ビジネスエリートの思考法|「洞察力」があらゆる問題を解決する

ビジネス・マーケティング
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こんにちは。夫です。
去年転職してから約1年。ド新人として言われた仕事をこなせばOKという段階から、自分で考えて仕事を創っていくことが求められる今日このごろ。

新卒で入社した前職はピカピカの新入生ということで何年もド新人として丁重に育ててもらえましたが、今の職場ではありがたいことにいきなり難易度激高の仕事をさせてもらっています。そうなると、目の前にある課題を解決していくのではなく、目に見えない課題を発見する、マイナスをゼロにするのではなく、ゼロをプラスに変えていく仕事が求められます…

僕と同じように、立場の変化に戸惑う人は多いはず。この間までミスなく丁寧に言われた仕事をちゃんとして、求められた結果を出していれば評価されたのに、気づけば求められた結果を出すのは当たり前で、全く別のことを求められるようになるんです。

今日紹介する本は、そんな社会人のための一冊、「「洞察力」があらゆる問題を解決する」です。

5年以上前に買った本なのですが、実は僕はこの5年で3回も引っ越しをしていて、そのたび宅配買取で大量に本を処分してきました。つまり、5年前から残っている本はかなり貴重。久しぶりに読み返せば”今の自分”にとって重要なことがたくさん書かれていました。

ということで今回は、ビジネスエリートとしてキャリアを築く上で割けては通れない問題。仕事をこなす立場から、仕事を創る立場へ変わるときに欠かせないスキル「洞察力」について学んでいきましょう。

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パフォーマンスを左右する2つ矢印

仕事でもプライベートでも、パフォーマンスの改善を求められるシーンは色々あります。例えばプライベートだと、料理。いかに美味しくてコスパが良くて栄養バランスも良いご飯を、どれだけ短時間に作れるかは、我々共働き夫婦にとって大きな課題です。ということでまずは本書の骨子でもある「パフォーマンスのモデル」を紹介します。

個人・組織を左右する2つの矢印「パフォーマンスのモデル」

この図を覚えておいてください。本書の骨子となる図です。パフォーマンスを上げるとき、方法は2つしかありません。それは、目に見えるミスを減らすことと、目には見えない問題を見抜くことです。基本的な仕事はミスを減らすだけである程度成果を出すことができます。でもそれだと足りないケースが出てくるんです。

例えば、プロジェクトリーダーとしてプロジェクトを成功させる場合。ミスなくこなすだけで成功するプロジェクトは滅多にありません。プロジェクトを成功させるために、何をすべきなのか?という段階から考える必要があります。

しかし一方で、多くの会社や組織は目に見えるミスを減らすことに注力します。理由は単純、ミスは目に見えるから、評価しやすいんです。

いわゆる減点方式ですね。学校の教育でも100点を満点として、そこからミスした分、点数を引いていきます。

しかし例を挙げるまでもなく、ビジネス、プライベート、現実社会は100点満点という上限もなければ、0点という下限もありません。
仕事で本当に評価すべきは、営業成績をミスなくエクセルにまとめて資料化できる人ではなく、「そもそもこの作業は必要なのか?」と問いかけ、営業管理ツールを導入する人ですよね。

洞察力があらゆる問題を解決する」が目的としていることは、当然ですが「見えない問題を見抜く力」を養うことです。
エクセルをミスなく入力するのではなく、そもそもエクセルにて入力するなんてナンセンスだ、と問いかけられる人です。
「どれだけ機能を詰め込めるか」が追求されていた携帯電話に、「なんでそんなに必要なんだ?」と問いかけ、「ボタンなんて一つで良い」と言いiPhoneを世に出したスティーブ・ジョブズのような人です。

「見えない問題を見抜く力」は、私たちに新しい視点を与え、行動や考え方を新しい方向に導いてくれます。

それでは、洞察力、つまり見えない問題を見抜く力を養うための方法を見ていきましょう。

目には見えない問題を見抜くための5つの方法

本書で紹介されている見えない問題を見抜くための方法は、次の5つです。

  • 出来事のつながりから見抜く方法
  • 出来事の偶然の一致から見抜く方法
  • 好奇心から見抜く方法
  • 出来事の矛盾から見抜く方法
  • やけっぱちな推測による方法

といっても、これらを僕がブログ記事として頑張って紹介しても、たぶん20%も伝えることができません。目には見えない問題を見抜く力は、言語化しにくいんです。なので、いくつかの事例を中心に紹介したいと思います。

