こんにちは。夫です。
最近の若い子はよくわからないなー、、なんて言い出したら大人になった証拠。でも60歳以上ならともかく、30代くらいの場合、数年〜数十年後にはその「よくわからない」人を相手にビジネスをしたり、部下にしたりするわけです。
今日はそんな現代を生きる大人にこそ読んでほしい一冊を紹介します。その名も「フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方」です。
人類のことを「ホモ・サピエンス」っていいますよね。それまでの人類とは異なる種の現代人を指す学術用語です。本書では、スマートフォンの登場によって考え方、能力のあり方が変わった人を「フォノ・サピエンス」という新人類に捉え、新人類がメインになった世界で勝ち残る方法を教えてくれます。
「スマホゲームやYouTubeを見るのは時間の無駄。それより学校の宿題をした方がいい」
もしそう思っているならあなたはホモ・サピエンスです。残念ながら今のままではフォノ・サピエンスの時代に勝ち残ることは難しいでしょう。
本書のざっくりとした流れは以下の通り。
- 第1章:スマートフォンが他の先端機器とは異なり消費行動、文明まで変化させフォノ・サピエンスが誕生した理由と新しい文明のあり方
- 第2章:フォノ・サピエンスの時代におけるメディア、流通、サービス、製造業など、多様な産業の変化を分析
- 第3章:フォノ・サピエンス時代に成功したグローバル企業を分析して見つけた新時代のビジネス戦略
- 第4章:フォノ・サピエンス時代に飛鳥な人財の教育方法
新しい時代のデジタル戦略として、ECやDXなどを解説する本は多いですが、文明や消費行動というより大きな枠組みで捉え、製造業や流通業界まで解説してくれるのは面白いですね。僕を含め現代の”ホモ・サピエンス”必読の一冊です。
明らかなことは、革命はすでに始まっており、私たちはその準備をしなくてはならないということだ。革命の時代を生き抜くためには、すべての人の共感と同意が必要だ。なぜなら変化の過程では大きな苦痛が伴うからだ。
<中略>
革命の時代にどう対処すべきか、そのキーワードは「人間」だ。フォノ・サピエンス時代の最大の特徴は、あらゆる権力が消費者の手に移ったという点だ。これによって産業の生態系が地殻変動を起こし、すべての企業の興亡盛衰も消費者の選択にかかっている時代になった。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
新人類フォノ・サピエンスが誕生した
「フォノ・サピエンス」という言葉は2015年3月、エコノミストの記事で初めて登場しました。その定義は次のように説明されています。
スマートフォンの登場でコミュニケーションの上で時間や空間の制約がなくなり、情報伝達のスピードが早くなって情報格差が解消されるなど、便利な生活が可能になると共に、スマートフォンがなくては生きていけない人が増えたことで、この用語が登場した。イギリスの経済週刊誌「エコノミスト」が「知恵のある人間」という意味のホモ・サピエンスをもじってフォノ・サピエンス(知恵のある電話を使う人間)と読んだことに由来する。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
2007年に誕生したiPhoneは当初、ただの高性能なガラケーと思われていました。でも実際は全然違いますよね。スマートフォンで提供されるサービスは間違いなく僕たちの生活や生き方を変えましたし、生活や生き方が変わったということは信念や考え方も変わっているはず。僕たちはスマホを手にした瞬間、フォノ・サピエンスへの進化を始めたんです。
革命、イノベーションという言葉からは、AIやロボット、IoT、ビッグデータ、ドローン、自動運転、3Dプリンターなど最先端技術を思い浮かべますよね。
でも本書では、これらのテクノロジーに注目するまでもなく、日常にすでに革命が浸透しており、人々が情報選択権を握ったことが1番の革命だと言います。
日常を見てみればどうでしょうか。僕は完全キャッシュレスに切り替えたので、もう数年単位でATMを使っていません。振込も残高確認も、スマートフォンで完結します。
2018年時点で、銀行の取引件数の80%以上が窓口以外で行われていました。コロナ禍でデジタルシフトは加速したので、ATMならまだしも銀行窓口なんて何年も行っていない、という人はかなり増えたと思います。
