普通とはなにか、考えさせられる小説「コンビニ人間」

コンビニ人間 小説・エッセイ
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本日紹介するのは『コンビニ人間』という小説。

この小説は2016年に第155回芥川賞を受賞。
同年11月に放送されたアメトーーク!本屋で…読書芸人でピース又吉さん・オードリー若林さん・オアシズ光浦さんの3人が「今年(2016年)読んだオススメの本」として紹介されたことで、さらに注目を集めました。
2018年には国内累計発行部数100万部を突破。
さらに日本に留まらず世界中でも出版され、2021年5月現在で30言語以上に翻訳。
日本だけでなく世界で人気の作品です。

著者は村田沙耶香(むらたさやか)さん。

妻

実はこの小説、村田さん自身がコンビニでアルバイトしていた経験を活かして書かれた作品。
本が発売された時もコンビニで働いており、芥川賞を受賞した後の勤務については「店長と相談する」と言っていたそうです。(現在は体力の限界を理由に辞めています。)

また、最近ではコンビニ人間を超える衝撃作品とも言われている『地球星人』を書いています。

そんな著者の経験が活かされて書かれた『コンビニ人間』とは一体どんなストーリーなのか、ネタバレしない程度にお伝えできればと思います。

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あらすじ

タイトルでお察しの方も多いと思いますが、主人公は一人の女性コンビニ店員さん。

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて……。
引用:コンビニ人間 裏表紙より

ここからはもう少し詳しくご説明を。

主人公:古倉恵子

主人公:古倉恵子は普通の家に生まれ、普通に愛されて育ちますが、少し奇妙がられる子供でした。

例えば幼稚園のころ、公園で小鳥が死んでいるのを目にします。
周辺にいた子供たちは泣いていましたが、恵子はベンチで雑談している母の元に小鳥を持って行ってこう言います。

「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」

母は必死に小鳥さんは小さくてかわいいから(食べるのではなく)お墓を作って埋めてあげようと恵子に言い、埋めます。
恵子はなぜ食べないで埋めるのかが分かりませんでした。

また、小学生になったある日、男子が取っ組み合いのけんかをして大騒ぎになる場面にでくわします。
周囲にいたクラスメイトが誰か先生呼んできて、誰か止めて、と叫んでいたのを聞いた恵子はある行動を取ります。

そうか、止めるのか、と思った私は、そばにあった用具入れをあけ、中にあったスコップを取り出して暴れる男子のところに走って行き、その頭を殴った。

その後、先生が来てなにがあったか聞かれると「止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました」と答える恵子。
先生はしどろもどろになりながら暴力は駄目だと説明しますが、恵子はなぜいけないことなのか理解できませんでした。

たびたびこういった出来事があったため、恵子は家の外では必要なこと以外の言葉は喋らず、自分から行動しないようにします。

時は流れ大学1年生。あるオフィスビルのがらんとした1階に貼られていた、コンビニエンスストアのオープニングスタッフ募集と書かれた貼り紙を見て、応募します。

そこで採用され、研修を受け、お店のオープン日を迎え、お客様への接客を社員に褒められ、恵子は異物だった自分が初めて世界の正常な部品になることができたと嬉しく思います。

恵子はその後、コンビニで一緒に働く人の喋り方や服装などを真似しながらアルバイトとして18年間働きますが、周りからなぜ正社員にならないのか、なぜ結婚しないのか、など質問されることが増え、自身は再び異物となっているのではと思い始めます。

新人:白羽

恵子が働くコンビニに新人:白羽が入ります。
恵子は白羽と同じシフトの時に仕事を教える係になります。

一緒になった初日はフェイスアップ(陳列棚の前面に積まれた商品の顔を整える作業)を教えますが、レジ打ちをしている間にぐちゃぐちゃになっていました。
作業内容を説明する恵子に対し、白羽はこう言います。

「こういうのって、男の本能に向いている仕事じゃないですよね」
白羽さんがぼそりと言った。
「だって、縄文時代からそうじゃないですか。男は狩りに言って、女は家を守りながら木の実や野草を集めて帰りを待つ。こういう作業って、脳の仕組み的に、女が向いている仕事ですよね」

恵子は今は現代だからと流しながら、新しい仕事を教えますが白羽は口を開けば文句ばかり。

そんな白羽が入ってから数日後。
恵子はいつも通り出社すると、店長から白羽は辞めてもらったと告げられます。

白羽は遅刻、すぐサボって携帯を弄る、廃棄を食べる、といった問題があり、それらはまだ目を瞑っていましたが、恵子と一緒のシフトでない時に常連の女性にストーカーまがいのことをしていることがわかり、急遽面談からのクビに。

