こんにちは。夫です。
今日紹介するのは少し古い本ですが、Amazonのおすすめに出てきてタイトルでつい買ってしまった一冊。「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」です。
タイトルからはどういう本なのかイメージできないですよね。
ドーナツを穴だけ残して食べる。この文章がもうよくわかりません。
僕もどういう本なのかよくわからないまま、謎の魅力に惹かれて買ってみたのですが、思いの外面白かったので記事に書くことにしました。
といっても、この本の面白さは要約したり、エッセンスを抜き出すと消え去ってしまいます。
というのも、これから詳しく紹介しますが、この本の面白さは2ちゃんねるのような言ってしまえばネット上の品のない空間で話題になった「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」というものを、大学教授など権威ある人がそれぞれの専門分野で大真面目に考えているところにあります。
僕が「〇〇学部の教授は、✕✕学の観点から、このようにしてドーナツの穴だけ残して食べると考えています」と解説しても面白くない。この答えのない、たとえあってもなんの役にも立たない問に対して、超一流が専門的に、多角的に、大真面目に考えている。そこが面白さです。
なので今回は、いつもみたいに本の内容やエッセンスをまとめるのではなく、この本のコンセプトと本書を読むことで得られるもの、そして、どんな専門家が「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」について考えてくれたのかを紹介したいと思います。
「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」を考える意味
「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」というのは、2011年から2013年頃、2ちゃんねるなどで話題になっていたものです。
当然、普通に考えれば「そんなものは無理だし、考える意味もない」というのが回答になるでしょう。
しかしそこは誇り高きネット民。なんでも面白く、秀逸に答えてくれる人が必ずいます。
そして気づけば「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」という言葉がテンプレートとして定着し、まとめサイトができたり、テレビ番組で取り上げられたりしました。
「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」をネタにネット上の掲示板で盛り上がるのはなんとなくわかりますね。秀逸な答えを思いついたら自分も書き込むかもしれません。
でもそれを文庫で400ページ近い本にする意味は?
読むスピードが早い人でも、ネットの掲示板をみてクスっと笑う数十倍の時間がかかると思います。何時間もかけて本を読んで、クスっと笑う程度しか得られるものがなかったら嫌ですよね。他にも読みたい本は無数にあります。
僕自身、この本を読み始めて、最後まで読むかすごく迷いました。それより投資系の本とか、健康系の本とか、自分の仕事や人生に直結するものを読んだほうがいいんじゃないかって…でも、4分の1くらいを読み終わったところで考えが変わってきました。
学問の面白さに触れる
僕は大学で生物学を学んでいました。
生物学というといろいろ役に立ちそうですが、僕が所属した研究室は、生物学の中でも、細胞生物学。そしてヒトのある細胞にあるミトコンドリアという構造の、アポトーシス(細胞が自滅する機能)に関係する酵素の反応を調べていました。
ただコレがもう、なんのための研究か全くわからない。
もちろん可能性としては、医療・製薬分野に応用されるのかもしれませんが、あまりに限られた部分の基礎研究なので、何に役立つのかわからない。
ある時、教授にそれを聞いてみると、
興味があるから研究しているんだ
役に立つかどうかは後から誰かが考える
みたいなことを言われました。
「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」のコンセプトも、これに近いように感じます。
「そんなものには興味がないし、意味がない」
もし人類がそういうスタンスで生きていたら、科学の発展は全くなかったでしょう。
「必要は発明の母」
誰かがそれを必要としたから、それが研究され発明され、開発される。そんな言葉もありますが、現実は逆です。
自動車を普及させたヘンリー・フォードの有名な言葉に「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう」というものがあります。
MacとiPhoneで世界を変えたスティーブ・ジョブズも「人は見せてもらうまで、何が欲しいかわからないものだ」という言葉を残しています。
もし「必要は発明の母」が正しければ、僕たちは今、自動車に乗るのではなく、品種改良された馬に乗っていたかもしれません。iPhoneは存在せず、無数のボタンが付いた多機能・高機能の携帯電話を使っていたかもしれません。
他にもいろいろな事例があります。
例えば、3Mのポストイットは、瞬間接着剤を開発中にできた失敗作、全然くっつかない(けど何度も付けたり剥がしたりできる)ものが、数年後に使い道が見つかって製品化されました。
iPhoneのガラスでおなじみのゴリラガラスですが、実は1960年には既にできていました。しかしそれから50年近く、活用方法が見つからないまま放置されていたのです。スティーブ・ジョブズが「iPhoneの表面をプラスチックにするなんてありえない!」と言って探している時、忘れ去られていたゴリラガラスを見つけて、ようやく実用化されました。
