「何様」朝井リョウが贈る6つの短編|人間関係から人間そのものを描く

「何様」朝井リョウが贈る6つの短編|人間関係から人間そのものを描く 小説・エッセイ
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こんにちは。夫です。

夫

今日は珍しく小説を紹介しようと思います。小説ばかり読み漁っていた高校・大学生のころ、、、気づけば社会人としてのスキルを身につけるためビジネス書ばかり読むようになっていました…たまには小説を読むのも大事ですね。

ということで僕が久しぶりに読んだ小説は朝井リョウの『何様』です。

朝井リョウといえば『桐島、部活やめるってよ』が小説、映画ともに話題になりました。もう一つ映画化もされた人気作が『何者』です。タイトルを読んでわかる通り、今回読んだ『何様』はこの『何者』の続編的な立ち位置です。

夫

『桐島、部活やめるってよ』と『何者』は大学生くらいに読んだ記憶があります。正直、中身はあまり覚えていませんが、それでも続編である『何様』は十分楽しめました。

ということでネタバレしない程度に本書の中身を見ていきたいと思います。

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夫

あ、『何者』の内容をあまり覚えていないので『何者』の続編としての考察はあまりしません。笑 6つの短編からなりますが、それぞれを読んだストレートな考察を書いていきたいと思います。

水曜日の南階段はきれい

第一編「水曜日の南階段はきれい」の主人公は光太郎。『何者』にも登場していた一人の高校生時代の話。なので続編ではなく前日譚という立ち位置です。
『何者』でも光太郎はバンドをしていて、確か就活のために引退していましたが、この話では「大学生になってもバンドを続けるぜ!」というシーン。

夫

僕は高校、大学とバンド活動に明け暮れ、就活シーズンに一旦引退しました(社会人になってまた始めましたが)。「水曜日の南階段はきれい」と『何者』の光太郎を見ていると、当時の自分を思い出すようでものすごくノスタルジーを感じます。

俺は、夕子さんの夢だけが、本物だと思った。
誰にも言わないで、自分の中で大切に大切に育て上げて、努力を続けた夕子さんの夢だけが、本物だと思った。御山大に入って憧れのバンドがいるサークルに入りたいとか、ライブハウスを満員にしたいとか、そんな夢は、きっと偽物だ。
引用:何様「水曜日の南階段はきれい」

「水曜日の南階段はきれい」では、御山大に入ってバンド活動することを公言してそこに向かう光太郎と、ちょっとしたきっかけで光太郎の受験勉強を手伝う夕子さんが登場します。夕子さんは光太郎とは違って一切夢を語りません。しかし最後、卒業式の後にある方法で光太郎にだけ夢を打ち明けます。
上の引用はその部分です。

夫

光太郎よ、高校生の夢なんてそんなもんだぜ…と思いながらも、誰にも語らず本物の夢を追いかけ続けていた夕子さん。僕は光太郎タイプの人間で、どこまで本気だったか今となってはわからないいろんな夢を持っていましたが、今になって当時の夢を叶えているのは夕子さんタイプなんだろうなと思います。しかし、、甘酸っぱい…

それでは二人組を作ってください

『何者』では、理香と隆良という二人が同棲しています。「それでは二人組を作ってください」はその二人が同棲するに至るまでの物語。なのでこれも前日譚ですね。
「それでは二人組を作ってください」の中で理香は姉と同居していますが、姉が婚約者と住むため出ていくことが決まります。元々二人で住んでいた家なので、一人で住むには家賃が高すぎる…なので別のルームシェアを見つける必要があります。

ルームシェア。
頬を、豆乳と水が混ざった液体が伝っていく。
小さなころから、女の子とじょうずに二人組になれなかった。何かを察するように、女の子は私と二人組にはなりたがらなかった。いつでも私は、二人組ではない場所から、二人組をじょうずに組める子たちを見ていた。
それでも、自分から頼み込んで二人組をつくってもらうことはしなかった。
引用:何様「それでは二人組を作ってください」

理香は明美という友達とルームシェアできないかと考えますが、素直にそう言い出すことはしません。その代わり、明美がハマっているドラマに出てくるおしゃれな家具を揃えようとします。そして家に呼んだとき、明美が興味を示したらルームシェアを言い出そうと考えていたわけです。

しかしいざ家具が届いて明美を家に呼び、そのドラマを見ているときに、根本から間違っていたことに気づき、結局言い出せず、わざわざ買ったおしゃれな家具も見せることができずに終わりました。

夫

この部分はあまりストレートな表現をしていないんですが、理香の気持ちや考えが伝わってきて「うわあ〜」ってなります。

そこで登場するのが、家具屋でバイトをして理香が買った家具を組み立てに来ていた隆良(宮本くん)です。

私は、明美をバカだと思っていた。バカな明美は、私と二人組をつくってくれるだろうと思っていた。
<中略>
この人はバカだ。きっと、私よりも。
<中略>
結局私は、自分よりバカだと思う人としか、一緒にいられない。
引用:何様「それでは二人組を作ってください」

