ウォーレン・バフェットの財務諸表を読む力|永続的な競争優位性を持つ企業の見つけ方

資産形成
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こんにちは。夫です。

今日は投資本。それも投資の考え方やマインドセットではなく、もっと具体的。ファンダメンタルズ分析の手法についてです。

今日紹介するのは「バフェットの財務諸表を読む力」。世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェットについての本ですね。

ウォーレン・バフェットにはいくつもの有名な投資哲学があります。
いくつか紹介すると、

リスクはあなたが何をやっているか理解していない時に起こる。

投資の対象は、自分に理解できる“シンプルなビジネス”に限るべきだ。

第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな。

などですね。僕もこの哲学の元、投資先を選んでいますが、今回注目したいのは「理解できる」という部分。
理解不能な企業に投資する人は少ないと思いますが、僕たちが言う「この企業をよく理解している」と、バフェットが言う「理解している」は次元が違います

バフェットが投資を始めたのは14歳。資産1億円を突破した30歳の時にはすでに15年の経験を積んでいました。現在御年91歳、投資歴77年です。
投資家としての側面ばかり注目されますが、彼は保険・金融から食品まで手掛ける世界的コングロマリット企業「バークシャー・ハサウェイ」の会長です。

そして、毎朝起きて大量の新聞や雑誌、企業からの報告書を読むのが楽しみで仕方ないという変態です。

投資先企業ともしっかり関わっていて、コカ・コーラのCEOが毎日ウォーレン・バフェットに電話をかけて状況を報告していたというのは有名な話ですね。

そんな彼が「この企業を理解している」という時、一体どのレベルで理解しているのか、想像もできません。
少なくとも、この企業の製品を使っているとか、一応決算書は見たとか、解説されているブログ記事を読んだ、ユーチューバーが解説してくれたとかでは無いはずです。

で、今回紹介する本「バフェットの財務諸表を読む力」は、まさにウォーレン・バフェットが企業について「理解する」ために使っているファンダメンタルズ分析の手法。

これを学べば1mmくらい、バフェットの言う「よく知っている」に近づけるかもしれません…

僕が本書を読む目的は、現在保有している個別株を、本書の内容を基に評価し直すこと。
本書を読んだあと、モーニングスターとか、ヤフーファイナンスとかにアクセスして、企業の財務諸表を見に行って、分析してみることがゴールです。

僕自身がこの記事を読みながら企業分析が出来ることがゴールなので、あんまり読んで面白い記事ではないかもしれません。
なので、本書を読んだ人が復習のために読んだり、自分で企業分析する時のヒントとしてこの記事を使ってもらえたらと思います。

バフェット流財務分析で[アップル(AAPL)]を丸裸|バフェットの財務諸表を読む力
こんにちは。夫です。 夫 この記事は「バフェットの財務諸表を読む力」の後編。本の内容は前編で紹介したのでぜひそちらをご覧ください。 前編は「バフェットの財務諸表を読む力」の中で僕が大切だと思うことをまとめました。 後編はその内容をチェックリ...

後編:バフェット流財務分析で[アップル(AAPL)]を丸裸

前編では本書の内容を出来る限り網羅的に、簡潔にリストアップしていき、後編ではそれを基に僕独自のチェックリストを作り、実際に僕が持っている企業を分析してみたいと思います。

ちなみに、本書の著者はウォーレン・バフェットではありません。ウォーレン・バフェットの息子さんの元妻、メアリー・バフェットさんと、ウォーレン・バフェットの友人でもあり、若い頃からバフェットの手法を学んできたデビッド・クラークさん。

なので、本当にウォーレン・バフェットがこれから紹介する手法で分析しているのかどうかはわかりません。というか、多分もっと高度で深い分析を大量にしていると思います(笑)

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会計はビジネスの共通言語

ウォーレン・バフェットが他の投資家と違うところは、
・永続的な競争優位性を持つ優良企業をどのように見分ければいいのか?
・永続的な競争優位性を持つ優良企業をどのように評価すればいいのか?
という疑問を持ったことと、その答えが財務諸表にあると見抜いたことです。

もし上記2つの質問に答えることができたら、投資で失敗することはほぼありえません。

競争優位性があるということは、独占状態から恩恵を受け、自社製品を他社よりも高く、多く売ることができる。つまり利益が大きくなります。
しかもそれが永続的であれば、競合との差は広がる一方で、その企業の価値は高まる一方です。

