ウォール街のランダム・ウォーカー|(中編)ファンダメンタルズ分析 VS テクニカル分析

資産形成
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こんにちは。夫です。
さて今回は「ウォール街のランダム・ウォーカー|(前編)バブル崩壊の歴史から今の投資家が学べること」の続きです。

前回は人類史上初のバブルと言われる「チューリップバブル」
初の株式市場でのバブルである「南海バブル」などいろんなバブルやブームの歴史を紹介しました。
今振り返ると馬鹿らしいとしか言いようがありませんが、企業の名前で株価が変わるようなブームもありました。

そして、たぶん今の株式市場も、10年、20年後には「あの頃はみんなどうかしてた。馬鹿らしいとしか言いようがない」と言われるようになるんだと思います。

何事においても歴史を学ぶことは重要です。歴史を学べば未来が見える。僕たちは未来の資産形成のために投資しているわけです。そして今僕たちがやっていることは、その成果の果実を得る頃には歴史になっている。常に歴史に学び、自分たちの未来を創っていく。そういう姿勢でいたいですね。

ということで今回は中編として、「ウォール街のランダム・ウォーカー」のなかでも専門性が高く、現役投資家にとっては驚きの連続である「ファンダメンタルズ分析 VS テクニカル分析」を紹介します。

と思いましたがその前に、前回の補足として、「なぜ市場は間違うのか?」「市場の間違いから自分の資産を守るには?」という部分を紹介します。本書の章立てでも分析手法とは違う場所にあるのですが、このことを理解しておくことは、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析を理解する上でも重要だと思います。

前回書いたように、株式市場は常になんらかのバブル、ブームの中にいます。その影響から逃れることもできません。
株式市場はバブルとバブル崩壊、ブームとブーム終焉を繰り返すものだと認識し、そこから身を守る方法を学ばないといけません。

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なぜ市場はいつも間違えるのか?

ベンジャミン・グレアムの「短期的にみると株式市場は人気投票にすぎないが、長期的で見れば価値の測定器として機能する」という言葉にあるように、短期的には人気投票、つまり本来の役割を忘れ、非合理的な行動や値動きによってブームを起こしてしまいます。

本書ではその理由を投資家の心理を中心的に解説してくれています。今回はその中でも特に重要だと思った3つを紹介します。ちなみにここで紹介される投資家の心理は、ダニエル・カーネマンの「ファスト・スロー」を読むとより深くわかります。

自信過剰と過度な楽観

本書でも紹介されている有名な実験に「あなたの運転能力はどのレベルだと思いますか?」という質問があります。

あなたならどう答えますか?

この質問を行うと、80%以上の人が「平均以上のレベル」だと答えるそうです。当然ですがそんな事はありえません。
運動能力や将来性、自分の能力について尋ねたときも似たような傾向があります。みんな、自分の脳力は過剰に評価して、周りの能力は過小に評価するんです。

当然、投資にも同じ傾向があります。市場が不調な時も自分が投資している株は大丈夫だと考えてしまいますし、市場が好調な時、自分が投資している株はもっと伸びると考えてしまうんです。

その結果、なんの根拠もないのに多くの個人投資家が「自分は市場平均に勝てる」と思っているんです。

他にも「後知恵」が結構厄介で、「自分が見込んだ株、結構株価上がってるやん!」と勘違いしてしまうことがあります。これは単に、自分が見込んだ株の中で、株価が下がった株を忘れて、本当に株価が上がったものだけ覚えてしまっている。結果、「俺が上がると思った株、8割以上は当たってる!これはいけるぞ!」と勘違いしてしまうんです。

僕は株式投資を勉強し始めた時、ある人から「自分の判断で個別株を売買するなら、実際に投資する前に紙の上で3年やれ」と言われました。これは後知恵に騙されるのを防ぐためだったんでしょうね。たしかに僕も、自分が見込んだ株、結構上がってるような気がしてたんですよ…でもたぶん紙に書いていたら、忘れているだけで下落している株も結構あるんでしょうね…

