「2030年ジャック・アタリの未来予測」悪い未来、悪い現実。どちらを選択するかは自分次第。

「2030年ジャック・アタリの未来予測」悪い未来、悪い現実。どちらを選択するかは自分次第。 実用書
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今日紹介するのは「2030年ジャック・アタリの未来予測

【ChatGPTによる要約 2023年3月25日追記】
書籍タイトル:2030年ジャック・アタリの未来予測
著者名:ジャック・アタリ
出版日:2021年6月
内容:
本書はフランスの思想家ジャック・アタリによる、2030年の未来予測についての書籍である。アタリは、2030年に人間の文明が直面する可能性がある危機や、その対策について詳細に分析している。アタリの分析は、テクノロジー、環境、政治、経済など多岐にわたるが、それらを統合した上での予測が行われている。
本書から学べることは、近未来における社会の危機とその対策についてである。特に、環境問題やAIの発展が人間社会に与える影響についての洞察が興味深い。アタリは、人間が直面する危機に対して、個人レベルからの取り組みが必要であることを強調している。また、本書の特徴としては、アタリが豊富な知識と経験に基づいて、自身の予測に対する理由や根拠を明確に提示していることが挙げられる。これにより、読者はアタリの予測に対して高い信頼性を持つことができる。
本書が提供する未来予測に基づく知見は、2030年以降に生きる全ての人々に必要なものであることが強調されている。読者は、今後の未来をより正確に予測し、適切な対策を取るために、本書を読むことを強く推奨する。

タイトル通り、ジャック・アタリ氏の本ですね。ジャック・アタリ氏は「欧州最高の知性」とかいわれることもある経済学者で、最近の本だと「食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか」や「命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる」など、いいタイトルの本が多い。
「食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか」は僕も読んで、めちゃくちゃ面白かったので近々紹介したいと思うんですが、今回は2017年に出版された「2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!」です。

なんでこの本を今読み直したのか。

この本の原著は2016年に出版されていて、おそらくアタリ氏が本書の内容を考案したのは2015年くらい。

ということは、2020年が終わろうとしている今、本書がテーマとしている「2030年」までの3分の1が経過しているわけです。
そのタイミングで読むと、すごく面白い。

まずはざっくり見どころを紹介していきましょう。

本書の見どころ:2030年ジャック・アタリの未来予測

まず1つ目、本書は語調が激しい。パワーワードも度々登場する。「人類全滅」とか「犯罪ノマド」とか、「諸悪の根源」とか。本の目次を見ても「憤懣(ふんまい)が世界を覆い尽くす」「世界は奈落の底へ突き落とされる寸前」「99%が激怒する」など、かなり激しい。
この激しさはジャック・アタリならではです。日本人の著者だとなかなかこうはいかない。

2つ目は本書の基本的な構造。ざっくりした流れを言うと、世界がこれまでどれだけ良くなってきたか、という気持ちのいい話を並べてから、一方でそれ以上の数どれだけ悪くなったかを見せつける。続いて、これからの未来に対しても、これからどれだけ良くなっていくかを書いて希望が持ててきたところで、一方でどれだけ悪くなっていくかを淡々と書き連ねる。
だから読んでいて気分が安定しない。僕は基本的に未来楽観主義者で、原則、世界はより良くなり続けると考えています。なので、そこに対してものすごく共感できる部分がある一方で、それらすべてを否定するデータを提示される。
なので、本書の何に共感し、何に違和感を覚えるかで、その人の基本的な哲学みたいなものが見えてくると思います。

そして3つ目は、淡々としている、ということ。一つひとつの項目は短くて、2ページ分もない。世界が良くなっていく部分を20個近く淡々とデータを上げ、悪くなっていく部分を3個近く、これも淡々とデータを出していく。
だからこの本を面白く読むためには、自分自身の考えというか、信念というか、そういうものが必要。アタリ氏は基本的にどこにも導いてくれない(最後の方で具体的にどうすればいいか、みたいなことを教えてくれるが)。淡々と並べられる事実に対し、自分はどう考えるのか、自分はどうしていくのか、それを考えることが大切。