山本五十六が真珠湾攻撃に踏み切った洞察力

「出来事のつながりから見抜く方法」の例として、第二次世界大戦で真珠湾攻撃を計画した山本五十六の例を見てみましょう。
歴史の事実として、真珠湾攻撃は失敗だった(アメリカと戦わない方法を模索したほうが良かった)と思いますが、それでも不可能と言われた真珠湾攻撃によって、アメリカに大打撃を与えたことも事実です。

第2次世界大戦初期、まだアメリカが参戦する前に起きた「ターラント海戦」という戦争があります。ターラント海戦はイギリス海軍が、ターラント湾に駐在してイギリス軍の補給を阻害するイタリア海軍に仕掛けた戦いです。
この海戦でイギリス海軍は、歴史上初めて敵の戦艦を上空から攻撃し、1時間以内にイタリア艦隊を爆破しました。
この時、イギリス海軍は戦闘機から魚雷を打ち込んだのですが、魚雷は30メートル以上の水深がないと役に立たないと考えられていました。ターラント湾の水深は12メートルほどだったので、イタリア海軍はまさか魚雷で攻撃されるとは思っていなかったのです。
しかしイギリス海軍は浅い水深でも攻撃が成功するよう、魚雷を改良しました。これは当時の常識からするとありえない発見だったのです。イギリス海軍勝利のニュースは世界中に広がりました。それは日本にいた山本五十六はもちろん、真珠湾のアメリカ海軍(ターラント湾と同じく水深が浅く、魚雷による攻撃を予想していなかった)にも伝わりました。山本五十六はそのニュースを聞いた後、自分の日記に真珠湾への奇襲の青写真を書くほど、そのアイデアを練り上げていました。一方、アメリカ海軍大将も、同じことを考え、日本の真珠湾攻撃の可能性についてメモを残していました。

どちらも同じ情報を得て、同じアイデアを持ったのです。

そして結果は、山本五十六は真珠湾攻撃を成功させ、アメリカ軍に大打撃を与えました。アメリカ軍は、同じアイデアを持っていたにもかかわらず、それを防ぐことができませんでした。

このエピソードは「出来事のつながりから見抜く方法」による洞察力を発揮させた例です。ターラント湾の攻撃成功というニュースから、山本五十六は「自分たちに応用できないか?」「同じような状況は他にないか?」を考え、真珠湾攻撃を発案しました。
アメリカ側も同じことを思いつきはしましたが、真珠湾はターラント湾よりさらに水深が浅いことからありえないと考え、攻撃を防ぐことができませんでした。

ある出来事を知って、他人がやらないような方法で一連のアイデアをつなげていく。これはビジネスではよく使えそうですね。例えば、競合が成功したアイデアを自社でもできないか考えたり、全く異業種の事例を自社に当てはめて考えてみたり。

この方法はいわゆる「点と点をつなげる」タイプのものです。有名なエピソードでは、スティーブ・ジョブズが大学時代に学んだカリグラフィーの知識を、Macの開発に活かした、というものがあります。カリグラフィーとコンピューターは全く違いますが、文字を美しく見せるという点をつなげ、当時のウィンドウズにはない斬新なコンピューターになりました。

本書では他にもダーウィンが進化論を発見したときの事例などが紹介されています。

偶然の発見が医療の歴史を変えた

続いては「出来事の偶然の一致から見抜く方法」と「好奇心から見抜く方法」を見てみましょう。
偶然の一致からアイデアを探すことにはリスクもあります。偶然の一致はほとんどの場合、本当に偶然の一致で、特に意味がなかったりするからです。また、好奇心もほとんどの場合、何かの役に立つことはありません。しかし、偶然の一致やちょっと「面白いな」と思ったことがヒントになり、洞察力を働かせ、大きな発見につなげた例も数多くあります。

その一つが抗生物質「ペニシリン」の発見です。

1982年、フレミングは細菌の培養を行ったまま、1ヶ月間休暇を取ってしまいました。
休暇から帰ってくると、培養液の一つにカビが生えていることに気づきます。実験としては失敗なので、すぐに捨ててしまってもおかしくなかったのですが、フレミングは「面白いな」とつぶやきました。そのカビの近くだけ、細菌が繁殖していなかったのです。
この偶然の出来事に好奇心を刺激されたフレミングは、カビを培養し、そこから細菌を殺す物質を発見したのです。それが、世界初の抗生物質「ペニシリン」でした。