群集心理

これはSNS時代の今、余計に影響力を増したと思います。人は群集心理によって、良い判断ができることもあれば、大きく間違えることもあります。

ある実験で、左側に書かれた長さが違う3本の線の中で、右側に書かれた1本の線と同じ長さの線を答えるという、子どもでも正解できる質問がされました。
誰も間違えるわけがないと思うのですが、この実験には一つ細工がされていました。7人一緒に答えるのですが、そのうち6人はサクラ、間違った答えを言うように指示された人です。

すると驚くことに、何人かは多数の意見に流されて、明らかに長さが違う線を、同じ長さだと答えたんです。

そんなの意思が弱い人なだけじゃ…と思ってしまいますよね。でもその時の脳の働きを調べてみると、実際に空間認識の分野が活発になっていて、明らかに違う長さの線が同じ長さ”に”見えてしまっている”ことがわかったんです。つまり、本人は「間違ってるけど、とりあえずみんなこっちって言ってるし…」と流されて答えたのではなく「確かによく見てると、長さが同じだ!」と脳が錯覚して答えてるということです。群集心理、怖いですね…

バブルのときも同じ心理が働いています。「明らかに割高な株にみんななんで夢中になるんだろう?」と思っていたとしても、気づけばみんな、その株に投資して実際に株価がどんどん上がっていくんです。周囲では「いや、この株を今の利益で評価するなんで馬鹿げてる!将来性を評価しないと!」「割高に見えるけど、それは従来の企業の場合。この企業は違う!」という言葉が飛び交います。
そのうち、群集心理によって本当に「たしかにこの株はすごいぞ!割高なんていってたらこのチャンスを逃すハメになってしまう!」と錯覚してしまうんです。

当然その結果は、、説明する必要もないでしょう。

損失回避傾向

3つ目は損失回避傾向。ダニエル・カーネマンが「ファスト・スロー」で書いた「プロスペクト理論」です。プロスペクト理論とは、人は利益を得るより損失を回避する傾向が強い、というもので、簡単に言うと1万円もらえる喜びより、1万円失う痛みのほうが大きいということです。

これもいろいろな実験で証明されていることなので、ぜひ「ファスト・スロー」を読んでみてください。Intro Booksでもいつか紹介したいと思います。

一般的に、株価は上昇するときより下落するときのほうがスピードが速いと言われていますが、まさに損失回避傾向によるものです。
一旦株価が下がり始めれば「損をしたくない!」という気持ちが「持ち続けたら利益があるはずだ」という気持ちを上回り、売りが売りを呼んで暴落、ということになってしまいます。

2020年3月のコロナショックもそうでした。たしかに未知のウイルスは脅威ですが、人類は過去何度もパンデミックを乗り越えてきました。そう考えると、株価が暴落する理由はほとんどなにもないんです。
でも実際、下落幅としては過去最大を更新するほどの事態になりました。

なぜか。「未知のウイルスが出てきたけど人類は何度も乗り越えてきたから大丈夫」という思考より、「下落してる!やばい、これ以上損したくない!」という感情に負けたんです。
旅行業界など直接ダメージを受けた企業もありますが、IT企業を中心にむしろパンデミックを追い風に過去最高決算を次々出しています。
わずか1,2ヶ月で回復してしまったことからわかるように、あの暴落は損失回避傾向が招いた、無意味な損失だったということです。

株式市場の間違いから資産を守るには

株式市場は長期で見れば価値の尺度として機能しますが、短期的にはこうした人間の心理傾向によって大きく上下してしまいます。そんな時に、資産を守るためにどうすればいいのか。
もちろん本書の答えは「インデックスファンドに投資しろ」ということなのですが、もう少し応用できることも教えてくれています。