アタリ氏は、こうしたことを知っておけよ、とさえ言わない。こういうデータがあります、と言うだけ。
だからこそ、受動的な読書じゃなくて、能動的な読書じゃないと面白くない。淡々としてるからね。

ということで、ここからは本書の内容を紹介しながら、僕がどう考えたかみたいな部分を書いていこうと思います。
当然、アタリ氏が言っていることをすべて書くわけではない。たくさんのデータが出てくるけど、ここで紹介するのは僕に響いたデータだけなので。
興味を持ってくれたら本書を買って、あなたなりの考えを持ってほしい。

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世界はどう良くなっていったか

今後、人類が自滅することなく100年後も文明が存続し、未来の歴史家たちが今日の人類の暮らしぶりに興味を抱くと仮定しよう。そのとき未来の歴史家たちは、2017年の人類が「大破局」を予見したのに、これを阻止するための地球規模の革命を起こさなかったのはなぜか、と疑問を抱くに違いない。

ジャック・アタリ「2030年ジャック・アタリの未来予測」より

本を読み始めて最初のイントロダクションで、いきなりこう言うわけです。100年後文明が存続していることすら仮定だし、その時から見たら2017年は大きな転換期だった、と言ってるわけです。それも、破局につながる状況に対し、行動しなかった、という意味の転換期だと。
そこから、マネーが世界を支配しており、国際法が十分ではないのにグローバル化が進むことで、富の集中が加速しており、今の社会は「憤懣の社会構造」になっている、と続きます。

憤懣ってなかなか難しい言葉ですが、「怒りが発散できずいらいらすること。腹が立ってどうにも我慢できない気持ち。」という意味らしいです。予測変換で出てこないので、記事を書くときは迷惑な言葉ですが、社会全体が悪い方向に向かっているのに、それを変えることができない憤りを感じている時代ということですね。

こんなイントロダクションで始まり、第1章のタイトルが「憤懣が世界を覆い尽くす」なので、相当ショッキングな未来予測から始まるのかと思いきや、意外なことに世界は順調に良くなっている、という話が始まります。

その一部を紹介すると

  • 向上し続ける生活水準:マネーという物差しで測れる範囲ではあるが、GDP成長や購買力を考えると、過去100年、特にこの30年で生活水準は飛躍的に向上した。
  • 減少する極貧:30年前から極貧状態の人は3分の1以下に減少した。飢餓に苦しむ人も1990年から2014年にかけて39%も減少した。
  • コミュニケーション手段の普及:携帯電話のネットワークは70億人をカバーしており、62億人がインターネットに接続でき、38億人が携帯電話を保有し、20億人が自分の端末からSNSを利用している。医師との連絡が取りやすくなり健康状態が向上し、事件を迅速に警察に通報し、仲介人を頼ることなく情報を得ることができるようになった。
  • シェアリングエコノミーの発展:消費者が自分の所有物を共有化して経済を回している。民泊のエアビーアンドビーは年間1億5500万人分の宿泊先を提供している。これは世界中に展開するホテルヒルトンを上回る。ウーバーの企業価値はアメリカン航空など大手運輸企業の価値を上回っている。
  • 暴力の減少:10万人あたりの暴力による死は、5000年前は500人、中世は50人、現在は6.9人に減少している。第二次世界大戦以降、国家間の新たな戦争の数は減少し、和平条約が増えている。

と、こんな感じで気分が良くなるデータが数々紹介されます。ファクトフルネスにもあったけど、データを冷静に見ると色んな部分で世界が良くなってきているのは事実なんだと実感できます。

しかし、本書の見どころは、良いところを見せたあとに、それを超える悪い部分を突きつけてくる、ジェットコースター的展開です。
この次の項目は「世界では多くの重要なことが、悲惨な状態になりつつある」です。