もう一つ例を見てみましょう。ヴィルヘルム・レントゲンという人のエピソードです。名前からしてわかると思いますが、X線を発見した人です。

レントゲンは陰極線(放電現象に見られる電子の流れ)を研究していました。彼は装置から漏れる光線を抑えるため器具を覆っていたのですが、その装置から陰極線を流すと、光線を覆っていたにもかかわらず部屋の中にあったスクリーンが輝いていることに気づきました。
この偶然の出来事から、レントゲンは陰極線の研究を中止して、なぜ覆われた光線から光が漏れるのかを調べ始めました。そのわずか数週間後、レントゲンは陰極線ではなく、新しい光線、つまりX線によるものだと考えました。
最初のノーベル物理学賞はX線を発見した栄誉で、レントゲンに与えられました。

ペニシリンを発見したフレミングも、X線を発見したレントゲンも、元々研究していたものとは別のものを偶然見つけ、好奇心を抱いたことから大きな発見に繋がりました。この他にも黄熱病や胃潰瘍など医療関係の発見の事例が多く紹介されていますが、通常なら見逃してしまうような偶然の出来事がきっかけになっています。

これは意識するとビジネス、プライベートともに役立つかもしれませんね。僕は広告関係の仕事をしていますが、広告で成果を上げるときは偶然の出来事にどれだけ注意を払えるかが試されます。見逃していた広告が実はヒット広告だったり、一部の指標だけが異常に高い広告をちょこっと修正したらヒットのテンプレートが出来上がったり…

続いて「出来事の矛盾から見抜く方法」に行きたいところですが、ちょっと言語化するのが難しそうなので飛ばします。
リーマンショックの引き金となったサブプライムローンに気づき資産を大幅に増やした3人のストーリー。興味があればぜひ本書で読んでみてください。

命を救ったやけっぱちな推測による洞察力

続いて紹介するのは「やけっぱちな推測による方法」ですが、この事例は面白い。ある山火事で消防士の命を左右した洞察力です。

ある日、15人の消防隊が山火事の消防のため山にパラシュートで降下しました。しかしその2時間後、パラシュートで降り立った15人のうち12人が亡くなるという大惨事になってしまいました。
この消防隊を率いるワグナーは新しい隊員と3週間の訓練を行う予定でしたが、その前に本番が訪れてしまいました。山に降ろされたチームはすぐに、山火事が想定していた場所から飛び火して広がっていることに気づきます。ワグナーはチームに「丘の頂上にある安全地帯に逃げろ」と指示しますが、火が迫る勢いは早く、頂上まで逃げることは無理でした。火が迫る中、ワグナーは「やけっぱちな推測」をはやらかせました。
ワグナーは自分の目の前にあった乾燥した枯れ草に火を放ったのです。他の隊員は何をしているのか想像もできませんでした。後ろから火が迫ってきて、一刻も早く上へ登らないといけないのに、自分の前方に火を放ったのです。しかしワグナーは前方に火を放ち、その焼け跡の灰の中に身を隠すことで、炎を逃れることができたのです。

後ろから迫る火は自分たちの命を奪おうとする敵です。しかしワグナーはその火を自分の味方にしました。その火を使って前方を燃やし、燃えカスを作ったのです。当然燃えカスはもう燃えないので、火を避けることができます。自分の命を奪う火が、自分の逃げ道を作ってくれたのです。

見えない問題を見抜く力を発揮したいくつかの事例を紹介しました。本書ではもっと大量の事例が紹介されていて、洞察力の正体に近づいています。続いては、「なぜ僕たちは洞察力を発揮できないのか?」という疑問について考えていきましょう。

洞察力を発揮できない理由

すでに挙げた事例の中では、洞察力を発揮したエピソードを紹介しましたが、その裏ではほとんどの人が洞察力を発揮できませんでした。ターラント海戦のニュースを聞いた大半の海軍将校は、真珠湾攻撃の可能性に気づくことができませんでしたし、陰極線の研究をしていた研究者はレントゲンの他に何人もいました。ワグナーはやけっぱちな推測で命を守ることができましたが、他の隊員はただ丘の頂上を目指し、ほとんどの人が炎に追いつかれて命を落としました。

つまり、同じ状況にあっても、洞察力を発揮し、見えない問題を見抜いて解決した人と、そうではない人がいたのです。
本書ではその理由を4つ、紹介してくれています。

  • 誤った考えに固執している
  • 経験不足
  • 消極的な姿勢
  • 具体的な考えに囚われた推論

ひとつひとつ見ていきましょう。

固定観念やデータが洞察力を奪う

「誤った考えに固執している」ことが原因で、見えない問題を見抜くことができない例は数多く挙げられます。例えば、ターラント海戦のニュースを聞いた多くの海軍将校は「真珠湾はターラント湾より水深が浅いから問題ない」という考えに固執してしまいました。火に追われる消防隊員は「火から逃げる」ことに囚われ「火を活用する」ことを思いつきませんでした。