  • 他人の意見で投資しない。個人投資家へのアンケートでは投資している理由の典型的な答えが「周りに進められたから」だった。他人が話題にするような銘柄には原則近づかないことが、間違った群集心理から距離を取る方法である。
  • 売買の頻度を最低限にする。売買を繰り返すと、その都度手数料が取られる上、利益が出ていたら売却したタイミングで税金が発生してしまう。さらに多くの個人投資家は市場がピークのときに投資し、底値で手放してしまう。様々な調査から、売買頻度が多いほどリターンが低くなることが明らかになっている。
  • 売却するなら儲かっている銘柄ではなく、損している銘柄を売る。損失回避傾向から、人は損失を回避するときにより大きなリスクを取ってしまう。自分の正しさを証明したいがために、儲かっている銘柄を早く手放しすぎ、間違いを認めたくないがために損している銘柄を保有し続けてしまう傾向にある。
  • 新規公開株には注意する。IPO銘柄は短期で2倍、3倍になることがあるが、歴史的に見て、公開後5年間の平均リターンが市場平均より低いことが明らかになっている。また有望なIPO銘柄は公開時点で大口顧客が引き受けているため、一般投資家が買えるような銘柄のほとんどは望みが薄い。
  • 保証付きの投資手段は一切信用しない。リスクのない投資はありえない。年利50%を超えるような「うまい投資話」や元本保証型や毎月分配型など一見リスクのない投資手法は、必ず裏があるか、本当だとしても長期でうまくいくことはありえない。

さて、今回の本題、ファンダメンタルズ分析 VS テクニカル分析に入るまでが結構長くなってしまいましたが、かなり大切だと思ったので詳しく紹介しました。何も考えずインデックスファンドに長期で積立投資するなら必要ない知識かもしれませんが、そうはいってもうまい話がどんどん転がり込んでくるのが現実。特に資産形成をしだすと、うまい話と無数に出会います。ちゃんと知識をつけて、資産を守らないといけません。ということで、伝説の投資家ウォーレン・バフェットの言葉を紹介して、次に行きましょう!

ナマケモノに限りなく近い半睡眠状態が、今のところ最善の投資スタイルだ。そして最適な投資期間は半永久的だ。

最近ツイッターなどで「気絶投資法」なんていう言葉が流行っていたみたいですが、意外と的を得ていたのかもしれないですね。

2つの代表的投資分析手法

あなたはファンダメンタルズ分析派ですか?テクニカル分析派ですか?

個別株投資をしているとよくこういうことを聞かれます。それくらい、個別株を分析するときの代表的な手法です。本書ではどちらが良い悪いというわけではなく、どちらにも弱点がある、という立場で教えてくれるので、まずはそれぞれの分析手法を見ていきましょう。

チャートに耳を傾けるテクニカル分析

テクニカル分析は、株価チャートを見て様々なインジケーター(指標、計測器)を駆使し、市場の中に現れる「モメンタム」を人より早く見つけ出す方法です。

テクニカル分析の第一原則は「利益や配当、企業の将来価値と言ったあらゆる情報は、全て株価に反映されている」ということ、第二原則は「株価はトレンドを持って動く傾向にある」ということです。

つまり、知るべき情報は全て株価チャートの中に織り込まれていて、株価はある程度の規則や傾向を持って動くということです。

テクニカル分析派のアナリストは、無数の分析ツールを世に出しました。

僕は普段、株価チェックに「トレーディングビュー」というサイトを使っているのですが、用意されているインジケーターは細かいものを含めると数千もあります。到底使いこなせない…

MACDやRSI、ボリンジャーバンド、移動平均線、〇〇インデックス、〇〇レシオ、〇〇ダイナミック…
それこそ無数のインジケーターがあります。これら全てが違う視点から株価のモメンタムを推測するために使われます。