重要なことが悲惨な状態になりつつある

ここまで、世界がどれだけ良くなってきたか、という話で盛り上げておいて、次の項目はこう始まります。

現実には、われわれの誰もが世界の発展は一時的なものに過ぎず、未来は過去の延長ではないだろうと思っている。事実、きわめて心配な要素は各方面に数多くある。これまで紹介した数々の進歩が台無しになる恐れがあるのだ。懸念材料は山積みしている。

ジャック・アタリ「2030年ジャック・アタリの未来予測」より

え、そうなの?って感じですね。「誰もが世界の発展は一時的なものに過ぎず、未来は過去の延長ではないだろうと思っている」に関しては、「いや、、僕はそうは思ってないが、、」ってなりました。
確かに、前項で紹介されていた世界がより良くなっている部分についても、ちょっと匂わせる部分はありました。貧困の減少や生活水準の項では「マネーという物差しで測る限り」という注釈がついていましたし。

これまで、世界が良くなってきたのは事実。しかし、これから良くなっていくかは別問題、ということですね。

具体的にいくつか紹介しましょう。数もめちゃくちゃ多いし、かなり激しいことを言っていますが、僕なりに響いたものを抜粋。

  • 高齢化する世界人口:少子化と平均寿命の伸びに寄って高齢化が進んでいる。先進国では高齢者人口が年少人口を上回っている。しかも高齢化のスピードは増している。さらに、人口爆発は医療サービスの乏しい地域で起こっている。
  • 地球環境の悪化:都市部の殆どはWHOが定める環境基準を超えた大気汚染にさらされている。途上国や中心国ではWHOの定める大気汚染に関する基準が守られていない。ヨーロッパの河川の40%と地下水の25%は汚染されており、世界の死因の3.1%は汚染された水が原因になっている。世界の平均気温は上昇し、雪氷の融解速度が加速している。それにより水面が上昇し生活圏に支障が出ている。
  • 農業の暗い未来:気候変動の影響により食料の生産量が低迷している。人口増加により農地の潜在能力が破壊され、それが更に環境破壊を生んでいる。
  • 経済の停滞と富の偏在:テクノロジーが進歩しているにもかかわらず生産性が向上していない。世界経済の成長はここ20年ほど停滞しており、生活水準が下がった国もある。また、経営者と社員の年収格差が広がり、富裕層上位0.1%の資産がアメリカ全体の資産の22%を締めている。また、先進国の中産階級の収入は2005年以降、停滞または減少している。
  • 破壊寸前の教育、医療システム:世界中の教育システムが思うように機能しておらず、アメリカの学生の80%は学校にいっても能力が向上しないと考えている。読解力、数学、科学リテラシーの点数が過去10年で低下している。また、GDPに占める教育費の割合も各国で低下している。医療システムも財政難であり、最良の医療が提供されていない。特に貧困層では、エイズが年々増加しており、その他の感染症も増加している。
  • 膨張し制御不能に陥る公的債務:すべての国は債務の解決を先送りにし、歳入が不足しているにも関わらず公的債務を発行している。世界の債務は57兆ドルを超え、世界のGDPも3倍もの債務が存在している。近年、こうした巨額債務により国の破綻も発生している。債務コストをへらすために多くの先進国がマイナス金利を導入しているが、その政策により保険会社などの収益が悪化している。
  • 失われる報道の自由:アメリカでは10年で100以上の新聞が廃刊になり、メディアが一部の大企業に集約されている。
  • 民主主義の後退と保護主義:民主主義が形式的になり、後退し始めている。平均寿命が伸びているにも関わらず、政治はより即時的なものになり、短期的な影響を優先し、次世代の利益を考慮しなくなった。大企業がグローバルに広がり国境が曖昧になる中、国は障壁を築き、保護貿易を進めるようになった。アメリカをはじめ、自国の利益を他国に流される、自国の労働力が他国に奪われる、という思いを抱く国民が増えている。
  • アメリカの危うい経済成長と不透明な中国:アメリカでは7人に1人が貧困層になり、就業率も低く、白人の平均寿命は短くなる傾向にある。アメリカの公的年金システムを維持する財源もなく、インフラも老朽化している。中国がアメリカの地位を継承することもない。中国も成長が鈍化し、過剰投資による内需不足、生産設備の無駄が多く、債務超過により破綻寸前である。
  • 能力不足の国際機関:経済のグローバル化が進んでいるのに対し、法律や機関のグローバル化が十分ではない。国連の体制は第二次世界大戦後から変わらず、時代遅れになってきており、不満が高まっている。国連の条約には多くの国が参加しているが、化学兵器禁止条約などは守られているとは言い難い。