「永続的な競争優位性を持つ優良企業」を見つけることができたら、多くの人がやるように株価が下がったら買って、上がったら売って、ということをしなくてよくなります。持ち続けたら時間とともに企業価値が上がっていくことが明らかだからです。

以前、「ウォール街のランダム・ウォーカー」で紹介したように、下がったら買って、上がったら売って、というやり方は、単純に難しいのです。
それに、売る度に税金がかかります。100万円投資して、120万円で売ることができたら、20万円の利益に課税され、116万円から再スタート(税率20%の場合)になります。売らなかったら資産は120万円だったのに、売ったら116万円に減るんです。

長期投資は超合法の脱税です(笑)。資産がめちゃくちゃ増えても、確定させるまで1円も払わなくて良いんですから。ちなみにウォーレン・バフェットの資産の大半はバークシャー・ハサウェイの株で、数兆円の利益が出ていますが、株として持っているだけなので、それに対する税金は1円もかかっていないそうです。「好きな保有期間は永遠」というのも納得ですね。

だから短期投資はそもそも難しいうえ、うまく取引できても想定通り資産が増えていかないんです。

それでは、バフェットの財務諸表を読む力を使って、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」を探しに行きましょう!専門性が高い内容ですが、コンセプトは以前Intro Booksで紹介した「教養としての投資」に近いです。

バフェット流 損益計算書の読み方

永続的競争優位性を持つ企業を探す時、まず見るのが損益計算書です。
損益計算書は特定の期間の企業活動の結果を教えてくれるもので、売上、経費、利益(または損失)の3段構成。

損益計算書を読む時、多くの人が利益そのものに注目しますが、ウォーレン・バフェットは「利益の源泉がどこにあるか」「利益が持続可能なのか」に注目します。

僕も一時期、簿記とか勉強しようと思ったんですが、挫折しましたね…苦手意識がありますが、頑張ってそれぞれの要素を見ていきましょう!

一貫した高い粗利益率を示しているか
売上高から売上原価を差し引くとその企業の粗利益が出る。粗利益率を売上高で割ると粗利益率になる。「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は、”一貫して”高い粗利益率を保っている。

企業が儲けた収益。それが売上で、そのためにかかった直接的な費用(仕入れコストとか)が売上原価です。売上に占める売上原価の割合が、粗利益率。
「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は盤石な基盤、圧倒的なブランド力によって、価格決定力があります。一方、そうした優位性のない企業は、ブランド力の差を価格や品質で埋めないといけないため、原価の割合が大きくなってしまいます(粗利益率が低くなる)。

本書では、40%以上の粗利率を過去10年にわたって一貫して保っていれば、何らかの永続的競争優位性を持っている可能性が高いとしています。

一貫して低い販売・管理費は競争優位性の証
販売・一般管理費は商品の販売やサービスの提供などに対して生じる経費であり、販売する従業員の給与や宣伝広告費、発送費や配達費、保管費などが含まれる。販売・管理費の割合に一貫性がある場合、一時的な経営不振にも耐えられる企業である可能性が高い。

販売・管理費の項目は業種によって基準がバラバラなので、割合や額だけを見てもわかりません。

注目すべきは”一貫性”です。たとえ一時的に売上が下がっても、販売・管理費の割合が保たれている場合、利益は守られます。

例えば、1億円稼ぐ企業で、売上原価が5000万円(粗利益率50%)だとします。
販売・管理費が3000万円なら、会社には2000万円の利益が残ります(他の経費は除いて考えています)。粗利益に対する販売・管理費の割合は60%ですね(販売・管理費2000万円÷粗利益5000万円)。

しかしある時、大手が参入してきたとか、不況になったとかで売上が5000万円になってしまいました。
売上原価は仕入れコストなので、一般に売上が下がれば原価も下がります。なのでこの時、売上原価は2500万円。粗利益率50%は維持できたとしましょう。

もし、販売・管理費が同じ額(3000万円)必要だったら、粗利益に対する販売・管理費の割合は120%に跳ね上がり、500万円の赤字になってしまいます。

一方、販売・管理費が同じ”割合”(60%)だったら、販売・管理費は1500万円で、1000万円の利益が残ります。

販売・管理費の”割合”が乱高下するということは、売上不振によってあっという間に会社が傾いてしまうということなんです。

多額の研究開発費が続く企業は競争し続ける宿命にある
製薬会社やソフトウェア企業は新製品や特許によって大きな売上を生むが一時的であることも多い。これらの企業は多額の研究開発費をかけ、特許が切れる前、競合が次の商品を出す前に次のヒット商品を生み出さないといけない宿命にある。