さらに、株価チャートのパターンにも「トレンドライン」「三尊天井」「サポートライン」「抵抗線」「三角持ち合いパターン」などなど、様々な名前が付いています。

これらが実際に投資に使えるのか、株価の未来を予測するのに役立つかを見ていく前に、もう一つの分析手法、ファンダメンタルズ分析を見ていきましょう。

企業の本質価値に耳を傾けるファンダメンタルズ分析

ファンダメンタルズ分析は株価そのものではなく、その企業の本質的価値と現在の株価を比較する手法です。1株100ドルの本質的価値のある企業の株が、80ドルで売買されているなら買ったほうがいい、120ドルで売買されているなら売ったほうがいい、という感じです。

「株式市場は長期的で見れば価値の測定器として機能する」というグレアムの言葉を信じるなら、本質的価値より低い価格で取引されている株を見つけられたら、長期でほぼ間違いなくリターンを得ることができます。

企業の本質的価値を測る方法は色々ありますが、ファンダメンタルズ分析では、過去の利益や配当の成長率、事業内容や経営方針、その他様々な要因から、今後の成長率を推測し、その分を考慮して、今の株価が本質的価値より高いか安いかを判断しようとします。

「ウォール街のランダム・ウォーカー」の著者、バートン・マルキール氏はプロの投資家としての経験と実績を持ち、栄誉ある学者で、個人投資家としても成功されています。
そして何年も研究を続け「インデックスファンドが最適」という結論に至っています。本書の初版が発行されてから50年近くずっと研究を続けても、その結論は変わっていません。

つまり、圧倒的な知識と経験、研究から、テクニカル分析、ファンダメンタルズ分析の弱点を見つけたということです。

本書では無数の研究データや理論が紹介されていますが、基本的には僕が理解できたもので、僕が大切だと思ったものだけ紹介します。もし「自分はテクニカル分析で成功している!」「誰がなんと言おうとファンダメンタルズ分析は正しい!」と思っているなら、この記事に文句を言うんじゃなくて本書を読んだ上でバートン・マルキール氏に文句を言ってくださいね(笑)

テクニカル分析の弱点

テクニカル分析の問題点はなんでしょうか?
もちろん、原則である「すべての情報は株価チャートに織り込まれている」「株価はトレンドを持って動く」が本当なのかどうかです。

まず2つ目の原則、トレンド、つまりモメンタムについてですが、過去100年以上の膨大なデータを分析した結果、「モメンタムのような株価の動きは存在するが、規則性は全く無い」そうです。
つまり、モメンタムというのは、コインを4回投げたら連続で表立ったから次も表が出るだろうと言っているのと同程度の正確性しかない、ということです。

ちなみに、テクニカル・アナリストに対する意地悪な実験があります。コインを投げて表立ったらプラス5%、裏だったらマイナス5%みたいなルールでチャートみたいに表示したものをテクニカル・アナリストに見せるんです。するとアナリストは「これは強い上昇トレンドだ」とか自信を持って答えてしまったそうです。意地悪ですね笑

それから1つ目の原則である「すべての情報は株価チャートに織り込まれている」というものですが、これも反論の余地があります。例えばある銘柄に対するポジティブなニュースとネガティブなニュースが同時に出た場合、投資家はどちらを重視すべきか迷います。そして翌日の株価が下がっていたら、他の人がネガティブに捉えたのだと勘違いして売りに走ります。しかし、当然中にはポジティブなニュースしか知らない人もいて、「下がっている!ラッキー」と下がったところで買いに走り、反転することもあります。
すると、まだ様子を見ていた投資家が、「やっぱりポジティブに捉えられたか」と思って買いに走り、株価が上がっていく…

こうしたことが繰り返されるため、株価が即座に1すべての情報を織り込むということはほとんどどないんです。

「ウォール街のランダム・ウォーカー」では、テクニカル分析に実質的な価値がないことを示す根拠がたくさん上げられています。
しかし、現在も証券会社には数多くのテクニカルトレーダーがいます。その理由について、本書では、テクニカルトレーダーは人を惹きつける色んな情報を常に提供できる上、売買頻度を増やし証券会社の利益になるからだと言います。