とまあ、これでもかなり抜粋しました本書では50ページくらいこの論調が続くので、憂鬱な気分になります。
でも、今見るとたしかに、という部分が沢山ありますね。保護主義なんかはまさしくアメリカのトランプ大統領が進めているし、今回のコロナのことでWHOはじめ国際機関の能力不足は多くの人が感じたと思います。

憤懣という言葉を使っている意味がなんとなくわかりますね。ここで紹介したことは誰しもがどこかで感じていることだと思います。ただ、富が偏在し、グローバル化ですべてが全世界と関わるようになった今、一個人ができることなんてないように思えます。
「良くなってきた部分もあるけど、悪い部分もいっぱいあるじゃないか。でも、どうすればいいかわからないし、何もできない。」という状態を「憤懣」と表現しているんでしょう。

さて、ここまでが第1章。なかなか重いです。第2章では、第1章に並べた数々の事実に対して、解説が入ります。

ここについては、僕が感じたことを簡単にまとめました。

信じ続けるか、変え続けるか

ここまででわかったことは、たしかに良くなってきたことはたくさんあるけれど、悪くなってきた部分もいっぱいあるということです。そして、基本的には良いことよりも悪いことのほうが重要です。メディアは基本的に悪いこと、衝撃的なことしか報道しませんし、人の記憶に残りやすい、行動に影響を与えやすいのも悪いことです。

じゃあ悪いところに目を向けて、これほど発展してきたのになんで悪いことがたくさんあるのか、を考えないといけません。

アタリ氏はよくいわれる「マネーが欲求不満と暴力、不平を生んでいる」「宗教の力が弱まり精神性が喪失している」「グローバル化によってこれまで交わらなかった文明が衝突している」といったことを否定しています。

じゃあ何が原因なのか。それはわかりません。複雑で複合的(地球まるまるの話ですから)な減少に対しては、たった一つの原因や理論では説明できないからです。

アタリ氏はここまで述べたことを統括して6つの命題を投げています。例えば「現在までのところ、政治と経済の自由に基づく社会組織は世界で最も優れた制度だったことが明らかになった」「しかしながら今日、このシステムは機能不全であり、世界は奈落の底へ突き落とされる寸前である」などです。
つまり、これまではうまくいっていた、それは確かである。しかし、それによって生まれた問題に対処できていないことが怒りを生む、ということです。

個人的には、今の社会構造を「信じ続けるか、変え続けるか」だと思います。

アタリ氏が指摘する債務超過による国の破綻なども、全員が社会の成長を信じていたら問題ないと思います。お金というシステムは幻想だから、誰も疑わない限り、どこにも問題は生じない。仮に今ある債務を、お金を印刷しまくって解決したとしても、全員が信じていたら問題ない。現実には、それで信じられなくなるからお金の価値が下がって大変なことになるんだけど。

つまり今の社会構造は、全員が信じ続けている限り動いてくれると思います。イノベーションのために莫大な投資をして、市場が成長する。債務が増えても、世界経済は成長し続けるから、成長して価値を生み続けたら大丈夫。でも、疑ってしまったら、システムは瓦解する。そうなると、変えるしかない。

ということで、ここからは2030年の未来を見ていきましょう。
ちなみに、未来に対して語っていくこの重要な章のタイトルは「99%が激怒する」です。過激ですね。

世界はこれから、より良くなっていく

さて今回も、まず世界がより良くなっていく、という方向で考えてみましょう。「99%が激怒する」というタイトルを見た後だと信じられませんが、ちゃんと良くなる未来もあるんです。