つまり、発明が必要の母なのです。
昔、「地球のまわりを太陽が回っているのか、太陽のまわりと地球が回っているのか」を真剣に考え、それに人生を捧げた人もいました。今でこそ、宇宙開発や人工衛星は僕たちの生活に無くてはならないものになっていますが、当時の人達はそれがなんの役に立つのかなんて、考えていなかったと思います。ただ興味があったから真剣に考えただけでしょう。
これは学問においても同じです。もし全員が必要とされること、すぐに役立つことだけ研究していたら、学問は進まず、新しい発明も止まってしまうでしょう。
なんの役に立つかわからないけれど、考えて追求することに意味がある。
それが学問の本質だと思います。
「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」は、答えのない、答えがあってもなんの役に立つかはわからないものに、歴史や工学、美学、医学の専門家が、それぞれの専門分野の知識を駆使して、考えてくれます。
具体的に、いくつか面白かったものを紹介します。
例えば、大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー工学専攻准教授の高田孝先生は、ドーナツを穴だけ残して食べる方法について、非常にシンプルに、真正面から受け止め、地道に考えてくれました。
まず、切る・削るといった工学の手法を分析し、さまざまな手法でどこまでドーナツの穴だけを残し、他の部分の除去できるかを考えます。ここで問題になるのは、ドーナツの材質。ドーナツは空気を含んだスポンジのような構造なので、1mm以下でもドーナツとしての構造が保てるのか、が課題でした。
さらにはレーザー加工やコーティング膜生成技術を使ったガスで削るスパッタリングと呼ばれる方法を用い、数十ナノメートル程度まで削る方法にたどりつきます。
かなり省きましたが、これを大学の准教授が何十ページにも渡って解説してくれています。切る、削るという単純な作業でも、工学的な視点からはさまざまな方法、課題があり、奥が深いんだと痛感しました。
また、大阪大学大学院理化学研究科数学専攻の准教授、宮地秀樹先生は、数学という観点から全く違うアプローチを考えます。
n次元空間と集合という2つの数学理論からどのようにドーナツの穴を認識するべきか、というところを深堀りし、この問題を「他人がドーナツの穴を認識したまま、ドーナツを食べることができるのか」と考えます。
つまり、物質としてのドーナツの穴ではなく、認識としてのドーナツの穴に着目したアプローチです。
そして、4次元空間であれば、他人がドーナツの穴を認識したまま、ドーナツを食べることができる、ということを証明します。
数学は自由!まさにそんな章でした。正直、理論的な部分は半分も理解できませんでしたし、それでドーナツの穴だけ残して食べたことになるの?とは思いましたが、数学は論理的思考の範囲であればなんでもありです。
本書では、理系の専門家だけではなく、文学、医学、言語学、分子科学や法律、国家、政策、歴史、、、それぞれの専門家が、全く違う方法でアプローチしています。
中には全く結論を出さずに終わっている人もいましたが、それもまた自由(笑)。問題に立ち向かい、考えることそのものが学問で、答えを見つけることが学問ではないんです。
ムダが活きる時代
ということで今回は、簡単にでしたが「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」というユニークな本を紹介しました。
この本を読んで、学問が面白くなった、頭がやわらかくなった、知識が増えた、暇つぶしができたなど、いろんな感想を持つ人がいると思いますが、僕はもっと単純に、このアプローチはビジネスで使えるな、と思いました。
というのも、現代はムダに溢れた時代です。今やなくてはならないインターネットも、SNSも、UberEatsも、僕たちが生きていく上で必要なものではありません。
電気もガスも水道もない時代から、僕たちの祖先は何万年、何十万年も生きてきたわけですから。
必要なものは揃って、今、ビジネスで生まれてくるのはいい意味で「ムダ」なものばかりです。
SNSがいい例ですね。誕生するまで誰も必要としていませんでしたし、誕生して生活が良くなったとか、人生の満足度が増したとか、そういう効果はありません。
でも、SNSはあったほうがいい。というか、なかった世界をもう想像できなくなってしまう。
たぶん、SNSというものを最初に思いついた人は「こんなムダなものなんに使うんだよ 笑」と思ったと思います。それでも興味を持ち、学問的アプローチで考えたから、今の世の中になくてはならないものになったわけです。
課題解決の時代は終わり、問題提起の時代へ。
ビジネス書でもよく書かれていますよね。これからは課題を解決できる人より、課題を発見できる人が活躍できるって。
つまり、ドーナツの穴だけ残して食べる方法みたいに、考える価値もなさそうなものを真剣に考え、新しいアプローチを見つける。そういう能力こそ、今求められているものかも知れません。
ということで、無理やりまとめましたが、たしかに若くして活躍する人って、こういう一見ムダなことを真剣に考えられる人、つまり、めちゃくちゃ頭がやわらかくて、役立つかどうかより興味をモチベーションに活動する人な気がします。
この記事を書いた人
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かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
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