重要なことは、テクニカル分析に全く意味がないというわけではない、ということです。実際、テクニカル分析で資産を増やしている人はたくさんいます。ただ、全体を長期で見れば、バイ・アンド・ホールドより顕著に良い成績が出せるかと言うと、そんな根拠はどこにもない、という話です。

本書ではさらに、ダウ理論やフィルター法、オッドロット理論、ダウの負け犬戦略などいろいろなテクニカル分析の手法に対して実際には通用しない根拠を述べていますが、それらは省きましょう。

テクニカル分析の手法はどれも納得感があり、簡単に儲かりそうな匂いがします。
でも、僕たちが知るべきは、テクニカル分析で投資タイミングを測って、もし外した時のリスクが非常に大きいということです。

一度や二度外しても問題ないと思うかもしれません。でも、1960年代から30年間にわたる調査では、株式市場が開いていた7500日のうち、株価上昇が大きかった90日間を外しただけで、リターンの大部分がなくなったそうです。

他の調査では、1900年に1ドルをダウ平均に投資して2013年まで保有すると、290ドルにまで増えています。ただ持ち続けるだけで、300倍近くです。でも、毎年利益が大きな5日を外しただけで、1ドルは100分の1の1セントになっていたと言われています。

つまり、たとえテクニカル投資がタイミングを測るのに多少役立ったとしても、年に数日しかない大切な日を外すだけで、ただ持ち続けた場合よりリターンが減るのですから、あまり活用の余地はないということです。
加えて、売買手数料や税金も圧倒的に不利です。

ちなみに僕はRSIやボリンジャーバンドといったテクニカル分析の指標を使っています。が、これは毎月投資すると決めている長期投資銘柄のポートフォリオで、どれを買うのか優先順位をつけるのに使っているだけです。

ファンダメンタルズ分析の弱点

テクニカル分析がコテンパンにやられたところで、ファンダメンタルズ分析はどうでしょうか?

世界一の投資家ウォーレン・バフェットも取り入れている手法で、なんとなく「ファンダメンタルズ分析=正しい投資手法」のような印象まであります。

しかしここでも問題になるのは、やはり前提条件である「企業の本質的価値」と呼ばれるもの。一体何を持って、企業の本質的価値を測り、今の株価と比較するのか、というところです。

イギリスで発表された「規則性のない利益成長」というタイトルの論文では、企業の利益成長に一貫性はなく、たとえ過去10年素晴らしい業績を出した企業であっても、次の10年もその業績が続くかどうかはわからないことが明らかになっています。

具体的には、1990年代の経済成長時でも、毎年安定して成長した企業は、大企業でも8社に1社。そして2000年代になっても高成長を維持した企業は、1社もなかったのです。

ファンダメンタルズ分析は、企業の本質的価値、つまり今後5年、10年にわたって成長を続けた場合と、今の株価を比較するわけですが、そもそも5年後、10年後の成長なんて誰にも予知できないということです。

また、そもそもファンダメンタルズ分析で重視される決算情報、財務諸表も決して完璧なものではありません。例えば、営業利益の出し方は国によってルールが違いますし、企業によって基準が違います。
リース契約の売り上げを一括計上するルールで会計報告した結果、実際より利益が大きく見えてしまったり、支払いサイクルによって大型の支払いが決算後だったため、利益が大きくなったりすることもあります。
そして、そうした企業はファンダメンタルズ分析の結果、素晴らしい企業と勘違いされ、株価が大きく上昇。しかし当然、将来に渡って成長が維持できるわけもなく、その後暴落、という例が数多くあります。

つまり、そもそも完璧に企業の将来業績を予測することなんてできない上、そのもととなるデータも間違っていたり、偏っていたりするんです。

他にもいろんな調査結果から、過去10年投資リターンが大きかった銘柄は、その次の10年で市場平均を下回るなど、意外なデータがたくさん提示されていますし、銘柄情報を僕たちに届けてくれるアナリストの構造的問題も多く指摘されています。

じゃあ、あの投資の神様、ファンダメンタルズ分析の頂点、ウォーレン・バフェットはどうでしょうか?