キャッシュレスが進む先進国の多くで、銀行が支店を閉鎖しインターネットバンキングの強化を進めています。
買い物はどうでしょうか。百貨店やスーパーの売上は年々減少し、店舗を減らす、倒産する事例も珍しくありません。でも人々が物を買わなくなったわけではありません。アマゾンに代表されるオンラインショッピングに移行しただけです。
こちらは日本の百貨店の売上推移。90年代前半はバブル崩壊で減少していますが、2000年にかけて少し盛り返していますよね。でもそこからずっと右肩下がり。そしてアマゾンが日本語のウェブサイトを立ち上げたのは、2000年11月です。
メディアの変化もわかりやすいですよね。テレビCMの広告費をWeb広告が追い抜き、マーケティングの主戦場はWebに変わりました。テレビを持っていない人も増え、テレビを持っていてもリアルタイムのテレビ番組ではなくNetflixやアマゾンプライムを視聴しています。
その結果、アメリカでは地上波テレビ局や新聞社の多くが合併・買収されています。アメリカで100年の伝統を持つ「TIME」は営業支援ソフトウェアのセールスフォースに買収され、ワシントン・ポストはアマゾンの元CEOジェフ・ベゾスに買収されています。
アマゾンの元CEOジェフ・ベゾスの信念は以前Intro Booksで取り上げた「Invent&Wander」によく表れています。
こうした変化の要因は間違いなくスマートフォンです。銀行に行かなくてもスマホで残高を確認したり支払いができますし、スーパーに行かなくてもスマホで注文すれば翌日には手に入ります。テレビの電源をつけてリアルタイムで放送されている数少ない番組からマシなものを探すくらいなら、無数にあるYouTube動画をスマホで検索した方が面白いものに出会える確率は高いでしょう。
今や全世界で40億人がスマホを使っています。すごいですよね。多くの人にとって生活必需品である車で15億台くらいですよ。もちろんそのきっかけとなったのはiPhoneですが、「THINK AGAIN」で紹介したようにスティーブ・ジョブズは最初iPhoneのアイデアを切り捨てました。それが今や新人類を生み出すほどになったのですから、どんな気分で天国から眺めているんでしょうね。
スマートフォンが生み出した最大の変化は、人の思考体系を変えてしまったことです。どこまでいっても人間には生物学的限界があり、学習プロセスそのものに変化はありません。ゼロから新しい思考を生み出すのではなく、受け取った情報をもとに意志を持ち、思考します。
スマホ以前は大半の人が同じ新聞を読み、同じテレビを見ていました。それを情報として受け取り、意志を持ち、思考するので、大半の人が同じような考え方を持っていました。大衆の意識がある程度統一されていること。これは過去の世界において、社会を維持する根幹といえる前提条件です。
しかしスマホが登場してから、人は新聞やテレビを読まなくなりました。でも情報を受け取らなくなったわけではありません。新聞やテレビの何倍もの情報をネット記事やSNS、YouTubeで受け取っています。
つまりスマホ以前と比べて圧倒的に多くの情報、しかも人によって全く違う情報を受け取るようになったのです。
人々はほとんど無意識にスマートフォンを開いて情報を見る。意識しようがしまいが、脳はその情報をコピーし、コピーされた情報は思考として蓄えられる。それだけ多くのことを考えるようになったという意味だ。
<中略>
社会の基準が変化するに従い、多くの副作用が現れる可能性がある。しかし明らかなのは、新しい人類が新しい社会や新しい道徳の基準、新しい常識を要求しているという事実だ。この変化に馴染みのない世代には大変な時代の到来だが、適応しなくてはならない現実である。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
受け取る情報が人の思考を作るというのはまさにその通りだと思います。そうであれば情報収集手段が違う世代を「新人類」と呼ぶのはある意味当然ですね。
情報収集手段がマスメディアからスマホで見るインターネットコンテンツに変わったことによる変化は、人の思考だけではありません。
本書ではiPhoneの誕生が「世界の主人公を60代から30代に変えてしまった」といいます。