先ほど紹介した販売・管理費、ここで紹介している研究開発費、そして減価償却費は、まとめて「営業経費」に計上されます。粗利益から営業経費を除くと、営業利益になって、売上に対する営業利益の割合が営業利益率です。

この営業経費には、ビジネスを破壊する要因が潜んでいると言います。
というのも、営業経費の変化は、企業が永続性を失った証でもあるからです。営業経費が大きく跳ね上がる場合、販売・管理費が増加しているか、研究開発費がかさんでいるか、減価償却費が増加しているかです。

減価償却費は、設備投資などを利用期間で按分したものなので、ポジティブな理由で上がることもあります。

販売・管理費についてはすでに紹介したので、研究開発費の例を見てみましょう。

毎年、利益の何十%もの研究開発費を投じないといけない理由は何でしょうか?
研究開発して、次の商品を出さないと競合に負けてしまうからですね。当然、こうした企業に永続的な競争優位性はありません。研究開発しても、競合のほうが良い製品・サービスを開発して、一気にシェアを取ってしまうことは十分ありえるからです。

一方、コカ・コーラはどうでしょうか。もちろん新商品の開発は行っていますが、軸となる「コカ・コーラ」は100年前からほとんど同じものを売っています。
つまり、他の企業が研究開発を行ったところで、コカ・コーラを超えることは100年もできていない、ということなんです。

研究開発費は企業が新しい商品・サービスを生み出すための投資なので、多いことは悪いわけではありません。多くの企業は研究開発をやめてしまったら右肩下がりになるでしょう。
しかし、あまりに大量の研究開発費を投資し続けないと売上を守れないということは、競争優位性がなく、競争し、勝ち続けないといけない宿命にあるということです。

支払利息の割合は企業の危機レベルを示す
負債に対して支払った金利は損益計算書の支払利息に記される。支払利息が多いということは、競争に勝つため巨額の融資によって先行投資をおこなっている場合が多い。

支払利息は営業利益の外で計上されるものですが、ここもしっかり評価する必要があります。支払利息が多いということは、それだけ多くの負債を背負っている、しかも金利が高い、ということです。
負債を多く背負う理由は、設備投資など、競争に勝つために大量の投資が必要だということですし、金利が高いということは金融機関や債券投資家から低く評価されているということです。

しかも支払利息の額は元本を返済しない限り一定なので、業績が悪化した時ほど最終的な利益に大きく影響してしまいます。
バフェットの財務諸表を読む力では、支払利息が営業利益の15%以下が望ましいとしています。

想定外の利益は除外して考える
損益計算書には資産売却益が示されることがあり、日本では特別利益/特別損失と言われる。本業とは無関係なので、除外して考えたほうがいい。

営業利益から支払利息、資産売却などの特別利益、法人税などを引いて最終的に残ったお金が当期純利益です。この純利益が、特定の期間、企業が事業を行って稼いだ最終的な金額なので最も重要ですが、資産売却などの特別利益を除いて純利益を考えたほうが良い、と言います。

例えば、100万ドルの自社ビルを150万ドルで売却すれば50万ドルの利益が計上され、純利益を大きく押し上げることができます。でもこれらは本業とは無関係な利益ですし、自社ビルを何個も持っているわけではないため一時的なもの。来年の利益には影響しません。
そのため、永続的な競争優位性を持つ優良企業を見つける際には、省いて考えたほうが良いのです。

純利益と1株利益は長期で見る
バフェットは第一に「純利益が長期的に右肩上がりで推移しているか」を確かめる。単年ではなく長期で上昇トレンドがあるかどうかを確かめる。1株利益も単年では自社株買いなどで変わってしまうが、長期で上昇トレンドがあるかを確かめる。

純利益と1株利益はどちらも投資判断で注目する数字です。しかし、これもその時の純利益、1株利益を見てもあまり意味はありません。

純利益は大型契約の支払いで、経費は前年に、支払いは今年に、という支払いサイクルの問題で大きく上がることもありますし、業界の追い風、新商品の発売など一時的な要因に左右されます。
なので、10年程度のスパンで、大局的に上昇トレンドがあるか、一貫性があるかを確かめる必要があります。去年は大幅な利益を計上したが2年前は赤字、3年前はちょっと黒字、4年前はまた大幅な利益、5年前は赤字…というようにブレている場合、その利益は短期的な要因である可能性が高いのです。