投資をしている人であればご存知と思いますが、たしかにウォーレン・バフェットは素晴らしい投資リターンを生んできましたが、ここ数年は市場平均を下回っています。過去を見ても、常に市場平均を超え続けてきたわけではありません。
そして何より、ウォーレン・バフェットは経営者でもあります。バークシャー・ハサウェイという倒産しかけた繊維会社を買収し、保険、投資から自動車や食品まで手掛けるコングロマリットに育て上げました。純粋なファンダメンタルズ分析の投資であれだけのリターンを出したわけではありません。

ウォーレン・バフェットの有名な言葉に、妻への遺言として「遺産の90%はS&P500のインデックスファンドに投資しろ」というものがあります。天才バフェットならたしかにファンダメンタルズ分析によって企業の本質的価値を見出すことはできるのかもしれませんが、凡人には難しいということですね。

そしてもう一つ、バリュー投資の生みの親とも呼ばれるベンジャミン・グレアムの言葉を紹介しましょう。
バリュー投資、つまりファンダメンタルズ分析によって、本質的価値より割安な株価で取引されている銘柄を見つける手法の生みの親の、晩年の言葉です。

もはや、どんなに精巧な証券分析テクニックを用いても、他人より優れたリターンを得ることはできないのかもしれない。こうしたテクニックは「証券分析」が出版された40年前にはたしかに実りの多い行為だった。しかし状況は変わってしまった。多大な努力を費やして分析を行ったとしても、そのために必要なコストに見合った銘柄選択の効果を挙げられるかどうかは疑問だ。私の意見は「効率的市場」学派のほうに近いと言えるだろう。

「効率的市場」学派とは、「効率的市場仮説」と呼ばれるもので、まさに本書「ウォール街のランダム・ウォーカー」が提唱するもの、どんな手法を使っても市場そのものを超えることはできない。だからタイミングを測ることも、個別銘柄を選択することもなく、市場全体に幅広く投資することがベストだ、というものです。

ファンダメンタルズ分析の王様が、晩年はファンダメンタルズ分析ではなくインデックスファンドを推奨していたなんて、かなり衝撃的です。

妥当に成功するためのルール

さて、「ウォール街のランダム・ウォーカー」では2つの代表的投資分析手法の弱点を分析して、インデックス投資が最適な理由を教えてくれているわけですが、実は、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析を駆使して妥当に成功するためのルールも教えてくれています。

本書の趣旨とはずれていますし、バートン・マルキール氏はこの方法を推奨しているわけでもありません。このルールを紹介した後に「この手法は概ね的を得たものだと言えるが、うまくいくかはよく確かめないといけない。結局、多くの人々がこのゲームに参加しており、誰一人として確実に勝ち続けることはできない」と言っています。といっても、僕にはこのルールがフィットしたので、紹介しますね。

  • ルール1:利益成長率が今後5年以上市場平均を超える銘柄を見つける。長期の利益成長率こそが最も重要であり、過去本当に大きなリターン(一時的なブームではなく)を上げた銘柄は例外なく長期に利益成長している成長株だった。
  • ルール2:株価がファンダメンタル価値以上になっている銘柄を省く。例えば、株価収益率が市場を大幅に上回っている場合は利益成長していても投資しないほうがいい。株価収益率が高い成長株は、すでに将来の利益成長を十分に織り込んでいると考えるべきである。
  • ルール3:投資家が熱中できるストーリーを探す。投資家は合理的なコンピューターではなく、心理的要素に左右される人間である。投資家に「受けが良い」銘柄は、そうでない銘柄と同じように成長してもより大きなリターンを生む可能性がある。トレンドラインのようなテクニカル分析の指標も、投資家に受けが良いシグナルの一つである。
  • ルール4:売買頻度を減らす。売り時を性格に判断することは難しい上、頻繁な売買は証券会社を設けさせ、税金を取られるだけでなんの得にもならない。特に売却は年末に損失を出した銘柄を処分するなどルールを決めて行う。