イノベーションの大波

これから2030年までの間に人類史上稀に見るテクノロジー、イノベーションが続出し、人々の生活、労働環境はより良くなる。例えば、インターネット人口が増え、ビッグデータにより管理することで、多くの問題が解決されます。例えば、お金の動きは見えやすく、各種手続きはオンラインで(それどころか完全自動で)行われる様になるかもしれません。

特にIoTと3Dプリンターは大きな変化を生みます。
IoTによって、多くの人は自分の生活のために苦労したり、考えたりする必要がなくなってくるかもしれません。冷蔵庫の中身から勝手に必要な食材を見つけ出してAmazonで購入してくれるとか。
3Dプリンターが一般家庭に普及すれば、買い物はデータになります。欲しい服があれば、欲しい服のデータを買って、3Dプリンターで生産するようになるかもしれません。

AIはさらに凄まじく、個人が学習、会話、知覚、作曲などのクリエイティブな活動のあらゆる面でAIを活用するようになるかもしれません。これは確か、ユヴァル・ノア・ハラリの「21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考」にも似たようなことが書いてありました。その人のバイタルを測定して、AIがその人の気分に合わせた最高の1曲をその場で作曲してくれる、みたいな未来。

さらには脳のことも色々解明され、クローン技術と合わせて、自分のクローンを生み、自分の脳みそを転送する、みたいな形での不老不死が現実味を帯びてくる可能性もあります。アタリ氏もこれについては「不死への期待が高まってくる」という言い方にとどめていますが、たしかに可能性としてはありそうです。

各分野でのポジティブな変化

いろいろな分野でポジティブな変化も起こります。

例えば健康においては、遠隔医療の発達、ナノテクノロジーによる診断と治療など。ナノサイズのマシンが血管の中を泳いでいて、ごくごく初期の小さな異常を検知してその場で治療する。脳に関する様々な病気も、脳の仕組みが解明されるにつれ、治療可能な病気担っていくでしょう。
教育や労働についても、VRやロボット工学、AIの進歩に寄ってかなり効率化されるはずです。当然、新しい仕事もどんどん生まれていきます。

住宅は3Dプリンターで作られるため、安く効率的で、太陽光などエネルギーを効率的に活用するものが増えていきます。資源や農業も、センサー、テクノロジーの進歩によって効率化されていきます。遺伝子工学や有機農業が進めば、世界人口が増えても十分まかなえる生産ができます。

こうしたことが延々と書かれているのですが、個人的に興味深かったのは芸術と娯楽の部分。

娯楽については、仮想現実によって楽しみ方が大きく変わると言っています。VRを使って、見たい角度から見たり、家にいながら最高の臨場感を味わえるようになります。
これはまさしく、コロナ禍で一部起こりましたね。ライブなどの娯楽が会場でみるものからスマホで見るものに変わったわけです。この一歩先にはVRで会場で生で見る以上に楽しめる娯楽が登場するのは時間の問題と思います。

芸術についても、テクノロジーが新しい創造性を生む、と言っています。ここでも登場するのは3Dプリンター。人がなにか生み出したいと思った時、すぐに再現することができます。全員がクリエイター、アーティストになる、ということですね。
これもすでに起こっていますよね。17Liveや Pococha(ポコチャ)といったライブ配信アプリでは、すべての人がアーティストになる権利を持っています。これまでは、機材を導入する必要があったり、そもそも人脈や実績がないとステージに立つことさえできなかったのに、今ではスマホ1つでスターになれる。すごい時代です。確かに3Dプリンターのような創作を支援するテクノロジーが普及すれば、誰もがクリエイターになれますね。