これは僕も思い当たる経験が多くあります。仕事でデータを見るときは、データを見る前に推論していることがあります。「こういう結果になるだろう」という思い込みですね。その思い込みを持ってデータを見てしまうので、そこから外れたデータ、新しい気づきになるデータを見逃してしまうんです…

3分の2は経験不足によって失敗する

本書の元になっているのは120もの事例です。これだけの事例に対して洞察力を発揮した人、発揮できなかった人、洞察力に至った経緯などをまとめ、体系立てているのが本書なのですが、経験不足から洞察力が発揮できなかった例は、全体の3分の2に上ります。

経験とはただ知識を持つことではなく、知識をなにかに転換する能力を指します。
他人が見逃してしまう要素に気づけた事例は、それに気づくための準備がありました。

ペニシリンを発見したフレミングは、細菌研究において豊富な経験を持っていました。だから「カビの周りで細菌が繁殖していない」という偶然の発見を見落とさなかったのです。

以前の職場も今の職場でも、上司の判断スピードに驚かされることが何度もあります。きっと豊富な経験から、直感で結論を導くことができていたんだと思います。

積極的に考えることが洞察力を生む

続いては「消極的な姿勢」です。直感的にもわかりますが、消極的な姿勢から洞察力が生まれることはありません。ただ何も考えず、与えられた仕事をこなせばいいと考えている人が、いつまで経っても成長しないのと同じです。
これは疑い深さと言い換えても良いかもしれません。冒頭で例に出した「営業成績をエクセルにまとめる」という仕事についても、「これってやる意味あるか?」と考えたから「営業管理システムで自動化できる」という結論を導くことができました。積極的に考えず、疑いもなくエクセルにミスなく入力しているだけだと、いつまでも洞察力を発揮する事はできません。

山本五十六はターラント海戦のニュースを聞いて「日本が現状を打破するために活かせないか?」と積極的に考えました。レントゲンは陰極線の研究を中断してまで、謎の光の正体を探しました。

これが一番、すぐに実践できる洞察力への道かもしれませんね。日々の仕事について、なにか疑ってみる。教えられた方法でやるんじゃなくて、別の方法がないか、そもそもやらなくて良いようにする方法はないか、もっと重要なことがあるんじゃないか、と考えてみる。積極的な姿勢はかなり重要です。

具体的な考えが邪魔をする

積極的に考えることは大切ですが、元々持っている具体的な考えやアイデアが洞察力を奪ってしまうこともあります。結局、洞察力とは「自分たちが正しいとは思わない考えをどれだけ受け入れられる心の準備ができているか」です。「こうあるべきだ」「この方法が一番いい」と考えてしまうと、そこから先に勧めません。

これの面白い例に「シックスシグマ」というものがあります。シックスシグマとはミスを防ぐためのガイドラインのようなもので、体系的にデータを集め、合理的にミスを防ぎ品質を挙げていくための方法論です。1980年代のアメリカで大流行し、3Mやゼネラル・エレクトリックなど名だたる大企業が取り組みました。

しかし2006年の調査では、シックスシグマを導入した企業の91%で、成長率が鈍化していることが明らかになりました。シックスシグマはミスを防ぐための具体的な考えに囚われ、イノベーションを生むための余白を奪っていたのです。

シックスシグマが導入されていたころの3Mでは、新しい新商品を研究するときにも、想定されることをすべてリストアップし、完全な市場分析を行い、それを文章化して承認されないと研究することができませんでした。
こうした状況から、ポストイットのような偶然の発見によるヒット商品は生まれません。

ITは洞察力を高めてくれるのか

ということで今回は「「洞察力」があらゆる問題を解決する」から、一部を抜粋して紹介してきました。本書のアプローチは大量の事例から洞察力に共通する要素を見つけ出していくというものなので、おそらく今回数例挙げただけでは十分に伝えることができていないと思います。しかしそれでも、洞察力の大枠のようなものだけでも伝われば幸いです。
最後に、「ITは洞察力を高めてくれるのか?」という疑問について考えてみましょう。本書が執筆された2015年から6年しか経っていませんが、ビジネス現場は大きく変わりました。どこもかしこも「デジタルトランスフォーメーション」を叫んでいます。デジタルトランスフォーメーションは、ビジネスのブレイクスルーを生むのでしょうか?