マスメディアが大衆の思考をコントロールしている時代では、マスメディアをコントロールする人たち、つまりマスメディアの上層部とメインターゲットである60代が世界の主人公でした。
でもスマホ時代においてマスメディアの影響力は相対的に低下し、どんなメディアもスマホからアクセスできる無数の選択肢から”選ばれる”ことが欠かせません。そのためマスメディアもスマホ世代に選ばれることを重視しています。つまり、スマホを使って見る情報を選ぶ30代以下が世界の主役になったんです。
不便だから使われたウーバー
配車アプリのウーバーは2010年代に最も成功した企業の一つです。もちろんウーバーにはまだまだ課題がありますが(いまだ赤字企業…)、DiDiやGoなど多数の競合が出現したからで、100年以上変わらなかったタクシー業界に革命を起こしたという点では偉大な企業です。
そんなウーバーもサービス開始当時、成功すると考える人はほとんどいませんでした。まだiPhoneが登場して2年ほどだったので、スマホアプリを使っている人が少なかったんです。それにタクシーは100年以上、ほぼ形を変えてこなかったビジネスです。変える努力をしてこなかったわけではなく、手を上げるだけで止まってくれ、どこにでも連れて行ってくれるタクシーは変える必要がないくらい便利だったんです。
ウーバーのサービスも本質的には何も変わりありません。タクシーを呼ぶときに手を上げるか、アプリを立ち上げるかの違いがあるだけで、サービスの本質は人を目的地まで連れて行くことで同じ。料金も多少のディスカウントがあったものの同じです。
しかしウーバーは1つだけ、既存のタクシー業界と違うところがありました。
それは「ゲーム感覚」です。
ユーザーはアプリに表示されるマップをゲーム版のように捉え、タクシーに乗りたいゲームプレイヤーと、送迎して現金をゲットしたいゲーム参加者の対戦ゲームです。タクシーに乗りたいゲームプレイヤーは、より早く、安く、安全に目的地に連れて行ってくれるタクシーを捕まえることがゲームクリアのポイントで、送迎して現金をゲットしたいプレイヤーはより短時間に効果的に現金がゲットできる人をピックアップすることがポイントです。
正直、手を上げるだけで止まってくれる方がラクですよね。でも面白いのはウーバーの方です。
ウーバーの創業者トラビス・カラニック氏は「面白いから」という理由だけでウーバーを使う人が増えると自信を持っていたそうです。実際にどうなったか…たった3年でタクシー業界は大ダメージを受けました。僕も普段、家を出る前にアプリでタクシーを呼んで、目的地を告げることも、支払いをすることもなく、快適に移動しています。
ウーバーの成功はまさに、新人類の自発的な選択によるものです。情報を発信する側ではなく、情報を選択する側が主役になったという話をしましたが、まさに情報を選択する側の自発的な選択によって、100年変わらなかった業界が一変したんです。
ウィキペディアに補完された知識をスマートフォンでいつでも見られる人類、新しい情報が生まれれば、ほとんどその日のうちに30億人に複製されるシステムを持った人類、これがフォノ・サピエンス時代の定義だ…巨大な社会変化を伴う人類の変革はすでに始まっている。その革命の渦の中で、人類が新しく手にした大きな能力について、そのプラスの面を見るのか、マイナスの面を見るのかが問題だ。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
スマホのさまざまな弊害について筆者はこのように言います。確かにスマホによるメンタルヘルスの問題や、なんでも調べればわかるからこそ記憶力、思考力が低下するという課題はあります。でもそれ以上に多くのメリットもあるはずです。スマホで思考力が低下する反面、より多くの情報に触れることでより柔軟に、人と違った自分だけの思考を持つことができるとも言えるのです。以前紹介した「スマホ脳」はスマホのマイナス面を中心に見た本、本書はプラスの面を見た本です。両方大事ですね。
「消費者が王様」時代のビジネス戦略
第2章ではさまざまな業界のフォノ・サピエンス時代の変化について書かれていますが、この記事ではその中で僕が最も重要と感じた、ほぼ全ての業界に共通するであろう変化「消費者が王様」について触れたいと思います。