このように、世界がより良くなっていくであろう部分もたくさんあります。読んでいると、本当にこうなって欲しいと強く思えるようなことばかり。

問題は、そうなっていくのか、そうなっていった時、その負の側面はどうなっているのか、です。

ただ、アタリ氏はこれだけ盛り上げておいて、こうした未来は「幻想」だと言います。
利己主義や法整備の未熟さは、こうしたテクノロジーの進歩だけでは到底補えない、このまま進歩していけば、期待ばかりが膨らんで、大混乱に向かうといいます。

この世界は耐え難い

なぜか、そこが詳しく、しかも説得力が強いところが、本書の醍醐味です。ここを読めばなぜ「99%が激怒する」のかがわかります。99%ということは、僕もあなたも、2030年にはおそらく例外なく激怒しているんでしょう。

ここまで紹介した、2030年までにより良くなっていく部分はおそらく確かです。人はより健康に、便利に、創造性に溢れた人生を送るチャンス、環境ができます。
しかし、今の市場経済において、それらの利益を享受するのは、一部の権力者です。

3Dプリンターで家やビルが簡単に建つようになったら、建築現場で働く人はどうすればいいのでしょう?代わりに生まれる仕事もありますが、一体どれだけの人が、新しい仕事にシフトできるんでしょう。それも、30年先にそうなるのではなく、10年後にはそうなっているんです。40才で、20年近く今の仕事を続けてきた人は、新しい雇用に対応できるのでしょうか?

これは一例で、プラスの要素がこれだけあるにも関わらず、影響を論理的に分析すると、この世を耐え難く思う人がどんどん増えていく、とアタリ氏は言います。

ではアタリ氏が予測する2030年の未来、負の側面を見ていきましょう。ここでも一部、僕に響いたものだけ挙げています。

人口増加と高齢化、そして環境の悪化

人口増加と高齢化は誰も疑わない事実ですが、その影響は想像以上です。地域別に見るとその実態がより明らかになるのですが、それは本書に任せましょう。書いていたらきりがない。

とりあえず、人口増加でどうなっていくか。食糧生産量が増えます。人類が使うエネルギー量が増えます。それにより、公害と気候変動が悪化します。

ゴミの量は今から2030年までに倍になり、大気汚染によって亡くなる人は2000年から4倍に増えます。パリ協定だけじゃ不十分ですね。2030年の目標値がありますが、現状の雰囲気では全然達成されそうにありません。政府は2050年の目標を掲げだしましたが、2030年の達成が見込めないことから、先延ばしにしただけともいえます。

気候変動もすごいことになっています。すでにカリフォルニアの森林火災や熊本豪雨など、実際の被害もでていますよね。海水の上昇によって住めなくなる土地も出てきています。

水が増えて困る一方で、水資源の枯渇も重要な問題です。人口は増えるのに汚染により使える水が減ることで、人類の3分の2は水不足に悩まされます。水はインフラの中でも一番重要ですからね。洗い物、生活、お風呂など、色んな場面で水の使用量を真剣に考えないといけなくなる未来は想像したくありませんが、そうなってしまう可能性もありそうです。

富の集中の雇用の破壊

イノベーションで生活が豊かになるか、と思いきや、イノベーションで雇用が失われます。もちろん、それによって新しい仕事も生まれますが、先述の通り時代の変化に対応できる人ばかりではありません。
そもそも、雇用数が足りなくなります。単純労働の多くがなくなったとして、その分の雇用が新しく生まれるか、というと、なかなかそうもいかないでしょう。失業者が増えると、当然政治にはかなりの弊害が生じますよね。

貧困化が進む一方で、どんどん富は集中し続けます。イノベーションを起こした人が、不要になった雇用分の利益を受け取るからです。これが問題であることは誰の目にも明らかですが、それをうまく分散する仕組みは今のところありません。一部の国ではベーシックインカムが実験的に導入されていますが、それはそれで市場競争力の低下は避けられないでしょう。

公的サービスの衰退

色々挙げられていますが、個人的に一番課題に感じたのは、公的サービスの衰退です。すでに債務はとんでもないことになっていますが、高齢化、失業率の増加、医療等の発達により、求められる公的サービスは増える一方です。