夫

明美をバカだと思っていた理香は、自分の方がバカだと気づいてしまったんです。だからルームシェアを言い出せなかった。家具を組み立てに来ていた宮本くんは自分よりバカだと思ったから、ルームシェアを言い出したんです。こういう表現をする朝井リョウ、意地悪だなーって思います。笑

逆算

「逆算」の主人公は松本さんという、『何者』には出ていないキャラクターですが、物語の中には沢渡さんという「何者」に出てきたキャラクターが出てきます。沢渡さんは大学を卒業して立派な社会人として活躍しているので、後日譚になります。

夫

『何者』もうろ覚えなので、こんな人いたっけ?って混乱しました。主人公は出ていなくて、出ている人も主人公の先輩というサブ役です。

私は一日のうちに、何度も逆算する。小銭ができるだけ少なく返ってくるように。始業の時間に遅刻しないように。
そして、その人の誕生日を知ってしまったとき。
私は、何度も逆算する。
引用:何様「逆算」

主人公の松本さんは、人の誕生日を知ってしまったときにあることを逆算してしまいます。彼女の誕生日は11月4日生まれで、十月十日で単純計算すると、親同士が結ばれ受精した日が12月24日、クリスマスイブになってしまうんです。松本さんは高校生のときの彼氏にそのことを言われて以来、ものすごく誕生日を気にしてしまうようになったんです。

夫

松本さんはこの話を気にするあまり、クリスマスや恋人関係を後ろ向きに考えてしまうようになりました。高校生のときに初めてできた彼氏に言われた一言、それが何年もその人の人生を左右してしまうんだから言葉って怖いですよね。

二十六歳、一二月二十四日、男の人とディズニーランド。
やっと、ここまで追いついた。
<中略>
彼らが出会ったころ、私は何をしていた?あの若い男女が、好きだと思える相手と出会うきっかけを掴むべく何かしらの努力をしていたころ、私は何をしていた?あの夫婦が、今の私には想像もできないような覚悟で、結婚しようと決め、子どもをつくろうと決め、手を取り合って妊娠を喜び合っていたころ、私は誰かと何でもいいから分かち合えていたのだろうか?
<中略>
私は、二十六歳のクリスマスまでの日数を、あの日からずっと逆算しつづけていた。
最初で最後の彼氏に、十一月四日生まれを笑われたあの日からずっと。
引用:何様「逆算」

松本さんは、両親が26歳のクリスマスにディズニーランドに行ったことを知ります。そこで自分が生を受けたんだと認識し、なんとかそこに追いつきたいと考えていました。しかし、そう考えるあまり恋愛に奥手になり、彼女の両親が経験してきたいろんな努力や経験をほとんどせずに年を重ねていました。

夫

この物語では、恋人ではありませんが、あるきっかけから沢渡さんとクリスマスにディズニーランドに行くことになります。そこで「やっと追いついた」と思う彼女でしたが、沢渡さんから衝撃的な事実を告げられることになります。何年も悩んでいたのは一体なんなんだと、この物語の前提や松本さんの苦悩が吹っ飛んでしまうような事実です。

作品を超えて人間がつながる「何者」と「何様」

ということで今回は『何者』の後日譚・前日譚である『何様』を紹介しました。

夫

前半3編を取り上げましたが、全部紹介してしまうのもつまらないのでここまでにしておきます。残り3編でも、『何者』の登場人物とそのさらに周囲にある人間関係が描かれています。

「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」では『何者』の主要人物の一人でもある瑞月の父親と関係を持つマナー講師が主人公です。『何者』とは遠すぎて、単なるスピンオフ、後日譚と言ってしまうのが勿体無いくらい、1つの作品として成り立っています。

夫

「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」については僕が買った文庫版の解説を書いたオードリー若林さんがいい感じに解説してくれています。

例えば、脳の中にその人の行動に作用するブレーキとアクセルがあるとする。
アクセルが強い人もいて、ブレーキが強い人もいる。
稀に、両方弱い人もいて、両方強い人もいる。
正美はブレーキが強い人という印象を受けた。
引用:何様「解説」

ブレーキが強い正美は、アクセルが強い同僚にコンプレックスを感じています。この物語はブレーキが強い正美が、ブレーキを解放して「むしゃくしゃしてやる」過程が書かれたもの。そして自分の長所と、長所と表裏一体である欠点を受け入れて成長する物語です。

そして最後の「何様」では、人事部に配属され面接を担当する新入社員が登場。

『何者』はさまざまな立場の大学生が就活の中で「自分は一体何者なんだ?」と考える作品でしたが、少し前まで就活生という立場でありながら、面接官として彼らを取捨選択するまさに「何様」なんだという物語で、本書は締めくくられます。

夫

朝井リョウの作品を読むのは久しぶりでしたが、「人間関係」や「周囲の評価」という人間の周囲にあるものから、人間そのものを描く力はさすが。うろ覚えの『何者』をまた買って読みたいと思いました。

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