データの、データによる、データのためのビジネスは、言い換えると「顧客が王様であるビジネス」だ。実際、フォノ・サピエンスがリードするスマホ文明の最大の特徴は「企業が王様」である時代から「消費者が王様」の時代に変わったということだ。スマートフォンのおかげで、どの企業であれ自分を満足させるサービスを提供してくれれば、一瞬にしてそこに移動できる時代だからだ。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
ビッグデータはこれからのビジネスに必要不可欠なピースですが、どこか冷たい印象がありますよね。データを駆使して顧客にもっと金を使わせる、みたいなイメージがあります。実際、そうしたイメージからGAFAのような巨大テック企業を非難する声もあります。
しかし本書では、データを活用することは、顧客が王様であり、顧客のためのビジネスであることの証拠だといいます。
確かに、データは僕たち消費者の行動一つ一つです。それを軸に戦略を立てるということは、顧客を軸に戦略を立てているということ。データを駆使してはじめて、僕たちは無数の選択肢の中から最適なものを選ぶことができるんです。
スマホ以前、消費者は「井の中の蛙」でした。テレビCMを大々的に打ち出し、スーパーに並んでいる商品の中からしか選ぶことができませんでしたし、それ以外の選択肢を知る機会もありません。
でもフォノ・サピエンスは、世界中に無数にある選択肢を、テレビCMの有無や近所のスーパーに並んでるかを気にせず検討することができます。
この時代に企業が勝ち残るためには、どこまでも顧客本意になるしかありません。つまり、「データの、データによる、データのためのビジネス」をするということです。データは顧客のリアルな意思表示なので、この一文は「顧客の、顧客による、顧客のためのビジネス」と言い換えることができます。
近年、DX化がバズワードになり、とりあえず最先端技術を積極的に導入しよう、という流れがありますが本書では最先端技術や技術革新に注目する重要性は低いと言います。
というのもフォノ・サピエンスに起こっている変化は、確かにスマートフォンという先端技術がきっかけになりましたが、変化したのは人間そのもので、技術は脇役だからです。そのため企業に必要なのは「DX化を進めよう!」ではなく、今のリアルな消費者を理解することです。その結果、DX化が必要であれば進めればいいのです。
DX化は本来、消費者を理解し、消費者によりよい体験を提供するための一つの手段です。でも最近はDX化が目的になっていますよね。目的と手段を履き違えていい結果を産むことはほとんどありません。
文明が変われば常識も変わる
フォノ・サピエンスが誕生し、文明が一歩先へ変わりました。当然、文明が変われば常識も変わります。
一昔前なら「ビジネスパーソンはとりあえず日経新聞を取っとけ」が常識でしたが、今ではそれに変わるスマホアプリを見ることが常識になってきましたよね。本書を読むとそうした常識の変化をたくさん見つけることができますが、その一つを紹介したいと思います。
歴史が古く伝統的な企業ほど、新しい常識に対応するのが難しくなります。実際、これまでテレビCMに何億円と投じてきた企業がWeb広告にシフトしていますが、その多くが「Web広告は効果がない」と嘆いています。
僕のようにWebマーケティングを専門にしている側からすると、逆にテレビCMみたいに計測しにくい手段ででどんな効果を実感していたんだろう…と不思議に感じますが、テレビCMが常識だった人にとっては真逆の意見のようです。
その理由は、テレビCMの常識をそのまま使って、手段だけをWeb広告に切り替えているからです。
一番わかりやすいのが、YouTube広告でテレビCM動画をそのまま流してしまうパターンです。
当然ですが、テレビとYouTubeでは視聴者の消費パターンも、視聴する環境も違います。受け取っている情報が違うので、思考も違います。
例えば、YouTubeでは作りが雑でぎこちなかったとしても、新鮮で人間味のあるコンテンツが好まれます。一方で伝統的なテレビ番組は、プロが作った豪華なセットの中で、プロの出演者が、プロのカメラマンに撮影され、プロの編集スタッフによって作り込まれたコンテンツが当たり前です。
この常識の違いを認識しないとマーケティングはうまくいきません。