本書では
・長期的に純利益が上昇トレンドを示していること
・長期的に20%以上の純利益率を示していること
の両方を満たせば、何らかの長期的競争優位性を持っている可能性が高いとしています。

1株利益も同様です。自社株買いを行い発行済株式数を減らせば、利益が減っても1株利益を増やすことができます。
しかし、大規模な自社株買いを10年続けるには相当の資金がないとできません。つまり、1株利益が長期で上昇トレンドを示していることも、その企業が利益を大きく押し上げ続けている、自社株買いを安定して行う資金力がある、という証拠になるんです。

さて、ここまでがバフェット流 損益計算書の読み方です。疲れましたね(笑)。でも、投資先の1株利益はいつも見ていましたが、過去10年のトレンドまでは見てなかった。勉強になりますね。チェックリストを作って、次からそれを見て企業分析が出来るように、がんばります。次は貸借対照表の読み方です。

バフェット流 貸借対照表の読み方

貸借対照表、いわゆるBS(バランスシート)ですね。

余談ですが、我が家では家計のバランスシートを作っています。収入がこれだけあって、必要な支出がこれくらいで、投資にこれだけ、貯金にこれだけ、、というのをスプレッドシートで一覧にしています。家計の健全性が一瞬でわかるので、やっぱり簿記は偉大だなと感じますね。

損益計算書は特定期間の企業活動によって生み出した収益を表したものですが、貸借対照表はある瞬間における企業の資産状況を示したものです。

企業がその瞬間、どれだけの不動産や現金を持っていて、どれだけ借金しているのかが一目瞭然。
更に細かく見ると、1年以内に支払わないといけない流動負債がどれだけあって、まだしばらく払う必要がない長期負債がどれだけあって、純資産(自己資本)がどれだけあるのかが分かります。

ビジネスマンならバランスシートくらい読めるようにしとけというのが暗黙のルールになるくらい重要な貸借対照表ですが、バフェットはどこを見て、どう評価しているのでしょう?それぞれの項目を見ていきましょう。

最大の武器「現金」をどれくらい持っているか
まず注目するのは資産の部の「流動資産」にある「現金及び短期投資」。「現金及び短期投資」が多いのは、事業の一部や大量の社債を売り出したか、企業が競合優位性を活かして現金を稼ぎ出しているかのどちらか。

貸借対照表は大きく、左側に「資産の部」が、右側に「負債の部」があります。まず注目するのは「資産の部」にある「流動資産」です。流動資産とは、1年以内に現金化できる資産で、その中にある「現金及び短期投資」はまさに現金そのもの。

本業で出した利益はまず現金になります。本業が好調であれば、現金が増え、設備投資や買収、株主還元に使うことが出来できるんです。

企業が現金を増やす方法は大きく3つ。
1つは社債や株式を新規発行して投資家に売る方法。2つ目は所有する事業や資産を売約する方法。そして3つ目が本業で経費より多くの売上を稼ぎ出す方法です。

現金はそのまま持っていても増えも減りもしません。しかし、危機的状況に陥った時、乗り切れるかどうかは現金がカギになります。

業績が悪化し、なんとか経営を続けるために一番利益が出ている部門を売却する…そんな例も珍しくありません(東芝とか…)。利益が出ている部門を売却すれば、一時的に現金が手に入り経営を続けることができますが、その場しのぎにしかならないどころか、数年後の経営が悪化することが明らかです。普段から現金を貯めておけば、こういう時にちゃんと乗り切れるんですね。

「現金及び短期投資」を見る時のルールは単純です。借入金が少なく、大量の現金を持っている企業は多少のトラブルも難なく乗り切ることができます。
ただし、それは本業で稼ぎ出した現金であることが重要。過去数年の間に、大型の社債発行や資産売却がなかったかもチェックしましょう。

棚卸資産合計と売掛金に一貫性があるか
商品を製造し倉庫においておく場合、棚卸資産に計上される。永続的に安定する企業は純利益とともに棚卸資産も安定して増加する。支払いサイクルによって発生する売掛金は企業が取引先に対してどれだけ優位に立っているかを推測することが出来る。

倉庫にまだ眠っている、販売すれば現金に代わる商品は、棚卸資産として計上されます。棚卸資産の額は業種によって様々ですが、大切なことはここでも一貫しているかどうかです。

棚卸資産の増減が激しいということは、需要も供給も安定しておらず、計画的にビジネスが進められていない可能性があります。
安定した売上を作れる企業は、何をどれだけ作って、どう納品すればいいかを把握しているため、売上や純利益、つまりビジネス規模の拡大とともに、ゆっくり棚卸資産も増加していきます。

