の見解への思い入れが強すぎて、相手の見解に対して否定的になるものだ。建設的なグッドファイトを交えたければ「どのように」について話し合うべきだろう。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
唯一絶対の正解が存在しない世界でアンラーニングする
このニュースの見出しを見てどう思いますか?
- 脳の健康に役立つコーヒー(フォーブス)
- コーヒー摂取量の増加は脳に害を与える(CBSアトランタ)
- コーヒーは認知機能障害を予防する(バサル)
- もう一杯のコーヒーが脳に与える害(インディア・トゥデイ)
バラバラのことを言っていますが、どれも一流メディアです。根拠がないことは言いません。実際にこれらのニュース記事で紹介されたデータを見ていくと、1日に1〜2杯のコーヒーを摂取する年配者は、全く摂取しない人、不定期に摂取する人、多量に摂取する人に比べてリスクが低いことが明らかにされています。
つまり、コーヒーが脳に良いのか悪いのか。それは量や頻度によって変わるということです。
しかし多くの場合、見出しだけを見て「コーヒーは脳にいいんだ!(または悪いんだ)」と考えてしまうでしょう。そしてその後、コーヒーが脳に悪い(または良い)という情報に触れても、「この情報は間違っている!」と受け入れなくなったりしてしまいます。
わかりやすい例は他にもたくさんあります。
例えば貧困。世界で貧困は減っているでしょうか?増えているでしょうか?答えは増えてもいるし、減ってもいる、です。貧困は割合で見たら減っていますが、絶対数で見たら増えています。でも貧困を解決すべく動いている人は、貧困の絶対数を提示し「貧困は増えている!」ということを主張します(それが悪いわけではありませんが…)。
地球温暖化も同様です。地表温度は上がっているというデータがありますが、海水温は上がっていないというデータもあります。懐疑論者は海水温のデータを持ち出し、もう一方は地表温度のデータを出して平行線をたどります。
ちなみに個人的には、地球規模の大きな出来事。数百年どころか数万年単位の動きなので、特定の要因をあげて地球温暖化について議論すること自体、あんまり意味がないように感じています。
もちろんこんなにデータがはっきりして、わかりやすい問題ばかりではありません。
新商品はAとBどちらでいくべきか。どのマーケティング戦略を採用すべきか。これらにはそもそも正解がありませんよね。
だからこそ価値を増しているのが「アンラーニング(誤った知識や固定観念を捨てること)」で、正しい答えが1つではないことを受け入れる姿勢です。
言うは易し行うは難しですね。僕たちは子どもの頃から正しい答えが1つしかない前提の教育を受けていますから、1つの事実に対して複数の正解があることや、一度学んだことと逆のことを受け入れないといけないというのは、イメージするほど簡単ではありません。
「ファクトチェッカー(事実を検証する人)」のように考えることを教えるのも、最近の傾向だ。そのガイドラインには次の3つが含まれる。(1)情報をそのまま受け取るだけではなく、くまなく調べる。(2)信頼性を格付けや評判だけで判断しない。(3)情報の発信者は必ずしも情報源ではないことを理解する。
THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す
本質を掴み「THINK AGAIN」しよう!
ということで今回は「THINK AGAIN-発想を変える、思い込みを手放す」を紹介しました。
この本をゴールデンウィークに読めたのがよかったです。最近天狗気味だった鼻を折られましたし、いろいろと考え直すことができました。
結構長い記事になってしまいましたが、本書の内容がかなり濃いので、ほんの一部しか紹介されていません。半分くらいの章は飛ばしてしまいました。
僕自身、本を読んだり、スキルを身に付けたりするのが好きなせいもあって、自信過剰になっている部分があったと思います。
もう一度この図を載せましたが、僕の自信過剰になっている部分はこの図でいう「マウント・ステューピッド」ですね。本を数冊読んだ程度でその分野の専門家になったわけではありませんが、得意げに友達にしゃべったりしていました。笑 それ自体が悪いことだとは思いませんが、知識と自信には乖離があることはちゃんと認識しておきたいですね。
本書の最後に「再考スキルを磨くための30の秘訣」という項目があります。400ページ以上ある本書の内容を数ページにまとめてくれているので、最後にこの部分を見ていきましょう。
30の秘訣から、現時点で僕が大切だと認識した8つををピックアップしていきます。
- 科学者のように考える…他者を説教する牧師、自説以外を否定する検察官、その場しのぎの言い訳をして共感する一部の人だけによりそう政治家になるのではなく、意見が正しいか実験したり、既存のデータと照らし合わせる。
- 自分の意見に反する情報を探す…確証バイアスに陥らないため、自分の思い込みに反する意見を積極的に見つけ、異なる意見を持つ人と関わる。
- マウント・ステューピットの頂上で立ち往生しない…人は自分の能力を過信してしまう傾向にあることを認識する。過信するとそれ以上の向上が見込めないので、そうした心理傾向があることを認識し、自分が特定のテーマについてどれだけ詳細に説明できるかを考える。
- 自分の間違いを歓迎する…自分の間違いを見つけたということは、新しい答えを見つけたことであり、過去の自分より成長した証である。自分の知識を証明することより、自分を向上させることに集中する。
- 建設的な対立を恐れない…タスク・コンフリクトは最高を促してくれる。意見の不一致は討論し、さらにいい結論に辿り着くきっかけである。
- 2極化するトピックは複雑に考える…どんなトピックでも必ず2つ以上の見解が存在する。白か黒か答えを出すより、より複合的に考察し、グレーの部分を認識しよう。
- 10年計画は必要ない…再考し続けるということはより良い方向に向かい続けるということ。昨日理解できなかったことが、今日は理解できたという小さな再考に注目しよう。計画はワンステップ先でいい。再考のスキルさえあれば、長期的な目標にもより広い視野を持って柔軟に対応できる。
- 時間を作り再考する…1日に1時間の空きを作り、考えたり学習したりする時間に当てよう。アンラーニングも取り入れ、古い考え方を捨てよう。自分に対して建設的な対立を持ちかけてくれる挑戦的なネットワークを持とう。
もっと大切なことがたくさん書かれていますが、現時点で僕が受け入れられたのはこの8つ。定期的に読み直して、再考して、より多くを受け入れるようになっていきたいと思います。
この記事を書いた人
-
かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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