文明の標準を正しく理解できなければ、決して選択されることはない。あなたの常識の隅々まで、いま一度点検してみよう。会社運営のマニュアルから、チェックし直すべきだ。フォノ・サピエンスという新人類の標準に合わせたとき、問題がありうる全てのことを一つひとつ正していくのだ。このような基本的な行動が出発点となる。商品を作って売るだけの問題ではない。あなたの会社が彼らから選択されて「いいね」ボタンを押してもらえる理由を作らねばならないのだ。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
僕もマーケターとして新時代の常識はちゃんと把握するようにしておきたいですね。以前紹介した「Z世代マーケティング」では、多くのZ世代がパーソナライゼーションを望んでいることが紹介されていました。50代以上の多くがパーソナライゼーションされていたらデータを抜き取られているんじゃないかと不安になったりしますが、Z世代の常識では全く逆なんです。
顧客から選択されなければ没落するしかない時代、ファンダムをつくりだすキラーコンテンツがなければ、どれほど広告を打っても消費者から振り向かれない時代、本当に消費者中心で考えなければならない時代に、私たちは生きているのだ。よく周囲を見回してほしい。あなたの会社の事業企画案は、本当に顧客中心でつくられているのか、あなたの頭の中の真の王様は誰なのかを。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
本書で至る所に書かれているのが、「顧客が王様」「顧客が選択する」という言葉。これからのビジネスを語る上で欠かせないポイントですね。資金力に任せた広告戦略は通用しなくなってきています。
デジタル時代に勝ち残れる人財
ここまでフォノ・サピエンス時代の変化を紹介してきました。本書ではもっと個別の企業、業界レベルの変化も数多く紹介されています。筆者が韓国出身の方なので、アメリカの企業だけでなく、日本ではあまり話題になりにくい中国・韓国の企業の話も数多く出てきます。
でも結局、一番大切なことは「どうすればこれからも活躍できるのか?」ですよね。この記事を読んでいる方の多くは僕と同じく会社員だと思います。別にアマゾンを打ち負かして新時代を築きたいと考えているわけではないでしょう。どんなスキルを身につけ、どう考えればこれからも活躍できるのか。本書の最終章ではそのヒントが見えます。
結局「仁義礼智」を持った人
時代がどれだけ変わっても、いや変わったからこそ、結局は人としての魅力が重要になります。スマホ以前であれば、優れた戦略を立て実行する知識が重要なスキルでしたが、優れた戦略がそのまま優れた成果につながるのは「企業が王様」の時代だけ。「顧客が王様」の時代では顧客を理解、共感することこそが重要だからです。
ビッグデータを集めるスキルはあっても、そこから顧客の心理を読み解けなければ活用はできません。顧客が生産するデータにどんな意味があり、何を求め、何を諦め、何を感じているのか。それを理解し、企業としてどんな層にアプローチすべきか、その結果どんな反応が得られるのかを想像できる。そんな人財が必要な時代です。
「顧客は王様」のデジタル・プラットフォーム時代に、顧客への共感能力を持つことは、最も基本的な素養であると同時に、必須の能力となった。だから若いうちからSNS活動を通じてデジタル社会を経験し、共感能力を育てていくべきだ。他人を気遣い、誠実に会話する方法を身につけ、デジタル文明時代特有のユーモア感覚や絵文字の適切な使用法も学習する必要がある。顧客を理解するには、デジタル文明を理解することが必要だ。だから正しいSNSコミュニケーションの方法から学ぶべきなのだ。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
どこまでいっても、優秀な人材は優秀な人間なんですね。本書では「親切でよく気が付き、最新で礼節を知り、合理的・化学的で、能力のある人」と表現しています。
SNS時代に、上辺だけの態度は必ずバレます。営業に伺う時だけ和やかに、後で喫煙所で悪口を言っているようでは通用しません。
だからこそ孔子が説いた「仁義礼智」のような人間力がより重視されます。技術が進み、全てがデータ化、可視化されるほど、本質的な人間力が試されるということです。