コンビニでは人の入れ替わりはよくあることなので恵子は気にせず、働き続けます。

恵子と白羽

ある日、恵子はアルバイト終わりで帰ろうとしたところ、ビルの陰で例の常連の女性を見ている白羽を見つけます。

バレないよう背後から近づき、今後こそ警察に呼ばれますよ、店長を呼びますよ、と声をかける恵子。
白羽はこう言います。

「あんな底辺の社畜に何ができるんだ。僕がしたことは悪いことだとは思わない。気に入った女がいたら見初めて、自分の物にする。それは昔から伝わる男女の伝統じゃないか」

「白羽さん、前に強い男が女性を手に入れるって言ってましたよね。矛盾してますよ」

「僕は確かに今は仕事をしていないけれど、ビジョンがある。起業すればすぐに女たちが僕に群がるようになる」

「じゃあ、先にちゃんと白羽さんがそういう風になって、実際に群がってきた女性の中から選ぶのが筋なのではないですか?」

そんなやり取りしていると、急に泣き出す白羽。
こんなところを誰かに見られたら大変だ、と恵子は近くのファミレスに白羽を連れて行きます。

そしてファミレスで白羽は語り出します。

「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」

<中略>

「皆が足並みを揃えていないと駄目なんだ。何で三十代半ばなのにバイトなのか。何で一回も恋愛をしたことがないのか。性行為の経験の有無まで平然と聞いてくる。『ああ、風俗は数に入れないでくださいね』なんてことまで、笑いながら言うんだ、あいつらは!誰にも迷惑をかけていないのに、ただ、少数派だというだけで、皆が僕の人生を簡単に強姦する」

そんな白羽を、被害者意識は強いのに自分が加害者かもしれないとは考えない思考なんだなーと眺めながら適当に相槌を打つ恵子。

「僕はいつからこんなに世界が間違っているのか調べたくて、歴史書を読んだ。明治、江戸、平安、いくら遡っても、世界は間違ったままだった。縄文時代まで遡っても!」

<中略>

「僕はそれで気が付いたんだ。この世界は、縄文時代と変わってないんですよ。ムラのためにならない人間は排除されていく。狩りをしない男に、子供を産まない女。現代社会だ、個人主義だといいながら、ムラに所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的にはムラから通報されるんだ。」

縄文時代の話が好きなんだなーと思う恵子に対し、白羽はなんでそんな平然としているのか、自分が恥ずかしくないのか、あんたはもうどうしようもない人間じゃないか、と吐き捨てます。

恵子はこう言います。

「白羽さん、婚姻だけが目的なら私と婚姻届を出すのはどうですか?」

<中略>

「そんなに干渉されるのが嫌で、ムラを弾かれたくないなら、とっととすればいいじゃないですか?狩り…つまり就職に関してはわかりませんが、婚姻することで、とりあえず、恋愛経験や性体験云々に対して干渉されるリスクはなくなるのでは?」

白羽はこの突拍子もない発言になんと答えるのか、2人は今後どうなるのか、それは…

「普通」とは

以上、かなりざっくりと『コンビニ人間』を紹介させていただきました。

この小説を通じてわたしが感じたことは、わたしが普通と思っていることは普通ではない、ということ。

恵子や白羽に対し、周囲は間違っていると「普通」を押し付けます。
確かに恵子は過去の出来事ではありますが喧嘩を止めるためにシャベルで人の頭を殴り、白羽は自分のことは棚に上げて文句ばかり…なので、社会の常識から外れた変わり者に見えます。

しかし周囲の普通は本当に「普通」なのでしょうか。普通を押し付ける周囲が「普通」ではない可能性もあります。

妻

今でいう新型コロナウイルスのワクチン接種がまさにそうですよね。発症や重症化を予防できると言われていることから接種する人、副作用など安全性への不安やアレルギー症状を起こす可能性があるといった理由で接種を希望しない人、互いに理由があってその選択をしています。でも「接種するのが普通だ、打たないという選択はおかしい」と叩く人もいます。あなたにとって打つことが普通かもしれませんが、人によっては打たないことが普通なんですよね…

結局、普通というものの感じ方は人それぞれ。普通に正解なんてない、そう改めて気付かされました。

妻

普通でなければならないという日本人の考え方は別の国から見るとどう見えるんだろう…?日本人の考え方に共感はできなくとも、考え方には興味があるから、世界でも人気の作品なのかもしれませんね…!

ではまた。

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