売掛金は企業が製品を納品して、その後実際に支払いが行われるまでの間にある資産です。問題なければ支払日に振り込みがあり、売掛金は消滅。現金に変わります。
ここからビジネスの健全性はほとんど見えませんが、競合と比較すればその企業の優位性が見えてきます。

納品から120日後の支払いとしている場合と、30日後の支払いとしている場合とでは、売掛金の額は前者のほうが圧倒的に多くなります。

取引先としては当然、支払いまでのサイクルが長いほうが良いですよね。
では、競合が120日後の支払いにして多額の売掛金を持っているのに、30日後の支払いで少しの売掛金しか持っていない企業は、どんな企業でしょうか?

取引先が、支払いサイクルが厳しくてもその企業の製品を使いたいと思っているということです。

「支払いは120日後でいいので…」と下手に出ないと買ってもらえない企業と、「うちは30日後の支払いです。嫌なら他でどうぞ」と言っても買ってくれる企業。永続的な競争優位性を持っているのは、明らかに後者ですね。

多額の生産設備投資は競争に巻き込まれた証
長期資産の「土地及び生産設備」には、企業が持つ工場などの土地、設備の資産額を示す。貸借対照表では、取得時のコストから減価償却費を引いた額が記載され、減価償却が終わればゼロになる。

生産設備に投資すること自体は悪くありません。が、減価償却が終わっていない生産設備があるのに、次の生産設備に投資して貸借対照表の生産設備の額が膨れ上がっていたら要注意です。

10年使える生産設備は、10年後、資産としてゼロになります。それなのに5年くらいでその設備を買い替えたら、帳簿上は減価償却の残り5年分と、新しい設備が資産として計上されます。

10年使う予定だったものが、5年しか使えなかったというのは、どんな理由が考えられるでしょう?
おそらく市場ニーズが変わり違う製品を作る必要があるとか、競合がより高性能な設備を導入しコストや品質で勝つために最新の設備に入れ替えないといけないとか、そうした事情があると思います。

つまり、減価償却中の生産設備を買い替えていたり、売上の伸び以上に生産設備に投資している場合、激しい競争の中で生き残るため必死になっている可能性があります。

車業界なら、ガソリン車向けの生産ラインがまだ使えるのに社会の流れに対応するためEVの生産ラインに切り替えるとか。半導体なら7nmチップを作っていたけど5nmが業界標準になって既存製品が売れなくなったとか、そういう感じですね。

一方、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」場合はどうでしょう。コカ・コーラはコカ・コーラの生産設備を、ペプシに勝つために頻繁に入れ替える必要があるでしょうか?

ウォーレン・バフェットは

変更の必要がない製品を一貫して生産し続けることは、一貫して収益を上げ続けることに等しい

と言います。競争に勝ち抜き、業績を何十倍にも拡大させる”可能性”に投資するのも、一投資家として楽しみではありますが、長期的に資産を増やすなら、そこそこ利益がでるものを延々と作り続けるだけのビジネスのほうが魅力的だということですね。

低い総資産利益率は参入障壁の証
総資産における純利益の割合を総資産利益率という。一般に総資産利益率は高いほど良い(資産に対して多くの利益を稼いでいる証)だが、長期的な競争優位性を測る場合は逆に考えたほうが良い。

流動資産、長期資産など、貸借対照表の左側を合計すると、その企業の総資産が分かります。投資家は総資産に占める純利益の割合を見て、その企業が効率的に利益を生み出しているかどうかを測ります。
例えば、10億円の資産に対して5億円の純利益があれば、総資産利益率は50%となります。資産に対して50%も純利益を稼いでいるので、かなり効率的に稼いでいると言えます。

しかし逆に言うと、少ない資産でも多くの利益を稼げるということなので、参入障壁は低いと言えます。

10億円投資して、毎年5億円稼げるなら、みんなやりたいですよね。

本書執筆時点で、コカ・コーラは430億ドルの資産を持ち、純利益は50億ドルほど。総資産利益率は12%になります。

あまり効率的に稼いでいるわけではありますが、逆に言うと、競合は50億ドル稼ぐために、設備や流通網などに430億ドルも投資しないといけないわけです。
あまりに投資が大きすぎて、ベンチャー企業は太刀打ちできませんね。だからこそコカ・コーラは同じものを100年以上作り続け、利益を出し続けているのです。