もちろんデジタル技術への理解も基本リテラシーとして大切です。なので企業の経営層は積極的に若者が使っているアプリを取り入れるべきです。若者と同じようにSNSを使い、スマホゲームをして、YouTubeで勉強してみましょう。そうした経験なしにフォノ・サピエンスを理解することはできません。
ストーリーテリングの能力
顧客が王様の時代に、以前のように「これは素晴らしい製品だ。これを買え」というメッセージは通用しません。実際、近年台頭したフォノ・サピエンス時代の企業・サービスは、一定のボリュームを獲得しマスマーケットに乗り出すまで、広告という手段をあまり利用しません。
広告を使ったマーケティングが通用しないなら、代わりに何をすべきでしょうか。
その一つがストーリーの力を利用することです。
フォノ・サピエンスは「世界最高のスペック」「最新技術を取り入れた」ものに魅力を感じません。世界最高、世界初より、「自分に合った」「自分だけの」ものに魅力を感じます。
iPhoneは初期の頃からスペックをほとんど伝えていませんでしたよね。iPhoneを使うイメージ、手の中にiPhoneがあるというストーリーを伝えています。そしてiPhoneをはじめApple製品は間違いなく、フォノ・サピエンスに最も支持されている企業のひとつです。
つまりこれからのマーケティングに必要なのは、顧客が求めているストーリーを探り、そのストーリーを創造し、顧客に「これは自分のためのサービスだ」と感じてもらうことです。
私は毎年、メガヒットを飛ばしたドラマや映画は残らず見るようにしている。
<中略>
メディア・コンテンツのヒット・トレンドと流通方法を学べば、ストーリーテリングとメディア制作で成功するための感性を維持することができるからだ。ビッグヒットを生み出すプラットフォームの特性も把握することができる。つねに感性のトレーダーをピンと立てておいて学習しよう。もちろんコンテンツを見ながら感じる楽しみというおまけもついてくる。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
ストーリーは総合芸術。文学的な素養も求められますし、データをもとに顧客を理解する能力も必要。プラットフォームや先端技術に対する理解も必要です。僕もコピーライターとしてストーリーテリングは学んできましたが、フォノ・サピエンス時代に合わせて学び直そうと思います。
王道のないキラーコンテンツづくり
フォノ・サピエンスは世界中のあらゆる製品・サービスを利用する選択肢を、スマホひとつで手に入れました。だからこそ、実際の体験に非常にシビアです。たとえストーリーがよく、いいマーケティングを展開しても、実際の体験が悪ければすぐに離れ、また世界中にある無数の選択肢に目を向けます。
そのため、顧客に最高の体験を提供するキラーコンテンツが必要です。キラーコンテンツが最高の体験を提供してくれれば、あとはSNSを通じて勝手にファンが拡大していきます。しかしキラーコンテンツには王道の方法論はありません。
キラーコンテンツの定義はシンプルです。顧客が「これを使ってよかった・ぜひ使わないと」と感じるサービス。それがキラーコンテンツです。
アマゾンの場合はアマゾンプライムでしょう。年5000円ほど支払うだけで配送料無料、翌日配達というものすごい体験が得られます。知り合いでアマゾンを使っているのにプライムに入っていない人がいたらぜひ「なんで?絶対使った方がいいよ」って言いますよね。これがキラーコンテンツです。
他にはスターバックスのアプリがあります。
他のカフェチェーンが「スタンプ12個でコーヒー 1杯無料」という当たり障りのないものを提供していた頃、スターバックスはポイントを好きなものと交換できるようにしました。すると、溜まったポイントで無料のサンドイッチを食べた人がSNSで自慢するようになったんです。コストをかけてマーケティングするのではなく、顧客に「これ使ってないの?絶対使った方がいいよ」と言わせたんです。
さらにはロボットがピザを焼くというユニークな取り組みを始めたズームピザ。
ただロボットがピザを焼くだけなら面白半分で1回試して終わりです。結局、ピザは美味しくないと価値がありません。ズームピザは注文が入ってから宅配する間、車で配達中にロボットがピザを焼いてくれるんです。普通なら人件費がかかってできませんが、ロボットなら家の前に届いた瞬間にちょうど焼き上がる最高のピザを届けることができるんです。