これが本書で紹介されている3つのルールです。
当然、問題はたくさんありますね。これまで紹介してきたように、将来の利益成長を予想することは難しいですし、投資家が熱中できるストーリーがあるかどうかを見抜くなんて、新作小説のヒットを予想するくらい難しいでしょう。

とはいえ、このルールが大事な指針になることも確か。僕はこのルールを頭に入れておこうと思います。
例えば最近ならヘルスケア関連企業や電気自動車関連みたいに、注目を集めている企業に絞れば、そうしたストーリーも見えてくるのかもしれません。利益成長も、3銘柄に1つ的中すればOKというスタンスで、その前提で資金管理をやっていれば、いい結果につながるかもしれません。

結局、ランダム・ウォークに勝つことはできないのか?

今回は「ウォール街のランダム・ウォーカー」の中編ということで、株式市場が度々間違える理由と、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析、それぞれの弱点を紹介しました。

結局、ランダム・ウォークの中に法則を見つけ出し、市場平均に勝つことはできないのでしょうか?

本書では、ノーベル賞も受賞している「現代ポートフォリオ理論」についても触れられていて、驚きの結論を導き出しています。

現代ポートフォリオ理論をめちゃくちゃ簡単に言うと、晴れの日に業績が上がる旅行会社と、雨の日に業績が上がる傘のメーカー、両方に投資しておけば天気がどうであれそこそこのリターンが見込める、というものです。

僕は以前、現代ポートフォリオ理論を学ぼうとして、シグマ関数とか難しい数式が出てきたので挫折しました。ただ本書を読む限り、あえて学ぶ必要もないのかな、と思っています。

それでは、今回の最後に、本書から抜粋を。少し長いですが、ぜひ読んでください。

過去の株価動向を分析するテクニカル分析も、個別企業や経済の予測についてのより基本的な情報を提供するファンダメンタル分析も、それだけで常にいい結果をもたらすとは言えないようだ。長期的に高いリターンを手にする唯一の方法は、より高いリスクを受け入れることであるように思われる。
残念なことに、完全なリスク尺度は存在しない。ベータ(リスク評価の指標)は簡潔でわかりやすい市場感応度の指標である。しかしながら、ベータにも欠陥があるのだ。長期に渡って計測すると、ベータとリターンの間の実際の関係は理論が想定するような形にはなっていない。
<中略>
私はどんな単一の尺度も、個別株式やポートフォリオに対する様々なシステマティック・リスク(ポートフォリオ分散などによって減らすことができない市場そのもののリスク)の影響を十分には捉えられないと論じてきた。
<中略>
完全なリスクの尺度は、依然として神秘的で私たちの手の届かないところにあるのだ。
<中略>
もちろん、新しい投資テクノロジーの最先端テクニックについて知る必要はある。それらは強力な味方になりうるからだ。しかし、魔法使いが現れて、私たちが頭を悩ます投資に関する問題を全て解決してくれるなどということは決して起こらない

いかがでしょうか。読み解けば、ものすごく当たり前のことを言ってくれています。リスクを取らなければリターンは得られない。現代ポートフォリオ理論のようにリスク低減を重視する投資テクニックはあるけれど、リスクだけ下げてリターンは最大化するような、都合のいい話は存在しません。そして本当の問題は、リスクを完璧に評価する方法が存在しないことだ、と言っています。

大切なのは、リスクを完璧に評価することなんてできない、という前提のもと、自分のリスク許容度を考え、適切にリスクを取ることですね。

それから、前編でも紹介した一文を。

株式市場で金儲けをすることは、実際、それほど難しいわけではない。むしろ難しいのは、短期的に手っ取り早くお金を儲けられそうな投機に、お金を注ぎ込みたくなる誘惑を振り払うことの方である。

肝に銘じておきましょう。
それでは長くなりましたが、後編では、実際に僕たちは何に投資し、どうやって資産を増やしていけばいいのかを見ていこうと思います。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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