インフラ設備の維持も課題です。日本は高度経済成長期の波にのってインフラを整えましたが、数十年間使われて老朽化したインフラをもう一度作り直す財源はないでしょう。

保健医療も、医療費が上がり続ける中、すでに維持するための財源は厳しい状態です。これは意外なことですが、先進国ではすでに平均寿命が短くなり始めているそうです。医療が発達し高度化し、平均寿命が伸びたのに、財源が枯渇し資本を持っている人でないとそれらを使えないことで、今後は短くなっているのです。これはかなり大きな問題ですよね。お金さえ出せば長生きできるのに、、となれば多くの人が怒りを爆発させても不思議ではありません。

そして本書の中ではウイルスについても触れられています。耐性菌が増え、伝染病が蔓延する危険性が大きくなっているのに、その準備ができていない。まさに2020年コロナパンデミックで暴かれた事態です。

犯罪ノマドが暗躍

本書では他に民主主義の限界など、驚くべき根拠が色々示されますが、衝撃を受けたのは犯罪についてです。
犯罪組織がテクノロジーを活用することで、より高度になり、国境を超えて暗躍することになります。しかし、国際法はまだまだ発展途上。本書では「犯罪の自営業者たち」と言っていますが、PC一台あれば大きな不正ができるようになったことで、いわゆる暴力団のような犯罪組織ではなく、個々人による犯罪が増え、犯罪目的、プロジェクトによってチームを組んだり、、という形が増えるそうです。
そうなると、一斉摘発なんかできませんし、国籍も違う個人がネットワークで繋がって全く違う国で犯罪を働くようになれば、取り締まりは難しいでしょう。

更にここでも登場するのが3Dプリンター。3Dプリンターがあれば、ブランド品の模造品はデータだけのやり取りになります。武器の製造も、データだけになります。そうなると、空港の検閲では見つかりませんよね。

結論:我々はどうすればいいのか

ここまで読むと99%が激怒する未来が少し見えてしまいました。本書はこれからさらに、どのように怒りが爆発し、世界大戦のような事態に繋がってしまうのかまで解説しています。
そしてさらに、そうならないためにどうすればいいのか、世界を良くするために個人ができる10段階や、国や企業、組織が世界一丸となってやっていくべき10の提案など、非常に具体的な話も出てきます。

ただ、記事の中でそこまで説明して、うまく伝える自信もないので、ここまでにしておきましょう。
僕はここまで、淡々と書かれている事実に対して、自分が響いた項目を紹介してきました。実際には倍以上の事実があり、より詳しくデータ、根拠を持って示されています。
それらを知った上で、世界を良くする10段階や10個の提案などが響くわけです。

最後に一つ、本書の中で一番響いた言葉を紹介します。これは、世界をより良くするためにどうすればいいのか、個人が実践する10段階の項で書かれていたのですが、正直、ただこれを全員が実践するだけで、世界はいい方向に行くんじゃないかと思います。

それが、

「自分自身ができる限り高貴な生活を送りながら世界を救う」

というもの。

なにもガンジーやマザーテレサのように、全てを投げうって救う必要はない。誰もが自分の生活を第一に、ちゃんと満足できる生活を送った上で、世界を救うために小さくできることをやろう、という考え方ですね。

僕自身、水問題がやばい、と聞いたからといって、今日から全力で節水するかというとなかなかできません。富の集中や経済の不均一が進むからといって、自分の持っている株式を全部売り払って寄付する、というのもやっぱり嫌です。

でも、自分自身が納得できる生活をした上で、世界のことを考えていくことなら、僕にもできそうです。

2030年、そう遠くないですよね。10年後、この記事を読んでいる人のほとんどがまだ生きているでしょうし、現役で働いていると思います。

結論。でかいことは政府やアタリ氏のような天才にまかせて、我々庶民は自分のことを第一に考えて、その上で余裕があれば世界のことも考えていきましょう。
本書で度々出てくる「怒り」を避けるには、それしかないのかもしれません。

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