ズームピザを利用した人は友達にどう説明するでしょうか。「このピザ、ロボットが焼いたんだけど、さっき家の前で焼き上がったからめちゃくちゃうまいんだよ!」と言ってくれるでしょう。
こうした例は他にもたくさん挙げられています。韓国のオンラインバンキング「カカオバンク」は、後発にもかかわらず大きなシェアを獲得しました。その理由は「かわいいから」です。
大手銀行が作った無骨なアプリと違い、カカオバンクのアプリはかわいかったんです。銀行はスマホで利用するものと考えているフォノ・サピエンスは友達に「え、なんでそんなダサいアプリ使ってるの?カカオバンクめっちゃ可愛いよ」と勝手に宣伝してくれるでしょう。
アマゾン、スターバックス、ズームピザ、カカオバンク。4社を見ると、確かにキラーコンテンツですが、共通する要素はほとんどありませんよね。これがキラーコンテンツに王道がない理由です。顧客を惹きつけ、心をつかむためには、共感能力と研ぎ澄まされた感性が必要です。
フォノ・サピエンスレベル10を目指せ
ということで今回は「フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方」を紹介しました。
いやあ、学びの多い本でした。僕はいわゆる「Y世代後期」で、ガラケーからスマホへの劇的なシフトを高校生の頃に経験した世代です。当たり前のようにSNSを使い「自分達が時代の最先端」と思っていたら、TikTokなどショート動画ムーブメントが理解できず困惑しています。
僕は本職がマーケティングなので、マーケティング目線で読みましたが、本質的には「教養書」といっていい内容だと思います。いろいろな本を読んできましたが、今の時代を言い表した言葉として「フォノ・サピエンス」以上に適した言葉を他に知りませんし、本書以上に冷静に今の時代を感じることができた本にはまだ出会っていません。
そして今回は省きましたが、フォノ・サピエンスにはただスマホを持っているだけの「レベル1」から、スマホを使って新しいクリエイティブを生み出す「レベル10」まで様々なレベルがあります。僕のように仕事でもそれなりにスマホを使うし、銀行やテレビ、買い物などのほとんどのスマホでやっているよ、という人は「レベル5」くらいです。
最終的な結論が「結局、人」というのもいいですね。僕たちは変化に対応するため、つい最新技術など変化しているものを追いかけようとしてしまいます。でも、変化する時こそ、変化しないものに目を向けるべきなんです。人の本質は数千年前から変わっていません。手に持っているのが石の斧かスマホかの違いだけで、フォノ・サピエンスも同じです。むしろ今まで見えていなかった人間の本質が、技術革新によって見えるようになってきたんです。
私たちがやるべきことは多い。新しい文明を学び、消費者がつくるデータを読み取り、キラーコンテンツを生み出すための専門的な技術にも習熟し……。こうした一連の過程と努力はすべて重要だが最も大切なのは「人間」である。
<中略>
新しい市場を支配する最も強力な法則は「顧客が王様だ」である。現代の王である顧客をつかまえる秘訣を見つけ出すのは、「人間を理解するもの」だけだ。
変化した文明の中でも、依然として答えは「人間」にある。だからこそ、多くの人との関係を通じて共感能力を高める努力を続け、多様なネットワークの中で人々が好むものを見つけ出す感覚を養うことが重要なのだ。
引用:フォノ・サピエンス誕生 新デジタル時代の勝ち残り方
デジタル時代に生き残る方法はシンプル。いいコンテンツを見て感情を磨き、魅力的な人間になろう!その上で、仕事に必要な専門性も身につけていこう。ということで僕はまず、若い世代に話題の映画やドラマを見て、フォノ・サピエンスの感性を磨いていきたいと思います。
この記事を書いた人
-
かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。
最新の投稿
自己啓発2024-01-07【The Long Game】長期戦略に基づき、いま最も意味のあることをする 資産形成2024-01-07賃貸vs購入論争はデータで決着!?持ち家が正解 資産形成2024-01-06「株式だけ」はハイリスク?誰も教えてくれない不動産投資 実用書2023-12-18【Art Thinking】アート思考のど真ん中にある1冊
コメント