感覚的になりますが、総資産は簡単に追いつけないほど莫大な量があり、総資産利益率が競合と比べ低すぎず高すぎずの基準であれば、大きな参入障壁を持っている、という感じでしょうか。

「永続的な競争優位性を持つ優良企業」に長期借入は不要
資金が豊富で健全なビジネスを行っている場合、高金利の長期借入をする必要がなく、貸借対照表に長期借入金が計上されることもない。

貸借対照表の右側、負債の部の流動負債には「長期借入金」が計上されています。一般に、金利は短期の借金より長期の借金より高くなります。長期借入金が多く計上されているということは、高い金利を払ってでも、長期的にお金を借りる必要があるということになります。

競争優位性があり、本業で安定した利益を得ている企業であれば、買収や設備投資も自己資金でまかなうことができます。
直近10年間の貸借対照表の長期借入金の欄をみて、借入金がほとんど、全く無い企業は健全なビジネスを継続できている可能性が高いのです。

また、たとえ長期借入金があっても、数年の純利益で返済できる程度しかなければ問題ありません。10年分の純利益を全て返済にあててもまだ借入金のほうが多い場合、本業で稼ぐ力や競合との戦いで致命的な問題を抱えている可能性があります。

負債比率0.8以下の企業だけを見る
純資産に対する負債の割合を負債比率という。負債比率が高いということは事業を継続するために負債を必要とするため長期的な競争優位性は低いと考えられる。ただし負債比率を計算する際は、純資産に自己株式を含んで計算する。

純資産合計を負債合計で割ると、負債比率が出ます。企業が事業資金を負債でまかなっているか、本業の利益でまかなっているかが一目瞭然で、本書では負債比率が0.8以下(低ければ低いほどいい)の企業には永続的な競争優位性を持つ可能性が高いと言っています。

ただし注意があって、効率的な事業を行えば行うほど、大量の資産を必要としません。現金を溜め込んでも仕方がないので、収益力が高い企業ほど自社株買いなどで株主に還元してくれます。
しかし、自社株買いを行うと純資産の額が減少するため、負債比率が高くなってしまうんです。なので、負債比率を計算する時は、自社株の価値も純資産に加えて計算する必要があります。

内部留保の成長率を見ろ
純利益の一部は内部留保として純資産に計上される。内部留保は純利益から配当と自社株買いの費用を引けば求められる。内部留保は効果的な使われ方をすることで、企業の成長エンジンとなる。

企業が稼いだ純利益の使い方は、自社株買いや配当で株主に還元するか、内部留保としてビジネスの成長に使うかのどちらかです。
貸借対照表に記載されている内部留保は過去の累積なので、企業の傾向などはわかりません。その時その時の内部留保の額が知りたければ、推移を見たり、損益計算書の税引き後当期純利益から、配当や自社株買いの支出を引けば分かります。

貸借対照表にはさまざまな判断材料が盛り込まれていますが、その中でも内部留保は1,2を争う重要度。
純資産は企業の正味価値を表しますが、内部留保の積立こそ企業が純資産を成長させる方法だからです。

赤字だったら当然、内部留保は減りますし、利益に対して多額の配当を出しても減ります。買収、合併などで内部留保が急増する場合もありますが、長期で上昇トレンドを持っているかが重要です。

高い株主資本利益率は株価を上げる力を持つ
純資産における純利益の割合を株主資本利益率という。これは株主が投じた資金を使い、効率的に利益を生み出しているかを見る指標であり、高い株主資本利益率は時間とともに企業価値を引き上げ、いずれ株価の上昇につながる。

純資産の欄には、普通株、資本余剰金、内部留保、自己株式があります。
普通株は株式を発行して調達した資金です。資本余剰金というのは、発行した株式の額面と、実際に取引された株の価格との差です。100ドルの株を発行して、120ドルで売れたら、100ドル分は普通株に計上されて、20ドルが資本余剰金に計上されます。

内部留保はすでに説明したとおり、企業が稼いで次の成長のために残しているお金です。

自己株式は企業が自社株買いを行い、保有している株です。自己株式は、自分で発行した株を買い直しているので、貸借対照表ではマイナスで書かれます。自己株式を多く持っているということは、収益性が高く多額の現金を持っていて、積極的に自社株買いを行ってきた証なので、企業の競争優位性を示す指標でもあります。

まとめると、純資産は
・株式などで投資家から調達してきたもの
・利益の積み上げである内部留保
から、自社株買いで回収した株式を引いたものになります。

そしてこの純資産における利益の割合を「株主資本利益率」といいます。
株主資本利益率は企業が資産に対して効率よく利益を稼いでいるかを表しているので、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は平均より高くなります。