ITにはいろんな能力があります。情報をデータベース化し、フィルタリングすることで探し出しやすくしてくれます。
しかしここまで見てきてわかる通り、洞察力というのは無秩序なものです。フレミングはカビが繁殖していたことからペニシリンを見つけましたが、もし見つけたのがAIだったら実験の失敗例としてすぐに処分されていたでしょう。むしろ、細菌を培養する実験をしていたのですから、カビが生える前に対処してしまい、ペニシリンが見つかることはなかったと思います。

結論から言うと、ほとんどの場合、ITシステムは洞察力を高めてくれません。

いくつかの前提条件とその抜け穴を見てみましょう。

前提条件:ITシステムは作業の効率を向上させてくれる

ITシステムを使えば、作業を効率化することができます。しかし、ITシステムは決められたルールに従って動くことしかできません。

山火事から逃げる消防隊員の例で考えてみましょう。ITシステムが「火から逃げ、丘の頂上にある安全地帯に到達する」ことを目的にプログラムされていたら、ワグナーのように火を使って生き延びることはできなかったでしょう。そのプログラムに従った隊員は、足の遅い人から順に火に飲まれていきました。

前提条件:ITシステムは重要な情報を抜き出してくれる

ITの良さはフィルタリングではないでしょうか。スプレッドシートを使えば、膨大なデータから必要なデータを一瞬で抜き出すことができます。しかしこれも洞察力を奪うことになりかねません。

もしフレミングが実験結果をスプレッドシートにまとめて、フィルタリングされた結果だけを元に実験していたら、カビの繁殖した実験に気づくことはできなかったはずです。
データベースはあらゆるシステムの基盤ですが、最初に設計したデータベース構造の範囲でしか活用できません。しかし洞察力が発揮されたケースは、データベース構造を書き換えたケースということができます。

ITシステムのこの特徴は、現代では全く別の問題も生んでいます。GoogleやTwitterは賢くなりすぎて、情報をフィルタリングしすぎてしまうのです。「ハンマーを持てばすべてが釘に見える」ということわざがありますが、Googleなどは僕たちの好みを学習して、僕たちが好きそうな情報をピックアップして表示します。そのため、自分が一度こうだと思い込んでしまうと、その後得られる情報はそれを補完するものばかりになってしまうのです。
最近では、「分断」という言葉で社会・政治問題化しています。

最近の例でいうと、ワクチン。ワクチンを打つべきか打たないべきか、いろんな意見がありますが、気になるのはどちらも極端すぎるということです。ワクチン推奨派はワクチンを打たないなんてありえない、ワクチンがすべてを解決してくれる、と思っているように見えますし、ワクチン否定派は冷静に考えたらありえないような根拠からワクチンの危険性や陰謀論を展開しています。情報をフラットに捉え、”自分自身で”判断するということが、ITシステムによって難しくなっているのです。

前提条件:ITシステムは人の行動や進捗をうまく管理してくれる

ここ数年、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)、MA(マーケティングオートメーション)といったビジネスツールの導入が進んでいます。僕も前職でMAの導入に関わっていたのでこのメリットはよくわかります。MAを使えば、これまで手動でやっていたことが自動化される上、決めたシナリオに従って営業活動、マーケティング活動を効果的に進めることができるのです。

一方で、MAのデメリットも痛感しました。前提条件が変わると、全く使い物にならないのです。例えば、営業活動中心のマーケティング設計をして、それを効果的に進めるためにMAを導入したとします。
MAの豊富な機能を使って”今の”やり方をいかに効果的に自動化するかを考え、入念に設計していくのですが、、、

営業中心から広告中心のマーケティング設計に切り替わった途端、MAが生産性を下げてしまうのです。

ほとんどのITシステムは目標の変更や新しいアイデアに無力どころか、邪魔にさえなります。

ITシステムが、ビジネスの発展を阻害する。同じ経験がある人も多いと思います。受注管理ツールを使っているせいで、サブスクリプションのような新しい形態の受注ができずに、中途半端な商品展開になってしまうとか…

洞察力、見えない問題を見抜く力というのは偶然や好奇心、やけっぱちな推測など無秩序なものから生まれます。
完全に秩序だったITシステムから、洞察力は生まれないかもしれません。

今回は「「洞察力」があらゆる問題を解決する」を紹介しましたが、なかなかまとめるのが難しい本でした。この本の中から、自分の生活や仕事に活かせるノウハウを抜き出すことこそ、洞察力が求められます。僕は数年ぶりに本書を読みましたが、何十もある事例から洞察力の正体のようなものがぼんやり見えてきた程度で、言語化、ノウハウ化はできていません。無秩序から生まれる洞察力を、秩序だったノウハウにするということが無茶なのかもしれませんね。本書の魅力が少しでも伝わっていたら幸いですが、数年ぶりに読んでも学びになる良書です。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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