ただし、成長力が非常に強い企業の場合、内部留保の必要がなく、全て投資と株主還元にまわして、純資産がマイナスでも問題ない場合もあります。
つまり、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」でも、純資産がマイナスで、株主資本利益率が計算できない場合があるのです。

といっても、債務超過に陥った危険な企業も貸借対照表の上では同じような数字になるので、なぜ純資産がマイナスなのかをちゃんと分析できない場合は、株主資本利益率が低い企業には手を出さないほうが懸命です。

さて、ここまでが貸借対照表の読み方。僕みたいな素人にはちょっと難しかったですが、慣れたら簡単な気もします。ただ、ヤフーファイナンスとかにそこまで細かい損益計算書や貸借対照表があるのか、、ですね。僕が投資しているのはほとんど米国株ですが、英語の決算書を読まないといけないとなると、結構しんどい…(笑)

バフェット流 キャッシュフロー計算書の読み方

とうとうウォーレン・バフェットが行っている財務諸表の分析、最後のピースであるキャッシュフロー計算書まできました。

会計の世界では「利益は意見、キャッシュフローは事実」なんて言葉もあるみたいです。利益は計上の仕方やタイミングである程度操作できてしまいますが、キャッシュフロー、つまり現金の動きはごまかしようがありません。

多くの企業は「発生主義会計」を導入しています。これは支払いが半年先でも、商品を引き渡した時点で計上しよう、というものです。売掛金、買掛金のように商品の引き渡しと実際の現金の動きには差がありますし、設備などは減価償却があるので1回で支払っているのに10年に按分して計上します。
つまり、発生主義会計では、実際のお金の動きと損益計算書がずれてしまうのです。

そのズレを把握するために作られるのがキャッシュフロー計算書で、実際のお金の動きを追えるものです。

キャッシュフロー計算書には大きく3つの項目があり、それぞれ

  • 営業活動によるキャッシュフロー…純利益と減価償却費の合計。減価償却費は費用として計上され純利益から省かれているが、実際に支払いが発生するわけではないため足し合わせる。
  • 投資活動によるキャッシュフロー…土地や設備を購入する時の支払いや資産売却によって得られた売却費などが計上される。
  • 財務活動によるキャッシュフロー…配当支払いの現金や株式の売出し、買取りなど財務上のお金の動きが計上される。

で、これらすべてを合計すると、企業のキャッシュの増減を知ることができます。

もうすでに難しくて心が折れそうですが、ウォーレン・バフェットはこれらのどこを見て、どう評価しているのでしょう?

「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は資本的支出が少なくていい
投資活動によるキャッシュフローに含まれる「資本的支出」は土地や生産設備を購入した際に計上される。資本的支出が常に多いということは、常に新しい設備に投資し続けないと競争優位性を保てない証であり、永続性が低いと考えられる。

原則として、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は、事業を継続させるために多額の投資を必要としません。逆に言うと、多額の投資が必要ということは、投資を止めたら成長が止まる、競合に負ける、ということなので、永続性が無いのです。

「永続的な競争優位性を持つ優良企業」を見つける時は、過去10年の純利益の合計と過去10年の資本的支出の合計を比べ、長期に渡ってどの程度の資本的支出を行っているかを調べます。
ウォーレン・バフェットは、年間の資本的支出が純利益の50%以下を長期に渡って保っていることを基準の一つに、企業を選定してきました。
長期に渡って純利益の25%程度しか資本的支出に当てていないなら、圧倒的な優位性を持っている可能性がかなり高いと言えます。

資本的支出が少ないのに利益を増やしているということは、成長するのに追加の設備投資があまり必要ないということです。永続的、という点では非常に重要なポイントですね。

配当より自社株買いが株主を富ませる
配当は株主に喜ばれる還元方法だが、配当には税金がかかる上、支払った現金はそのままでは富を産まない。一方、自社株買いは株式総数を減らし1株利益を引き上げるため株価にプラスに働く。

「永続的な競争優位性を持つ優良企業」は、多額の利益を何に使うかという贅沢な悩みを持っています。余った利益の使い方は、内部留保として次の投資に当てるか、自社株買いと配当として株主に還元するかの3つの方法があります。

配当は株主に直接現金を還元するため喜ばれますが、本質的には別の還元方法のほうが価値があります。内部留保として企業の成長に使えば、企業の成長をスピードアップさせより大きな還元を行うことが出来るかもしれません。自社株買いを行えば、株式総数が減り1株利益が上がり、やがて株価を上昇させます。

配当のデメリットは、大きく2つ。
内部留保と違い、企業の成長を加速させ、より大きな株主還元を行うための資金を使ってしまうことと、配当として支払ったタイミングで税金がかかってしまうことです。

これは僕も実感があります。僕の特定口座と、妻のNISA口座で株を買っているんですが、同じ株を持っているのに妻のほうが配当金が多かったんです。その理由は、NISA口座には日本での税金がかからないから…20%ってめちゃくちゃでかいですよね…

ウォーレン・バフェット率いる投資会社バークシャー・ハサウェイは配当を出さないことで知られていますが、この理由は2つ。
一つは、株主に直接還元するより、内部留保として成長のための投資に使ったほうが大きなリターンを還元できるから。もう一つは、株主に税金を負担させるくらいなら自社株買いで株価を引き上げたほうがメリットが大きいからです。

自社株買いをどれだけしているかは、キャッシュフロー計算書の「財務活動によるキャッシュフロー」に書かれています。
この項目の「株式の発行、純額」には、株式発行分から株式償還分(つまり自社株買いで減らした株式)を差し引いた額が記載されています。
自社株買いを行えば、キャッシュフローはマイナスになります。このマイナスが連続している場合、自社株買いを続けているということで、永続的な競争優位性が生んだ利益から、株主還元をしている証拠になります。

優良企業の株は「エクイティ・ボンド」

ということでここまで「バフェットの財務諸表を読む力」の中身を紹介してきました。

本書では「これが重要だ」という指標だけでなく「一般に重視されるけど、バフェットは重視しない、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」を発見するのには役立たない」という項目も多く紹介されています。他にも、「銀行業ならこれを見ろ」みたいな指標もありますが、現状、僕が銀行業へ積極的に投資しているわけではないのでカットしました。

ということで、あくまで僕にとって、という注釈が付きますが、本書の大切なエッセンスはだいたい抜き出せたかなと思います。

ウォーレン・バフェットは「永続的な競争優位性を持つ優良企業」への投資を「エクイティ・ボンド」だと言います。直訳すると、「株式債券」ですね。

どういうことかというと、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」が倒産する確率は限りなくゼロに近いため、元本が保証されている債権と同じくらい安全だと考えることができます。
そして、その企業が優位性を武器に将来的にも利益を挙げ続けるなら、毎年大きなリターンを得られることになります。

ウォーレン・バフェットがコカ・コーラに投資し始めた時、本質価値の半分以下の株価で株を買いました。つまり、持っているだけで資産が倍以上に膨れ上がることが”約束された”投資だったのです。

ちょっと難しい計算になるのでイメージだけで書きますが、今、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」の株が、100ドル、1株利益は毎年10ドルだったとします。
もしその企業の利益が毎年10%ずつ上昇し続けるとすれば、30年後の1株利益は164ドルにもなります。100ドルの株券が、1年に164ドルもの利益を生んでいるんです。

財務諸表を読み解き、「永続的な競争優位性を持つ優良企業」を発見することができ、それを長期で保有すれば、まさにエクイティ・ボンド。元本が保証され、毎年利子が増え続ける、むしろ資産をへらすほうが難しいような状態になるんです。

だからウォーレン・バフェットは「好きな保有期間は永遠」と言うんです。持ち続ければ利子が上がり続けるのですから、よっぽどのことがないと売りません。

ちなみに、ウォーレン・バフェットが株を売却する時の基準も本書で紹介されているのですが、一つは「もっと有益な投資先を見つけ、そこに投資するための資金を確保するための売却」。
もう一つは「企業が永続的な競争優位性を失った場合」。インターネットの登場で新聞やテレビが優位性を失ったように、どんな企業も時代の変化とともに優位性が揺らぐことは起こり得ます。
最後は「バブルが発生している時」です。「永続的な競争優位性を持つ優良企業」とはいえ、バブルによってビジネスの経済性を超えて株価が上昇している場合は、売却したほうが懸命です。バブルはいずれ弾けるので、弾けたあとでゆっくり買い直したほうがいいということです。

ということで、ずいぶん長くなりましたが、ここまでが前編です。後編では「バフェットの財務諸表を読む力」で学んだことをチェックリストにして、実際に僕が投資している企業を簡単に分析してみたいと思います。

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この記事を書いた人

かれこれ5年以上、変えることなく維持しているマッシュヘア。
座右の銘は倦むことなかれ。

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